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「こんな仕事に何の意味があるのか」世界中の若者に増えている"バーンアウト"への対処法

プレジデントオンライン / 2022年2月25日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Prostock-Studio

病気ではないが、メンタルヘルスに深刻な影響を及ぼす症状が、世界中で増えている。「バーンアウト(燃え尽き症候群)」と呼ばれるもので、WHOも2019年にその存在を認めている。ブランドリサーチャーの廣田周作氏は「医療に隣接する領域から、バーンアウトへの対処法がたくさん生まれてきている」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、廣田周作『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

■多くの人に当てはまる「バーンアウト」3つの症状

今話題となっているのは、メンタルヘルスの中でも、「グレーゾーン」にいる人です。

グレーゾーンとは、すなわち「医師にかかるレベルの不調ではない」けれど「前向きで元気な状態でもない」という意味です。

極度に落ち込みが激しいのなら、すぐにでも心療内科に行った方がいいのですが、「正直、そこまででもない」人って、結構いると思うんです。

「今日、どうしても会社にいきたくない」とか、「日曜の夜になると、憂鬱でつらい」とか、「この資料、つくる意味あるのかな」とか。病気かと言われると、多分そうでもないけど、でも結構つらい時ってありますよね。

これが「グレーゾーン」です。今、世界的に、この「グレーな状態」をなんとかしようという動きが出てきているのです。

キーワードとなるのは、「バーンアウト(燃え尽き症候群)」です。バーンアウトは、明確なうつ病と違って、医師からすると、病気という診断になるものではありません。

けれど、「仕事に対して手ごたえを感じられない」、「自分の仕事が何に役立っているのかわからない」など、本人にとってはつらい状況を指します。

もしかすると、日本のビジネスパーソンのほとんどが、バーンアウトしているような気がしますが……。

廣田周作『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)
廣田周作『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)

実は、これグローバルレベルで、ホットトピックになっているんです。

2019年、WHOは、正式に「バーンアウト症候群」があるということを明記したんですね。病気ではないが、そういう症状があるということを認めたのです。

WHOによれば、「燃え尽き症候群は、病気や健康状態には分類されていません」と明記しつつも、次のような定義を与えています。

「燃え尽き症候群は、うまく管理されていない慢性的な職場のストレスに起因する症候群である。燃え尽き症候群は3つの側面で特徴づけられる。

① エネルギーの枯渇や疲労感
② 仕事に対する精神的距離の増大、または仕事に対する否定的・皮肉的な感情
③ プロフェッショナルとしてのエフィカシー(専門知を生かして価値ある仕事をできている)の低下(著者訳)」

この定義、やっぱり多くの人が当てはまりますよね……。

■遠隔医療、瞑想…続々誕生するグレーゾーンにいる人へのサービス

このバーンアウトしている人たちに対して、世界的に対処していこうという論調が出てきていて、「医療に隣接する領域」から、バーンアウトしてしまっている人たちのためのサービスもたくさん生まれてきています。

例えば、アメリカで2021年の1月にサービスを開始した遠隔医療サービスPace(ペース)は、心の健康の「グレーゾーン」にいる消費者、つまり精神疾患と診断されていなくても、燃え尽き症候群や気分の落ち込み、ストレスなどに悩まされている人を対象に、バーチャルグループセラピーを提供しています。

このサービスでは、共通の関心事やアイデンティティを持つ8〜10人の個人をオンラインでつないで、週1回のライブビデオセッションで感情や悩みを共有しています。

ほかにも、気分がふさぎ込むようなメディアの記事に触れないように、有害なニュースの消費やネガティブなエコーチェンバーからユーザーを守るためのアプリもあります。

2019年4月に発売されたGem(ジェム)のアルゴリズムは、扇情的な記事を非表示にし、より意味のある記事だけを表示させるニュースキュレーションアプリです。

マイクロソフトも、瞑想アプリで有名な「Headspace(ヘッドスペース)」とコラボレーションをして、チームスの利用者向けに、「そろそろ休憩をした方がいい」とか、「瞑想をサポート」するような機能を実装しようとしているそうです。

