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「表示が0.1秒遅れると、売上が1%減少する」絶対王者アマゾンがやっている"すごすぎるデータ分析"

プレジデントオンライン / 2022年2月25日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sundry Photography

なぜアマゾンはネット通販の絶対王者になれたのか。戦略コンサルタントの桃谷英樹さんは「素晴らしい顧客体験を実現するため、データを用いた改善を徹底している。たとえば『表示が0.1秒遅れると、売上が1%減少する』という知見にもとづいて、表示速度を改善している」という――。

※本稿は、桃谷英樹『コンポーザブル経営』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■アマゾンが豊富な品ぞろえと低価格を両立できる理由

アマゾンのビジョンは「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」です。さらに「顧客をその人にとっての宇宙の中心に置いて考える」ことこそが、パーソナライズであると言っています。だからこそ、アマゾンは顧客の声を聞き、パーソナライズされた価値を発明しているのです。

アマゾンは企業としての4つのプリンシプルとビジョン、さらに価値基準・行動指針となる16のリーダーシップ・プリンシプルを徹底して実行しています。

図表1は創業初期のジェフ・ベゾス氏の構想に追記したものです。「品揃えの豊富さ」と「価格の安さ」。この2つの顧客体験こそが、初期のアマゾンにおけるビジネスモデルのベースになっています。同時に、以下に挙げる2つの基本的なビジネス構造が存在します。

ジェフ・ベゾス アマゾンのビジネスモデル

1つ目は、アマゾンのサービスにおける、顧客体験を提供するプラットフォームのサイクルです。まず、素晴らしい顧客体験を提供することで、顧客が増えていきます(トラフィック)。すると、サプライヤーにとってアマゾンのプラットフォームに対する魅力が高まり、多くのサプライヤーが集まり、品ぞろえ(セレクション)が充実していきます。

品ぞろえの豊富さは、顧客体験の満足度をさらに高めます。アマゾンのプラットフォームは、顧客にとっては体験を楽しむためのプラットフォームであり、サプライヤーにとって商品を提供するためのプラットフォームでもあります。

■モノだけでなく、生鮮食料品、映画、音楽などへどんどん拡大

2つ目は、顧客が手にする商品が届けられるバリューチェーンのサイクルです。ECでは、配送や物流の設備、情報システムなどの固定費用に対するスケールメリットが働きます。バリューチェーンにおける情報連携、デジタル連携が向上することで、商品が届くスピード、タイミングをコントロールすることができるため、サイトの精度が向上し、EC体験をより心地よくさせることができるのです。

顧客にとっては、「安さと品ぞろえから欲しいものが見つかる」「手間がかからない」といった従来型の物理的な店舗の仕組みではトレードオフになってしまうという問題点が解決され、さらにこの体験の向上を継続させることが可能になります。

アマゾンにおいて取り扱う品目は、モノだけでなく、生鮮食料品、映画、音楽などへどんどん拡大しています。プライムサービスの場合には、会員価格がサブスクリプションで固定されているので、顧客の期待値が上がり続けたとしても、提供される商品・サービスを増やし続けることで、WTP(Willingness to Pay)、つまり顧客が支払いたい額を維持し続けることが可能になります。

アマゾン配達仕分け
写真=iStock.com/jetcityimage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jetcityimage

同時に、顧客体験が高まることで顧客数と利用者数が増えていくため、サプライヤーの WTS(Willingness to Sell)、つまり「ここで売りたい」という動機を高め、納入する際の値段が低くても多数のサプライヤーが集まります。そして品ぞろえが増えることで、顧客にとっての選択肢が増えるのです。つまり、これらに比例してWTPが向上する機会が増えていくことを示しています。

■アマゾンが成長を続けるために大切にしている3要素

アマゾンは1994年の創業時にECを開始した際、書籍の返品率を4%にしました。当時アメリカの出版業界における返品率は40%以上でしたので、出版社というサプライヤーに対しても「価値の提供」という意味で貢献していたと言えます。

アマゾンでは、なぜこのような価値を、顧客やサプライヤーに届けることができているのでしょうか。そして、なぜ現在まで成長し続けているのでしょうか。

アマゾンにおける顧客中心の考えとこだわりを語ったミッション・ビジョンと、これに基づくリーダーシップ・プリンシプルが徹底されているということが言えます。これに基づくアマゾンの各事業や機能における担当者のリーダーが、自立して顧客への価値提供にカニバリゼーション(自社商品同士で売上を奪い合う状態)をいとわずに挑戦しています。

