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信頼できる医療情報を提供したい~東大出身脳外科医がベンチャーに転身した理由

プレジデントオンライン / 2017年1月24日 9時15分

不正確な医療情報がネット上に多数掲載されているとして波紋を呼んだ「WELQ(ウェルク)」問題。信頼できる医療情報を提供しようと奔走する元脳外科医がいる。

メドレー代表の豊田剛一郎氏は東京出身の32歳。開成中学・高校から東京大学医学部に進学し、脳外科の勤務医になったあとアメリカへ渡り、マッキンゼーに転職したという異色の経歴を持つ。ヘルスケア企業へのコンサルティングなどに携わったのち、メドレーに参画し、医療情報サイト「MEDLEY」を立ち上げ(2015年~)、医療機関の遠隔診療導入を支援する「CLINICS」を提供している(2016年~)。

医師の道からビジネス界に進出した豊田氏の本懐とは? 豊田氏と田原総一朗氏の対談、完全版を掲載します。

■脳科学の本がきっかけで医学部へ

【田原】豊田さんは医者からビジネスの世界に転身した。そもそも医者になろうと思ったのはいつごろですか。

【豊田】もともと親戚に医者がいて医療は遠い存在ではなかったのですが、高校生のときに脳科学の本を読んで心が躍り、医学部に行きました。

【田原】脳の話に心が躍る?

【豊田】人間は脳の7%くらいしか使っていないという本を読んだのです。パソコンにたとえると、ハイスペックなのにEメールしかやっていない状態です。人間の腕は2本ですが、脳の容量でいえばあと10本増えても自在に動かせるらしいんですよ。あと、人間は悲しいときに泣きますよね。でも脳科学的にいうと、あれは悲しいから泣くという因果関係ではなく、別の根源となるものがあって、それが悲しいという感情や泣くという行為を並行的に引き起こすのだそうです。こうした話を本で読んで、脳を一生研究する人生もおもしろいんじゃないかと。

【田原】卒業後は脳外科医になった。

【豊田】医学部で実習に行ったら、外科の先生たちがかっこよくて。医者だけど、職人的なところがあるんですよね。

【田原】外科医は技術者ですよね。どちらかというと、芸術家に近い。

【豊田】そうなんです。料理も極めると最後は芸術の域に入りますが、外科も似たようなところがあります。実際、芸術家肌の先生が多いです。それに憧れて、脳外科の研修医になりました。

■研修医はキツイが、成長できる

【田原】研修ではどういうことをやるのですか。

【豊田】研修医は初期研修医と後期研修医の2つがあります。初期は2年間で、さまざまな診療科を1~2カ月ごとに回って見習いをします。1~2カ月程度では専門的なところまではわかりませんが、どのような症状のときにどの診療科に任せるかとか、その診療科の最前線の治療はどうかといった最低限の知識は身につきます。その後、自分で選んだ診療科で、後期研修医として働くことが多いです。

【田原】豊田さんはどこの病院で脳外科の研修医になったのですか。

【豊田】NTT東日本関東病院です。毎日手術の準備をしたり、救急外来の業務をやったりで、ひたすら働いていました。当直は、多い月で10回、少なくても6~7回。当直は夕方の5時から翌朝8時までなのですが、当直当日は朝から病院で働いているし、当直が明けてもそのまま夜まで働きます。

【田原】えっ、いつ寝るの?

【豊田】基本的に寝られません。患者さんが元気で異常がなかったり、救急外来で救急車が来ないときに当直部屋や診察室のベッドで仮眠するくらいですね。初期研修のときに最高で月の半分くらい病院で寝泊まりしたことがありますが、さすがにそのときはきつかったです。

【田原】医療現場は、若手医師の犠牲のもとに成り立っているんですね。

【豊田】はい、自己犠牲です。ただ、若手にとっては経験を積めるメリットがあります。当直中に救急で危険な状態の患者さんが運ばれてきたのに、医者は自分1人しかいない。はたして夜中に上司をたたき起こすべきか、自分で対処すべきか。そうした決断も含め、たくさん修羅場を潜ることで技術的にも人間的にも成長できます。

【田原】責任重大ですね。自分の判断しだいで患者の生命が左右される。

【豊田】怖いですね。入院させずに帰した患者さんが翌朝もう1回来院したこともあります。臨床の現場に計4年半しかいなかった私ですら苦い思い出が何件かありますから、長く医者をやっている先生の中には、医師免許を失うのではと思うくらい怖い経験をされている方も少なくないと思います。

【田原】後期の研修は何年ですか。

【豊田】はっきり決まっていなくて、専門医の資格を取るまでが後期研修医です。脳神経外科の場合は、受験するのに5年の経験が必要。前期2年、後期5年目で受験できて、合格すれば7年目に専門医の資格を取れます。

■最先端の医療をやるためにアメリカへ

【田原】専門医の資格を取る前に渡米される。これはどういうことですか。

【豊田】もともとアメリカで脳外科医をやりたいと考えていました。アメリカでは、日本で行われていない脳外科の手術もできる可能性があるので。

【田原】たとえば?

