商社、テレビ局の年収ランキング“二強”時代は続くのか
プレジデントオンライン / 2015年1月28日 10時15分
バブル崩壊後、日経平均株価の下落に合わせるように、日本人の給料は年々下がっていった。しかしそうしたトレンドが、アベノミクスによって大きく変わろうとしている。
日銀による異次元の金融緩和で日経平均株価は8000円台から1万6000円へと2倍近く上昇し、企業業績も改善された。デフレのトレンドが完全に終わったとは言い切れないが、金融緩和によって薄らいだことは確かだ。賃金が上がるかもしれないという期待も生まれつつある。
もしデフレが終わらなければ、2020年の給料ランキング上位に入る企業名は現在とたいして変わらないであろう。しかしアベノミクスが今後も順調に進捗して、資産価値の上昇から企業投資と個人消費が増加し、賃金も上昇するという好循環が生まれれば見方も変わる。
ポイントは金融緩和に続くアベノミクス第二の矢および第三の矢だ。景気対策と成長戦略である。14年から2年連続で予定されている消費増税を乗り越え、日本経済が完全にデフレから脱却できるかどうかは、これらの成否にかかっている。
今回は「アベノミクス第二の矢、第三の矢が成功裏に進み、増税リスクを乗り越えて、明るい20年を迎える」というシナリオに基づいて、未来の高給企業を予測してみよう。
■予測1●今後も高給が続く!?
キーワードは「グローバル」「新事業」「規制産業」
現在の業種別平均年収ランキングの上位には、総合商社やテレビ・放送、損害保険、ビール、携帯電話といった業種の大企業が並ぶ。
それらの企業の株価を眺めると、アベノミクス相場によってある程度の上昇はあったものの、この10年で3倍、4倍と株価を上昇させた企業はほぼ見当たらない。
株価が表すのはその企業の成長性であり、将来への期待である。その意味では、成長していないはずの企業が現在は高賃金になっているという状況なのだ。
今後6年では、年収ランキング上位の企業の顔ぶれは大きくは変わらないだろう。とはいえ、国も企業も現状維持を続けていると、長期的には衰退に向かうのが歴史の必然だ。未来の成長戦略を描けなければ、現在は安泰の大企業も10年、20年という時間のなかで必ず衰退する。
大企業の場合、成長戦略を描けている企業――つまり利益を出し続け、給与ベースが下がらない――のポイントは、2つあると私は考える。1つはグローバル展開、もう1つはアントレプレナーシップ(起業家精神)である。
大企業、とりわけ製造業についていえば国内市場は成熟化しており、アジアを中心にしたグローバル展開の重要性が増していく。
最近では、サントリーホールディングスが「ジムビーム」などの世界的ブランドを持つ蒸留酒メーカー、米ビーム社を160億ドルで買収すると発表したのが記憶に新しい。この思い切った巨額買収は、業種を問わずほかの大企業を強く刺激したであろう。
こうしたM&Aは世界における日本企業のプレゼンスも高める。いま、世界では日本の大企業はNATOと揶揄されている。「No Action, Talking Only(言うだけで行動しない)」というのだ。これでは世界のグローバル企業と互角に戦えない。
もう1つの鍵、アントレプレナーシップとは、ここでは企業内起業を指す。大企業であっても、今後アントレプレナーシップを育て、成長事業を創出することが必要である。
企業内で新たに起業したい分野、部門、個人を育て、それを成長させていくのだ。たとえば2013年12月にマザーズに上場したシグマクシスというビジネスコンサルティングサービスを手掛ける企業がある。同社は三菱商事の出資で設立され、現在も大株主である。
ほかにも、パソナはすでに大企業化しているが、そこからスピンアウトしたベネフィット・ワンという会社がある。企業の福利厚生業務の運営代行サービスを行う企業で、大幅に伸びており、新しい富を生み出している。
このような形で次々に新しいビジネスを創出し軌道に乗せていくことができれば、今後の成長も望める。給料ランキングの上位に入る有名大企業は人材も資本も充実しているのだから、あとは「やるかどうか」だけである。
現在高給の大企業について言えば、業種で一括りに語ることができず、同業種でも各社の成長戦略次第だ。つまり経営力の差によって企業間格差が大きくなっていく。
携帯電話業界を例に考えてみよう。NTTドコモとソフトバンク、将来性があると思われるのははたしてどちらだろうか。
かつてはNTTドコモが圧倒的優位だった。しかしソフトバンクが13年4~12月期の決算で売上高、営業利益ともにNTTドコモを抜いた。直近では米国のスプリントを約216億ドルで買収するなど、グローバル展開にも積極的だ。ソフトバンクの攻めの経営戦略が維持されれば、NTTドコモは置いてきぼりにされるだろう。ソフトバンクはグローバルな大企業となり、片やNTTドコモは日本国内の大企業にとどまってしまうのだ。
グローバル展開、アントレプレナーシップに加えて、規制緩和も現在の大企業の給与に影響を与えそうだ。というのも、アベノミクス第三の矢は、規制緩和を柱の1つとしている。規制に守られて安穏としている業種は危うくなる可能性がある。
業種別平均給与ランキング2位のテレビ・放送業界がその1つだ。規制に守られ、歴史的にテレビ局の社員の給与は高く、下請け企業は安月給という状況が続いてきた。グローバル展開とは縁が遠く、アントレプレナーシップも薄い。今後参入障壁が下がり、低コストで質のよい番組を提供できる企業が出てくれば、いまの給与水準は維持できなくなる。
既得権益に安住して切磋琢磨を怠った産業が衰退するのは必然である。ただし規制緩和を機に自己変革を起こせば、新しい成長の芽も生まれる。
米国では、自由化によって金融業界で新しいビジネスがどんどん生まれた。日本の規制産業でも、規制緩和をチャンスに新ビジネスを生み出すことができるかどうか。今後の成長はそこにかかっている。
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1969年立命館大学卒。大和証券、メリルリンチ、ラザードジャパンアセットマネジメント日本法人社長等を経て98年独立。マーケットを予測する「スガシタレポート」が好評。最新刊は『ゼロから富を作る技術』。
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(経済評論家 スガシタパートナーズ株式会社代表取締役 学校法人立命館顧問 菅下 清廣 構成=宮内 健 写真=PIXTA)
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