■理不尽さに耐える能力がますます求められる

さて、バーンアウトした若者たちの現状についてお話ししましたが、医学領域とは全く別の領域から、新しい「セルフケア」の潮流が生まれていることはご存じですか。

実は、セルフケアをハードコアに実践する若者たちの間で、スピリチュアリティにも大きな関心が寄せられているんです。

穏やかで、健康的な生活を追求していくと、食事や睡眠などのサイエンス的な「健康法」の実践だけではなくて、超越的なものに「生きる意味」を求めたり、日々「祈ること」がメンタルヘルスにいい影響を与えてくれるところまで考えや実践が及んでいくことは、みなさんも想像に難くないと思います。

「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉があります。

これは、親しい友人の突然の死とか、大災害など、説明のつかない理不尽な状況におかれた時、それをどのように「耐える」か、その忍耐力を指す言葉です。

例えば、親しい友人が交通事故にあって、ある日突然、亡くなってしまったとします。

サイエンスの説明としては「運転手の不注意で、自動車が時速100キロでぶつかったから、その人は亡くなった」となるわけですが、あなたは「なぜ、彼が、あの時に亡くならなければならなかったのか」ということには納得できません。

その問いには、誰も答えてくれません。しかし、あなたはその問いを問わざるを得ない。この理不尽な状況に対して、人は耐えることができません。

このような時、科学的な因果関係の説明は何も役に立たないのです。

この理不尽さに耐える能力こそ、「ネガティブ・ケイパビリティ」です。

パンデミックになった今、現実の世界がより「理不尽」であればあるほど、「ネガティブ・ケイパビリティ」が必要になっています。ウイルスが広がっていることはわかる。

だけれども、なぜ、お葬式もリモートでやらねばならないのか? なぜ、学校で友人にも会えないのか? 今、私たちはまさにこの能力が求められていると思うんですね。

■しいたけ占いは、心に優しいし「よく効く」

心の健康を保つためには、サイエンスや政治・経済の言葉や説明だけでは、足りないのです。理不尽な状況におかれて、人は静かに祈る時間や、超越的な視点から、現実を説明してくれる「物語」を必要とします。

つまり、スピリチュアリティの言葉や超越的な視点での解釈フレームが、求心力を持ち始めるんですね。

私も、セルフケアとして瞑想をしたりすることもあるのですが、ふと、「あの先輩の病気が治るといいな」などと「祈り」に近いことをしていると、なぜか自分もすっと楽になる瞬間があり、祈るような時間がいかに精神衛生上重要かは実感しています。

また、私は『VOGUE GIRL』の「しいたけ占い」が好きなんですが、あれは「占い」といっても、よく読むと、ほとんどが「励まし」の言葉で書かれているから、心にすっと入ってくるわけですね。

本当にしいたけさんの文章は、心に優しいし「効く」と思います。

スピリチュアルというと、すぐ死後の世界とか、怪しげな霊感商法とすぐ結び付くイメージがありますが、ここでいうスピリチュアルは、より広いライフスタイルに関連した知恵を指します。

■スピリチュアルと賢くつき合う

実際に、スピリチュアルなものと、賢くつき合っている人たちも多くいるのです。好むと好まざるとにかかわらず、コロナ時代に、スピリチュアルは、セルフケアのコアになりつつあると感じます。実際、統計的にも、面白い傾向が見られます。

例えば、NHKが定点観測的に調査しているデータに「現代日本人の意識構造」がありますが、戦後からの傾向では「宗教心は失われているけれど、スピリチュアルへの関心は高まっている」ということが見て取れるんですね。

女性の横顔のシルエットに雲から顔を出した太陽
写真=iStock.com/primipil
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/primipil

これは、生活者の実感としても、よくわかる傾向です。お葬式とか、お墓参りなどの時じゃないと、普段からお寺に行ったりしないけれども、仕事運とかを気にして、ちょっとした占いを受けたり、旅行のついでに神社に寄って、お参りをしたり、お守りを購入したりしますよね。

