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どうやって岸田政権を追い詰めるのか…放っておくとすぐにケンカになる野党が通常国会でやるべきこと

プレジデントオンライン / 2023年1月20日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

2023年の国会はどうなるのか。ジャーナリストの尾中香尚里さんは「2022年は前半と後半で野党のパフォーマンスが真逆になった。後半が野党ペースになったのは、立憲と維新が部分的に手を組んだからだろう。野党は『政権監視と批判』という一点で、もっと気軽に連携すべきだ」という――。

■2022年の野党は「後半に巻き返した」

通常国会が23日に召集される。圧倒的な議席数を持ちながら、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題などで大きな逆風にさらされ、昨秋の臨時国会では完全に野党ペースを強いられた岸田政権。局面は変わるのか、それとも政権の体力が削(そ)がれ続けるのか。それを決めるカギは岸田政権よりも、むしろ野党の側が持っていると思う。

昨年の国会を振り返ると、前半と後半で野党のパフォーマンスは真逆になったと言っていい。

前半の通常国会では、直前の衆院選で敗れた上に「批判ばかりしているから負けた」などという根拠のない批判にさらされた野党第1党・立憲民主党が、萎縮して存在感を失う一方、野党第2党の日本維新の会や、さらには国民民主党のように与党にこびて野党間の「違い」をやたらアピールする政党もあり、野党は全く一枚岩で戦えなかった。

この結果、政府提出の法案はすべて成立。異例の「無風国会」となってしまった。

■「野党ペース」の国会を実現

ところが、後半の臨時国会では状況が一変した。参院選の選挙期間中に起きた安倍晋三元首相の銃撃事件と、それを機に噴出した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党の関係、閣僚の「政治とカネ」問題などへの国民の批判が吹き荒れ、岸田政権は見る間に勢いを失った。

野党は一転して攻勢に転じ、1カ月で3人の閣僚を辞任させた。旧統一教会被害者救済新法では、野党自身が議員立法を提出するなどして岸田政権を突き上げ、法案提出の先送りを狙った岸田政権を政府案の提出に追い込んだ。さらに野党の意見をのませて、政府案の修正までやってのけた。少数野党とは思えぬパフォーマンスで、完全に「野党ペース」の国会だった。

■安倍氏の死去と、立憲―維新間の部分的共闘

与野党の勢力図がさほど変わらないのに、国会の空気感が180度逆転したのは、安倍氏の死去や旧統一教会問題の発覚という「外的要因」に負うところが多い。しかし、もう一つの大きな要因は、立憲と維新が国会内で、部分的にとはいえ「手を結んだ」ことだったろう。

維新は安倍・菅両政権と良好な関係を築き「ゆ党」的立場を謳歌(おうか)していたが、安倍氏が死去し、菅義偉前首相も現時点で表舞台から退いたこと、両氏と親しかった維新の松井一郎代表が参院選での伸び悩みを理由に辞任したことで、空気が微妙に変化した。「泥船」の岸田政権から距離を置き始めた維新に、立憲が近づいた。

野党第1党と第2党が「政権監視と批判」で足並みをそろえられるか否かは、国会における野党全体の戦闘力に大きく影響する。両党が無駄な同士討ちを避け「一枚岩」感を出せたことが「野党ペース」の国会につながったのは否定できないだろう。

特に通常国会で維新から散々たたかれていた立憲にとってメリットは大きかった。「国会内での部分的連携」で維新に「後ろから撃たれる」状況を食い止めた、有り体に言えば維新の「口を封じた」ことになるからだ。

この「野党ペース」を通常国会でも持続できるのかが、今年前半の野党の課題だろう。

■防衛費増額問題では立憲と維新のスタンスは異なるが…

岸田文雄首相は年頭の記者会見で、旧統一教会問題に触れようとしなかった。被害者救済新法という「ほんの入り口」のハードルを一つ越えただけで、この問題を「厄介払い」したつもりになっている。

野党がそれを許すはずがない。被害者救済新法の成立で「旧統一教会と自民党との関係」問題にまでけりがついたと考える人は、誰もいないだろう。野党各党がこの問題で今後も足並みをそろえることは、さほど難しくないはずだ。

