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保険会社はまったく儲からない「超お得商品」…なぜか3割しか加入していない"ある保険"

プレジデントオンライン / 2022年2月24日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/turk_stock_photographer

FPの内藤眞弓さんは医療保険には加入していないが、火災保険と地震保険には加入しているという。内藤さんは「地震保険には入ったほうがいい。保険料に損害保険会社の利潤は織り込まれておらず、リスクの大きさの割に保険料は低く抑えられている『超お得商品』。それにもかかわらず、全世帯の7割は加入していない」という――。

■地震による火災は火災保険で補償されない

筆者は医療保険には加入していませんが、火災保険と地震保険は加入しています。なぜなら、「実際に遭遇する確率は低いが、ひとたび起きてしまうと生活基盤が根こそぎ奪われてしまう」リスクこそ保険の出番だと考えるからです。

過去に大規模な災害に遭われた人は「ここに住んで●十年になるけれど、こんなことは初めて」と口々におっしゃいます。自然災害への備えとして、火災保険と地震保険に加入することは、選択ではなくマストと言ってよいと思います。

火災保険の補償範囲は広く、水災や風災、雪災などの自然災害や、それ以外の偶発的な災害もカバーしています。しかし、地震や噴火、またはこれらによる津波を原因とする損害は、火災保険ではカバーされません。

たとえ火災で家を焼失したとしても、地震によって起こされた火災は火災保険では補償されないのです。「地震火災費用補償特約」が自動付帯されていますが、補償額は保険金額の5%程度にすぎません。しかも、地震による建物の倒壊や津波による流出等は対象外。地震による損害に備えるには地震保険に加入しておく必要あります。

■全世帯のたった3割しか加入していない

地震保険は単独で加入することはできず、火災保険に特約として付帯しますが、付帯率は約7割(共済含まず)です。ところが、世帯加入率でみると3割を超えた程度にすぎません(共済含まず)(※)

(※)損害保険料率算出機構「グラフで見る!地震保険統計速報」

では、なぜ地震保険の加入率が低いのでしょうか。よく言われるのが「楽観性バイアス」です。「自分が地震に遭うことはないだろう」と、確たる根拠もないのに、自分に都合よく考えてしまう傾向のことです。

日常生活にはあらゆるリスクが潜んでいます。それらすべてに過剰反応していたのでは身がもちません。「楽観性バイアス」は生きていく上に必要な知恵です。しかし、こと地震に関しては、危うい態度だと言わざるをえません。何しろ日本は、いつどこで大地震が発生してもおかしくないと言われているのですから。「楽観性バイアス」を強化するのが、「地震保険は役立たない」など、地震保険にまつわる認知の歪みがあるではないかと思います。以下に、5つの認知の歪みを見ていきます。

■その1:「地震保険って保険料が高いよね」

地震保険は火災保険と同様に、建物と家財を別々に契約しますが、いずれの保険金額も火災保険の30%~50%で、建物は5000万円まで、家財は1000万円までという制限があります。そのため「制限がある割には保険料が高い」と感じてしまう人が多いようです。しかし、地震保険料に損害保険会社の利潤は織り込まれておらず(ノーロス・ノープロフィット原則)、リスクの大きさの割に保険料は低く抑えられているのです。

地震は発生頻度や大きさを統計的に予測することは困難で、時に著しい巨大リスクとなる恐れがあります。このような特性から、民間の損害保険会社だけでは商品として成り立たず、「地震保険に関する法律」に基づき、政府が再保険によって保険責任を分担する官民一体の制度となっています。

つまり、地震のリスクはそれだけ大きいということで、加入者側からみれば、「超お得商品」ということになります。さらに、1年間に支払った地震保険料の一定額を課税所得から控除する制度があり、所得税と住民税の負担が軽減できます。

地震保険はどこの保険会社で契約しても補償内容や保険料は同じです。地震保険の保険期間は最長で5年ですが、主契約である火災保険の保険期間によって、契約できる保険期間が異なります。

