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「急いで金持ちになろうとしてはいけない」伝説の投資家バフェットが繰り返しそう説くワケ

プレジデントオンライン / 2022年2月8日 19時15分

ケーブルテレビ局HBOが制作した、自身のドキュメンタリー映画のプレミア上映会に参加したバフェット(2017年1月19日) - 写真=Charles Sykes/Invision/AP/アフロ

投資で成功するには、どうすればいいのか。10兆円の資産を築いた投資家ウォーレン・バフェット氏は「短期間に急いで金持ちになろうとしてはいけない。それよりも金持ちであり続けることのほうが重要だ」という。そんなバフェット氏の卓越した投資哲学とは――。

※本稿は、桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■急いで金持ちになろうとするなかれ

投資を行う以上、リスクと無縁ではいられません。しかし、そんな世界で既に80年近くも投資を行いながら、バフェットは毎年、着実に成果を上げています。

バフェットの投資原則は「損をしない」ことであり、「この原則を決して忘れない」ことです。そのうえで、短期間で急いで金持ちになろうとするのではなく、「ゲット・リッチ、ステイ・リッチ(豊かになり、その後も長期間豊かであり続けること)」(『ウォーレン・バフェット 華麗なる流儀』)を信条としています。

ソロモン・ブラザーズ時代、その後問題を引き起こすチーム「アーブ・ボーイズ(裁定取引組)」をつくり、やがて暫定会長となったバフェットによって引導を渡されたジョン・メリウェザーが1994年、ヘッジファンドLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)を立ち上げました。資本の25倍のレバレッジを使って取引を重ねることで利益を生み、損失は最大でも資産の20%というのがメリウェザーの計画でした。

説明を受けたバフェットとチャーリー・マンガーは「頭のいい連中だ」と感じましたが、複雑すぎることと、レバレッジに疑いを抱き、参加を躊躇(ちゅうちょ)しました。しかし、ソロモンで素晴らしい実績を上げていたメリウェザーを信頼して12億5000万ドルもの資産が集まり、史上最大のヘッジファンドが誕生しました。

3年で投資家の金は4倍に増え、すべては順調に見えましたが、98年にロシアが対外債務の支払い停止を宣言したことで世界中の金融市場がガタガタになり、LTCMもほんの数日で資本の半分を失ってしまいました。

■「最後にゼロをかければゼロ」

慌てたLTCMのエリック・ローゼンフェルドがバフェットに助けを求めましたが、既に手遅れでした。バフェットはIQ160を超える十数人がいて、みんなの経験年数を足せば250年にもなる彼らが巨額のレバレッジを使っていたことに驚きました。バフェットはこういいました。

「本当に頭のいい人たちが、これまでに何人も痛い目に遭いながら学んできたことがあります。それは、目を見張るような数字がずらりと並んでいても、最後にゼロをかければゼロになってしまうということです」(『バフェットの投資原則』)

株式掲示板に表示されている文字列
写真=iStock.com/D-Keine
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/D-Keine

投資の世界には、絶頂期と破産を繰り返したジェシー・リバモアのように「最後にゼロをかければゼロになる」を地で行く運命をたどった人もたくさんいますが、バフェットがそうならなかったのはリスクとの上手な付き合い方を熟知し、リスクを最小にしながら成果を上げ続けてきたからなのです。

■リスクと上手に付き合うための「安全域」という考え

バフェットは「バリュー投資の父」と呼ばれる恩師、ベンジャミン・グレアムの書いた本を何度も読み、ほとんど暗記をしていたほどの熱心な読者でした。しかし、実際の投資においてはグレアムのやり方すべてをそのまま無批判に実行したわけではなく、自分の頭で考えて守るべきものとそうでないものを取捨選択しているのも、注目すべき点です。

例えば、リスクを軽減するためとはいえ、行き過ぎた分散投資については非常に早い時期から意味のないものとして無視しています。一方、(1)株券ではなく事業を買う、(2)価格と価値の差を見極める、(3)安全域を持つ――といった考え方は忠実に実行しています。

