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「努力のもとをとってはいけない」オリンピアン為末大が守る7つのルール

プレジデントオンライン / 2021年3月25日 11時15分

撮影=関健作

目標に向かって努力を続けるのは大事なことだ。一方、その努力はいつまで続ければいいのだろうか。オリンピアンの為末大さんは「『途中で投げ出すのは悪い』と考えていると、人生は生きづらいものになる」という。為末さんが考える、人生を楽しむための7つのルールとは——。

※本稿は、為末大『為末メソッド 自分をコントロールする100の技術』(日本図書センター)の一部を再編集したものです。

■1.人生を楽しむために、「一番」を目指す

「ナンバーワンではなく、オンリーワンを」と言う人がいる。自分らしく、他人と違う自分になろう――。そんな考え方なのだと思う。でも僕は、「オンリーワン」を目指すより、「ナンバーワン」を目指したほうが、人生は楽しいと思っている。

なにも「一番にならないといけない」と言っているわけではない。一番を目指して、実力を磨く。その過程を楽しんでほしい。それができる人は、たとえ勝負で負けてしまっても、悲壮感を抱えずに済むはずだ。

「一番になりたいよね」という言葉と「一番にならなきゃね」という言葉は、似ているようでいて、意味することが大きく違う。後者のように「勝たなければ意味がない」という思いで「一番」を目指していくことは、苦痛でしかないだろう。一番はあくまでも「目標」にすぎないのだ。そこに向かって本気で挑戦することは、間違いなく楽しい。僕はずっと、陸上競技で一番を目指してきた。だからそう、断言できる。

世の中にはもう、たくさんの才能があふれている。新しい「オンリーワン」になることは、いまある分野の中で「ナンバーワン」になるよりも、よっぽど難しい。覚悟を決めなければ挑めない、いばらの道だ。だから、「オンリーワン」へのこだわりがないのであれば、素直に「ナンバーワン」を目指してみよう。そんな人生のほうが、きっと楽しい。

■2.競争から逃げない。比べてみることで、自分の等身大を知る

僕は、人と競争してみることで、自分の「等身大」を知ることが大切だと思っている。なにも勝つことだけを目標にして、競争に参加するわけではない。競争してみることではじめて、自分自身の能力や得意不得意が見えてくるものだと思うのだ。

いざ競争してみたら、思ったよりもいい成績が出て「俺、けっこうやれるじゃん!」と自信を得ることがある。反対に、まったく歯が立たなかったとき「この分野では自分は勝てないから、違うところで勝負しよう」と、早めに判断することもできる。つまり競争は、自分自身のことを知るための有効な手段なのだ。競争から逃げていては、いつまでたっても自分の等身大を知ることはできない。

誰もが平等な能力をもって生まれてきているわけじゃない。競争は、そんなことも教えてくれる。そういうシビアな現実を、身をもって知っている人ほど、人にやさしくできるものではないだろうか。

いまでは小学校の運動会で、かけっこに順位をつけないなど、教育現場でも「極力競争させない」という風潮があると聞く。でもそれは、本当に子どもたちのためになっているのだろうか。ある研究では「幼少期に競争を経験した人ほど、世の中の不公平さを知り、弱い立場の人に配慮を示す割合が増える」ということがわかったという。これからの社会を生きる子どもたちにこそ、競争の経験が必要だと伝えたい。

■3.都合の悪い未来も受け入れる

「『負けるかも』なんて考えるな。勝つことだけを考えろ!」。そう教わるスポーツキッズが、日本にはとても多い。ガムシャラに勝利に向かって突き進み、「都合の悪い未来」は見ないよう、指導されている。

もっとも、子どものころであれば、こういう指導法も一定の合理性がある。不利な状況でも「俺たちはやれる!」と自分たちを奮い立たせられるチームは、勝負強いものだ。

でも、ガムシャラに突き進むことだけに慣れてしまうと、のちのちまずいことになる。明らかに勝てない状況に置かれても、その事実を「見ないように」して、打開策を考えなくなってしまうのだ。

「見ちゃうと本当にそうなるから、見ない!」。その発想はまるで、太平洋戦争の末期みたいなものだと思う。気づいたときにはすでに、取り返しがつかないことになっているかもしれない。そうなってしまう前に、「都合の悪い未来」を自分から受け入れよう。

「負けてしまいそう」と感じたときにこそ、その考えから目を背けない。悪い戦況であることを、まずは受け入れる。それだけで、その後の思考や行動は変わってくる。「本当に負けそうなのか」と冷静に分析することもできるし、「ここから巻き返すには、どうすればいいのか」と現実的な打開策を練ることもできる。「どうせ負けるなら、この試合で新しいことを試してみよう」と、発想を前向きに転換することだってできるはずだ。

撮影=関健作

■4.危機感が安心を生み、安心感が危機を生む

陸上競技用のピストルの「雷管」の箱には、印象的な言葉が刻まれている。「危険であると認識しているうちは安全である」。危機感をもつことが安心・安全につながるという、わかりやすい教訓の言葉だ。

反対に「安心感が危機を生む」という教訓もありえるだろう。「自分はいま、ベストの状態だ」という安心感は、同時に「このままでもいい」という慢心につながる。すると、気がつかないうちに伸び悩んでしまう。