■地震保険料は生命保険料の約6分の1

保険料は建物の構造、所在地の都道府県によって決まります。割引制度として、「建築年割引」「耐震等級割引」「免震建築物割引」「耐震診断割引」の4種類が設けられており、建築年または耐震性能により、居住用建物および家財に対し10%~50%の割引が適用されます(重複不可)。

例えば、所在地が東京都、持ち家・戸建て(省令準耐火でない)、建築年割引適用という条件で保険料をみてみましょう。保険期間は5年、年払で支払うものとします。火災保険の保険金額を建物2000万円・家財1000万円、地震保険の保険金額を建物1000万円・家財500万円とした場合、年間の保険料は10万8750円、そのうち地震保険料は6万3300円です(※)。火災保険料だけであれば年間4万5450円ですから、地震保険を付けることによって負担感は一気に高まります。

(※)損保ジャパンのHPにて試算

一方、生命保険(個人年金含む)の世帯加入率は89.8%、世帯年間払込保険料は平均37万1000円です(※)。生命保険に年間37万円を支払いながら、地震保険料の6万円を高いと感じるのは、リスクの大きさを正しく認識できていないためか、楽観性バイアスが働いているためかもしれません。

(※)2021年度「生命保険に関する全国実態調査」(生命保険文化センター)

■保険料を抑える2つのコツ

しかし、保険料を抑える工夫があります。一つには、1年ごとに払うのではなく、何年分かをまとめて払う方法です。「1年分の保険料×長期係数」で支払額を算出しますが、2年分だと1.9、3年分だと2.85、4年分だと3.75、5年分だと4.65です。前述の4種類の割引制度いずれかが適用になれば、さらにお得になります。ただし、地震保険料だけではなく火災保険料も一緒にまとめ払いしなくてはなりませんから、一時的に大きな出費にはなってしまいます。

二つ目が、火災保険の補償内容を見直すことです。先の保険料例は、火災保険に特約をフル装備した場合のものです。内容を精査して不要な特約を外したり、事故発生時に支払われる保険金額に自己負担額(免責金額)を設定することで保険料は安くできます。自身のリスク許容度と照らし合わせて、どこまでだったら自己負担できるかを検討してみてはいかがでしょうか。

真っ白な豚の貯金箱とコイン
写真=iStock.com/nathaphat
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nathaphat

■その2:「地震保険では新しい家が建たないからムダ」

前述のように、地震保険の保険金額は、建物と家財いずれも火災保険の30%~50%で、建物は5000万円まで、家財は1000万円までという制限があります。

支払われる保険金額は、損害の程度によって、全損・大半損・小半損・一部損の4つに区分されています(図表1)。損害規模と契約金額に応じた金額なので修理等の見積書が不要。大地震が発生した場合でも、短期間に大量の損害調査を行い、迅速かつ公正に保険金を支払うことができます。

地震保険の損害の程度と支払保険金額

このような仕組みもあって、「どうせ新しい家は建てられないから、地震保険に加入してもムダ」と考えてしまう人が多いようです。しかし、地震保険の目的は「被災者の生活の安定に寄与すること」であって建物の再建ではありません。

地震で住まいに損害が出たときのことを想像してみてください。全壊ともなれば、建築のための費用だけでなく、解体費用も発生します。もし、自治体に申請をして公費解体(※)が適用になれば、国と自治体の補助を受けて解体を行うことができます。しかし、解体は危険度の高い建物が優先されますので、早く申し込んでもすぐに対応してもらえるとは限らず、解体作業自体にも時間がかかるため、長期にわたって待たされる恐れがあります。

(※)大規模地震などの災害において、自治体が解体の必要があると判断した建物で、かつ災害廃棄物としての処理が適当であると認められるものが適用。これまで、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震が適用になっている。

