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結局は「安かろう悪かろう」なのか…死亡事故まで起きたジェネリック薬の業界団体がすべての疑問に答える

プレジデントオンライン / 2022年7月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM

この2年、ジェネリック医薬品をめぐるトラブルが相次いでいる。信頼を取り戻すことはできるのか。東京新聞論説委員の五味洋治さんが日本ジェネリック製薬協会広報委員長の田中俊幸さんに聞いた――。(第2回/全2回)

※本稿は、五味洋治『日本で治療薬が買えなくなる日』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■ジェネリック医療品のシェアは下がっていない

ジェネリック薬は、この2年間大揺れが続いた。製薬メーカーでつくる日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)広報委員長の田中俊幸さんは、メディアの取材に応じる一方、全国を回って協会としての取り組みを説明してきた。協会の会議室でじっくり話を聞いた。

——協会の歴史は?

【田中】1965年12月8日が設立日ですから、56年が経過しています。ジェネリック医薬品の製造販売を主な事業とする会社が正会員として、2022年4月1日現在、37社が加盟しています。初めて聞く名前もあり、こんな会社があるんだという印象かもしれませんが、この37社で、日本で今、流通しているジェネリック医薬品の約4分の3弱を提供しています。医薬品の製造に必要な製造機器メーカーさんなども賛助会員として参加しています。

そして当協会は、ジェネリック医薬品に関しては、厚労省、外部の団体様との窓口も引き受けさせていただいています。

——不祥事続きでジェネリック医薬品のシェアが下がったのでは?

【田中】厚労省から「最近の調剤医療費(電算処理分)の動向」が月別に発表されています。直近の2021年10月は81.7%でした(*1)。決して使われる比率が減っているということはないようです。月によっては減っていますが、大きく落ちているということはありません。

——日本のどこで主に使われているのでしょうか?

【田中】先の資料から都道府県のページを見ますと、東京都、神奈川県、大阪府、この3カ所が多いことが分かります。この3カ所で日本の約4分の1の薬剤費が使われています。つまり大都市圏となります。東京だけで見れば全国の11%ぐらいを占めています。県別に見れば、徳島県の普及率が低いのですが、ここ最近の伸び率は全国で1番の伸びとなっています。

なお、国の医療費自体を削減するには東京都、神奈川県、大阪府で、ジェネリック医薬品の使用が進むことが期待されています。

(*1)ジェネリック医薬品の数量シェア(数量ベース)=[ジェネリック医薬品の数量]÷([後発医薬品のある先発医薬品の数量]+[ジェネリック医薬品の数量])

■2516点の医薬品が出荷困難な状態になっていた

——供給不安になっている薬の数は?

【田中】日本製薬団体連合会(日薬連)が2021年11月18日に発表したアンケート結果の数字によりますと、3143品目が8月末時点で「欠品・出荷停止」、「出荷調整」となっていました。調査対象の20.4%を占めます。この数字はジェネリック医薬品だけではなく、すべての医薬品です。薬が全くないわけではないのです。

例えば3143品目の中には、本当に薬の在庫がないというものもあれば、薬はあるけども、限定的に出荷を停止しているというものがあります。限定的に出荷を停止しているというのは、例えば私の会社が、ある医療機関とお付き合いがあり、薬を使っていただいている場合に過去の実績分は確保します、というようなことです。

ところが今までお付き合いがなかった、もしくは違う薬を使っていました、という場合、ご注文をいただくとなると、新規のご注文となりまして、現在は対応ができない状況ですということになります。私たちが2022年5月に、会員社を対象に行った調査では2516点の流通が滞っていました。

■供給不安が続いている5つの理由

——なぜいつまでも出荷調整が続くのでしょうか。

【田中】現状の供給不安には、大きく5つのパターンがあると認識しています。1つ目は、当初の小林化工、日医工の事案に起因するものです。小林化工は2021年2月9日付で116日の業務停止の行政処分、その後、日医工が2021年3月3日付で医薬品製造業32日間、医薬品製造販売業24日間の業務停止の行政処分を受けました。

行政処分を受け、陳謝する小林化工の小林広幸社長(右)ら=2021年2月9日、福井県あわら市
写真=時事通信フォト
行政処分を受け、陳謝する小林化工の小林広幸社長(右)ら=2021年2月9日、福井県あわら市 - 写真=時事通信フォト