それも広義のスピリチュアリティだと捉えてみれば、その需要は高まっているのです。

■VRやARを使ってヒーリングを行う魔女たち

一方、欧米や中国でも、これらのスピリチュアルのブームが盛んに起こっていて、若い人たちから熱烈な支持が集まっているのが現状です。

面白いのは、従来の占星術などのメソッドに、ITや、サイエンスの知見が融合した新たなサービスが生まれ、人気になっていることです。

例えば、占星術アプリの「Co-Star」は、アプリに生まれた日時と場所を入力すると、NASAが公開している衛星の軌道のデータを読み込み、リアルタイムにユーザーの「運勢」が刻一刻と変わっていく様子を配信するサービスを提供しています。高度なサイエンスと、スピリチュアルの融合です。

また、雑誌『WIRED』は、現代に生きる「魔女」に関して、リスペクトを持って紹介しています。

記事によれば、アメリカ西海岸で、現代の魔女活動をしている人たちは、最新のテクノロジーのVR(仮想現実)やAR(拡張現実)を使って、ヒーリングなどを行っているそうです。

もともと、VRの技術は、西海岸のヒッピーや、サブカルチャーの牽引者たちが構想した技術だったことを考えると、一周回って、今を生きる魔女たちが、西海岸でVRを使って儀式を行っているのは、さもありなんです。

■「占星術的に相性がよい人」と出会えるアプリ

また占星術と言えば、「Struck」という占星術を使ったマッチングアプリすらあります。これは、なんと「占星術的に相性がよい人」と出会うことができると謳っているアプリです。

既存のマッチングアプリは、相手の顔写真や、趣味や職業からマッチする仕組みですが、前回の記事でお話ししたように、出会いが多すぎて誰に決めていいのかわからない問題がある中で、このStruckは「運命(=この人しかいない!)」をデザインしているということです。もはやユーザーは、スペックの検索を無限に繰り返したところで、「この人だ」と決定するのが不可能なのです。

結局はタイミングや運が「決断」を促すのですが、まさにこのアプリは、占星術という「タイミングや運」をサービスに組み込むことで、「やっと、あなたに出会えた!」という感覚を提供しているわけです。

「決められない」人たちにとって、その意味で面白いサービスだと思います。

たしかに、占星術的に相性がいい人なのだと聞かされて出会えば、デートでもちゃんと礼儀正しく振る舞おうと思うかもしれません。

■アメリカ人の10人に9人は、何らかの崇高な力を信じている

さて、こうしたスピリチュアリティのブームが起こっている中で、既存の宗教組織もさまざまな「変革」を通して、新たに若い人たちを惹きつけようと動いています。

ネットフリックスでも配信された映画「2人のローマ教皇」は、カトリック協会が、こんな映画を製作するんだ! と驚きと新鮮さがありましたが、伝統的な宗教も新しいかたちを模索しているように思われます。

非営利系の調査組織Pew Research Centerによる2019年の調査(つまり、コロナ前)によれば、アメリカでは、一般的な傾向としては「自分は、無神論者である、不可知論者である」あるいは「特に何もしない」と回答した人は2009年の17%から26%へと増えています。

しかし、2020年、コロナ後の同団体による調査によれば、米国の成人の24%が、パンデミックの影響で信仰が強くなったと答え、逆に信仰が弱くなったと答えたのはわずか2%でした。また、アメリカ人の10人に9人は、何らかの崇高な力を信じていると答えています。つまり、宗教への関心が強くなっているんですね。

同レポートによればこの増加は、黒人、女性、高齢者の間でより顕著であり、コロナウイルスがこれらの層に与えた影響が大きいことを反映している可能性があるとしています。

実際、英国のキリスト教系オンライン書店「Eden」では、2020年4月の聖書の売上が55%増加したそうです。これは、キリスト教だけの傾向ではありません。

Google Playのコーランアプリの全世界でのダウンロード数が、2月から3月にかけて倍増しているというデータもあります。日本でもお坊さんのユーチューバーとして有名な「大愚和尚」はチャネル登録者数が40万人もいて、人気を博しています。