では、自立した多数の取り組みは、どのようにしてグローバルの環境でスケールすることができたのでしょうか。

以下の3つの取り組みが重要であると筆者は考えています。

■「API」を全世界公開を前提として設計する

1つ目は、2002年の「Bezos Mandate」(ベゾスが開発チームに対して送った通達)で示されたAPI標準(Application Programming Interfaceの頭文字を取ったもので、世の中にある多くのアプリケーション、ツール、データ、各種テクノロジーサービスを接続する仕組み)の徹底です。

2つ目は、「ID活用・標準の徹底」です。各商品のIDに関して、アマゾンは商品を出品する際にバーコードを入力することで、サプライヤーにとって多くの価値を提供しています。

3つ目は、「行動に基づく受益者へのフィードバック(顧客、サプライヤー両方)」です。いずれも受益者それぞれの行動のデータ分析をアマゾンは行っています。これは、前記の標準徹底に基づき、かつ顧客ファーストの行動指針の徹底を体現したものです。アマゾンの分析ツールを使えば、誰もが分析作業に取り組むことができます。

以下、それぞれについて詳しく説明していきます。

(1)API標準を徹底させる

「Bezos Mandate」のポイントをシンプルにまとめると、次のようになります。

・社内外向けを問わず、必要なデータや機能へのアクセスに必ずAPIを用意する
・チーム間のコミュニケーションは、API
・APIに使う技術は規定しない
・そのAPIは、全世界公開することを前提として設計しておくこと
・例外はない

顧客視点に立って自立・自律して行動する会社にあって、APIの標準の徹底を行ったことが、アマゾンがそれ以降のデジタル進化でビジネスの成長を加速させた原動力の 1つだと考えます。

アマゾンアプリケーション
写真=iStock.com/kasinv
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kasinv

■品質や価格がずれた販売者は自然淘汰される

(2)ID活用・標準を徹底させる

初期のアマゾンマーケットプレイスへの参加者には、マーケットプレイスへの登録作業がやや手間だったかもしれませんが、アマゾンはそれに余りある利便性を提供しています。たとえば、家電製品を売っているサプライチェーンが、ある家電製品のIDを入力したとします。具体的には、日本のIDであるJANコードです。グローバルな販売を計画している場合には、海外の同様規格であるEANコードやUPCコードなどとなります。

すると、コードを入力しただけで、同様の商品を売っているサプライヤーが、どこの地域にどれくらい存在するか、さらに各サプライヤーの売上状況を知ることもできます。

それだけではありません。類似商品の売上、それがどのような商品とセットで売れているのかといった情報を、アマゾン側からサプライヤーに提供する仕組みが整っているのです。サプライヤーにとってのビジネス機会の提案の例は、次のとおりです。

・売れ筋商品と類似した商品の出品提案
・海外への出品が容易(日本と同一の管理ページ)
・販売状況と在庫数の確認・提案(現在の販売状況を分析し在庫が足りなくなると判断した場合は提案。これは下記FBAを使っていなくても実施されています)
・FBA(Fulfillment by Amazon)で在庫保管、発送、返品、返金まで仕組みそのものをサービスとして提供

このような仕組みは結果として、最終顧客への価値にもつながります。掲載した商品が相場とあまりに乖離した価格設定であった場合、売れないことが事前にわかるためです。サプライヤーは出品をあきらめるか、あるいは価格を下げてライバルと競うか、いずれかの選択をすることになります。

つまり、サプライヤー同士が競争する環境が生まれることで、品質も価格も相場からずれているサプライヤーは、自然淘汰される環境が構築されているのです。

■表示される場所によって売り上げが数十倍違うことも

まだあります。「ショップで商品を販売する」というスタイルではなく、まずは商品があり、「商品をどこのショップから購入するのか」というUI/UX構成となっています。そのため、必然的に同じ商品を売っているサプライヤー同士が、同じページ上でライバルとなり、顧客に表示されます。

表示される内容は、価格だけではありません。これまでの販売実績、配送までの日数、顧客からの評価なども表示されます。その上で、評価の高いサプライヤーがトップに表示される仕組みとなっています。

トップに表示されたサプライヤーは、他のサプライヤーよりも売上が数倍から数十倍違うと言われています。そのためサプライヤーは、金額を安くすることだけでなく、顧客からの評価にも気を配る必要があります。

サイト上でこのような仕組みが構築されているため、サプライヤーはより良い製品を揃え、安価で提供し、迅速かつ正確に顧客に配送することができます。これらを実践した優良サプライヤーは、アマゾンのサプライヤー向けのプラットフォームを活用することにより、グローバルな展開を進めることもできます。あるいは、さらなる優良サプライヤーが参入してくることで、顧客はより良い商品を購入できるだけでなく、サポートの際でも、より良い価値を体験することができます。

