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なぜディズニーではゲスト同士が仲良くなるのか?

プレジデントオンライン / 2014年12月2日 10時15分

『ディズニーを知ってディズニーを超える顧客満足入門』鎌田洋著(プレジデント社)

■「みんなの心がひとつになる場所をつくりたい」

ディズニーシーのアトラクション「ヴェネツィアン・ゴンドラ」で、ゲスト(お客)同士で写真を撮り合う光景をよく見かけます。カップルや家族がお互いに撮ろうとしても、隣に座っていて近すぎるために引いた絵が撮れません。そこでゲストの多くは、向かいの人に声をかけて写真を撮ってもらいます。頼まれた人たちも同じ問題を抱えているので、「次は私たちを撮って」と写真を頼みます。そうやっていつのまにか写真大会が始まります。ゴンドラに乗るまでは、ゲストはお互いに知らない人同士です。ところが写真撮影をきっかけにコミュニケーションが生まれて、いつのまにか仲良くなってしまう。これはとても素敵なことだと思います。

さて、ゲスト同士が仲良くなる現象は偶然生まれたものでしょうか。答えは、ノーです。ディズニーはみんな仲良くなれる環境を意図的につくっています。ディズニーの創始者ウォルト・ディズニーは、次の言葉を残しています。

「科学技術が進めば進むほど、人々は孤独になり、分離する。
私は人々が互いに感動し、心がひとつになる場所を作りたいんだ」

みんなの心がひとつになる場所をつくりたい――。

ウォルトの「想い」は、各アトラクションに反映されています。東京ディズニーランドの「蒸気船マーク・トウェイン号」は航行中、「ウエスタンリバー鉄道」とすれ違います。一般的なテーマパークではスタッフがお客さんに手を振りますが、ディズニーではゲスト同士が手を振りあいます。たまたまそうなったわけではありません。みんなの心をひとつにしたいという想いが原点にあるからこそ、それがアトラクションの設計や演出に活かされて、ゲストが自然に手を振るようになるのです。

どうして、このような話をしたのか。それは、企業の「想い」が商品やサービスを決定づけ、最終的にCSに影響を及ぼすからです。企業の想いは、建物でいえば基礎にあたります。商品やサービスは、その上に乗っかる柱や梁に過ぎません。商品やサービスによって顧客が感動するのも、根底に企業の想いが存在しているからです。企業が大事にしている想いなしに、CSの向上はありえないのです。

■企業の想いは経営理念に集約される

CSを高めるための取り組みは、自分たちの「想い」を明確にすることから始まります。通常、企業の想いは「経営理念」という形で表されますが、いくつかの要素に砕いて表されることもあります。たとえば、「ミッション(使命)」も企業の想いの一つ。何のために自社は存在して、何のために事業を行うのか。その目的がミッションとなります。一方、ミッションを達成した先の理想像が「ビジョン」です。ビジョンは、自社が目指すコール。ここがブレると、企業は迷走を始めます。さらに、自社が大事にしている「価値観」や、価値観を具体的な行動に落とし込んだ「行動指針」も、広い意味で経営理念を構成する要素の一つといえます。

CS向上のためにはそれぞれの要素が明確になっていることが望ましいですが、なかでも欠かせないのは「ミッション」の明確化です。ミッションは、企業の存在理由です。ミッションなき企業は、事業活動を続ける理由がありません。目的もなく惰性でビジネスをするだけならば、ただちに事業を整理して市場から退場すべきです。

ミッションが明確ではない企業は、手始めにどうすればいいのでしょうか。ヒントにしていただきたいのは、マネジメントの神様、ピーター・ドラッカーの言葉です。ドラッカーは著書『マネジメント』の中で、企業のミッションについてこう言及しています。

「企業の目的と使命を定義するとき、出発点は一つしかない。
 顧客である。
 顧客によって事業は定義される。
 事業は、社名や定款や設立趣意書によってではなく、顧客が財やサービスを購入することにより満足させることこそ、企業の使命であり目的である。」

ドラッカーの指摘は的確です。顧客に喜びをもたらすことがビジネスの原点ですから、自社のミッションも顧客起点で考えるべきです。顧客を無視して自社のやりたいことだけを深掘りしても、市場に存在を認められるミッションは生まれてきません。顧客から発想をスタートさせてこそ、自社の存在理由を明確にできます。

■短期のアルバイトにも徹底教育するワケ

経営理念やミッション、ビジョンといった企業の想いが明確になったら、次はそれを従業員みんなで共有することが大切です。

私は17年前にディズニーから離れましたが、ディズニー好きの遺伝子は子にも引き継がれたらしく、大学生になった娘が夏休みを利用してディズニーシーのキャストのアルバイトをすることになりました。ディズニーのキャストは、現場で働き始める前に、ユニバーシティという教育部門が行う導入研修を必ず受けます。はたして、古巣はいまどのような教育を行っているのか。興味を引かれた私は、娘に内容を聞いてみました。

「おまえはディズニーでどんな役割を担うんだ?」
「『We Create Happiness』だよ。遊びにきてくれたゲストをハッピーにすることが私の役目なの」

■We Create Happiness(ハピネスヘの道つくり).

これはディズニーのもっとも根本的な理念であり、いついかなるときにも忘れてはいけないミッションです。その思想は、アトラクションの設計からキャストの対応、裏方の掃除に至るまで、ディズニーが提供するものすべてに貫かれています。

ただ、ここで強調したいのは、ディズニー「想い」の中身ではありません。注目してほしいのは、短期のアルバイトにも、想いの共有を求めて教育を行っている点です。

教育期間が短いと教育効果があらわれにくく、教育によって何らかの成長をしたとしても、それを現場で発揮する前に退職時期がきてしまう可能性があります。そのため短期アルバイトに対して、最低限の教育に留めてお茶を濁す企業が少なくありません。

CSの観点からいうと、この考え方は不正解です。顧客にとって、目の前のキャストが新人であるかベテランであるかは関係ありません。多くの顧客にとって、ディズニーへの来園は数年に1度程度しかないイベントです。にもかかわらず、たまたま新人キャストに当たって期待を裏切られ、「新人なので、われわれのミッションを理解していませんでした」と弁明されたらたまったものではありません。

ディズニーでの時間をかけがえのないものにしてもらうためには、そこで働く人すべてにディズニーの想いを理解してもらう必要があります。そのことをよくわかっているから、短期間しか働かないキャストに対してもユニバーシティ教育を行うのです。企業の「想い」は、みんなで共有してこそCSにつながるのです。

(ヴィジョナリー・ジャパン社長 鎌田 洋)

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