■全額カバーしたいなら「地震危険等上乗せ特約」

解体するところまでいかなくても、後片付けには手間がかかりますし、壁や柱、屋根などの修理が必要となれば、相当の出費を覚悟しなくてはなりません。その間はどこかに仮住まいをする必要があるかもしれません。地震の規模が大きいほど、修理業者待ちの期間は長くなります。そうなるとまた出費が膨らみます。

地震保険で新たな建物を建築する費用は賄えませんが、家財とセットにして少しでも受取額を増やし、被災者生活再建支援金(※)と合わせて、なんとか生活を安定させることを考えましょう。

(※)自然災害により10世帯以上の住宅全壊被害が発生した市町村等において、住宅に一定の損害を被った世帯に対して、損害の程度に応じて支給される。

被災者生活再建支援金

もし、全額をカバーしたいという場合、「地震危険等上乗せ特約」を付加すれば、地震保険金と同額の補償が得られます。地震保険の保険金額を火災保険の50%にしてこの特約を付加すれば、住まいを再建するための費用を確保できます。

■その3:「マンションだから地震保険は入ってもムダ」

マンションの場合、火災保険で設定できる保険金額は、購入時の金額をはるかに下回るのが一般的です。新築マンションの販売価格には、専有部分の建築費だけでなく、共用部分の建築費用、広告費、不動産会社の利益などが上乗せされているため、建物評価額との間に大きな開きが出てしまうのです。5000万円で購入した新築マンションの建物評価額が1000万円だったというケースはよくあることです。地震保険の保険金額はその50%までしか設定できませんので、ムダではないかと考えてしまうようです。

また、マンションは耐震性に優れているため、加入する必要はないと考える人も多いかもしれません。しかし、マンション自体は無事であっても、激しい揺れで食器が割れたり、家電製品等が壊れることはあるでしょう。津波による被害もあるかもしれません。住宅ローンが残っていれば、返済と並行して原状回復をしなくてはならず、大きな負担となります。

マンションの場合、専有部分の損害については、マンション全体の損害状況、つまり共用部分の損害の程度によって判定されるのが原則です。共用部分の損害が「全損」と判定されると専有部分も「全損」、共用部分の損害が「一部損」と判定されると、たとえ専有部分に損害がなくても「一部損」となります。ただし、専有部分が共用部分より大きな損害を受けた場合などは、個別に再度の審査を依頼することができます。

■その4:「マンションは耐震性が高いので共用部分の地震保険は不要」

マンション住まいにとって重要なのが、共用部分の損害をどうするかということです。管理組合のほとんどが共用部分に火災保険を掛けていますが、地震保険付帯率は日本全体の46%程度にとどまっています(※)。建物が耐震・免震だからとか、保険料が高いといった理由が考えられますが、地震保険加入については、理事会や管理組合で話し合って決めなくてはなりません。追加負担までして加入することに対して、なかなか賛意が得られないという事情もありそうです。

(※)2019年度の地震保険付帯率。損害保険会社4社調べ。

しかし、どんなに耐震性が高くても、津波に襲われるかもしれませんし、玄関ホールの柱や梁、廊下や外壁などにひび割れが生じたり、液状化や傾きが発生するかもしれません。そうなると、復旧費用は各区分所有者が共有持分に応じて負担することになります。上層階と下層階の破損程度が異なるなど、住人間で復旧への意識に温度差があったり、経済事情もさまざまです。なかなか合意形成が進まず、資産の劣化が止まらないといった事態になりかねません。

修繕積立金を使うという選択肢もありますが、十分な積立金がないケースや、将来の大規模修繕への備えがなくなってしまう恐れがあります。東日本大震災や熊本地震でも多くのマンションが被害を受けましたが、修復工事の資金繰りに苦慮するケースがありました。反対に、管理組合が地震保険に加入していたため、合意形成がスムーズに進み、早期の復旧が可能になったケースもあるようです。

