元グーグル社員でも再就職できるとは限らない…突然のリストラにも即対応できる会社員に共通する4大特徴
プレジデントオンライン / 2023年3月16日 10時15分
■日本にも押し寄せる米テック企業のレイオフの波
米テック企業のレイオフの波が日本にも押し寄せているようだ。それに対して、グーグル日本法人で働く従業員らが労働組合を結成して団体交渉に臨んでいるというニュースも話題になっている。
外資系企業がおしなべて同じとは言わないが、特にテック企業は景気が良いときには事業ニーズに応えるべく人員を急拡大する一方で、景気後退局面では大きな人員削減を行うのは過去から現在に至るまで普通に行われてきたことだ。
ブランド認知度も高いし、報酬も高い。だが、好景気時には見えない外資系企業の負の側面を知って入社する必要があるということだ。彼らは、“Talent on Demand”、つまり「必要な時に必要な人材を採ってくる」がビジネスの基本となっている。ということは、Demandがなくなれば削減するというのが当然だということだ。
これは外資系の話で日本企業に勤める社員には関係のないことかというと、そうも言っていられなくなっている。コロナ禍以来すっかりリストラの話題は出ていないが、金融機関や政府支援によって、本来は倒産しているはずのゾンビ企業が数多あると言われており、今後も持ちこたえられる保証は全くない。
■社員による「自律的なキャリア形成」の支援が必要
また収益が十分に確保されている企業にとって、喫緊の課題となっているのが「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書」、通称「人材版伊藤レポート」及びそれによって推進すべき「人的資本経営」への対応だ。よくご存じない方もネット検索すればいくらでも説明が出てくるので、ここではポイントだけお伝えしたい。
人的資本経営とは、人材を資源ではなく、資本として捉え、企業が価値創造を行い成長するためには、人材の採用や育成は企業に欠かせない投資の一環であると考える経営のことだ。
人材版伊藤レポートは、マネジメントの方向性も「管理」から人材の成長を通じた「価値創造」へと変わり、人材に投じる資金は価値創造に向けた「投資」となる、そのためには社員による「自律的なキャリア形成」の支援が必要ということを明確に謳っている。
■背景には「働き方改革」の失敗がある
これを読んだ社員のあなたが「会社が社員にもっと投資して大切にしてくれる」と喜んだとしたら、とんだ勘違いだ。
これらの方向性が示された背景には、暗黒の30年の間、すっかり日本企業・日本経済の地位は相対的に落ち続けたこと、そしてコロナ禍前に取り組んでいた「働き方改革」によっても全く日本企業の生産性は向上しなかったことがある。なんとか企業に重い腰を上げさせて、本気に、価値創造、イノベーション、変革を指向させる、という意図がある。
手前味噌だが、拙著『人材マネジメント戦略』(1999年刊 日本実業出版社)でも、今後人材を資産、資本と捉えるようになる、そうすると必然的にROI(Return On Investment)が問われることになる、と書いている。いまは取りあえず人材に投資をしようという動きになっているが、次に来るのはその投資判断の質、経済合理性が問われるということだ。
■メンバーシップ型は、たち行かなくなっている
また、同レポートをまとめた検討会議長である伊藤邦雄氏は、メンバーシップ型のあり方はたち行かなくなっており、ジョブ型に移行せざるを得ないと明確に述べている。
上記拙著でも述べているが、従来の会社と社員が上下関係、親子関係であり、いったん入社すれば、あとは会社がOJT、Off-JTを通じて育ててくれる、定年まで雇用し続けてくれる、会社は育成と雇用を守る責任がある、という上下関係モデルは成り立たなくなっている。
その代わりに、「会社と個人は対等な大人同士の関係であり、双方が努力をすることで結果的に長期雇用が成り立つ、どちらかが努力を怠るとその関係性は崩れ去る」。2022年に出された人材版伊藤レポート2.0では、企業と社員の関係性が「囲い込み型」から「選び、選ばれる関係」になると表現している。
なかなかこの対等な関係に馴染めなかった、日本企業の経営者、人事、そして社員も、そちらのモデルに移行せざるを得ないことが突きつけられているということだ。
■組織に頼らない道もあるが、日本ではコストが高すぎる
では、あなたはどうすべきか。それには独立起業、もしくはフリーランスといった組織に頼らない道もある。しかし、時代が変わってもいまだに日本で起業するというハードルは高い。
私財を投じて、さらには(見直しがされるようにはなったが)個人保証をして銀行から融資を受けて業を起こしても成功する保証はない。たとえ首尾よく投資を得ることができても、今度は投資ファンドからの厳しい業績チェックが入るし、投資額が大きい場合は取締役を送り込まれて経営に口を出されることも多い。
後述の「モーニングピッチ」など大企業とのマッチングも行われるようになってだいぶ環境は整備されたとはいえ、米国、中国をはじめとする海外との環境の彼我の差は大きい。何より、失敗した場合のコストが日本の環境では圧倒的に高く、いまだに失敗者のレッテルを貼られてしまい、次、がなくなることも多い。
だから、起業する比率は圧倒的に低く、大半の学生が新卒で企業に入社し、そして転職はしても起業するという道は選ばない。
■企業で働くとしても起業家マインドは必要
このような日本の環境でも有効な働き方が「会社を利用して起業家のように働く」という道だ。私はこうした働き方について、『起業家のように企業で働く 令和版』(クロスメディア・パブリッシング)という本を2019年に出した(初版本は2013年)。
