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前夜は血圧180超…"決死"の白内障手術「麻酔した目の中に見えたピンクと緑のオーロラ」

プレジデントオンライン / 2021年10月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Zarina Lukash

超のつく近眼に乱視、飛蚊症、角膜混濁……そして5年前に診察された白内障。そのまま放置していた作家の鳥居りんこさん(59)だが今夏、意を決して「視力検査表のCマークはすべてシャネルのマークに見える状態を脱しよう」と手術を受けた。「術中に瞳にメスが入ってくるのが見えるのでは、と恐れていましたが、きれいなオーロラが見えました」という。コロナ禍の4泊5日白内障手術体験記をお届けしよう――。

■ほとんどの人が患う「白内障」の最新事情を体を張って体験

白内障は、目の水晶体が劣化して濁り、視力が低下する疾患です。

年間約95万人が治療を受ける「よくある目の病気」ですが(厚生労働省「平成29年患者調査」)、当人にとっては人生の一大事です。

今から5年前。私、54歳の秋を迎えた頃のこと。診察を終えた某眼科の医師は言いました。「白内障ですね」

「え、この見えにくさは角膜混濁のせいではないんですか?」
「それもありますけど、見えにくさの主原因は白内障です」

ド近眼の上に乱視、かつ飛蚊症持ち。コンタクトレンズ常用者の私の眼科歴は長く、おまけに40代半ばからははやり目の後遺症による角膜混濁というものにも罹患し、たびたび眼科のお世話になっていました。「いや、ちょっと待って。白内障ってお年寄りの病気なのでは」とひどく動揺したことを覚えています。

<プチ解説>白内障は早い人では40代から発症し、70代ではほぼ90%、80代になるとさらに確率が高まるといわれる。主原因は「加齢」で、今のところ予防法もない。手術では濁った水晶体を取り除く。

まあ、なってしまったものは仕方ないので、当初は初期の老人性白内障の進行抑制に効果があるとされるカリーユニ点眼液なるもので投薬・治療してもらっていましたが、症状は悪化の一途。なにせ、視力検査表のCマークはすべてシャネルのマークに見える。数字は8なのか3なのかが分からない。夜空に浮かぶ月にいたっては6個に増殖するありさまで「もう、いいや、何となく見えてれば!」と投げやりになっていたのです。

とはいえ、いくつかの眼科で診てもらうと、「ご自分が不自由に我慢できない、と思った時が白内障手術のタイミングです」と、どの先生もおっしゃることは同じ。

■局所麻酔でやる「目の手術!」というだけで恐怖のどん底

そんなこんなで5年間、先延ばしにしてきましたが、どうにも不自由になってきました。原稿にいくら目を近付けても文字が判読しにくくなってきたのです。でも、局所麻酔でやる「目の手術!」というだけで恐怖のどん底。こんな状態で目を酷使するせいか、持病の片頭痛も激しくなる一方です。

そこで知り合いの眼科医 である眼科篠原医院(東京・下井草)の篠原光太郎医師に今年の5月、「手術すべきか否か」を相談しました。結果から言えば、決死の覚悟で手術に挑み、3カ月たった今、わたしの目は……快調そのものです。

今秋、久しぶりに篠原医師に話を聞きました。

【鳥居】先生、その節は「手術が怖い! 手術に失敗して見えなくなったら、どうしよう?」と悩み相談をしてしまって、すみませんでした。

【篠原医師(以下、医師)】いや、誰でも怖いですよ、目の手術は。それが普通の感覚です。でも、白内障手術は基本的には安全な手術なので、日常生活に不自由を感じているのであれば、やったほうがよいと思います。QOL(クオリティ・オブ・ライフ)が劇的に変わりましたでしょ? 鳥居さんは、相当、不自由されていましたからね。このタイミングでよかったのではないでしょうか?

目の手術
写真=iStock.com/LuisPortugal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LuisPortugal

【鳥居】コロナ禍での手術ということもあり迷いましたが、結局、不自由から解放されたいという思いが勝ったのは先生に勇気を頂いたことが大きかったです。「目の手術に恐怖を感じるのは当然ですが、悪い未来を考えるのではなく、手術をしたら、よく見えるようになって、日々の暮らしがもっと楽しくなるって考えましょうよ」って。それが、すごく心に響きました。

【医師】鳥居さんの場合、白内障に加え、角膜混濁と飛蚊症もお持ちとお聞きしました。その不快感が10であったとして、白内障手術で5が解消されたとしたら、不快感は半分になるわけです。そうであれば、踏み切られるほうがいいですよね。

ところで、術後3カ月経って、どうですか?

