橋下徹「転職はチャンス。しかし社会人1年生なら、まずは仕事の基礎力を固めるべきです」
プレジデントオンライン / 2022年7月8日 9時15分
早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。 - 撮影=的野弘路
※本稿は、雑誌「プレジデント」(2022年7月15日号)の掲載記事を再編集したものです。
■Question
入社後すぐ辞めてしまう若手に悩んでいます
入社後すぐに転職する人が増えていると聞きます。転職市場の活性化はいいことだとしても、入社後1年、場合によっては数週間で見切りをつける若者たちの存在をどう考えたらいいか、職場のリーダー層は一様に悩んでいます。橋下さんはどう考えますか。
■Answer
転職に踏み切るとき、どんな基準で臨むべきか
最初に僕の立場を表明しておくと、僕は大いに転職推進派です。そもそも僕自身、1つの組織に所属して仕事をしてきた人間ではありません。弁護士、コメンテーター、知事、市長、そしてまたコメンテーター……、様々な形態で仕事をしてきた人間ですから、よけいに転職に対しては好意的なのかもしれません。しかし、そうした立場を離れて公平な見方をしても、1つの企業に骨をうずめる終身雇用的発想はもう時代遅れです。
周囲の知人を見ていても、大企業、一流企業に就職し、長年働き続けた人が、50歳を過ぎた頃、「これでよかったのだろうか」と悩んでいる様子を少なからず目にします。給料がよく福利厚生も手厚い、社会的地位もそれなり。だけど50歳を過ぎると見えてくるんですよね。たとえば役員になれる人と、なれない人の差が。そうなってから人生を振り返り「もっと若い頃に転職し、新ステージに挑戦すべきだったのでは」と、後悔する人もいるのです。
転職をめぐる環境は、前の世代と比べると大きく変わってきています。かつては公的機関の職業安定所(ハローワーク)だけが仕事の紹介をしていましたが、今やリクルートをはじめ、本当に多くの民間企業が、仕事の紹介・斡旋・仲介事業をしています。
かつてに比べ、自分に合う仕事を見つけるチャンスは格段に広がっています。今や「転職」は決してネガティブなことではなく、自らを大きく成長させるポジティブなチャンスととらえるべきでしょう。――と、ここまでは議論の大前提。僕が論じたいのは、転職するのはいいとして、そこにどんな基準を設けるべきかということです。
それは「今の仕事で自分が今後も成長できるか」に尽きます。まずは「この職場、この仕事で何を学べるか」をしっかり見つめてください。
社会人1年目なら、仕事の基礎力をまずは固めるべきでしょう。小学生時代、勉強には学ぶ順序があったはずです。足し算・引き算・九九・分数……、これらを飛び越えて、一気に方程式や微分積分を理解できる1年生などいません。社会人1年生も同様ではないでしょうか。
基本の挨拶、手紙やメールの書き方、資料のつくり方から始まり、経理や決算書の読み方、組織運営やマネジメント……。いわば「仕事の九九」、さらには「マネジメントの九九」が備わっていないのに、より上のポジションを望んでも無理ですよね。
とはいえ、大学時代に起業して活躍している若手もいるじゃないか、という声も聞こえてきそうです。もちろん、そういう人がいるのは知っています。ただ、これは僕の想像ですが、若きリーダーたちは、早めに「仕事の九九」「マネジメントの九九」をマスターしているのです。彼らの多くは、上記のことを熟知したうえで、学生時代から準備を怠らなかったのでしょう。
なぜわかるかというと、僕自身がそうだったからです。大学卒業後に司法試験に合格し、法律事務所に所属。その1年後の28歳には独立し、自分の事務所を立ち上げました。早い段階で独立できたのは、在学中から「仕事の九九」や「マネジメントの九九」を意識して勉強してきたからです。
あの頃は司法試験対策に加え、簿記や会計の基礎、経営論やマネジメント論も読み漁りました。取引先のお客様と接したときに、どういう言葉遣いをすべきか、おごってもらったときにはどういう形でお礼をするのか、社会人としての一般マナーも、意識して身に付けてきたつもりです。もし、大学時代にそうした意識を持たず、漫然と過ごしていたら、もっと違う30歳を迎えていたでしょうね。
■自分の能力を高めることを一番に考えるべき
先日、僕の長女が転職しました。彼女なりに「3年」という目標期間を定め、「何を学ぶのか」の課題をクリアしてのステップアップです。もちろん職場に貢献し、しっかり話し合っての円満退職だと聞いています。クリエーティブな職種だという理由もあるのですが、次の職場では給料も上がり、週休3日という、彼女の求める働き方を手に入れました。父親の僕が「1つのところにずっと勤めるべきだ」という価値観ではなく、「自分の能力を高めることを一番に考えるべきだ」と言い続けてきたから、その考え方を実践してくれたのだと思います。もっとも、僕には「今度転職するから」と事後報告だったんですけれど(笑)。
ところで、どれくらいの年数を勤めたら、転職の時機なのか。「石の上にも3年」という言葉がありますが、僕は年数にこだわる必要はないと思います。大切なのは費やす時間ではなく、「課題・ステージ」です。仕事のタイプや質により、目標となるスキル・領域の習得期間も異なるでしょう。
転職は、自らの力を確認し、それを高める絶好のタイミングです。「自分はどの領域で活躍したいか」「今、何ができるか」、そうしたスキルや能力の棚卸しから始めてみてください。すると不足している能力は何かが見えてきますから、その能力を上げることで次の職場にチャレンジすることができるでしょう。あるいは、能力を身に付けるために、現在の職場よりも適した環境へ移るという決断もできるのです。
他方、このように自分自身を客観的に見ることができず、給料や福利厚生などの待遇や、現職よりも良好そうな人間関係といった外的要素に釣られて転職を考えるようだと、いつまで経っても「青い鳥」を求めて居場所を転々とするだけになるでしょう。
自分の能力を付加価値と言い換えてみると、付加価値が上がれば、転職にともない(転職しなくても)給料や待遇といった報酬は上がっていきます。よりよい待遇を求めるには、自分の能力開発に励むことが王道であり、近道でもあるのです。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美 撮影=的野弘路)
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