しかし、臨時国会が閉会した途端、岸田政権はいわゆる「安全保障関連3文書」を改定し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を明記した。さらに、2023年度からの5年間で防衛費を増額し、財源を増税で賄うことを、国会の議論がほとんどないままに強引に決めた。しかも、肝心の「どのように増税して財源を確保するのか」の見通しは、ほとんど立っていない。

当然、通常国会ではこの問題が焦点に浮上する。そして立憲と維新は、この問題ではスタンスがかなり異なる。立憲は敵基地攻撃能力の保有を批判し、維新は容認している。

もしもメディアが岸田政権と同様の発想で「旧統一教会問題は終わったこと」という態度を取り、通常国会をあたかも「安保一色の国会」であるかのように一大キャンペーンを張ったらどうなるか。予算委員会などで安全保障の議論がなされるたびに、野党各党の質問のトーンの違いをあげつらって「同床異夢」「足並みに乱れ」などと騒ぎ立てたら、各党に心理的な影響を与えないと言えるだろうか。

■野党の一丁目一番地は「政権監視と批判」

また、今年は4月に統一地方選がある。中選挙区や大選挙区が主体の地方選挙は、各党が独自の党勢拡大をより重視する。特に、立憲も維新も、先の衆院選や参院選では「地方組織の手薄さ」という弱点をさらけ出した。地方議員を増やし「地力」をつけることは、両党にとって急務だ。

野党各党が「独自の戦い」への誘惑に駆られ、国会活動に影響を及ぼす可能性も否定はできない。

こういう政治状況の中で、それでも野党は昨秋の臨時国会のように主導権を握り続け、岸田政権を追い詰めていけるかが問われることになるのだが、ここで野党自身も含め、そろそろ私たちが認識を新たにしたいことがある。

国会における「与党」「野党」と、一つひとつの政党では、その役割は全く違うということだ。

政党は「目指す社会像」を同じくする(はずの)個々の政治家が、まとまってその社会像実現に向けて行動する政治集団だ。同じ政党のなかに「目指す社会像」の方向性が全く違う政治家がいたら、それはその政党の存立に関わるだろう。

しかし、国会での「与党」「野党」の役割は、それとは異なる。

国会での「野党」の定義は明確だ。連立政権を組んでいる自民、公明両党以外の政党は、保守党だろうがリベラル政党だろうが、すべからく「野党」である。「ゆ党」なんて存在しない。

そして、国会における野党の最大の役割は「政権の監視と批判」である。旧統一教会被害者救済新法のように、野党が政府に政策を提案してその実現を図ることもあるが、それ以前にまず、一丁目一番地として「政権監視と批判」がきちんと行えなければ、野党の存在価値はない(昨年前半の立憲は、そのことを忘れて政権批判の手を緩めたために、有権者にそっぽを向かれ、参院選大敗につながった)。

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写真=iStock.com/D-Keine
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/D-Keine

■国会では「野党である」だけでまとまっていい

これはあらゆる野党が共通して持つべき役割であり、個々の野党の政治スタンスは関係ない。どんなに「目指す社会像」が違っても、国会では今目の前にある政権与党の問題点を洗い出し、追及し、改めさせるのが、それぞれの野党の仕事だ。野党間の競争は国会外でやるべきなのだ(昨年前半の維新は、そのことを忘れて「国会内での立憲批判」に終始したために、野党全体の勢いを削ぎ、参院選での自らの伸び悩みにつながった)。

国会内で野党間の協力という話が出ると、メディアはなぜか「選挙協力は?」「連立は?」という話に、一足飛びに飛躍する。国会での連携と選挙協力、連立協議までを雑駁(ざっぱく)に、一緒くたに論じ「どうだ、まとまれないだろう?」と突きつけてくる。

そうなれば野党各党や支持者の間に「確かに、あの党とは連立を組めない」「選挙で候補者調整してあの党の候補を推薦するなんて無理」などと、ネガティブな反応が生まれてくる。「野党である以上、立場は違っても国会ではそろって政権を批判する」という当たり前のことに、二の足を踏む空気が生まれてしまう。やがて野党の連携が乱れ、結果として「与党ペースの国会」が出来上がる……。