■未加入の管理組合はできるだけ早く合意形成を

東日本大震災の復旧状況を、分譲マンションの管理組合に対して調査した結果によると、4分の3が地震保険に加入しており、その92.3%が保険金を受け取っています(※1)。ちなみに宮城県は、2010年度都道府県別付帯率で全国第2位となっていました(※2)。被害の割合が最も高くなっているのは1976年以前に建てられたマンションですが、立地している地盤の影響からか、新耐震基準で建てられた1981年以降のマンションでも多くの被害が発生しています(※1)

(※1)マンション管理支援ネットワークせんだい・みやぎ「~東日本大震災を経て~分譲マンションの復旧状況に関するアンケート調査報告書」平成24年10月
(※2)損害保険料率算出機構

気を付けたいのが、主要構造部に該当しない付属物、例えば門や塀、エレベーター、給排水設備等のみの損害では保険金の対象とはならないことです。とはいえ、直下型地震では主要構造部に甚大な被害を及ぼしかねません。マンションの場合、割引制度が適用になることが多いと思いますので、未加入の管理組合は、できるだけ早く話し合いを始めて、合意形成を重ねていってほしいと思います。

■その5:「地震保険って破綻するんでしょう」

「その1」で地震保険は官民一体の制度といいました。具体的には、国が民間損害保険会社の地震保険責任を再保険し、巨大地震が発生して保険金支払額が一定の額を超過した場合、その超過した部分について、国が民間損害保険会社に再保険金の支払を行う制度です。1回の地震等によって支払う保険金には総支払限度額が設けられており、「地震保険に関する法律」には、支払保険金の総額が総支払限度額を超えた場合には「その支払うべき保険金を削減することができる」と規定されています。

現在、民間保険責任額と合計した1回の総支払限度額は12兆円です。関東大震災クラスの地震と同等規模の巨大地震が発生した場合においても対応可能な範囲として決定されています。阪神・淡路大震災や東日本大震災などの巨大地震が発生した際にも、保険金の支払額は総支払限度額内であり、円滑に保険金が支払われてきました。

財務省のHPには、「万一、この額を超える被害地震が発生したときには、被害の実態に即し、また、被災者生活再建支援制度の活用など他施策も考慮しつつ、保険制度の枠内にとらわれず幅広い観点から、財源の確保も含め、適時適切に政策判断が行われるものと考えております」と記載されています。

ちなみに、2019年度までに国が支払った再保険金額は、1995年阪神淡路大震災約62億円、2011年東日本大震災約5856億円、2016年熊本地震約1365億円、2018年大阪府北部を震源とする地震約139億円となっています。

■今年10月、保険料が安くなる

1966年の地震保険創設以来、構造区分や地域ごとのリスクに見合うよう、保険料率の改定が繰り返されてきました。2022年10月以降の保険料も改定されることが決まっており、東日本大震災以来はじめて、全国平均で0.7%安くなります。ただし、大幅に値上がりする地域もあり、保険料の地域差が拡大する傾向にあります。

強制加入の公的医療保険は被保険者の健康状態が保険料に影響することはありません。一方で、地震保険は官民一体の制度とはいえ任意加入である以上、リスクに見合った保険料は公平性を保つ苦肉の策と言えるのかもしれません。まだまだ低いとはいえ、地震保険料の付帯率は右肩上がりになっています。地震保険の支え手が増えるということは、制度の安定性を高めることにつながります。

自然災害の公助が限定的である以上、地震の損害から家計を守るには、公助と自助を融合させた地震保険の加入が、現状における最適の手段ではないでしょうか。

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内藤 眞弓(ないとう・まゆみ)
ファイナンシャルプランナー
1956年生まれ。大手生命保険会社勤務後、ファイナンシャルプランナー(FP)として独立。金融機関に属さない独立系FP会社「生活設計塾クルー」の創立メンバーで、現在は取締役として、一人ひとりの暮らしに根差したマネープラン、保障設計などの相談業務に携わる。『医療保険は入ってはいけない![新版]』(ダイヤモンド社)、『お金・仕事・家事の不安がなくなる共働き夫婦最強の教科書』(東洋経済新報社)など著書多数。

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(ファイナンシャルプランナー 内藤 眞弓)

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