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「私も収入が半減した」経済評論家が覚悟するイベント業界の暗い先行き

プレジデントオンライン / 2021年1月12日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Cesare Ferrari

■経済評論家としての収入は半減した

私は3つの顔を持っています。経営戦略コンサルタント、投資家、そして経済評論家という別々の仕事をこなしているのですが、その中で新型コロナのイベント業界への打撃をもろに受けたのが経済評論家の仕事です。

ざっくり言うと私の経済評論家業のビジネスモデルは、ウェブ連載の記事で露出を確保して、年1~2回書籍を出版して話題をつくり、たまに放送メディアに出演して名前を売って、月2回程度の講演会で元を取るような仕組みです。

平年の収入構成比としてはウェブ30%、書籍20%、講演50%という感じの、イベント依存の構造です。これが新型コロナでどうなったかというとウェブ30%、書籍15%、講演5%、減収分50%と、ほぼほぼ評論家業の収入は半減しました。

昨年『日本経済予言の書』という書籍を出しました。新型コロナを含めた日本経済にこの先どのような試練がやってくるのか社会の関心も高かったのですぐに増刷もかかったのですが、そこから先のリアル書店での販売が例年のようには伸びません。感触で言えば新型コロナの影響で書籍販売も3割減ぐらいやられた感じです。

■緊急事態宣言明けに講演依頼→第二波、第三波で中止に

そしてご想像のとおり、講演会による収入について2020年は9割減になりました。年初の段階で8月くらいまで月2本程度のペースで講演会の予定が入っていたのですが、新型コロナでこの予定がきれいにキャンセルでゼロになりました。

『日本経済予言の書』では「新型コロナ下のビジネスチャンスは気温が暖かい7月から10月までの4カ月しかない」というアドバイスを書いていたのですが、現実には昨年の夏の期間における講演依頼は、ほぼほぼゼロでした。

理由はこれも仕方のないことですが主催者の大半が緊急事態宣言があけた7月になってから新たに講演会を計画し始めたためです。夏の間に11月から1月にかけての講演の打診が入ってくるのですが、第二波、第三波でまたそのいくつかはキャンセルとなり、リアルな講演イベントが実施できたのは11月と12月に1本ずつでした。

周囲でもイベントに関わる人はたいがい、2020年は収入が激減する事態に直面していました。私を含めいわゆる文化人カテゴリーの人は他に本業があるため生活は何とでもなるのですが、苦しいのはタレント専業の人たちです。彼らのビジネスモデルもメディアで露出を確保してイベントやライブで収益を上げるモデルだったため、新型コロナによるイベント需要減は大打撃になりました。

■「Go Toイベント」の効果が小さかった

2021年は1月段階で早くも緊急事態宣言に入ります。もし経済評論家だけで食べていかなければいけないとすれば、ビジネスモデルとしてウェビナーやオンラインサロン、動画配信といった別の方向に収益源を変えていかないとどうしようもない状況です。

そういったことは自分でやるとして、心配なのはイベント業界全体の未来です。このまま再びの緊急事態宣言でイベント機会が激減するとしたら、これからのイベントビジネスはいったいどうなってしまうのでしょうか。業界全体の経済的な影響について考察してみたいと思います。

最初に気づくことはGo Toの効果がイベント業界では小さいことです。旅行、飲食とならんで新型コロナによるイベント業界への打撃が深刻なことを想定して、イベントについてもGo Toイートと同規模の国家予算をつぎ込んだ、Go Toイベントキャンペーンが実施されました。

ぴあやローソンチケットなどを通じて購入する演劇や音楽イベントでGo To対象の公演はチケット価格がほぼ20%オフになるというお得な仕組みです。それがほとんど話題になっていない。Go Toイートでは錬金術のように食事をしてはポイントをためる消費者が現れたのですが、Go Toイベントではそのような盛り上がりを耳にしません。

■「安いからたくさんイベントに行こう!」とはならない

その最大の理由は旅行や外食と違ってイベントは価格弾力性が大きくないことです。

旅行や外食でGo Toが機能した仕組みはこうです。国民の半数が新型コロナの影響で自粛する一方で、残りの半数が価格が安くなることに反応していつも以上に旅行や外食に出かけるようになりました。価格を政策的に下げることで新たな需要が創造されたのです。

牛のステーキ
写真=iStock.com/gregory_lee
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gregory_lee

しかしイベントの場合はそうではなく、そのイベントに行きたい人は行くし、行かない人は行かない傾向があります。Jリーグの試合でもミュージカルでも市川海老蔵の公演でも、半数のファンは新型コロナの影響で行くのを自粛しますが、残り半数のファンが価格が下がったことで普段出かけるのとは違うイベントに行ってみるという新規需要は発生しにくいものです。

■固定費の少ないイベントは、中止になりやすい

次にイベントの場合、旅館や飲食店以上に自主的にイベント中止に踏み切る主催者が多かったという特徴があります。その理由は固定費が少ないことです。

飲食店を経営していると毎月自動的に数十万円規模で賃借料が出ていきます。建物がでかいホテル経営ではもっと固定費が大きい。ですから顧客が来なくても営業して少しでもお金を稼がなければ倒産してしまいます。

イベントでも劇団四季のように劇場を持っていたり、プロ野球のように球団が選手と契約をしていて多額の年俸の支払いが固定費となっている業界では、さまざまな工夫をしてなんとか営業できるように頑張ったわけです。Go Toイベントで人気だった、USJのような施設型のイベント運営会社も同様です。