【豊田】例えば、うつ病の手術ですね。うつ病では、セロトニンなどの物質が足りなくなります。そこで脳内のセロトニンを出す場所の近くに電極を埋め込み、少し刺激してあげる。するとセロトニンが出て、症状がよくなります。アメリカやカナダだと、こういった手術ができるんです。

【田原】最先端の医療をやりたくてアメリカに行ったわけだ。

【豊田】そうですね、脳外科はおおざっぱにいって、腫瘍や血管の手術をやりたい人と、外科的アプローチで脳の機能を治療、研究したい人がいて、私は後者をやりたくて渡米しました。

【田原】外科的アプローチで研究するって、どういうこと?

【豊田】研究を進めると、将来はたとえば動く義手や見える義眼をつくれる可能性があります。いま「右手で握れ」と念じたら右手が動きますよね。念じたときの脳波を計測して電気信号に換えれば、それに合わせて動く義手ができるかもしれない。目のほうも、光の情報を電気信号に変えて視覚野に送ると、直接見えるわけではなくても、ものが認識できるかもしれない。視覚野に送るときは、頭がい骨を外して脳の表面に電極のシートを直接置く手術をします。そういった手術をアメリカで学んで、将来的には日本に持って帰れたらと思ってました。

【田原】なるほど。アメリカでは、どこの病院に?

【豊田】ミシガンの病院で研究をしていました。外国人医師は、まず研究をして実績をつくり、それをひっさげて病院にアプライするのが普通なので。

【田原】何を研究していたのですか。

【豊田】てんかんの治療にからめて、音素と脳の関係を研究していました。音素の研究は、動く義手と似ています。ある音素を発音したときの脳波を調べることで、将来は声を失った人がスピーカー越しに話せるようになるかもしれない。実現できればおもしろいですよね。

■なぜ、マッキンゼーに行ったのか

【田原】ミシガンの病院には何年いらしたのですか。

【豊田】1年半です。その後はコンサルティング会社のマッキンゼーに転職しました。

【田原】そこを聞きたかった。プロフィールを見て驚いたのですが、どうして医療の世界からいきなりマッキンゼーに行ったのですか。

メドレー代表・豊田剛一郎氏

【豊田】医師になってから、アメリカで学びたいという気持ちが募る一方で、日本の医療はこのままでは危ないのではないか、放ったままアメリカに行っていいのかという思いがどんどん強くなりました。ちょうどアメリカに行く前にマッキンゼーの人と知り合って、「医療を変えたいなら、うちにこないか」と誘われまして。渡米する前に筆記試験、渡米後に面接を受けたら採用が決まって、転職したという流れです。

【田原】ちょっと待って。少し整理させてください。まず、日本の医療が危ないというのはどういう意味ですか。

【豊田】システムとして破綻しています。いま医療費は約40兆円です。そのうち約4割が税金、約半分が我々の支払う保険料で賄われています。患者さんが払うのは4兆円で、全体の10分の1です。今後、高齢者の増加で医療費は間違いなく膨らんでいきます。一方、それを支える現役世代は減っていく。では、システムを維持するために、若い人の給料から年間数百万円も取ることが許容されるのか。それは無理ですよね。このままではいずれ立ち行かなくなる仕組みなのです。

■日本の医療はもう限界だ

【田原】少子高齢化だけじゃなく、医療技術が高度になってお金もかかるから、二重三重に厳しくなりますね。

【豊田】現場も限界です。昔は、ある病気を治すにはこの薬というように治療法も限定されていたのですが、いまは検査や治療法の選択肢が増えて、昔の何十倍も覚えなきゃいけないことがある。IT化で昔より効率化されている部分もありますが、それ以上のスピードで仕事量が増えています。

【田原】医療の問題は昔から指摘されていました。なぜ改革できないんだろう。

【豊田】結局、正解がないのです。たとえば医療費でいえば、「現役世代はこれ以上負担できないから高齢者の医療は打ち切れ」という人もいれば、「医療はお金に関係なく最高のものを多くの人に提供すべきだ」という人もいる。みんなが同じ価値観で動けないから解決策も打ち出せない。