このような新しいかたちでコミュニケーションを取る伝統的な宗教の団体も増えてきているんですね。宗教組織によるデジタル活用も盛んに行われています。特に、ネットによるライブストリーミングが盛んです。

キリスト教団体のTearfund(ティアファンド)の調査によれば、英国の成人の4分の1が、ロックダウン中に宗教的なオンライン・サービスを見聞きしたそうです。

■50万ダウンロードを記録したイスラム教の「ゲーム」

また、英国に「アルファコース」という名前で、キリスト教の観点から、人生の意味を考えるプログラムがあるのですが、2020年の春に、プログラムをズームに移行して以来、登録者数が3倍に増えたそうです。

レポートによれば、人々は、伝統的な宗教の持つコミュニティに価値を感じているのだといいます。

たしかに、コロナの影響で、学校や会社にいけなくなり、孤独を感じているのであれば、宗教は、コミュニティとして、孤独を和らげてくれます。

最近のGoogle検索トレンドによると、ブラジル、メキシコ、アメリカでは、イースターの日曜日に行われた宗教関連のライブストリームが、各国の人気ライブストリームのトラフィック数トップ100のうち30%以上を占めていたとのことです。

また、グーグルは、ソーシャル・ディスタンスが始まって以来、これらの国では、宗教行事が日曜日の最大のライブストリーム・イベントのひとつになっているとレポートしています。

私が面白いと思ったのは、イスラム教の「ゲーム」まで登場していることです。2020年の7月に、ドイツのデベロッパーBigitecが2019年にリリースした教育エンタテインメントアプリに「Muslim 3D」(ベータ版)があります。

同社は2020年に、このアプリのアップデートとして、3Dアバターを使ったメッカの「メタバース」をつくりました。このアプリの中で、グランドモスクなどの建物を、アバターで巡回することができるようにしたのです。このアプリは、イスラム教徒を中心に、50万ダウンロードを記録しているそうです。

私が特に面白いと思ったのは、このゲームの空間が、きちんとイスラム教へのリスペクトがあり、とても気品に溢れた世界観になっていることです。

ゲームといえば、「荒野行動」のように殺伐と撃ち合うものが多い中、このゲームは、知的なイントロダクションを充実させ、イスラム教の文化的な荘厳さをうまく表現しているのです。

これが素晴らしいなと思うのは、普段イスラム教にそれほど関わりがない人でも、イスラム教の豊かさや知恵を知ることができる点なんですね。リモートだから巡礼できない人に機会を与えつつ、オープンに学べる場にもなっています。

■インスタ映えする聖書をつくるスタートアップも

若い人向けのコミュニケーションの分野で、私が注目しているのは、キリスト教系スタートアップのalabasterという会社です。この新興企業は、聖書のエディトリアルデザインを、とても新鮮な目線でつくりかえています。

同社は、「instagrammable bible(インスタ映えする聖書)」をつくるんだと宣言していますが、若い人たちに「ハッ」と気づきを与えるような活動をしています。

まるで『kinfolk』などの美しいカルチャー雑誌のような、気品ある写真や、シンプルで格調高いフォントで構成された聖書のレイアウトは、同じ聖書の物語でも、新たな発見を与えてくれそうです。

ここまでメンタルケアの側面から、サイエンスやスピリチュアルの世界で起こっているさまざまな現象や事例を見てきました。

まさにセルフケアや孤独を癒すために、食生活のレベルから、宗教やスピリチュアリティまで、全般的に「癒し」が求められているように思います。

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廣田 周作(ひろた・しゅうさく)
ブランドリサーチャー
1980年生まれ。放送局でのディレクター、広告会社でのマーケティング、新規事業開発・ブランドコンサルティング業務を経て、2018年8月に、企業のブランド開発を専門に行うHenge Inc.を設立。英国ロンドンに拠点をもつイノベーション・リサーチ企業Stylus Media Groupのチーフ・コンサルタントと、Vogue Business(コンデナスト・インターナショナル)の日本市場におけるディレクターも兼任。

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(ブランドリサーチャー 廣田 周作)

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