【鳥居】おかげさまで信じられないくらいよく見えます。飛蚊症や乱視までは完璧とは言わないですが、これは先生方にも「20代の目になるわけではない! あくまで実年齢なりの健康な見え方になるだけ!」と念押しされていたので想定内(笑)。今もドライアイのせいか、分厚いハードコンタクトを付けている錯覚に陥ることもあるのですが、遠くも近くもメガネなしで見えるなんて……。医学ってすごいなと。

【医師】それはよかったです。ドライアイはヒアルロン酸の点眼薬で症状を軽快することができるので、気になる時に点眼してください。鳥居さんは日帰りではなく入院を選ばれましたが、コロナ禍の中の入院手術はどうでした?

■手術前夜は緊張のあまり、血圧が180を突破

【鳥居】私は日帰り手術だと、翌朝、病院にひとりで出向くことに自信がないという理由で、4泊5日で入院して両目を手術することを決断し、PCR検査をして臨んだのですが、結果的に正解でした。

とにかく恐怖でしかないので、手術前夜は血圧が180を突破して看護師さんにごめんどうをおかけしてしまい……。でも、夜間もドクターと連絡が取れる体制だったので本当に安心でした。普段は血圧が110から上がったことがないという同室の女性も160台になって驚いていたので、やはり、安全性が高いとはいえ目の手術は皆さん、動揺するんですね。励まし合う同病の仲間がいてくれて、本当によかったです。

【医師】手術はいかがでしたか?

【鳥居】手術ひと月前に尿検査と血液検査、さらに心電図検査。それを受けて手術に適合する状態かを執刀医に診断された上での手術でした。前日から点眼を開始し、当日朝から点滴用の針を入れたり、時間差で複数の点眼薬を入れたりするんですが、すべて看護師さんがやってくださるので女王様気分が味わえました(笑)。

時間になったら手術着に着替えて、医療ドラマで見るようなオペ室に入ります。その後はドクターが「瞼を固定しますね」「麻酔を目に入れますね」など、今から何を行うのかを丁寧に説明してくださるので、それを聞きながら「この光っている点を見ていて」「右を見て」などの指示に従っていましたね。

不安は不安なんですが「自由に話せますから、何かあったら、すぐに言って下さいね」というドクターの言葉も、ずっと手を握ってくださっていた看護師さんにも救われましたね。

手術時間は10分もなかったと思います。意外とアッと言う間で、術中も術後も全く痛みは感じませんでした。翌朝には眼帯を外し、翌々日には、同じように、もう片方の目を手術しました。

■手術中はピンクや緑のオーロラが広がる美しい景色が見えた

【医師】術中の視界はどうでした?

【鳥居】一番、恐れていたことは、ひょっとしてメスみたいなものが見えるんじゃないか?

ということだったんですが、実際は水の中にいるようでピンクや緑のオーロラが広がっている美しい景色が見えていました。同室の患者さんたちは「万華鏡」「シャボン玉」というような表現をしていたので、いずれにしろ手術で見える世界は幻想的ということかと。

アラスカ・フェアバンクスのオーロラ
写真=iStock.com/NotYourAverageBear
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NotYourAverageBear

手術前は恐怖におののいていましたが、いざ本番となると医療関係者の方が心身のケアをしてくれて、最終的にこんなに見えるようになって、ありがたい限りです。あんなにビビっていた私が言うのもなんですが、今や少しでも白内障に苦しんでいる人には早めの手術をお勧めしたい気持ちです。

■白内障手術のキモは、どのような人工の水晶を入れるか

【医師】白内障手術をすると、鳥居さんのように劇的にQOLが上がるので、喜ばれる患者さんは本当に多いんです。だた、眼内レンズ(人工の水晶体)は、一度挿入したら30年間以上は劣化しないとされていますので、基本的には一生に一度の手術になります。

再度の手術を防ぐ意味でも、眼内レンズ選びは生活の中で一番多く見ている距離、一番見たいと望む距離を重視したほうがいいですね。眼内レンズの選択と、どこにピントを合わせるかの度数設定が術後の見え方、ひいてはその後の暮らしぶりを大きく左右することになるので、ここはドクターとよく相談しながら、納得がいく方法を決めてくださいね。