私たちはこれまで何度も、そんな国会を見せつけられてきた。

もう、こういうことはやめにしたい。「野党はただ『野党である』というだけで、国会内では組んでも当然なのだ」という考え方を取り戻したい。

■自民と公明も「目指す社会像」は異なる

民主党政権の時を思い出してほしい。自民党と共産党は野党として、共に民主党政権を激しく批判していたが「自民党と共産党が選挙協力する」「連立を組む」などということは、誰も考えていなかった。それでいいのだ。

だいたい「目指す社会像」がどう見ても全く違う自民党と公明党の連立を容認しておきながら、野党にだけ「連立を組めるほどの社会像の一致」を執拗(しつよう)に求め続けるのはおかしくないか。そういう言い方は結果として野党全体のまとまりを崩し、その勢いを削ぎ、自公政権を利しているだけだ。

野党各党が一枚岩で政権に立ち向かえるか否かが、野党全体の存在感や影響力にどれほど大きな違いを生むかは、昨年の通常国会と臨時国会の違いを振り返れば分かることだ。野党各党は改めて、国会における「野党」と、それ以外の(例えば選挙などでの)「個々の政党」の違いをしっかりと切り分けた上で、政権与党に効果的な戦いを挑んでほしい。

確かに、国会内での野党の連携によって各党の間に信頼関係が醸成され、その中からいくつかの政党が選挙協力や将来の連立協議に進む可能性はあるかもしれない。だがそれは結果論であり「その後」の話である。そういうことは「国会の外で」、必要だと思う政党が必要に応じて議論すればいい。

■立憲は共産との連携をさらに強めるべき

もういっそのこと、野党は今国会で「さらに大きな『構え』」に挑戦してはどうか。国会内での維新との関係を維持したまま、共産党との連携をさらに強めるのだ。

このままでは、仮に立憲と維新が連携を維持できても、今度は共産が、野党分断をあおりたいメディアの「飯の種」になってしまいかねない。ただでさえ通常国会は「安保国会」のレッテルが貼られそうな空気だ。「立憲と維新の接近に共産が反発、足並みに乱れも」などと評され続ければ、やはり野党全体の戦力を削ぎ、岸田政権を利することになりかねない。

立憲の岡田克也幹事長は、民主党が下野した後の党代表として、2016年に日本維新の会の流れをくむ「維新の党」と合流して「民進党」を結党する一方、同年の参院選では共産党も含む野党間の選挙協力を進めた。ざっくり言えば「右と左の双方に『構え』を広げた」のだ。ちなみにこの時の幹事長は、立憲を創設した枝野幸男氏である。

国会内でこの再現を目指してはどうか。この役割を期待されてこその岡田幹事長ではないだろうか。

さっそく、と言うべきなのか。立憲民主党の安住淳、共産党の穀田恵二両国対委員長が16日に会談し、防衛費増額に伴う政府の増税方針や旧統一教会問題での連携方針を確認した。

もちろん、自民党がこれを黙って見ているわけがない。茂木敏充幹事長は翌17日、維新の馬場伸幸代表と会談し、憲法改正やエネルギー政策、安全保障などで協力を進めることで一致し、野党間にくさびを打ち込む動きを見せた。だが、さらにその翌日の18日、今度は立憲の泉健太代表と維新の馬場代表が会談し、通常国会での「共闘」継続で合意した。野党の動きが一歩先を行っている感があり、面白い。

「構え」の作り方はこれで良いのではないか。別に維新と共産が直接連携する必要はない。立憲を「媒介」として使い、結果として国会での「大きな構え」ができれば良いのだから。

いずれ維新は「自公政権と立憲ほか野党勢力のどちらに軸足を置くのか」を突きつけられることになるだろうが、それは今国会で与野党のどちらが良いパフォーマンスができるかに左右されるだろう。その意味でも野党の戦いは重要である。

目指す社会像がバラバラであっても、少なくとも国会内では「岸田政権と戦う」の一点でまとまれる。「提案型」などと称して政権にすり寄ることもない。筆者が見たいのは、そんな普通の野党である。

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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。

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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

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