【田原】正解がないといえば健康寿命の問題もある。これまで医者の役割は、患者の寿命を少しでも延ばすことでした。しかし、実際に寿命が延びると、健康じゃないのに生きているだけでいいのかという問題が出てきた。最近は胃ろうを断る人も増えています。

【豊田】昔は医療でできることをすべてやることが患者さんやそのご家族の幸せとイコールでした。でも、医療が進歩した結果、そこにズレが生じてきた。脳外科にいると、手術で意識はなくなるけど命は助かるというケースに直面することがあるので、その問題はいつも考えていました。

■既得権益がない外からしか、日本の医療は変えられない

【田原】いまの日本の医療が抱える問題はわかりました。それを解決するのに、なぜマッキンゼーだったのですか。

【豊田】マッキンゼーに転職した理由は3つあります。1つは、病院の外の世界を知りたかったから。私は医学部で育って病院に勤めた経験しかありません。まず外から医療の問題がどのように映るのか確かめたかったのです。2つ目は、日本の医療を変えるなら外からしかないと思ったから。現場の先生は本当に忙しいので、問題意識を持ちつつも動けません。ある程度、ポジションを得た偉い先生は既得権益を持っているし、周囲との関係性に配慮せざるをえないため、ヘタに声を上げられない。そうした現実を見てきたので、変えるなら外からだろうと。

田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】もう1つの理由は?

【豊田】マッキンゼーに行くと、人との出会いも含めて世界が広がります。OBはさまざまな業界で活躍していて、声をかけていただける機会も多い。誘ってくれた方は、「マッキンゼーで医療を変えられるかどうかわからないが、マッキンゼーにいたことが価値になり、いずれ役立つときがくる」と言ってくださって、私もそう思いました。

【田原】なるほど。採用が決まったのはいつですか。

【豊田】内定が出たのは渡米4カ月後でした。脳外科医のエキスパートになるのか、それとも日本の医療を変えるチャレンジをするのか。どちらも魅力的でしたが、よりワクワクするのは後者だと思って転職を決めました。内定をもらってから1年以内で入社しようと、ミシガンの病院は1年で退職し、日本に戻りました。

【田原】マッキンゼーではどんな仕事をしていたのですか。

【豊田】製薬会社や医療機器メーカー、保険会社、自動車などいろいろな会社のプロジェクトをやりました。当時はKPI(重要業績評価指標)という言葉も知らなければ、P/LやB/Sの考え方も知らなかったので、何もかも新鮮でしたね。さっき「マッキンゼーに行った理由は3つあります」といいましたが、ああいう言い回しもマッキンゼーで初めて覚えました(笑)。

【田原】医療界にKPIはないの?

【豊田】病気は治療してみないとわからない部分があるので、目標を設定して、マイルストーンを区切って達成していくといったやり方は馴染みません。方針を決めた後は悪くいうと行き当たりばったりですが、プランAがダメならプランBというように柔軟に対応していくことのほうが大事です。

■メドレーの創業社長は小学校の塾の友人

【田原】マッキンゼーは1年半で辞めて、メドレーに代表取締役医師として加わりますね。経緯を教えてください。

【豊田】創業社長の瀧口浩平に誘われました。瀧口は小学校の塾の友人で、中学も少しだけ一緒でした。

【田原】少しだけ?

【豊田】中学受験で2人とも開成に入ったのですが、瀧口は途中でやめてしまい、地元の公立中に。高校は学芸大附属に入って、在学中に1社目の会社を起こしました。大学には進学していなくて、そのままビジネスの世界に。メドレーは瀧口にとって2社目の起業になります。異色のキャリアですね。

【田原】メドレーというのは、何をやっている会社ですか。

【豊田】医療介護系の求人サイト「ジョブメドレー」(https://job-medley.com/)を運営しています。医療介護系の人材は地方に行くほど足りません。そこで、医療介護系の人材を求める人と医療介護系の仕事を探している人をマッチングしやすくして、人手不足を解消するのが狙いです。求人サイトは求人事業者側からお金を取るビジネスモデルですが、ジョブメドレーはその料金が相場の半額程度。事業者の負担にならずに人を採用できる仕組みをつくろうとしています。

【田原】マッチングは年間何件?