<プチ解説>(監修=篠原医師)
●単焦点レンズ/白内障手術で以前から多く使われるのは「単焦点レンズ」。「遠く(5m以上)」「中くらい(2m程度)」または「近く(30~40㎝)」のどれかにピントを合わせる。遠くに合わせると、近くを見る時には老眼鏡が必要になり、近くに合わせると遠くを見る時にはメガネが必要になることが多い。

●多焦点レンズ/約20年前に登場した「多焦点レンズ」は遠くも手元も見やすく、老眼鏡の必要性が大幅に減る。種類は「回析型眼内レンズ」「屈折型眼内レンズ」「焦点深度拡張型眼内レンズ」などがある。このレンズは複数の焦点をあらかじめ設定するが、どの距離にも自在にピントを合わせられるわけではない。脳がこのレンズの見え方に慣れるまでの期間は個人差もある。患者ニーズに合えばとてもいいものだが、見え方に慣れない場合は、最終手段として眼内レンズの摘出、交換となることも。強い乱視がある人は見え方が悪くなりやすく、追加のレーザー手術で乱視を矯正する必要が出る場合もある。

多焦点眼内レンズは各社いろいろな製品があり日々進化し、それぞれに長所短所が。多焦点レンズの手術を選択する際は、日常生活でどのようなものを見ることが多いかなど、執刀医とよく相談してから決断したほうがよい。

なお、単焦点・多焦点も医療機関によって扱うレンズが異なる。

【鳥居】あと、白内障手術をしようとした時に、一番迷うのは、どこの医療機関にするのがいいんだろう? ということだと思うのですが、お医者さん選びの方法はありますか? 

【医師】手術設備を持っていない私のような開業医も多いですが、必ず、信頼できるドクターを紹介しているはずなので、基本的にはかかりつけの先生の紹介先をまずは検討されたらいいと思います。その上で、ご自分が手術に何を望むかを確認して、どのような眼内レンズを扱っている医療機関か、日帰り手術か入院手術か、医師との相性などを総合的に判断して決断されてはいかがかと思いますね。

眼科の手術を受ける患者
写真=iStock.com/FG Trade
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FG Trade

【鳥居】先生は私に「単焦点レンズの『近く』」を勧めてくれましたね。お金がないことを気づかってくださり(笑)。実際、多焦点レンズは費用がかかりますものね。

【医師】鳥居さんの場合、仕事上、(PCモニターなど)近くを見ている生活。なので、そこに焦点を合わせるのがベストだと判断しました。

単焦点レンズの手術費用は公的医療保険適応ですから、手術費用は日帰り手術で片眼1万5000~6万円くらい。幅があるのは医療保険の負担割合の差ですね。もちろん、「高額療養費制度」も使えます。

【鳥居】私の場合、両眼入院手術4泊5日で支払総額は8万円弱でした。幸い、生命保険給付対象で全額カバー。多焦点レンズの手術も昨年より、制度が変わったと聞きました。

【医師】そうです。2020年4月より「先進医療」から保険外併用療養費制度内の「選定療養」という枠組みで行えるようになったんです。

「選定療養」とは、追加費用を負担することで、保険適応の治療と保険適応外の治療を併せて受けることができる制度です。医療保険の給付対象の通常の白内障手術を越える多焦点レンズの料金や追加の検査料が患者さんの追加負担となります。病院の差額ベッド代と考えると分かりやすいかもしれません。今現在はこの選定療養か自由診療かを選べるということになっています。いろいろな選択肢があるということは患者さんにとっては良いことです。

【鳥居】ありがとうございました。

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鳥居 りんこ(とりい・りんこ)
作家
執筆、講演活動を軸に悩める女性たちを応援している。「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)の著者。近著に『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(ダイヤモンド社)、近刊に『神社で出逢う私だけの守り神』(企画・構成 祥伝社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(取材・文 いずれも双葉社)など。

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篠原 光太郎(しのはら・こうたろう)
眼科篠原医院 院長
1990年順天堂大学医学部卒業。同大学眼科医局入局。1994年順天堂大学浦安病院で主に網膜硝子体手術を行い、日本眼科学会眼科専門医を取得。2002年医学博士学位を取得。その後実家の眼科医院を継承し現在に至る。

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(作家 鳥居 りんこ、眼科篠原医院 院長 篠原 光太郎)

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