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検証「65歳定年制」シニアはコストか戦力か?

プレジデントオンライン / 2014年10月7日 10時15分

■60~65歳までの働きで退職金が変わるヤマト運輸

「定年を延長することで発生する人件費を、コストとしては認識していない。シニア世代が長い経験で培ったサービスのレベルは高く、お金には代えられない価値がある」

ヤマト運輸の執行役員人事総務部長の大谷友樹氏が、2011年4月から65歳定年にした理由を語る。00年に60歳から61歳へ、その後、62歳、64歳と順次、引き上げ、65歳に至った。全社員約16万人(半数はパート社員)のうち、2000人ほどが対象となり、正社員の扱いとなる。職種では、特に宅急便のセールスドライバーが多い。

基本的には60歳の時点で従事していた仕事と同じ仕事に関わるが、体力が劣ることを考慮したり、短時間勤務が選択できるなど、一定の配慮はされている。セールスドライバーの場合は、配送するエリアを狭くしたり、1日の集配件数を減らしている。

1日8時間労働のフルタイムを前提とする場合は、年収は60歳の時点での約6割になる。フルタイムで働くのは、2000人の約9割に及ぶ。

昇給はないが、評価などにもとづき、賞与は年間で2回、支給される。人事評価で重きを置くのが、「人柄評価」だ。

上司や周囲の社員が、「挨拶ができているか」「チームに貢献しているか」などといった観点から評価する。特に後輩を育成する姿勢があるか否かが、ポイントになるという。

退職金の額は60歳の時点で確定するが、その後、5年間の評価により、上乗せの額が変わる。

大谷氏は「60歳以上の社員は高い品質のサービスをするノウハウを確実に身につけている。それを後の世代に伝承してもらいたい。レベルの高い、無形のサービスこそ、当社の理念と重なる」と期待を寄せる。

新卒や中途の採用人数を減らすことはしないという。

「定年延長をコストではなく、投資ととらえたい。それ以上の利益を生み出してもらえると確信している」

大和ハウス工業人事部次長の高野雅仁氏が話す。

13年4月、定年を60歳から65歳に上げた。これ以前は、60歳以降、働くことを希望する場合は嘱託の扱いで雇ってきた。

65歳定年には、トップの強い意向があったという。「会社が定年を少しずつ上げていく姿をみると、20~50代の現役世代の社員のモチベーションが下がりかねない」と判断したようだ。

今回の措置により、65歳までは正社員の扱いとなる。昇給はないものの、半期ごとの人事評価にもとづき、年2回、賞与が支給される。嘱託の頃は、賞与の額は年間2カ月分で固定されていた。今は、その額が評価の結果で変動する。

平均年収は、60歳時の6~7割となる。少数だが、理事に登用されれば60歳時の年収を超える社員もいる。

14年3月で60歳定年となった社員は、119人(正社員約1万4000人)。そのうち102人が雇用延長を希望し、ほぼ全員が働いている。

定年延長により人件費は増えるが、人事部は売り上げを伸ばすことでその負担増を補うことができると考えている。

高野氏は「現役世代の賃金を下げたり、新卒・中途の採用を抑制することもしていない」と説明する。

今後、定年延長の人件費が膨らむことは心得ている。1990年代に入社した大量採用組がやがて60歳を迎える。人数が多いだけに、65歳までの人件費の負担額は現在よりは増える。高野氏は説明する。

「新卒採用者数をここ数年、増やしている。当社は、工事・建設を受注することで成り立つ。人を増やすことで仕事をこれまで以上に受注し、負担が増えたとしても、それを上回る業績にしていきたい」

■70年代初頭から始まった住友電工のシニア雇用対策

みずほ総研上席主任研究員の堀江奈保子氏は、定年延長が必ずしも人件費を管理するうえで大きな負担になるものではないとみる。

「大企業を中心に、ここ十数年で賃金制度の見直しを進めてきた。今は年功給の比率を下げ、成果給の比率を上げるなどして働きや成果に応じた制度にしている。役職定年制により、50代になると役職を外し、賃金を下げている場合もある。もともと、日本では、年功序列的要素が強い賃金体系になっており、中高年の賃金は働きや成果の実態と比べると、高いと指摘されることもあった」

堀江氏によると、雇用を延長する企業では、60歳以上のシニアを非正規として、1日8時間・時給1200~1400円の勤務で雇うケースもあるという。週2~3日のペースで勤務し、1カ月13日ほど出社するシフトを組む職場もあるようだ。

「フルタイムで週2~3日働き、月15万円前後の給与ならば、シニア世代の賃金相場としては特別に悪いものではない。ただし、60歳前の仕事と同じ内容でありながら、この額ではやる気をなくしてしまうかもしれない」

06年の法改正により、60歳以降の雇用延長の制度をつくった企業は少なくない。

「法改正に合わせただけの対応では、シニアを雇うことはコストにしかならない。シニア世代を、企業に利潤をもたらす社員として位置づけることが大切。そのためには、若いうちから計画的に人材育成をしていく必要がある」