リスクと上手に付き合ううえで欠かせないのが「安全域」の考え方です。安全域というのは、「現在の株価と企業の本質的価値との差額の領域」のことです。

安全域の考案者はグレアムです。グレアムは、短期的な株価は一種の人気投票のようなものであり、必ずしも正確な価値を反映するとはいえず、ゆえに短期的な株価は読むことはできないものの、長期的には株価は本来の価値と等しくなっていくという考えの下、割安株に資金を投入するバリュー投資という方法を実践していました。これが「安全域」の考え方です。

■企業価値を算出できる分野に投資

バフェットはこの「安全域」を常に意識しながら投資をしています。株価というのは、先ほども述べたように常に適正な価格になっているとは限りません。企業が持つ価値以上に過大評価されることもあれば、企業価値は高いにもかかわらず、さまざまな要因から驚くほど株価が低迷することもあります。

年間収益のグラフの接写
写真=iStock.com/megaflopp
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/megaflopp

結果、その企業の株価が低迷し、企業価値と株価が大きく乖離(かいり)したときがバフェットにとっては投資の最大のチャンスであり、その段階で投資を行えば投資の持つリスクを低く抑えることができるのです。

バフェットは安全域の良い例として先述したようにワシントン・ポストを挙げています。1973年当時、ワシントン・ポストの価格(時価総額)は8000万ドル、それに対して価値(純資産)は4億ドルを超えていました。バフェットはこう考えました。「価格とは、何かを買うときに支払うもの。価値とは、何かを買うときに手に入れるもの」(『バフェットの投資原則』)

企業価値を算出するための方法は、①コストアプローチ(企業が持つ資産に基づいた算出方法)、②インカムアプローチ(キャッシュフローに基づいた算出方法)——といった手法がありますが、いずれにしても自分が投資しようとする企業について、その企業価値をおおざっぱにでもつかむことが安全域を知るためのポイントとなります。

バフェットが「能力の輪」を重視するのは、こうした企業価値について自分がきちんと算出できる分野であることが大切と考えているからです。

■1060万ドルの投資が1億4000万ドルに

このとき、バフェットはワシントン・ポストのすべてを買いこそしなかったものの、8000万ドルを支払えば、4億ドルもの価値を手に入れられるわけですから、これほどリスクのない買い物はありませんでした。

結果、このときにバフェットが支払った1060万ドルがどうなったでしょうか。

10年余りたった1984年、その価値は1億4000万ドル(『バフェットの投資原則』)に達したとして、バフェットはワシントン・ポストの社主キャサリン・グレアムにお礼の手紙を出しています。

参考までに、同様の投資を他の新聞社に行ったと仮定すると、ダウ・ジョーンズなら5000万ドル、ニューヨーク・タイムズなら6000万ドル、タイムズ・ミラーなら4000万ドルになったといいますから、支払う価格は同じでも、その企業が持つ価値によって10年余りでこれほどの差が生じることになるのです。

■企業の「価格」より「価値」に注目せよ

バフェットはこう述べています。「価値が8300万ドルの事業を8000万ドルで買おうとしてはいけません。大きな余裕をみることが肝要なのです。3万ポンドの負荷に耐えると業者が主張する橋が建造されたとしても、その橋を走行するであろうトラックはせいぜい1万ポンドです。これと同じ原則が投資にも当てはまるのです」(ベンジャミン・グレアムの著書『賢明なる投資家』に補遺として収録された、「グレアム・ドッド村のスーパー投資家たち」より)

投資の世界で多くの人が気にするのは株価、つまり「価格」の変動です。一方で、個々の企業の持つ「価値」について正確につかもうとする人はあまりいません。

「バリュー投資はいまだかつて流行を見せたことがない」(上記補遺より)はバフェットの説ですが、バフェット自身は「価格」ではなく「価値」に注目することで莫大な富を手にすることができたのです。

■バフェットにもあった失敗体験

投資におけるリスクを抑えるためには「価格と価値の差」を冷静に見極めることが重要であり、「十分な安全域」を確保しなさいというのがバフェットの考え方です。では、企業の価値よりも価格が低ければそれでいいのかというと、もちろんそうではありません。

バフェットは「世界一の投資家」という評価を得ていますが、先述したように常に成功し続けたわけではありません。中でもバークシャー・ハザウェイの経営権の取得は、バフェットの失敗の歴史の中でも上位に来る失敗といえます。