「危機感をもつことが安心を生む」「安心感をもちすぎると危機を生む」。これらはどちらも、真理だと思う。大切なのは、危機感と安心感をバランスよくもつこと。「いまのままじゃダメだ」という危機感が強すぎると、ホッとする暇がなくなって、人生は窮屈になる。「いまのままでいい」という安心感が強すぎると、成長が止まって、人生は停滞してしまう。うまくバランスをとるには、いま、自分のどちらの感情が強いかを、常に意識しておくことが重要だろう。

どちらかの感情が強くなりすぎていると感じたら、書店にいってみよう。棚を見渡せば、同じ「自己啓発」がテーマでも「自分を変える方法」と「自分のままで生きていく方法」という、2パターンの本があることに気がつくはずだ。あなたが安心しきっているなら前者の本を、危機感にあおられているなら後者の本を、手に取ってみる。自分にぴったりあった、本の処方箋を見つけてみよう。

撮影=関健作

■5.成功よし、失敗なおよし

誰だって、成功したい。だから失敗してしまったときには、ひたすら落ち込んでしまう。でもだからといって、失敗は「いけないもの」ではない。

失敗は、自分の弱さを教えてくれたり、新しい考え方を与えてくれたりするものだ。一方で成功は、喜びが大きい分、その感覚に酔いしれてしまって、何かを学び取ることが難しい場合も多い。長い目で見てみると、成功よりも失敗のほうが、その人のその後の人生に、いい影響を与えてくれるのではないだろうか。

「人生100年時代」となったいま、一度の成功で頂点を極めて終わり、というほど人生は短くない。何度か人生のピークをつくっていかないと、100年ももちこたえられないかもしれない。

それならば僕は、ひとつのことでずっと成功しつづけるのではなく、いろんなことに少しずつ挑戦し、新たな成功の可能性を探っていきたい。挑戦するたびに、きっと失敗も重ねるだろう。でも、その経験こそが、僕たちを新しい成功へと導いてくれる。そして僕たちの人生に、深みを与えてくれる。そう信じているのだ。

だから「成功よし、失敗なおよし」。この言葉を忘れずに、失敗を恐れず、チャレンジを続けていこう。

■6.「努力の対価が成功」という勘違い

「成功するために、努力する」という考え方が、いつの間にか、「努力すれば、成功する」に変わってきてしまうことがある。でも、それは勘違いだ。努力したって、成功しないことは、いくらでもありえるのだから。

はじめは「成功」するために努力していたはずなのに、そのうち努力自体が目的になってしまう。すると、「努力=成功」という短絡的な思考に陥り、「努力すれば『必ず』成功する」と考えはじめる。そして、努力を続けても成功しなかったときに、必要以上にガッカリする。「いままでの努力は何だったんだ……」。それはとても残念だし、避けるべきことだと思う。

努力はあくまで「成長」を促すもの。そこを見誤ってはいけない。人は努力を続けることで「これくらいがんばれば、これくらい成長できる」「このまま努力しても、成長できない」という予測が立つようになる。すると次第に「成功」のための冷静な分析もできるようになる。つまり、努力でつかんだ成長が、少しずつ、成功への足掛かりになっていくのだ。

「努力すれば成功する」という考え方は、子どもたちには有効かもしれない。それは努力するクセをつけるためのモチベーションにもなるから。でも、大人はもう、その考え方から卒業したほうがいい。なぜその努力をするのか、自分で説明できるようになろう。

撮影=関健作

■7.「せっかくここまでやってきたんだから」に注意する

「せっかくここまでやってきたんだから、もうちょっとがんばってみようよ」。そんな言葉に、どうか縛られないでほしい。努力の「元」をとろうとすると、人は引き際がわからなくなってしまう。

為末大『為末メソッド 自分をコントロールする100の技術』(日本図書センター)
為末大『為末メソッド 自分をコントロールする100の技術』(日本図書センター)

僕たちは、「やめることは悪いこと」と教わってきたところがある。だから、途中でやめることに強い抵抗感をもってしまう。「ここでやめたら、他のどんなことも長続きしないよ」と忠告された経験がある人も多いだろう。それに、人は「これまでやってきたことが水の泡だ」というように、いままでの努力を「回収」しようとしがちだ。

でも、こう考えてみたことはあるだろうか。「それをやめないと、体験できないことがある」。あることを続けることは、別のあることをはじめるきっかけを逃していることでもあるのだ。僕は陸上競技を引退したことで、いまの仕事ができるようになった。そう考えることもできるだろう。何かをやめることで、別の何かをはじめられる。そう意識してみれば、「せっかくここまでやってきたんだから」の呪縛から、離れることができるはずだ。

もちろん、決めた目標に向かって努力を続けることは大事だと思う。それはそうとしても、いくらやっても目標に近づいていないと感じるなら、新たな選択肢に進むべく、行動をはじめよう。ちょっとずつでいい。「逃げてしまった」「根性がなかった」などと思い悩む必要はない。きっぱりとやめて、新しい人生を探しに行こう。

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為末 大(ためすえ・だい)
Athlete Society 代表理事
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で、日本人として初めてメダルを獲得。2000年から2008年にかけてシドニー、アテネ、北京のオリンピックに連続出場。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2020年5月現在)。2012年現役引退。アジアのアスリートを育成・支援する一般社団法人アスリートソサエティの代表理事を務める。新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長。ベストセラーとなった『諦める力』(プレジデント社)は、高校入試、課題図書などに多く選定され、教育者からも支持されている。最新刊は親子で読む言葉の絵本『生き抜くチカラ』(日本図書センター)。

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(Athlete Society 代表理事 為末 大)

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