「失敗は部下のせい」嘘つき上司から賢く距離を取るための"ある方法"
プレジデントオンライン / 2021年8月6日 9時15分
※本稿は、木村尚敬『修羅場のケーススタディ 令和を生き抜く中間管理職のための30問』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。
このままでは自分の社内評価やキャリアにも大きな影響が出てくる。しかし、自分から否定して回るのも恰好がつかないし、何より部長と対立することになる。
Q:「サラリーマンの宿命」とこの状況を甘受するか? それとも全面否定に回るか?
■どの組織にもこんな上司がいる
「手柄は自分のもの、失敗は部下のもの」──こんな上司はどの組織にもいるものです。
私自身、このケースとまったく同じ状況に追い込まれた経験があります。
以前在籍していたコンサルティング会社でアサインされた、とあるプロジェクトでのことです。責任者であるプロジェクトマネジャー(プロマネ)と私を含むメンバー二人でチームを組み、メンバーは顧客企業に常駐しながらプロジェクトを進め、プロマネは普段は現場に顔を出さず、本社にいてマネジメントするという形式でした。
ところが、このプロマネが問題アリの人物で、スケジュールも予算も情報も何一つまともに管理できず、結局プロジェクトは大炎上。クライアントから会社へクレームが入りまくるという非常事態に陥りました。
■クライアントが窮地を救ってくれた
その時、責任者であるプロマネはどうしたか。なんと、部下である私を売ったのです。
「木村が使えない人間だからこんなことになった」と経営陣や社内に言いふらし、すべての責任を私に押しつけようとしました。
私はほとんど客先に常駐していたので、社内の人たちは私がどのような動き方をしていたかを知らないし、自分をかばってくれるほど仲の良い同僚もいません。抗弁しようがなく、私は窮地に立たされました。
その状況から救ってくれたのは、顧客企業の役員でした。
「木村だけは絶対にプロジェクトから外すな。彼が一番まともな仕事をするから」と私の会社にきっぱりと言ってくれたのです。さらに「ダメなのはプロマネだから、あいつこそ今すぐ外してくれ」と伝えて、その責任者は降ろされることになりました。
■成果を出していれば足跡は必ず残る
この経験から言えるのは、自分が仕事で成果を出していれば、その足跡は必ずどこかに残るし、実績を評価してくれる人もいるということです。たとえ上司が部下に責任を押しつけようとしても、その実績が白日の下に晒されれば、社内の人たちに上司が嘘を言っていることを証明できます。
ただし、その際に「部長が言っていることは間違っている」などと自分で否定して回るのは得策ではありません。自力で正面突破しようとすれば、上司との間に余計な軋轢を生むだけなので、やり方には知恵を絞る必要があります。
おすすめは、私の場合のように、自分を理解してくれる人や味方になってくれる人から、証拠となる実績を会社側に示してもらうことです。社内に味方がいなくても、自分が顧客にしっかりと貢献していれば、クライアント側に誰か理解者がいるはずです。このケースのような海外進出プロジェクトなら、現地のカウンターパートから言ってもらうのもいいでしょう。
誰が協力者になってくれるかを見極め、周囲の力を賢く利用して、自分の身を守る。これもダークサイド・スキルの一つです。
■そんな上司を守る会社に用はない
とはいえ、例えばこの部長が社長のお気に入りで、社内で絶大な権力を持っている場合などは、たとえクライアントからクレームが入っても、会社は部長を守ろうとする可能性もあります。
その結果、あなたはダメ社員のレッテルを貼られて、会社に居づらくなってしまった。では、どうするか?
仮にそんな結末を迎えたのであれば、今の会社にしがみつく必要はないでしょう。さっさと転職すればいいのです。
大損失を計上したということは、この海外進出プロジェクトはそれなりの規模で、会社としても一大事業の決意でチャレンジしたのでしょう。そこに中心メンバーとして参画したのですから、結果は失敗だったとしても、貴重な学びを得て大きく成長できたはずです。
■スキルがあれば「いざとなったら出ていく」と思える
転職活動の際にこの経験をレジュメに書けば、実績としてアピールできます。「コロナ禍による環境変化で損失は出しましたが、海外における顧客開拓や組織マネジメントについてこれだけの実績を出せたので、この経験をより活かせる職場を探しております」などと説明すれば、自分を必要としてくれる会社がどこかしら見つかります。
対上司の人間関係に悩むのは、自分が今の会社やポストにしがみついている証拠でもあります。だから「上司ににらまれたら、自分は組織から切られるかもしれない」とびくびくするのです。
でも自分の足で立てるだけのスキルと心構えがあれば、上司に責任を押しつけられても、「いざとなったら、こんな会社は出ていけばいい」と割り切れるので、余計なストレスを抱えずに済みます。
会社に従属せず、どこでも生きていけるだけの実力を備えること。それがビジネスパーソンにとって、自分を守る最大の武器になります。
■リーダーは「怒ったら負け」
今回のケースのような状況に陥ると、誰もが「ふざけるな!」とつい怒りを爆発させたくなるでしょう。でも、怒りをぶつけても、スッキリするのは自分だけ。しかも一時的なものにすぎません。相手は感情を爆発させたあなたの揚げ足を取って、さらに悪い評判を広めようとすることでしょう。
自分がリーダーの立場になった時も同じです。言うことを聞かない部下に対してつい怒りをぶつけたくなるかもしれませんが、相手は傷ついて落ち込むか、そうでなければ自分に対する恨みや憎悪を増幅させるかで、何もいいことはありません。怒りで押さえつける恐怖政治が長続きしないことは、歴史が証明しています。
こうした「怒り」をコントロールする手法のことを、「アンガー・マネジメント」と言います。欧米ではリーダーに必須のスキルとされています。
感情のコントロール法として実践しやすいのは、「時間を置くこと」です。怒りを覚えたとしても、すぐ態度や言葉で表現しようとせず、一定の間を空けるのです。
誰かと議論していてムッとしたら、すぐに言い返すのではなく、いったん休憩を挟んだり退室するなどして、ひと呼吸置くようにする。頭に来るメールが届いたら、即座に返信せず、あえてしばらく寝かせておく。こうして時間を置くことで、次第に冷静になれます。
特に夜は感情がセーブしにくくなるので、要注意です。これは私自身も失敗したことがありますが、夜中にアルコールが入った状態で、怒りに任せて書いたメールほど後悔するものはありません。翌朝に読み返して、「しまった!」と青ざめたことが過去に何度かありました。
■怒りを“演技”できれば切り札として使える
アンガー・マネジメントが身につくと、怒りを抑えるだけでなく、うまく利用することもできるようになります。
私は会議や交渉の場で、意図的に怒っているフリをすることがあります。経営改革を妨害しようとする反対派と対峙するような修羅場では、相手に対して強い態度で臨むのも一つの戦略です。つまり、怒りを自分の切り札として使うわけです。
ただし、これはあくまでも演技であり、本当に感情的になってしまったら議論や交渉はうまくいきません。いざという時に修羅場を切り抜けるためにも、日頃から怒りのコントロール術を習得しておきたいものです。
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経営共創基盤(IGPI) 共同経営者マネージングディレクター
慶應義塾大学経済学部卒業。IGPI上海董事。IGPI では、製造業を中心に全社経営改革(事業再編・中長期戦略・ 管理体制整備・財務戦略等)や事業強化(成長戦略・新規事業開発・ M&A 等)など、さまざまなステージにおける戦略策定と実行支援を推進。著書に『ダークサイド・スキル』(日本経済新聞出版社)など。
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(経営共創基盤(IGPI) 共同経営者マネージングディレクター 木村 尚敬)
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