【豊田】人数は非公開ですが、掲載されている案件数は約7万件です。国内だと最大級です。

【田原】その会社に、どうして豊田さんが加わったんですか。

【豊田】瀧口は、亡くなったおじいさんの話をしてくれました。おじいさんは胃がんで手術を受けて胃を摘出したけど、その後食事が食べられなくなってしまった。幸せな余生を送れなかったのではとすごく後悔したと。はたして、手術を選択したのはベストな選択だったのか。あのとき胃がんについての情報が身近にあったら、もっと納得のいく選択ができたかもしれないと。

【田原】それで?

【豊田】瀧口はその経験から、正しい医療情報を患者に届ける事業をやりたいと思う一方で、医療情報は医者でないと判断できないところがあります。それで「一緒にやってくれないか」と誘われたわけです。私も私で、先ほどお話ししたような問題意識があって、これからは患者さんが自分で医療を決めていくことが求められるし、それを可能にするには正しい医療情報を知ることができる場所があることが不可欠だと考えていました。それで一緒にやることにしたのです。

■なぜネット上の医療情報は間違ったものが多いのか

【田原】医療を知ることができる場所はないの?

【豊田】昔なら『家庭の医学』が家に一冊ありましたよね。いまはネットの時代ですが、残念ながらグーグルで検索して引っかかった情報が必ずしも正しいとはかぎらない。ウィキペディアでさえ9割の疾患について間違った記述があるという論文が発表されているくらいです。

【田原】どうして間違ってるんですか。

【豊田】ある治療法があったとします。本当はその治療法で大きな効果を期待できなくても、「治ります」と書いたほうがキャッチーだから、そう書いてしまうサイトがあります。あと、10年前以上の時代遅れの情報を書いて、そのまま放置されているページも少なくありません。ネットにはそういう無責任な情報が浮遊していますが、専門家ではない患者さんはそれを信じやすく、病院で医者が「違う」といっても、「いや、ネットにこう書いていました」といって、むしろ医者を疑ってしまう。これは患者さんにとって不利益になりかねません。

【田原】それで立ち上げたのが医療情報サイトの「MEDLEY」(https://medley.life/)ですね。具体的に、どのような情報を掲載しているのですか。

【豊田】医療現場で患者さんと接してる先生たちが100人いたら、95人ぐらいの先生がいう最大公約数的な言葉が集まっている場所をつくろうと考えました。病気の説明はだいたいどの先生も基本は同じで、先生自身も患者さんに対して何万回と同じ説明を繰り返しています。日本中で同じ説明が繰り返されているなら、その情報をネット上に置いて誰でも見られるようにすれば、患者さんもドクターもハッピーになれるんじゃないかと。

【田原】なるほど。

【豊田】イメージは医者がつくるウィキペディア。複数の医者に参加してもらうことで、中立性、最新性、網羅性の3つを担保しようと考えています。

【田原】中立性や最新性、網羅性のある情報をそろえるには、医者は何人くらい必要ですか。

【豊田】いまやっと500人を超えたところで、規模としてはまだまだ。診療科が約20あるので、1診療科100人として2000人はほしい。理想は5000~1万人です。

東京・五反田のNTT東日本関東病院にて

【田原】このサイトは、どうやって利益を出すのですか。

【豊田】MEDLEYはCSR的な面が強いので、そんなにがつがつマネタイズをしようとは思っていません。ただ、医療機器や製薬会社、病院など、患者さんに知っておいたもらったほうがいい情報は広告として掲載しています。たとえば熱い思いを持った先生を、薄く広くお金を取って紹介するような形ですね。

【田原】病院からお金をもらったら、中立性の部分はどうなるんだろう。

【豊田】正しい医療情報を伝える場所と、先生のインタビューなどは完全に切り分けています。だからそこは問題ないという認識です。

【田原】MEDLEYはいまどれくらい閲覧されていますか。

【豊田】詳細は非公開ですが、月に数百万人くらいの方が見てくれています。

【田原】DeNAのWELQというキュレーションサイトが怪しい医療情報をたくさん掲載していて問題になりましたね。しかも検索で上位にくるからPVも多かった。この問題、どうですか。

【豊田】医者の立場でいうと、医療情報をあのように扱ってほしくないなと心の底から思います。ただ、検索から消してもらうのは現実的に難しいでしょう。いまレストランを探すのはグーグルじゃなくて食べログだし、レシピはクックパッド。それと同じように、私たちが「病気のことを知りたいならMEDLEYだよね」といってもらえるサービスをつくっていくことで状況を変えていきたいです。

【田原】ところでMEDLEYのようなサービスはアメリカにもありますか。

【豊田】政府や、メイヨー・クリニックという有名な病院が運営している総合医療メディアはあります。ただ、MEDLEYのような医師が共同編纂する形のメディアはないです。

【田原】将来、世界に展開しますか?

