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マツコ・デラックス、坂上忍も…中年以降も普通に使う「めっちゃ」は「超」を駆逐したのか

プレジデントオンライン / 2022年5月11日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RamCreativ

1948年に創設され日本語・言語に関する知を探究する研究機関「国立国語研究所」編の『日本語の大疑問』(幻冬舎新書)の売れ行きが好調だ。コラムにストの辛酸なめ子さんは「最近の若者が使う言葉を含め日本語がおおらかで懐が深い言語だということを再認識できます」という――。

■マツコも頻用「めっちゃ」は「超」を駆逐したのか

個人的にここ数年、強調表現である「超」から「めっちゃ」への変遷をなんとなく追っていました。「めっちゃ」はここ10年、若い世代に使われてきた言葉。30年ほど前は「超」が多用されていました。

「めっちゃ」は、40代以上は気が引けるのか、あまり大人は使っていないイメージでしたが、バラエティ番組でマツコ・デラックスや坂上忍など大人世代が頻用することで、年齢層の幅が広がっていきました。

同年代の友人が「めっちゃ」と使うのを聞くようになったのもここ数年です。2021年、出川哲朗が番組内で「超焦って、めっちゃ笑われて……」と、両方の表現が入り交じった発言をしているのを聞いて、大人はやはり「超」が脳に定着しているのかもしれないと思いました。

しかし「めっちゃ」が他の強調語を全て駆逐したわけではなく、2019年頃、「テラスハウス」に出ていた田辺莉咲子が、「めっちゃ」でも「超」でもなく「とっても」という表現をよく使っていたのが印象的でした。派手なイメージだったのが、丁寧な言葉遣いに好感度が高まりました。

そして2021年、番組内でギャルモデルのゆきぽよが「超センスいい」と発言したときは驚きました。ヤングの代表のようなタレントが「超」という強調表現を今も使っているとは。もしかしたらまだ「超」は死んでいないのかもしれない……。

「めっちゃ」も「とっても」も「超」も「すごい」も「非常に」も、今の世に共存しているのです。昨今、若者言葉は移り変わりが激しいと言われていますが、中には、死語と思われても復活したり、脈々と使われたりする例もあるのでしょう。「やばい」なんて江戸時代から使われているそうです。

■「やばみ」「うれしみ」の「み」はどこから来たのか

日本語はおおらかで懐が深い言語なのかもしれない……国立国語研究所編『日本語の大疑問』(幻冬舎新書)を読んで、改めてそう感じました。国立国語研究所あてに一般の人から寄せられた日本語に関する疑問に対し、専門家が丁寧に答えている本です。

国立国語研究所編『日本語の大疑問』(幻冬舎新書)
国立国語研究所編『日本語の大疑問』(幻冬舎新書)

第一章の最近の日本語についての質問には「若者ことばの『やばみ』や『うれしみ』の『み』はどこから来ているものですか」というものがありました。

従来用法では「み」がつかないはずの「やばい」「うれしい」といった形容詞に「み」を付けた“新用法”。同書によれば、わざと逸脱的表現を使うことで冗談めかした「ネタ」として感情や欲求を表現できる、とのことです。

「うれしさ」より「うれしみ」のほうがより具体的な感覚を表せるそうで、SNSで使うことで、共感度が高まります。このまま定着しそうな言葉です。

「『ちびまるこちゃん』のおじいちゃんのような話し方をする人は本当にいるんでしょうか」という、言われてみると気になる質問もありました。

確かに「◯◯じゃ」という言葉遣いは筆者の祖父の発言でも聞いたことがありません。実際にそういうタイプの人がそのように話すわけではないのに、キャラづけされた話し方が日本語にはあり、「役割語」と呼ばれるそうです。日本人が無意識のうちにイメージを共有し、後世に伝え続けているのでしょうか。

■「よくってよ」…遊女の話し方を女学生が好んで使用

この項で意外だったのは「お嬢様らしい『よくってよ』は遊女の言葉」というもの。

江戸時代の遊女の話し方を、明治時代以降の女学生が好んで使用、夏目漱石の小説などにも使われて定着したそうです。はすっぱな感じが、お嬢様にはむしろかっこよく感じられたのでしょう。いつの時代も女学生は、わざとワイルドな言葉を使いたがるものなのかもしれません。

イラスト=辛酸なめ子

さまざまな人種や時代の言葉を取り込む日本語。同書の第5章では「便利で奇妙な外来語」が取り上げられています。「どうして日本語には外来語が多いのですか」という素朴な質問もありました。ヨーロッパの言葉は、名詞が「性」を持っているので、どの性に属するかが決まらないと使うことができないとのこと。でも日本語は、読み方さえ決まればすぐにでも取り入れることができます。

というか、読み方すら統一されないまま入ってきている外来語もけっこうあるような……。最近話題の「Sustainable」(持続可能な)などは、「サステナブル」「サスティナブル」「サステイナブル」などが入り乱れています。大きなメディアが使った読み方、もしくは多数派が勝ち残っていくのでしょうか。

日本語は、単語そのものは語形変化せず、「◯◯する」「◯◯な」と、助詞や接辞を張り付けるので、「新語」を受け入れやすい、とのことでした。

読み方が統一されていないだけでなく、本来とは異なる発音が定着してしまうこともあります。「『シミュレーション』が『シュミレーション』と発音されるのはなぜでしょうか」という質問にはハッとしました。この2つの単語は個人的にもよく間違えていて、また同様に「フィーチャー」と「フューチャー」も、どちらが正しいのかわからなくなりがちです。

この質問に対する答えは、「英語の綴りは『simulation』ですから、正しいのは『シミュレーション』です」でした。ただ、本来とは異なる発音が多くの人によって繰り返し使用された場合、それは「発音のゆれ」とされるそうです。そして、言い誤りが定着して、正しい形と見なさせる場合もあるとか。

■「チルい」「きまZ」……日本語は“使ったもの勝ち”

例えば「新しい」はもともと「アラタしい」だったのが、平安時代に「音位転換」が起きて「アタラしい」で定着したそうです。「シュミレーション」もインフルエンサーが言い続ければ定着するかもしれません。

他にも、明治時代、犬が「カメ」と呼ばれたのも、誤解がきっかけでした。西洋人が犬を呼ぶときに「come, come」と言っているのを聞いて、「カメ」が犬を表す言葉だと思われたそうです。さすがに今は、誤解は解けたようですが、このように適当なノリで単語が生まれるとは、日本人はまじめに見えて実は自由な感性の持ち主なのでしょうか。

若い世代の略語や新語の使い方を見ると、日本人にもともと備わっている柔軟性を感じます。年を取るにつれ、融通がきかなくなって、昔の表現に固執してしまいますが、何歳になっても若者言葉を取り入れてもいいし、新語を作ってもいい、と思えば、可能性が広がり、脳が若返りそうです。

といっても「チルい」(気持ちが落ち着く意味のchill outのチルを形容詞化)とか「きまZ」(気まずいの意、読み:きまぜっと)とか、いきなり使うのには勇気がいりますが……。日本語は「使ったもの勝ち」かもしれない、と、この本を読んで勇気をもらいました。

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辛酸 なめ子(しんさん・なめこ)
漫画家/コラムニスト
武蔵野美術大学短期大学部デザイン学科卒。雑誌連載、執筆活動の合間を縫ってテレビ出演も。

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(漫画家/コラムニスト 辛酸 なめ子)

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