「Go Toイベント」事業の初日、多くの来場者でにぎわうユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)
写真=時事通信フォト
「Go Toイベント」事業の初日、多くの来場者でにぎわうユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)=2020年11月4日、大阪市此花区 - 写真=時事通信フォト

しかしまだ企画段階の演劇などは新型コロナの影響下では「やらない」という選択肢の方が経済的な打撃が小さくなります。なぜならこれから集まるスタッフもこれから押さえる劇場もすべて変動費だからです。つまり変動費が多いタイプのイベントは新型コロナの影響で2020年、2021年と開催自体が取りやめになりやすい構造が存在するわけです。

■「毎年恒例のイベント」はあっさり中止になりがち

3番目の特徴として講演のようなイベントはB2B市場が結構大きいという構造があります。企業が取引先を集める発表会を行いその集客プログラムとして有名な文化人の講演を依頼するような形態です。

こういった需要の中で集客しなければビジネスに大きな影響があるような場合のイベントは決行されますが、年次集会のように恒例で行われていたようなイベントは新型コロナの影響であっさりと中止になりがちです。

さらに今後問題となるのは、B2Bでこの機会にイベント開催そのものを見直そうという動きが出てくることです。これはある意味当然で、恒例の年中行事だったから予算もついていたし誰もあえて反対しなかったイベントについて、一度中止してみたら「ひょっとするとそろそろやめ時なんじゃないか?」というまっとうな意見が出てくるケースが増えるわけです。

こうしてGo Toの効果が少なくて変動費が多いイベントや、取りやめやすい法人行事の場合、旅行や飲食とは違い、主催者側の判断で供給が停止されるケースが続出したわけです。これが新型コロナのイベント業界への影響の大きな特徴です。この冬の第三波で緊急事態宣言が再び発令されたことで、2021年のイベント業界でも開催中止のイベントが相次ぐことになりそうです。

■コロナ収束後のイベント業界に残る大きな傷跡

ではそのことがこれからのイベント業界にどのような影響を与えるのでしょうか。たとえコロナが克服され収束したアフターコロナ時代がやって来たとしても、数年後のイベント業界には3つの大きなコロナの傷跡が残りそうです。

まず見過ごせないのがイベントの鍵となるスタッフや会社の廃業です。これは俳優や芸人といった演者たちの引退だけの問題ではありません。演出や構成作家、デザインや音響などひとつのイベントが成立するにはたくさんの専門スタッフの関わりが必要です。

毎年、何やかんやで仕事が定期的にはいってくるから成立していたこのようなスタッフの日常がコロナで大きく変わりました。その状態がおそらく2020年、21年と2年続くことになる。たとえ来年になって同じイベントを再起動させようということになったとしても、どこかの機能においてそこに存在していた熟練スタッフが戻ってこられないというケースがたくさん起きるはずです。

個人レベルだけでなく、この2年で廃業する小屋も出ますし、私が関わっている講演会の業界でも仲立ちをしていただけるエージェント会社が2年後にはなくなっているかもしれないというリスクも存在しています。

もちろんそこに新しい才能が入って違う形でイベント業界はまた盛り上がっていくでしょうけれども、イベント業界の変動費は「才能」と「経験」が変動費化されているものなのです。ですから一度、失ってしまったらもうそれは戻ってはこないケースがたくさんある。これが未来のイベント業界が直面する最初のリスクです。

快適な座席
写真=iStock.com/maksicfoto
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maksicfoto

■「盛り上がりかけていたイベント」がリセットされた

2つめに盛り上がりかけたものがスタート地点に戻るリスクです。スポーツイベントでいえばプロ野球、Jリーグ、プロゴルフ、プロテニスなどメジャースポーツの次に来るさまざまなスポーツイベントが過去十年でいろいろな形で盛り上がりを見せ始めていました。

具体的な名前は挙げませんが、それらの団体は2020年のオリンピックを機会にさらなるメジャー化を狙ってきたはずです。メジャースポーツでもプロ野球に対する独立リーグや、Jリーグの中でのJ3など地元に根づいて飛躍を遂げようとしているスポーツチームもあります。

こういった動きがいったん止まってしまう。残酷ではありますが、これまで一旦盛り上がりかけたところから集客という観点でいえばスタート地点に戻ってしまった団体がたくさん出てきました。そこからどのようなモチベーションとどのようなやり方で再起動すべきか、大変な努力が必要な状況だと思います。

■「被災した個人の集まり」として再起動しよう

一方で3番目のリスクとしてB2Bのところでもお話ししたとおり、年中行事が見直されて消えるイベントも増えるでしょう。これはフリーのパフォーマーにとって出演機会が大きく減ることを意味します。

これら3つのリスクないしは爪痕が意味することは、マイナーなイベントの市場が大きく縮小することとメジャーなイベントの質が下がること、そして劇場やスタジオなどのインフラが廃業してなくなってしまうことです。これらがイベント業界全体にとって非常に厳しい状況であることは間違いありません。

そしてここが一番重要な点だと思うのですが、新型コロナは天災であり、イベント業界はつきつめて考えると被災した個人の集まりだということです。それが起きてしまったことの本質である以上、私を含めてイベントに関わる人間がやるべきことは、それでも前を向いて再起動するということだと私は思います。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

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