【豊田】まだはっきりとした構想はないですが、各国でメドレーというプラットフォーム上に500~1000人のドクターが集まって、MEDLEY・アメリカとか、MEDLEY・インドネシアとかいう形で展開できたらおもしろいですね。病気や薬の種類は世界でほぼ共通なので、そこは横串を通しながら、各国特有の事情にも対応していくと、すごくいいものができるはず。日本できちんと回るようにすることが先ですが、いずれはやりたいです。

■遠隔診療システム「CLINICS」

【田原】メドレーはいま遠隔医療の「CLINICS」という事業をやっておられますね。これは何ですか。

【豊田】簡単に言うと、PCやスマートフォンのテレビ電話でドクターと話して、必要であればお薬がもらえるという遠隔診療のシステムです。これを使うと、患者さんは病院で何時間も待たなくていい。通院の負担も減ります。

【田原】これは誰からお金を取るの?

【豊田】医療機関側です。初期費用プラス月額利用料で、予約・問診・診察・決済などの遠隔診療に必要なすべての機能をご利用いただけます。いま導入いただいている医療機関は200を超えました。

【田原】患者側からすると、スマホで正確な診断ができるのか心配な部分もある。危険じゃないんですか。

【豊田】検査や診察が必要なケースは多いので、やはり遠隔でできる診断は限られます。そこは病院に行っていただくしかないでしょう。ただ、一方で、遠隔で十分なケースもあります。たとえば高血圧でお薬をもらっている患者さんは、これまで薬をもらうために2カ月に1度、数時間費やして診察を受ける必要がありました。これは遠隔診療と相性がいい。高血圧は痛くも痒くもなく、途中で病院に行かなくなる人も多いので、むしろ対面だけより通院継続率は上がると思います。

【田原】なるほど。途中で治療をやめてしまう患者も、通院の負担が減れば治療を続けるわけだ。これ、病院に行く場合と遠隔で受ける場合では、どちらが安いのですか。

【豊田】現在の制度だと患者さんは遠隔のほうが安く済みます。ただ、逆に医療機関は来てもらったほうが儲かります。それでは普及が進まないので、ドクターは予約料を患者さんからもらってバランスを取っています。

【田原】将来、普及はどのくらいまで進みますか。

【豊田】日本には医療機関が10万の開業医と8000の病院があります。このうち主なターゲットは開業医の先生のほうです。いま電子カルテの普及率は3割程度。電子カルテを導入していない先生がITを使った遠隔診療に関心を持つとも思えないので、開業医10万の3割、およそ3万のうちどれくらいの先生にやっていただけるのかなという規模感です。

【田原】海外展開はどうですか。

【豊田】したいですねえ。MEDLEYに症状を入力すると、可能性の高い病気を表示する症状チェッカーという仕組みがあります。アルゴリズムは病院で行う問診をもとにしています。これをもう少し進めて、緊急性の高いときはこうしましょうとか、その症状に対する汎用性の高い治療はこれですよといった判断までできるようになるとおもしろい。それを遠隔診療と組み合わせることで、いままで医者が少なくて20点くらいの医療しか受けられなかった人が70点の医療を受けられるようになるかもしれません。ベンチャーなので利益を生む必要はありますが、将来はそこまで広げていけたらいいなと。

【田原】なるほど。頑張ってください。

■田原さんへの質問

Q.未来を正しく予測することは可能ですか

【田原】米大統領選では、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストもトランプ勝利を予想できませんでした。専門家が間違えたのは、自分の信じたいことを信じたから。トランプ勝利は、パックスアメリカーナの否定です。しかし専門家はパックスアメリカーナが永遠に続く、あるいは続いてほしいと思っていた。だから読み間違えたのです。

ブレグジットも、僕の信頼する政治家や学者、ジャーナリストはみんな「EU離脱は100%ない」といっていました。専門家でも間違えるのですから、未来を予測することは本当に難しいと思います。

大切なのは、事実を受け止めること。トランプ勝利が事実なら、専門家が間違えたのも事実。そのファクトに基づいて、あらためて未来を考えるしかないでしょう。

田原総一朗の遺言:事実を踏まえて、自分で考えろ!

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編集部より:
次回「田原総一朗・次代への遺言」は、トーマツベンチャーサポート 事業統括本部長/公認会計士・斎藤祐馬氏のインタビューを掲載します。一足先に読みたい方は、1月23日発売の『PRESIDENT2.13号』をごらんください。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。
 

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(メドレー代表取締役医師 豊田 剛一郎、ジャーナリスト 田原 総一朗 村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)

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