さらには、利益をもたらすシニア世代を育成することがこれまで以上に必要になったと指摘する。

「若い世代だけではなく、中高年世代も計画的に人材育成することが必要になる。新卒で入社し、40年以上にわたり、市場の環境が変わらないことはありえない。OJTはもちろんだが、OFF-JTも効果的に行うことがより大切になる。65歳定年がスムーズに進む会社は、社員教育がよくできている」

中高年世代の頃から、定年後のことを踏まえ、人材を育成している企業もある。

「少子高齢化を見据え、はるか前からシニアの雇用対策を取ってきた。昨年の法改正に合わせた措置ではない」

住友電気工業の人事部労政グループ長の風隼武博氏と主査の高岡慎一郎氏が語る。シニア世代の雇用対策への取り組みは、70年代の初頭から始まった。

05年には「マスターズ制度」を設けた。60歳になり、定年を迎えた社員が希望すれば、1年単位で契約を更新し、働くことができる。09年からは、その上限を65歳にした。

基本的には仕事や労働時間は定年前と同じだが、扱いは時給制の非正規社員となる。

05年当時は時給1100円だったが、13年4月からは年金を受け取る前は1300円とした。年金支給開始年齢に達した後は、1100円になる。

年金を受け取る前は、定年前と同じ職場で働くが、年金を受け取るようになると、職場からの求人と本人の希望との調整で職場が決まる。

昇給はないが、賞与は評価にもとづき、年2回支給される。評価には一定の差を設け、それが支給額に反映される。

平均の年収は、60歳時点の約7割。この額は、厚生年金など公的な給付を含めたものとなる。14年3月には、約200人が60歳定年となった。140人が雇用延長を希望し、9割が残留し、働く。この200人は工場や作業場などで働く、いわゆるブルーカラーである。

営業や経理、総務などのホワイトカラーは別の扱いとなる。

風隼氏は「ホワイトカラーは、定年を迎える頃はグループ会社に出向・転籍をして管理職や役員になることが多い。役員になれば、65歳以上も働く人がいる」と説明する。

住友電工グループは国内・海外を合わせると、400社を超える関連会社で成り立つ。住友電工(正社員は約1万人)のホワイトカラーの多くは、20~30代から関連会社に出向し、管理に携わる。30~50代になれば、経営管理に関わり、一部は役員や社長になる。

風隼氏は今後、バブル期の入社組が50~60代になることを踏まえ、新たなシニア世代の雇用対策が必要と話す。

「人数が多いだけに、出向や転籍先がこれまでのようにあるか、管理職のポジションや仕事があるかなどを人事部として考えたい。グループは総じて堅調であり、グローバルに拡大傾向にある。それらの事業戦略と人事戦略にアンマッチがないようにしたい」

新卒・中途の採用者数を減らすこともなく、20~50代の現役世代の賃金を下げることもしない。

■バブル世代が50~60代になる前に対策を

「少子高齢化に伴う、年金や労働の問題に先駆け、取り組むことで、社会の要請に応えたいといった思いがかねてからあった」

サントリーホールディングスの人事本部課長の森原征司氏が、65歳定年制を導入した経緯を語る。役割・資格や処遇・報酬など人事制度全般にわたる改定の一つとして、13年4月に65歳定年を導入した。

これ以前は、60歳以降働くことを希望する人は「嘱託社員」という扱いで、原則として65歳まで単年契約になっていた。会社が更新を拒むことはなかった。賃金などの処遇は、基本的には嘱託社員は一律だった。

65歳定年はサントリーホールディングスの全正社員が対象となり、60歳以降も正社員の扱いとなる。仕事や労働時間などは基本的には60歳前と同じであり、年収は60歳時点の6~7割となる。

年に4回実施する上司との面接を通し、業務目標や、そこに至るプロセスなどの評価にもとづき、賞与などの額が変わる。賞与は年2回、支給される。

「上司などから期待や役割を伝え、適切に評価し、処遇につなげるといった、人事の仕組みはシニア世代でも、きちんと機能するようにしている。シニアは次世代を育成することも評価の対象になるが、まずは日々の業務に貢献してもらうことが大切になる。業務の貢献と、後輩を育成することは両輪のようなもの」

人事の処遇の根幹となる職能資格制度は、60歳以降は3段階となる。60歳の時点での資格にもとづき、3つの段階での扱いが決まる。制度開始の昨年4月から1年3カ月後の現時点で、70人が働く。森原氏が説明する。

「65歳定年にしたことで人件費が増えたという印象はない。当社では、新卒で採用した社員を丁寧に育成していくメリットは依然として大きい。退職者や転籍者は少なく、多くの社員は人事などがシニアを大切にしている姿をみている」

新卒や中途の採用者数を減らしたり、20~50代の賃金の減額もしていない。

シニア世代を利潤をもたらす社員にできるか否か、多くの企業でその模索が続いている。大量採用が行われたバブル世代が今後、定年を迎えることを考えると、より重要になってくる。

(人事ジャーナリスト 吉田 典史)

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