当初、小林化工の影響は、残りのジェネリック医薬品メーカーによる増産対応、在庫の放出等で何とかカバーしました。そのようなギリギリの状況の中で、さらに日医工が業務停止となりました。日医工は品目数も数量も多かったため、各社の対応で十分にカバーしきれていない現状があります。

2つ目は現在、当協会会員会社で進めている自主点検に起因するものです。現在、GE薬協で進めている信頼回復に向けた取り組みの中で製造販売承認書(医薬品を作るための設計図のようなもの)と製造の実態に齟齬(そご)がないかを、各社と協議して定めた一定の基準に則って自主点検を行って来ました。一部自主回収が発生し、新たな出荷調整のような問題が発覚したというものです。

3つ目は、間接的に発生したものとして、各社の増産対応に起因したものになります。ジェネリック医薬品は少量多品種製造であるため、綿密なスケジュールが立てられております。また医薬品には複雑な製造工程があるものも存在します。製造するのに他の医薬品の倍の時間が必要なものや、製造工程が難しいものもあります。

4つ目はコロナの影響です。これには軽微なものと大きなものとがあります。軽微なものではコロナワクチン接種後の発熱時に使用するアセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)です。急激な需要があり一時的に足りないことがありました。

■大手2社の判断によって状況が変わる可能性も

大きなものは医薬品の原薬に関する問題です。医薬品の原薬の生産は先発品、ジェネリック医薬品を問わず海外に依存しており、日本は6割程度を海外から輸入しております。コロナの影響で原薬を製造している国がロックダウンして工場の生産がストップした影響などがありました。

その後、医薬品のサプライチェーンの問題として経済安全保障としても取り上げられることになりました。現在は、原薬の問題は解消されております。

最後に5つ目として2021年11月29日に発生した日立物流(東京都中央区)の子会社の物流倉庫による火災が挙げられます。当協会の会員会社でも被害を受けた会社がありました。

なお、今後の可能性として、ウクライナ危機による影響が懸念されます。各社、その確認と対策を講じているとのことです。ジェネリック医薬品でいえば沢井製薬と(田中氏が所属する)弊社東和薬品が、供給量が相当多いので、この2社がまずは先頭をきって出荷調整を解除しないと、それ以外のメーカーは解除しづらいと思います。大手が解除しないのに、うちだけ解除して注文が集中したらたまらないという気持ちもあると思います。

■供給不足が原因の健康被害は出ていない

——ジェネリック医薬品が不足して、健康に問題が出たケースはあったのでしょうか?

【田中】調べてみたのですが、特定のジェネリック医薬品が不足したことで健康上、実害が出たというケースは把握できませんでした。なんとか別の製品で代替していただいているものと思います。代替品は成分を変えて対応することはあります。例えば花粉症の薬、よく知られている薬としてフェキソフェナジンなどがありますが、別の成分の薬もあります。

——骨粗鬆症の治療薬エルデカルシトールの不足に困った人が多いですが。

【田中】このジェネリック医薬品は2020年8月に2社が発売しました。発売後2カ月ぐらいでかなりジェネリック医薬品に置き換わりました。結局、ジェネリック医薬品メーカーは2社しか出せませんでした。ジェネリック医薬品メーカーが新製品を出さないのはいろいろなケースがあります。今回は、先発メーカーが特許権侵害の訴訟を行っており、裁判を避けるために出さないケースでした。

そして、その訴訟中に市場に供給される数が減少したことにより、供給不安が発生してしまいました。その後、裁判で先発メーカーの訴えは棄却されています。日本骨粗鬆症学会も、エルデカルシトールの代替品への切り替えを避けるよう求める通達を出されています。今は市場に供給される数も元に戻り、問題はほぼ解決しています。

■抗精神薬で問題が発生しているのはなぜか

——代わりの薬は見つかるといいますが、抗精神薬では問題が起きるケースが報告されています。

【田中】精神科の患者様は、薬を替えることを敬遠されるケースが多いと思います。残ったメーカーが一生懸命、増産対応に取り組んでいるものの、メーカー同士が生産量を調整し合うことは、独占禁止法の違反になりかねません。メーカー同士のやり取りで、「あなたのところでは、この3月から4月までこのぐらい出してください。その後、私の方で調整します」とすると、問題になります。

公正取引委員会は生産量の調整をすれば、最終的には違法な価格調整につながると考えていると思います。

経済の需要曲線と供給曲線、それが交わるところが均衡価格となります。それに合わせて供給量を調整するということが、結果的に価格操作であるという見方だと思います。ですから、医薬品が抗精神薬で特殊だからといっても、対象外にはできないということでしょう。

■検査体制を欺いた悪質な二重帳簿

——厚労省や地元の自治体の検査体制が甘かったのではないでしょうか?