1960年代初めのバフェットは、まだグレアムの「シケモク買い」「バーゲン株買い」主義に強くとらわれており、そこで出会った繊維会社バークシャー・ハザウェイを見て、利益が出ない倒産しそうな会社ではあるものの、企業価値よりも株価がはるかに安いため、「安いし、心底欲しい」と思ったといいます。

■安くても「湿ったシケモク」は買うな

1965年、バフェットは「ひと吸い分だけ残っているかもしれない」と信じて同社の経営権を取得したものの、実際には同社には「一服できる分は残っていなかった」のです。バフェットは何とか立て直そうと努力を続けますが、1985年についに繊維部門を閉鎖、400人の工員を解雇、機械設備一式を16万ドル余りで売却することになりました。

バフェットはこう振り返りました。「バークシャー・ハザウェイの名前を耳にしなかったら、いまごろ私はもっと裕福だっただろうね」(『スノーボール(上)』)

それ以前、バフェットはバークシャー・ハザウェイの買収について「値段は投資において決断を左右する重要な要素です。バークシャー・ハザウェイは適切な値段で買えました」(『スノーボール(上)』)と強気の姿勢を貫いていましたが、たった一服さえできない「湿ったシケモク」に多くの資金を回してしまったことは、大いにこたえたのでしょう。

■事業の優位性を最重視する方針に

この20年にわたる苦い経験を経てバフェットは、経営状態は良くないが、資産に比べて株価が極端に安い企業に投資する「シケモク買い」から、株価は資産の数倍になるもののカリフォルニアではかなう相手がいないシーズ・キャンディーズのような強いブランド力を持つ企業を買収することのメリットを強く認識するようになりました。

「まずまずの企業を素晴らしい価格で買うよりも、素晴らしい企業をまずまずの価格で買うことの方が、はるかに良いのです」(『バフェットからの手紙』)

困難なビジネスを立て直すのは難しいものです。そんな難業に挑戦するよりも、「まずまずの価格で買える、優れた経営者がいる、優れた事業」に投資しようというわけです。

特に大切なのは、事業が優れていることです。事業に優位性がなければ、たとえ優れた経営者をもってしても成功するのは簡単ではありません。優れた経営者と優れた事業の両方がそろえばベストですが、もしどちらか一方ならバフェットは優れた事業の方を選びます。

■なぜコカ・コーラ株が「理想の投資対象」なのか

バフェットの理想とする企業の一つがコカ・コーラです。こう評価しています。「これからあなたは一度だけ取引をして、その後10年間投資の世界から離れるとします。(中略)向こう10年間は投資対象を変更できません。さて、どんなものに投資しようと考えるでしょうか。(中略)私にはコカ・コーラしか思い浮かびません」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)

桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』(KADOKAWA)
桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』(KADOKAWA)

コカ・コーラは国際市場で成長を続け、かつリーダーの地位を維持する力もあります。今後も消費量の増加が期待できます。この地位を揺るがすなんてとてもできないとバフェットは考え、同社に積極的な投資を行ってきました。

バフェットはかつて「コカ・コーラはハムサンドイッチにも経営できる」〔著者注:コカ・コーラはハムサンドイッチが最高経営責任者(CEO)になっても儲かる、といった意味〕といったことがありますが、それはバフェットにとってまさに好ましい企業であることを意味します。なぜなら企業はいつも完璧とは限らないからです。

事実、バフェットが「株を買うなら、どんな愚か者にも経営を任せられる優れた会社の株を買いたいと思うでしょう。なぜならいつかは愚かな経営者が現れるからです」(『バフェットの株主総会』)といった通り、コカ・コーラにも愚かな経営者が現れました。

急死したロベルト・ゴイズエタの後を受けてCEOとなったダグラス・アイベスター時代、ヨーロッパで子どもの健康被害が報じられましたが、アイベスターは適切な対応ができませんでした。続くダグラス・ダフトも問題がありました。

代わって就任したネビル・イズデルの下でようやく同社は復活を遂げ、バフェットは「前にはよく、ハムサンドイッチでもコカ・コーラは経営できると、ビル・ゲイツにいったものだ」(『スノーボール(下)』)と振り返りました。バフェットは徹底して「優れた事業」を求めるのです。

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桑原 晃弥(くわばら・てるや)
経済・経営ジャーナリスト
1956年、広島県生まれ。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開する。主な著書に『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)、『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)などがある。

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(経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥)

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