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小泉進次郎の流儀「最初の1分で心を掴む」

プレジデントオンライン / 2016年12月8日 9時15分

小泉進次郎氏(中尾由里子/AFLO=写真)

将来の総理大臣候補と注目され、震災後は復興大臣政務官を、現在は、自民党農林部会長を務める小泉進次郎氏。人気の秘訣はなにか。密着取材を続けている常井健一氏に聞いた。

■一瞬にして他人とコミュニケーションを成立させるには?

あらゆる世論調査で「総理にしたい人」のトップクラスに躍り出る小泉進次郎(34歳)。彼は演説や討論会、集会などで瞬時にして聴衆の心を鷲づかみにしてしまう。

約3年間、彼の講演や視察、地元活動など、全国300カ所で密着して取材を重ねていくうち、その根本原理が少しずつ見えてきた。

進次郎のコミュニケーション術は、まず相手の名前を覚えることからスタートする。

初対面の人と名刺交換をするとき、まずフルネームをしっかりと確認する。そのうえで「○○さんって、珍しい名字ですね。出身はどちらですか?」「うちの兄貴(俳優の小泉孝太郎)と同じ名前ですね、コウタロウさん!」というように、必ず名前を入れて呼びかける。

加えて、会社名やデザインを見て、「○○さん、このデザインは何を意味しているんですか」などと、目についた特徴的な部分を言葉にして質問する。すると、相手も何らかの情報を出してくるため、本題に入る前に打ち解けた会話が成立するのだ。こうすることで、一瞬にしてコミュニケーションが成立し、信頼関係が構築され始める。

現在、自民党の農林部会長を務める進次郎は、地方の農村に出かけ、意見交換会に臨む機会が多い。その際、進次郎が司会役を務めることも少なくない。ミーティングの司会とは通常、代表的な意見だけをまとめて会合を終わりにする。

だが、進次郎の場合は違う。

「△△さんはこういう意見でした」「こうおっしゃったのは××さんでした」と、一人ひとりの意見を、名前を呼びながら並べていく。参加した人には、「小泉進次郎が自分の話にも耳を傾けてくれた」という好印象が芽生える。しかも、参加者の名前を繰り返し呼ぶため、散会する頃には、あたかも以前から知っていたように名前で呼び合えるようになる。

これらは初対面の相手に対する敬意であり、「私はあなたに関心がありますよ」という証しになる。相手との心の距離が一瞬にして、一気に接近するのだ。

人の名前を覚えるということは、簡単なようで難しい。しかし、進次郎は「名前を覚えるだけで、コミュニケーションの9割は完成する」と考え、それに最大のエネルギーを注ぎ込んでいるように見える。だからこそ、初対面の日はもちろん、その日以降に会ったときにも正確に相手の名前を口にできるのだろう。

▼オキテ 名刺交換の場で相手の名前を覚えるべし

■福島の人の態度を変えた最初の一言

常に相手を「主役」として位置づけようとすること、これも彼ならではのコミュニケーション術だ。

政治家はあらゆる会合で主役に位置づけられ、注目される側、興味を持たれる側にある。しかし、参加者側への興味がないように見えてしまえば、支持を集めることはできない。そこで進次郎は、誰に対しても自分から進んで質問を投げかける。わからないこと、気になることをその場で次々と聞き、相手の気持ちを引き出す。進次郎に向けられたベクトルが相手へと自然に変換される様には驚く。

東日本大震災が起きた数年後、進次郎は福島県のりんご農園に視察に行った。農家の人たちは政治家の相手ができないほど放射性物質の除染作業で多忙を極めていたが、進次郎は開口一番こう言った。

(進)「私に何かお手伝いできることはないでしょうか」
(相)「じゃあ、除染作業を一緒にやってください」

除染作業の方法を教えてもらい、慣れない手つきでホースを持って除染作業を終える頃、進次郎が「ご主人、私の作業の出来栄えは何点でしょうか」と言うと、主人は「マイナス10点!」と言って笑っていた。進次郎は最初の謙虚な一言で農家の人をその場での「主役」にさせ、自分は教えを請う側に徹するという真摯な態度で心をつかんだのだ。

相手を立てることの大切さは、我々報道陣に対しても同様だ。

共同インタビューの際、記者が尋ねると、進次郎は「○○さんのその質問ですが……」と、相手の名前を呼んで返事をする。自分の存在が認識されていると思うと、私のように批判的な記事を書こうとする記者も悪い気はしない。

さらに、こんな好例もある。

農林部会でJAグループに改革を迫るような挑発的な発言をしたときのこと。共同インタビューの場で、JAの傘下にある日本農業新聞の記者に「きょうの話を丸めることなく全部書いてくださいね」と皆の前で念を押したことがあった。言われたほうは、多くの報道陣の前で恥をかかされた気持ちにもなるが、進次郎にとっては、あくまでもJAに対するメッセージだ。インタビュー終了後に何気なくその記者に近寄って、「でも、記事の中身は上司が書くんだよね」と、逃げ道をつくってあげた。

