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「ワイン離れが止まらない」フランス人がワインの代わりに飲み始めたもの【2021上半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2021年10月1日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Esperanza33

2021年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。食生活部門の第5位は――。(初公開日:2021年6月8日)
フランスは「ワイン大国」というイメージがある。ところが、近年フランス人のワインの消費量は激減している。科学者のバーツラフ・シュミル氏は「フランスで1人当たりのワインの消費量はこの100年ほどで3分の1以下になった」という——。

※本稿は、バーツラフ・シュミル著、栗木さつき・熊谷千寿訳『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)の一部を再編集したものです。

■フランス人とワインの微妙な関係

フランスとワイン——じつに絵になる関係だし、数世紀にわたり切っても切れない間柄が続いている。

ワインは、古代ローマ人がほぼ現在のフランスに相当するガリアを征服するはるか前に、古代ギリシャ人によってもたらされ、中世に広く普及し、やがて国内外を問わず優れた品質(ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュ)の象徴となり、ワイン醸造用のブドウ栽培、ワインを飲む習慣、そしてワインの輸出といったものがフランスという国の個性を示す大きな特徴となってきた。

フランスはいつだってワインを大量に生産してきたし、盛大に飲んできた。ワイン産地の農場経営者や村人たちは地元産の当たり年のワインを楽しみ、町や都会の人たちは味も価格も多様なワインのなかから好みのものを選んできたのだ。

フランスで1人当たりの年間ワイン消費量の統計をとるようになったのは、1850年のことだ。当時の消費量は多く、年間平均約121リットルで、ミディアムサイズのグラス(175ミリリットル)で1日に2杯近い量だった。ところが1890年を迎えるころには、1863年に始まった害虫ブドウネアブラムシの被害が拡大し、フランス全土のブドウ収穫量がピークの1875年より70%も減ったため、フランスのブドウ園はこの害虫に耐性のある、おもにアメリカ原産の台木に接(つ)ぎ木をして、ブドウ畑を立て直さなければならなかった。

その結果、ワインの年間消費量に変動が起こりはしたものの、1887年には輸入量が国内生産量の半分近くに増えたおかげで、全体の供給量は急落せずにすんだ。

フランスの1人当たりワイン消費量
出典=『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』

■男女間と世代間でワイン消費量に隔たり

やがてブドウ畑が害虫被害から回復すると、1909年には第一次世界大戦前の1人当たり消費量のピークを迎え、年間125リットルを記録した。1924年にもこれと同じ記録を達成し、その後2年も記録更新を続け、1926年には史上最高となる1人当たり年間136リットルという記録を残したが、1950年、その量はわずかに減って約124リットルとなった。

第二次世界大戦後、フランスの生活水準は驚くほど低いままだった。1954年の国勢調査によると、屋内トイレがある家は25%にすぎず、浴槽、シャワー、セントラルヒーティングをそれぞれ備えている家は10%にすぎなかった。

ところが1960年代にそうした状況は急速に変化を遂げ、収入が増えるにつれ、食生活も大きく変わっていった。ワインの消費量が減少しはじめたのは、この時期である。1980年を迎えると、1人当たりのワイン消費量は年間約95リットルにまで減り、1990年には71リットルに、そして2000年にはたったの58リットルにまで減った。つまり20世紀のあいだに、ワインの消費量は半減したことになる。

今世紀に入っても減少傾向は続き、最新のデータでは年間約40リットルで、1926年の記録を70%も下回っている。2015年のワイン消費調査では、減少の要因として男女間と世代間でワイン消費量に隔たりが広がっているという傾向が挙げられている。

■消費量が伸びているのはノンアル類

40年前、フランスの成人の約半数以上がほぼ毎日ワインを飲んでいたのに、いまや日常的にワインを飲む成人の割合はわずか16%だ。その割合を細かく見ていこう。まず性別では、男性が23%、女性が11%。年代別では、15~24歳ではわずか1%、25~34歳で5%に対して、66歳以上は38%だ。

ワインで乾杯するシニア女性たち
写真=iStock.com/wundervisuals
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wundervisuals

この男女間と世代間の隔たりを見ても、今後、ワイン消費量が増える見込みがないのはあきらかで、しかも、この傾向はあらゆるアルコール飲料に当てはまる。ビール、蒸留酒、シードルも消費量が徐々に減っているのだ。

これに対して、1人当たりの消費量がいちばん伸びている飲み物は、ミネラルウォーターと湧き水を使用したスプリングウォーター(1990年からほぼ倍増)、フルーツジュース、炭酸飲料で、いずれもアルコールを含まない。

こうして、ワインは毎日飲むものではなく、たまに楽しむものになった結果、フランスは昔から維持してきたワイン消費大国の首位の座をスロベニアとクロアチアに明け渡した(両国とも1人当たり年45リットル近くを消費する)。

たしかに往年のワイン消費大国のなかで、消費の絶対量も消費量の相対的な順位もフランスほど下落した例はないが、イタリアもそのすぐ後ろに続いているし、スペインとギリシャでもワイン消費量の減少が続いている。

■ワイングラスで乾杯する習慣は絶滅の危機

バーツラフ・シュミル著、栗木さつき・熊谷千寿訳『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)
バーツラフ・シュミル著、栗木さつき・熊谷千寿訳『Numbers Don’t Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!』(NHK出版)

それでも、フランスには1つだけ、いい傾向が見られる。ワイン輸出があいかわらず好調で、2018年には輸出額の新記録(約110億ドル)を打ち立てたのだ。フランス産のワインには他国産のワインより高い価格がつけられていて、その証拠に、世界のワインおよび蒸留酒の取引量においてフランス産ワインが占める割合は15%であるのに対して、総取引額では30%を占めている。

この20年で1人当たりのワイン年間平均消費量が50%以上伸びたアメリカがフランス産ワインをいちばん多く輸入しているのに加えて、新興の中国市場の需要も増え、総取引額に占める割合が高まっている。

フランスは、これまで世界に数えきれないほどのヴァンオルディネール(テーブルワイン)だけではなく、最高級のグランクリュクラッセも提供してきた。ところがいまフランスでは、脚のついたグラスをあわせて乾杯し、健康(サンテ)を祈る習慣が絶滅の危機に瀕しているのだ。

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バーツラフ・シュミル(ばーつらふ・しゅみる)
マニトバ大学(カナダ)特別栄誉教授
エネルギー、環境変化、人口変動、食料生産、栄養、技術革新、リスクアセスメント、公共政策の分野で学際的研究に従事。カナダ王立協会(科学・芸術アカデミー)フェロー。2000年、米国科学振興協会より「科学技術の一般への普及」貢献賞を受賞。2010年、『フォーリン・ポリシー』誌により「世界の思想家トップ100」の1人に選出。2013年、カナダ勲章を受勲。2015年、そのエネルギー研究に対してOPEC研究賞が授与される。日本政府主導で技術イノベーションによる気候変動対策を協議する「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)」運営委員会メンバー。

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(マニトバ大学(カナダ)特別栄誉教授 バーツラフ・シュミル)

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