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このままでは"GAFAの下請け"になる…地銀に残されたたった2つの道

プレジデントオンライン / 2022年2月18日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

これから地銀はどうなるのか。金融アナリストの高橋克英さんは「現状維持ではGAFAなどの“下請け”となってしまう日も遠くない。地銀にはスマホ銀行化か大手企業の傘下に入り、グループの銀行部門として生き残るかの判断が求められている」という――。

■パーカーにジーンズ姿で働く銀行員たち

福岡の中心地にある「みんなの銀行」(横田浩二頭取)のオフィスは、コーポレートカラーでもある黒を基調としたスタイリッシュなデザイナーズオフィスだ。永吉健一副頭取はじめ、オフィスで働くメンバーが、濃紺スーツにネクタイ姿ではなく、パーカーにジーンズといったカジュアルなスタイルで働く光景を見て、ここが銀行オフィスとは誰も思わないだろう。

みんなの銀行では、海外の大学院や地元の九州大学などで最先端の研究に取り組んできたデータサイエンティストや、デジタル企業の第一線で活躍した経験を持つエンジニアやデザイナーなどを積極的に採用している。こうした「金融業界の枠外」の多彩なデジタル人材と銀行業務を知り尽くしたエキスパートが融合して、日本初のスマホ完結のデジタル銀行を運営しているのだ。

■ふくおかFGが設立したスマホ銀行「みんなの銀行」

福岡銀行、熊本銀行、十八親和銀行を傘下にもつ、ふくおかフィナンシャルグループ(柴戸隆成会長兼社長、以下ふくおかFG)は、総資産28.7兆円を誇る日本最大の地銀である。そのふくおかFGが2021年5月、日本全国のデジタルネイティブ世代をターゲットにしたスマホ完結のデジタル銀行「みんなの銀行」のサービスを開始した。

モノトーンに黄色をアクセントカラーにしたみんなの銀行のアプリデザインは、実にスタイリッシュだ。今までの銀行にはないワクワク感があり、イケている印象がある。実際、世界3大デザイン賞の一つである「Red Dot Design Award 2021」で3部門受賞、世界の銀行・保険会社のイノベーションを顕彰する「Efma-Accenture Banking Innovation Awards 2021」で日本企業初の金賞受賞など、日本国内よりもむしろ海外で先行して高い評価を獲得している。

アプリの操作性はシンプルかつミニマルだ。スマホで操作して10分程度で、開設した口座を利用でき、預金の目的別管理や他の金融機関の口座を含めた資産管理が可能になる。説明や注意書きがごちゃごちゃあり、何度もタップが必要な既存の銀行のアプリやサイトとは大違いだ。これは、システム開発子会社のゼロバンク・デザインファクトリーが、顧客目線に立ち、自社開発した勘定系システムを、Googleのクラウドサービス「Google Cloud」上で構築している点も影響していよう。

こうした斬新なデザインと直線的な操作性によるスマホ上でのサービスを武器に、みんなの銀行では、初年度は顧客数40万人、預金250億円、3年目には120万口座、預金2200億円、消費性ローン800億円を獲得し、単年度黒字化を目指すという。

■共食い懸念や利用者伸び悩みは課題

もっとも、みんなの銀行には、福岡銀行などグループ内の既存銀行と顧客を取り合うことになる共食い懸念(カニバリゼーション)や、足元では、口座数や利用者数が当初の計画通りには伸びていないといった問題もある。

異業種のネット銀行や多くの地銀では、「お手並み拝見」とみんなの銀行の取り組みを冷ややかに見る向きもゼロではないだろう。欠点や問題点を挙げるのは簡単だ。しかしみんなの銀行のすごさは、実際に開業し、すでに稼働していることだ。メガバンクや地銀が最も苦手としてきた「まず行動してみる」「走りながら考え修正する」という経営ができているのだ。顧客目線と収益目線を持ち、いち早くデジタル銀行の設立まで実現させた構想力と実行力はさすがトップ地銀といえよう。

福岡銀行の看板
写真=時事通信フォト
福岡銀行の看板=2021年5月21日、福岡市中央区 - 写真=時事通信フォト

■地銀DXに取り組む「iBank事業」

ふくおかFGの中核行である福岡銀行は、広島銀行と地銀初の勘定系システム共同化に踏み切るなど、以前から情報技術分野への投資や開発には積極的であった。現在も、中小企業などを対象にしたオンラインレンディング「フィンディ」を導入するなどデジタル金融の先駆者でもある。

また、みんなの銀行の永吉副頭取がファウンダーでもある、子会社のiBankマーケティング(代表者、明石俊彦、内田一博)は、スマホ専用アプリ「Wallet+」と非金融サービスなどを展開する「iBank事業」を手掛けている。これにはふくおかFGの傘下3行に加え、沖縄銀行、広島銀行、山梨中央銀行、南都銀行、十六銀行、佐賀銀行が賛同して稼働中であり、八十二銀行、阿波銀行、北日本銀行が参画予定など、全国規模で地銀DXを加速させる存在となっている。

■GAFAの強みを取り入れた経営

みんなの銀行の特徴は、自前のエンジニアによる自社開発、サブスク型プレミアムサービスの提供、ローン商品の導入予定といった形で、GAFAのように①デジタル化、②サブスク化、③拡張化に注力することで、安定的な収益の確保とその拡大を目指している点だ。

GAFAは、多彩な人材を採用し、最先端のデジタル技術を用いた商品やサービスにより顧客を惹きつけ、定額サービスなどサブスク化により顧客を囲い込み、既存サービスのアップデートや新商品などの提供により拡張を続ける、といったビジネスモデルで躍進してきた。まさにみんなの銀行もGAFAの強みを取り入れているのだ。

