世界の大金持ちは、どんな金融商品を選ぶのか
プレジデントオンライン / 2013年10月4日 8時45分
■日本人とは異なるお金の価値観
世界で「プライベートバンカー」と呼ばれるには、資産を50億円程度は保有している必要があります。金融資産が50億を超える大金持ちになって、初めてお客さんとしてアドバイスを受けられます。それ以下の顧客はただのカモだと思われていると覚悟したほうがよいでしょう。
総資産が50億円を超えるような世界の大金持ちに繋がりを持つ、いわゆるスイスのプライベートバンカーの方々と、私はこれまで仕事でお付き合いをさせていただきました。
彼らとの付き合いのなかで気付いたことがあります。それは一貫してお金に対する価値観が日本人と違うことです。一言でいえば、「達観」しているということでしょうか。
彼らは、投資をして5年、10年、さらに20年後、自分や家族が「理想の生活」を実現しているとして、「ではその生活のためには一体いくらお金があればいいのか」ということから逆算して「現在の行動」を考えるのです。そういった将来の自分のビジョンを、それはもう冷徹に、具体的にイメージすること。これは日本人にはなかなかできないことです。
日本人は何か一発当てて、突然ワッと儲かってしまうと、そこでダメになってしまう人が多いですよね。きちっとしたビジョンを描かずに、その時代の流れに乗ったビジネスでポンッと当てたお金に、ある意味呑み込まれるような形でめちゃくちゃな経営や遊び方をして、自分の生き方そのものを見失ってしまう。そして気付いたときには一文なしです。しかし、世界の大富豪と呼ばれる人たちには、そういう人は少ないです。
どうしてこのように世界と日本とで差がついてしまうのだろうかと考えたとき、単純にお金持ちになったという結果よりも、お金持ちになるまでのプロセスというのが実は1番大切なんじゃないかと私は思います。
日本人に帰化したソフトバンクの孫正義社長もそうですが、生まれ育った環境や根っこにある考え方の違いというのが、どこかに必ずあって、一般的な日本人とは描いているビジョン、その描いた将来の自分へのプロセスが恐らく違うのだと思います。それが成功に繋がっているひとつの要素なんじゃないかと私は考えます。
実際に私が見てきたなかで、投資家に限らず、事業家でもなんでもいいのですが、大きな成功を収めている人たちのなかで、あまり日本人らしくない行動習慣だな、と思う人はやはり外国の思想やキリスト教的な考えを持っている人が多いですね。
明確なビジョンづくりや、それをイメージすることは日本人にはなかなかできないというお話をしましたが、どうして日本人にはイメージすることが難しいのか、私が考えるひとつの理由があります。
日本人は初詣でに行って何を願うかというと、家内安全、健康祈願。要するに現世救済です。しかし、キリスト教もイスラム教も、その教えに現世救済なんてないと私は思うのです。
「誰しも死ねば天国に行ける」。彼らは現世とは違う世界があるというビジョンを子供の頃から鍛えられています。この考え方が下地にあるからこそ「将来成功してお金持ちになった自分」というビジョンを明確に持って、その将来に対するプロセスをきちんと追っていく。だから投資で成功する人が多い。また、そういった宗教観が根っこにあるからこそ事業や投資が成功したら、公共事業への投資や寄付など、社会にお金を還元する方が非常に多いのです。これが欧米人と日本人の違いです。
今、世界の大富豪といわれるような投資家たちは、自分の資産からリスクを排除する動きを見せています。
あらゆる政治の不透明、あらゆる経済が不透明な状況の現在、積極的にリスクを背負って投資をする人はほとんどいません。リスクが高く投資利益の不透明な従来の金融商品は売り、キャッシュを自分の生活する国の通貨で最低限持っています。そして、残った資産の活用先として注目されているのが、金、ゴールドです。
■ゾッとする日本の証券営業
恐らく世界の金持ちのなかでもトップテンに入ってくるであろう投資家のジム・ロジャーズさん。彼も以前から一貫して金への投資に積極的です。イラン・イスラエル問題もありますし、ユーロだって本当に崩壊してしまうかもしれない。これから世界がどうなっていくか見極めができない状況下では、金以上の投資先はないと思います。つまり金がいいということではなく、金以外に魅力的な投資先がないといったほうが正確な表現かもしれません。
世界のお金持ちは、自分がどこの国で生活するか考えたうえで、当然通貨も使い分けています。ドルなのか、ユーロなのか、円なのか。10年、20年、自分が死ぬまでに必要なキャッシュというのをしっかりと持っているんです。その最低ライン以上の資産というものを、じゃあ一体これからどうしようか、と考えたとき、それに相当する部分は金だと、現在の世界のお金持ちたちは考えているんです。
世界の歴史を振り返ると、必ずバブルが起き、いずれそのバブルが崩壊して、デフレになります。ではデフレになったあと何が起こるかというと、戦争です。究極の公共投資である戦争で、過剰な供給施設はすべて破壊されます。供給過剰で起こるデフレの、その過剰部分が物理的に破壊されることによって、ようやくそこで次の経済の回転というものが始まる。そういったことを自然淘汰のような形で、世界の歴史は繰り返してきました。
しかし、生産設備を破壊し合うような戦争を現代の民主主義国の間でやろうとは思ってもいませんし、できません。そうやって考えたとき、現代というものは、世界の歴史が経験したことのないような、極めて難しい状況になってしまっているということなのです。政治においても、財政においても、金融においても、お手上げの状態。そんな状態でリスクは取れません。世界のお金持ちはそこのところをよくわかっていますね。ですから、今1番安心して投資家たちが資産運用できるのが、金なのです。
日本人はなぜ投資下手なのか。ひとつの原因として私が思うのは、投資家に対するきちっとしたアドバイザーがいないことです。
日本の証券会社の営業マンや、銀行窓販の人たちは、アドバイザーでもなんでもありません。
私が以前、知人に頼まれてアドバイスをした方がいらっしゃいます。旦那さんが亡くなられて、遺産を相続された女性なのですが「では相続された金融遺産をちょっと見せてください」とお願いしました。実際に目の前にしてビックリしました。ぜんぶ投資先やリスクも似た類似商品でした。これではリスクの分散になりません。
証券会社も銀行窓販も、全く同じような商品を、資産分散も何もせず、1人の人間にどんどんはめ込んでいたのです。お客さんのことを考えたら、この商品をこれ以上この人に売ってはいけない。そう考えるのが本当のコンプライアンスだと私は思うのですが、そんなことは何もされていない。私はゾッとしました。もちろん相当解約させていただきました。
これが日本の証券、または銀行の、個人の客に対しての営業のやり方なんです。自分たちが売りたい、今売らなくてはならない商品在庫を捌く。それしか頭にありません。本当にお客さんのことを考えてアドバイスができるところはないのではないかと思います。証券会社や銀行がこのスタンスでは、日本で投資家が育ちにくいのも無理はないと私は思ってしまいますね。
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1959年、大阪府生まれ。農林中金、クレディ・スイス、日興アセットなどでファンドマネジャーとして活躍し、著述家に。著書に『日本人はなぜ株で損するのか?』。
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(作家 藤原 敬之 構成=宮上徳重 撮影=奥谷 仁 写真=PIXTA)
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