怒るべき問題には怒り、一方で、個人に対してはフォローをする。その二段構えで臨むことを忘れない。人が組織を動かしている以上、個人の人格まで否定してしまうと何も動かなくなってしまうことを心得ているのだろう。

▼オキテ 相手を主役にして、話を聞くべし

■その世界に疎い人を味方につけるには

進次郎の話はとにかくわかりやすい。例え話がうまいのだ。何かを語るとき、そこでも相手の立場に合わせて、頭の中の引き出しからベストの比喩を取り出してくる。

たとえば、オリンピック出場を狙う若き陸上選手たちの前で講演したときのこと。ある選手から「絶対に勝たなくてはいけないときに、何を考えているか」と質問されると、車椅子のテニス選手、国枝慎吾に触れながら、こう答えた。

「絶対勝たなくちゃいけない試合は、『そのとき』ではなくて『それまで』が勝負なんです。僕も今まで何万回も演説してきたけど、この演説が勝負だと思うとき、『いったい今まで何回演説してきたんだ?』という気持ちが自分を支えてくれる。数年前、国枝選手も『これまで俺は何万回ラケットを振ってきたんだ?』と試合中の正念場で叫んでいた。みなさんも人が寝ているときや、友達がファミレスでだべったり、カラオケしたりしているときでも、何かを犠牲にして練習してきたでしょう。プレッシャーがかかる場面でも『自分は何回走ってきたんだ』『何回跳んできたんだ』と、日々の努力の積み重ねを思い出せば、心の支えになります」

前出の農林部会後に、記者団から補助金行政への見方を問われたときには、こう応じた。

「今は他の産業だって『農業は補助金漬けだ』と批判していられないぐらい補助金に頼っていますよ。自分の足で立って稼ぐんだという言葉は農業に限らず、全産業に向けられるべきこと。今経済界からいろんな要望がありますけど、かつて(経団連会長だった)土光敏夫さんは『国にあれやれ、これやれと頼むのではなく、これだけはやってくれということを言うのが財界の役割だ』と言ったが、いい時代でしたね。一度、そういう経営者にお会いしてみたい」

この現場には政治部だけでなく、経済部の記者も多くいる。政治家は新聞の政治面を想定して発言しがちだが、昭和の大物財界人の名前を出すだけで、経済記者のアンテナにも引っかかる発言に変わる。

“嫉妬の海”と言われる政治の世界。「そこでどう立ち回るか」という質問を受けることも少なくない。その際、思わず膝を打ってしまうのが、進次郎のこうした返答だ。

「むかし中村仲蔵という歌舞伎役者がいました。梨園の生まれじゃなかったけれど、あまりに演技がうまいから最終的に大成した役者です。でも、そうなる前はいじめにあって、端役ばかり与えられた。それでも主役を食ってしまうくらいの抜群の演技をした。私も嫌なことがあっても、そうありたい」

話す対象者にわかりやすい著名人を例に挙げ、それに沿って自分の考え方を語る。それはスポーツや歌舞伎に限らず、落語や文楽、歴史や小説、芸術など実に多彩な引き出しを用意している。そのために日々、10以上の新聞や雑誌に目を通すなど、さまざまな素材を仕入れる努力を決して惜しまない。こうした点は一流の政治家になる素質がある人とそうでない人の決定的な違いだろう。

▼オキテ あらゆるネタをストックしておくべし

■昨日の味方を敵にしないための極意

人の心をつかむという視点で進次郎の所作を観察していると、一つ気になることがある。それは、自民党の同僚議員であっても、彼は決して必要以上に仲よくしようとしないことだ。まず、あいさつ代わりに携帯電話の番号を交換するというようなことはしない。会議や会食の日程調整は、事務所の秘書を通せばこと足りる。

派閥にも属していない進次郎の場合、仲のいい議員とも日夜つるむようなことはせず、目的を絞り込んだ勉強会や調査チームを結成し、課題解決への具体的な手法を見出していく。また、政策ごとに連携相手を代え、いわば同盟を結ぶように人間関係を築いている。

永田町では良好な関係を保っていても人はいつ敵になるかわからない。彼も失敗しながら、それを学習している。地元・神奈川県横須賀市の市長選で、応援していた候補者が落選した際、「政治は厳しい道ですね。仲間がつく、離れる。離れたらまたつく。昨日の敵は今日の友、今日の友は明日の敵。こんな経験をするのも政治の道なんですね」と、涙を浮かべながら語った。

敵、味方はいつでも変わる。その前提に立ち、政治家は日々腹の探り合いをする。ビジネスでも似たところはあるはずだ。こうしたリアルに即したバランス感覚に秀でているのが、小泉進次郎という男なのだろう。

(文中敬称略)

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常井健一
ノンフィクションライター。1979年生まれ。旧ライブドア・ニュースセンター、朝日新聞出版を経て独立。著書に進次郎氏の政治活動を追いかけた『小泉進次郎の闘う言葉』、父・純一郎氏への単独インタビューをまとめた『小泉純一郎独白』は発売即重版。

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(ノンフィクションライター 常井 健一 青柳雄介=構成 中尾由里子/AFLO=写真)

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