■顧客も販売者側も新たな発見を享受し続けられる

アマゾンのID標準化の仕組みを活用し大きく成長したサプライヤーがあります。たとえば、モバイルバッテリーやiPhoneまわりの充電ケーブルなど高品質かつリーズナブルなオリジナル製品を次々と展開している中国の深圳にある企業Ankerです。さらに、Ankerのように優良なサプライヤーを買収して成長するといった、アマゾン市場を活用して成長する企業も急速に伸びています。

そして、アマゾンへ出品することの閾値は、どんどん下がっています。

「Helium 10」というサブスクリプションサービスでは、アマゾンでの売れ筋発見から、調達、出品、維持向上していくためのツールがそろっています。その売れ筋を製造してくれる会社は、たとえばアリババのような中国のeコマースサービスで複数の候補を探し、その中から選択します。

アマゾンにサプライヤーとしてデビューしていく段取りがオンラインでできてしまいます。誰もがアマゾンを利用してビジネスを開始できるようになりました。そのアマゾン市場での淘汰と成長の中で、人々の創造性の発揮の場が広がり、アマゾンは補完効果を生むサプライヤーを追加、顧客は新たな発見を享受し続けています。

■マーケティングは全てアマゾンが担ってくれる

(3)行動に基づく受益者へのフィードバック

3つ目のポイントである行動に基づく受益者へのフィードバックは、サプライヤーへの価値で触れた、データをもとにした分析・レコメンデーションです。

桃谷英樹『コンポーザブル経営』(プレジデント社)
桃谷英樹『コンポーザブル経営』(プレジデント社)

サプライヤーに関しては、先述したとおりです。これまでは自分たちで行っていたマーケティングをアマゾンが一手に引き受けてくれるので、サプライヤーとしては、売れ筋商品をスピーディーに仕入れ、相場にマッチした価格で販売することに集中することができます。配送やアフターケアなどもアマゾンが行ってくれます。このように本来、小売事業者が注力すべき業務に自社の資源を集中することができるというメリットが大きいのです。

一方で、顧客に対しても、購入を検討していた商品が実際にどうかを知ることができます。判断材料という価値をアマゾンが提供してくれるため、新たな気づきと体験を得ることができます。場合によっては、別のより良い商品を発見してくれるという、まさに価値のアップデートも実現されているからです。

さらにアマゾンは、UI/UXをより良くするために、バナーの位置やテキストの大きさなどの最適化をABテストで徹底的に行っています。

このような取り組みの結果、アマゾンに行けば、単に商品を購入するだけではなく、まさに多くの体験をすることができるのです。この体験こそが顧客の求めているものであり、魅力ある体験を日々アップデートしているからこそ、アマゾンは顧客から支持され続けているのです。

■表示が0.1秒遅れると、売上が1%減少する

アマゾンが提供する顧客体験価値の代表的存在は、購入・検索履歴などからおすすめ商品を提示するレコメンデーション機能でしょう。この機能を開発したアマゾンの元エンジニア、グレッグ・リンデン氏が、ABテスト(特定期間にページの一部分を2パターン用意して、どちらがより効果の高い成果を出せるのかを検証すること)を繰り返した結果、ある興味深い法則を発見していますので補足します。

それは「ECにおいて表示速度が0.1秒遅れると、売上が1%ほど減少する」というものです(図表2)。この法則は、単にECで注文ができるだけでなく、ユーザーの我慢の限界値に応えることも大事であることを示しています。

アマゾン:0.1秒表示が遅れると、売上が1%下がる

アマゾンを訪れたユーザーは、「より多くの商品をスピーディーに見たい。レコメンデーションやレビューなどの体験も、より多く、同じくスピーディーに体験したい」と考えて行動していることが、データで示されたわけです。

このようにして、顧客にとっても、サプライヤーにとっても、自社(アマゾン)にとっての価値向上の継続が実践されています。それはデータを取得し、分析し、実践を検証することに基づいて意思決定してくことであり、そのためのデータ構造、ID、APIなどの標準の徹底です。

アマゾンはフルフィルメントバイアマゾンの実践や広告の追加といった調整を継続し、成長しつづけています。このようなデータへの取り組みは、すべての企業が顧客に継続的に価値を提供し続け、ビジネスモデルをアップデートし続けるために必要なことではないでしょうか。

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桃谷 英樹(ももたに・えいき)
NEC DX戦略コンサルティング事業部事業部長
外資で戦略コンサルティングのリーダー(パートナー)を歴任(デジタル、事業戦略、グローバル、新規事業)。戦略コンサルティングファームでマネージング・ディレクター、外資事業会社でマーケティング・新規事業立上げ、国立共同研究機構の講師を経験する。理学博士。責任者として450以上のコンサルティング・プロジェクトを経験。著書に『コンポーザブル経営』(プレジデント社)がある。

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(NEC DX戦略コンサルティング事業部事業部長 桃谷 英樹)

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