これまでの地銀では実現しないようなデジタル化、サブスク化、拡張化によって「ワクワクする」→「使いたい」→「利用者の増加」→「手数料など増加」→「収益力アップ」→「さらなる拡張・投資」という好循環の実現を目指している。この先、消費者ローンや銀行システム提供事業などが加わり、業容が順調に拡大していけば、みんなの銀行の将来的な株式市場への上場、スピンオフやスピンアウトも期待できるのかもしれない。

■東京きらぼしFGもスマホ銀行に参入

ふくおかFGに続き、きらぼし銀行を擁する東京きらぼしフィナンシャルグループ(渡邊壽信社長)も2022年1月にスマホ銀行「UI銀行」(田中俊和社長)を開業した。

預金や振り込みなどはスマホ上のUI銀行で行い、資産運用などコンサルティングは、きらぼし銀行の店舗などでできるようにすることで、対面・非対面のハイブリッド体制を目指すという。UI銀行ではきらぼし銀行からの口座異動を主に、口座獲得を目指すという。韓国のSBJ銀行の開発によるクラウドを活用した勘定系システムを採用し、管理コストを削減することで、魅力ある預金金利設定を可能としている。

スマホを操作する男性
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

まずは開業記念キャンペーンとして、2022年3月末までの期間限定で、1~2年ものの円建て定期預金に年0.3%の金利を設定している。ちなみに、きらぼし銀行の定期預金金利は、預入期間に関わらず年0.002%だ(2022年2月1日現在)。

ターゲットとする顧客層、基幹システムの利用や親銀行との協働など、みんなの銀行とUI銀行の方向性は違うものの、①デジタル化、②サブスク化、③拡張化を意識した地銀発「スマホ銀行」設立の動きは、過去の延長ではない、未来の銀行像を目指したチャレンジとして、注目に値しよう。

■三重苦とネット銀行の台頭で苦戦する地銀

こうした地銀発スマホ銀行の設立の動きがある一方、地銀再編、地銀衰退、地銀崩壊、地銀消滅などと、地銀の苦戦が伝えられている。①人口減少、②低金利、③デジタル化、という三重苦が、地銀の3大ビジネスである①貸出、②手数料、③有価証券運用ビジネスを疲弊させているのだ。

特に、個人向けビジネスでは、楽天銀行やSBI証券といったネット銀行やネット証券会社がその利便性や手数料の安さなどから、デジタルネイティブ世代だけでなく、30代から50代のミドル世代、そしてシニア世代に至るまで幅広い層で利用されるようになっており、相対的に地銀は顧客基盤と収益機会を失っている。地銀ビジネス不振の根本原因に「顧客目線と収益目線の欠如」を指摘する声もある。

■ペイロールとスーパーアプリの脅威

さらにこの先、地銀ビジネスに悪影響を与えそうなのが、「ペイロール」と「スーパーアプリ」だ。政府は、給与のデジタル払い(ペイロール)を解禁する方針で、実現すれば、従来は現金か銀行口座への振り込みだった給与を、スマホアプリ上で電子マネーとして受け取り、そのままスマホで決済できるようになる。個人の給与振込口座を押さえることで、住宅ローンや資産運用の提案につなげてきた銀行にとっては、深刻な打撃となる。

また、金融サービス仲介業の創設によって「スーパーアプリ」として、預金、送金、ローン、資産運用、保険などの取引をスマホ上でできることになった。すでに、国内総利用者数3億超のZホールディングスは、LINE、Yahoo! JAPAN、PayPayなどを事実上の「スーパーアプリ」として強化し独自のデジタル経済圏を構築しつつある。

■スマホ銀行への転換か、大手DX企業の傘下に入るか

ペイロールやスーパーアプリは、ユーザーにとっては画期的なサービスであり、DX企業などには事業拡大のチャンスとなる一方、地銀にとっては逆風だ。

GAFAなどDX企業は概して、①経営スピード、②テクノロジー、③デジタル人材で勝る。既存の銀行と違って、余剰人員と余剰店舗を抱えていないことも強みだ。

地銀には、①店舗をゼロにしてスマホ銀行に転換する、②大手DX企業などの傘下に入り、銀行免許を生かし、グループの銀行部門として生き残る、といった究極的かつ大胆な経営判断が求められる。近隣行との合併などの再編や持ち株会社化、リストラ・コスト削減だけでは、明るい展望が見えてこない情勢だ。

スマートフォンでネットバンクを利用
写真=iStock.com/gesrey
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gesrey

■このままでは「下請け」になる可能性も

幸いなことに、すでにその動きは出てきている。①に関しては、まさに「みんなの銀行」と「UI銀行」が挙げられる。②に関しては、「第4のメガバンク」構想を打ち出し、新生銀行も傘下に収めたSBIホールディングスによる島根銀行や福島銀行などとの資本業務提携が挙げられよう。

地銀は、DX企業など異業種の台頭を受け入れ、屈するのか、それとも独自・独力で対抗するのか、岐路に立たされている。ふくおかFGや東京きらぼしFGのようにリスクを取り果敢に挑戦することなく、現状維持をするままでは、GAFAをはじめ大手DX企業の下請けとなってしまう日もそう遠くはないだろう。

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高橋 克英(たかはし・かつひで)
マリブジャパン代表取締役
三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『いまさら始める? 個人不動産投資』、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』、『地銀消滅』など。

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(マリブジャパン代表取締役 高橋 克英)

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