【田中】私は検査体制(査察)が甘かったとは思いません。査察官には適正な教育が行われていますし、数多くの査察の経験もされています。小林化工は、不正が発覚しないように二重帳簿を作っていたようです。二重帳簿まで作られてしまうと査察で見抜くことは、かなり難しいと思います。

帳簿と電卓
写真=iStock.com/peepo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/peepo

一方で都道府県による査察は、強制力があるわけではないので、「今から机のものに手をつけるな」というような強制的な調査はされません。いわゆる性善説によって成り立っています。「さすがに医薬品の製造において不正はないだろう」という前提かと思います。

ただし、通常の査察で確認できることもありますし、現場で長年経験を積んだ方であれば、あまりにも綺麗にできすぎたデータは怪しいといった、いわゆる経験をもとにした「勘」みたいなものがあるようです。

医薬品の製造は、人間が関わっていますから人為的な誤りをゼロにすることはできません。しかし、エラーをチェックし、気がついたら、それをきちんと報告できるような仕組みを作る必要はあります。エラーが出ました、と報告することで人事評価が下げられるようなことは許されないと思います。また、メーカーである以上は問題が起きた時には、原因をしっかりと分析し、改善をしないといけません。隠蔽(いんぺい)をしたがるのは個々の企業文化に関係すると思います。

他の業界でもいわれるように、急成長した会社ほど危ないのかもしれません。どこかに無理があるかもしれないということです。

■厚生労働省は「シェア80%を目指す」という方針を出したが…

——普及率80%を急ぎすぎたのではないでしょうか。

【田中】2015年に「ジェネリック医薬品の数量シェア80%を目指す」骨太の方針の素案が出された時、われわれ業界団体は、達成時期に関しては素案の時期より5年ほど時間の猶予をいただきたいと相談をさせていただきました。目標の設定を2018年3月ではなく、2023年の3月まで待ってほしいと。

当時の生産能力では80%の数量を生産することができず、製造設備を新規に投入し、新しく工場も建てないといけないような時でしたので、そのためにはプラス5年程度は必要ですと相談させていただいていました。当時の歳出改革でも発言させていただいています。また当時の厚労省も理解を示してくれ、多くの国会議員の皆様にも、われわれの協会の言い分が伝わるような活動をしていただきました。

「厚労省」と書かれたニュースの見出し
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

しかし、残念ながら、「2016、17、18年」の3年間の社会保障費の伸びを1兆5000億円に抑えるという目的があったことも背景にあったようで実現は叶いませんでした。結果的に、「骨太の方針2015」の中に「ジェネリック医薬品の数量シェアは2017年中に70%以上とするとともに、2018年度から2020年度末までの間のなるべく早い時期に80%以上とする」という目標が掲げられました。

そしてこの数値目標を達成するためには、ジェネリック医薬品メーカーは年間で約15%程度の成長をしないといけませんでした。そのために中途採用を増やしたり、あるいは新入社員の採用人数を増やしたり、かつ、教育にも苦労しながら取り組んできました。品質を担保する教育に頑張り続けた会社と、それを疎かにして、目先の売上に走った会社があると思われます。それが分かれ目になったと思います。

■供給不安の解消には早くても2年程度はかかる

——供給不安は2年で終わるのでしょうか。

【田中】正直、2年で済むかどうかは分かりません。今回の問題で日医工の分を一生懸命残ったメーカーでカバーしていますが、今ある設備ではもう限界に近い状況だと思います。増産するために、既存の工場の設備を増強し、新しい工場の建設の計画を立て取り組んでいます。ただ医薬品を増産して製造するためにはバリデーション(*2)という作業が必要になります。

今ある工場を、道路1本離れた所に移して増産するだけでも、新たにバリデーションが必要となり、データに問題がないか繰り返しチェックが必要となります。1つの品目を別の工場に移すだけで、6カ月ほどかかります。そこから計算していくと、早くて2年から2年半ぐらいかかるという見方が多いかと思います。

(*2)医薬品・医療機器を製造する工程や方法が正しいかどうかを検証するための一連の業務のこと。科学的根拠や妥当性があるかを調査する。

■社長自ら不正を指示していた小林化工

——小林化工と日医工の教訓はどう生かされていますか。

【田中】協会の取り組みとしては5項目を挙げています。

1、コンプライアンス、ガバナンス(*3)、リスクマネジメントの強化
2、品質を最優先する体制の強化
3、安定確保への取り組み
4、積極的な情報の提供と開示
5、その他、協会活動の充実、国等との連携

です。なぜ1番目に、コンプライアンス、ガバナンス、リスクマネジメントを挙げたかというと小林化工、日医工ともに第三者委員会の調査報告書が出ましたが、読んでみると法令遵守に対する意識不足が目立ちます。小林化工は、社長自ら不正を指示していたので、会社全体のガバナンス体制とコンプライアンスの欠如の問題ともいえます。

それに対して日医工は、製造現場の責任者による不正の指示によるもので、現場のガバナンス体制の問題といえると思います。こういったところが明確になったので、一番の教訓は、やはりこの対策の強化だと思います。徹底的に業界団体として会員会社に取り組みのお願いをしています。

また内部通報制度の設置は、300人以内の会社は努力規定となっていますが、あえて設置を依頼しています。内部通報制度は抑止力になりますので。まだまだ取り組んでいる最中というのが実態です。ただ、単独の会社としてでは動きが遅くなりそうなことを、業界団体としてきちんとリードしたいと思っています。

(*3)健全な企業運営を行う上で必要な管理体制の構築や、企業の内部を統治すること。

■失った信頼をどのようにして取り戻していくのか

——ジェネリック医薬品に対する信頼をどう取り戻すのでしょうか。

【田中】「ジェネリック医薬品があってよかった」と言っていただくことです。

国民の9割以上はジェネリック医薬品という名前はご存じのようですが、「安い」ということだけしか知っていただけていないようです。実は安いだけではありません。先発医薬品が独占販売期間に副作用等が出たとします。ジェネリック医薬品は、先発医薬品で安全性、有効性で問題ないものを選んで出しています。逆に言いますと、安全性は高いとも考えられるのです。

五味洋治『日本で治療薬が買えなくなる日』(宝島社新書)
五味洋治『日本で治療薬が買えなくなる日』(宝島社新書)

細かいところにも、いろいろ工夫をしています。例えば、大震災の教訓から、有用性が高まっている、水がなくても飲めたりして、口の中で溶けやすくする剤形です。そういう工夫は、年配者で飲み込む力が弱まる人にも大変役に立ちます。また、薬に製品名を印字することもあります。飲み間違いがないための工夫です。これもジェネリックメーカーが始めたものです。

患者様から薬のにおいがきつく嫌だという声があれば、コーティングを施すことで、においを軽減させる工夫もしています。マスキングといいます。実際には、他にも工夫をたくさんしています。単に先発医薬品と同じものというわけではありません。有効成分は一緒ではありますが、添加剤を変えることにより、形を小さくしたり、飲みやすくしたり、いろいろな工夫をしています。今回の問題により、ジェネリック医薬品に対する信頼を失墜させてしまい、多くの皆様にご迷惑をおかけしてしまいました。

引き続き、信頼回復に向けた取り組みを継続し、その取り組みの内容をしっかりと説明していきたいと思っています。

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五味 洋治(ごみ・ようじ)
東京新聞論説委員
1958年長野県生まれ。82年早稲田大学第一文学部卒業。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年韓国延世大学校に語学留学。99~2002年ソウル支局、03~06年中国総局勤務。08~09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大学に客員研究員として在籍。現在、論説委員。主に朝鮮半島問題を取材。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないのか』(創元社)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋)、『父・金正日と私 金正男独占告白』(文春文庫)、『女が動かす北朝鮮 金王朝三代「大奥」秘録』(文春新書)などがある。

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(東京新聞論説委員 五味 洋治)

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