従来の会社での働き方は、社命に従う、すなわち会社の配属、異動、上司の指示、これらに対してたとえ自身の意向に沿わないものであっても、受け入れて奉公するという働き方が、「サラリーマン」としての働き方の王道だった。それに逆らうことはすなわち、裏切り者としてその組織にはいられない、少なくとも本流から外され左遷させられる、などという扱いを受けることも多かった。
これが、1990年代半ばくらいまでの働き方であった。ところが、その後、会社にいながら会社を利用して起業家のように働くというスタイルを実践する人たちが増えていった。
そのため、筆者がベンチャーサポートを始めた1990年代と比べると、いわゆる起業家と企業で起業家のように働く人との働くスタイルの差は急速に埋まってきた。つまり、起業家マインドは企業で働くにしても必要だということだ。
■会社のリソースを利用して、自分のやりたいことをやる
起業家のように企業で働く人たちの発想は、会社のブランド、人、その他のリソースを自由に利用して自分のやりたいことができる、ということだ。
・毎月決まった給料が払われるので生活の心配をしなくていい
・ローンも組める、したがって不動産の購入もできる
・上司や仕事が合わなくても、社内で「転職」できる
・社内でプロジェクト提案し、承認されれば「起業」もできる
どうだろう。実際に起業することと比していかにメリットが多いかお分かりになるだろう。では、そのように企業で働くためにはどのようなことが必要なのか、その中でも重要ないくつかの点について見ていこう。
■ベンチャーと大企業のお見合いの場「モーニングピッチ」
(1)志をもつ
まず必要なのは、自分がどのような働き方がしたいか、どうしたら業績を上げられるか、よりも先にこの組織を使って世の中で何を成し遂げたいのか、どう社会に貢献できるのか、を考えることだ。
ベンチャーと大企業のマッチングイベント「モーニングピッチ」を提唱した野村證券の塩見哲志さん、一緒に取り組み発展させた、デロイト トーマツ ベンチャーサポートの斎藤祐馬さんらは、「アベノミクスで大企業がどんなに利益を出そうが、ベンチャーが次々と起こって世界に羽ばたいて行かなければ日本経済の将来は危うい。そのためには大企業とベンチャーのお見合いの場、登竜門を作ろう」という志からスタートしている。
自分の仕事やキャリアの話は個人の勝手な話で人が必ずしも協力してくれるとは限らない。しかし、企業全体、日本経済、という大局観を持った話はそこに関わるすべての人に響き、共感を生み、協力を取り付けることを可能にするのだ。
■お手本は育児をしながら時短勤務で働く社員
(2)やらなくていいことに一歩踏み出す
上記の塩見氏にとっては、毎週木曜の朝7時から9時という始業前に行うお見合いイベントは、別にやらなくてもいいことだった。むしろ法人営業担当としては、当初「そんなことをやっている暇があったら、お客を取ってこい」と上司から言われるような話で、社内でその仕組みを提案しても役員たちからも賛同を得られなかったのだ。
斎藤氏に至っては、トーマツという監査法人にとってベンチャー支援などというのは、会社の目的にも入っていないことであり、当然「おまえはなに寝ぼけたことを言っているんだ!」と上司たちからサポートを受けることはなかった。
やらなければならないことだけで山積みなのに、それ以上なんていったいどうやってできるのか⁈ と思う人へ。働き方改革で残業は大幅に減り、在宅勤務で自由な時間も増えた人が圧倒的に多いはず。
お手本は主に女性である育児をしながら時短勤務で働く社員だ。子供の預けお迎えという時間の制約の中でいかに仕事を効率的に片付け、それ以外の「子育て」という重要なことに対する時間を捻出して取り組んでいるではないか。時間で、考えると制約条件になるのであれば、あなたの仕事に投ずるエネルギー量の10%、あるいは5%でもよい。それならやりくりできるのではないか。
(3)上司の協力を得る
斎藤氏は、上司をリスペクトしながら、いかに対等に話をするかが重要と言いながら、同時に上司のインセンティブは何かを常に意識し、「上司に花を持たせる」「失敗の責任は自分が負う」ということで、自分の存在を認めさせていった。
ちなみに、塩見氏は、上司にやっていることを耳には入れても細かく伝えすぎないことを、上司のためにやっていた。なぜなら問題になったときに上司が監督責任を問われることを避けるためだ。上司が「それは知らなかった」と言えるような抜け道を作っておくこと。あくまで、やったことの責任は自らが負う覚悟が必要だ。
(4)社内外のネットワークを作る
塩見氏は、自分一人では力不足だと考え、外部の人たちとアライアンスを組み、ネットを駆使し、マスコミを巻き込み、協力会社を募り仕組み化をしていった。ネット上で自らの志を発信し、そこで共感して集まった一人が斎藤氏だった。
■「One Panasonic」と「One Japan」
両氏の話は自分の身に置き換えると遠すぎる、と思った人もいるだろう。
では、「One Panasonic」「One Japan」のような活動はどうだろう。松下電器産業が松下電工や三洋などを傘下に収めパナソニックと社名を変えたタイミングで、交流と学びをテーマに社員のモチベーションの向上・知識拡大・人脈形成を目的に活動する若手有志団体「One Panasonic」を設立した濱松誠氏。ライバル企業でもあった被買収企業側にしてみれば反発すらある中、経営者でもなしえなかった一体感の醸成に寄与した同団体はトップ経営者らに広く支持された。
また、その後、会社、業界を越えて、富士ゼロックス、NTT東日本、JR東日本、リコー、ベネッセなど数社で立ち上げその後55社が参加するまでに至った「One Japan」。年功序列の根強い日本の大企業の中から、会社の枠を超えて約1200人の若手がつながり、新規事業開発に取り組んでいる。参加者は、一歩踏み出すことで、今いる会社や仕事が、前よりも楽しくなった、と言う。
■個人主導でキャリア形成を行い自己実現していく
「育成」は、かつては企業側が主体でいかに人材を企業のニーズに当てはめていくか、その手段として使われていた。いまは個人主導でキャリア形成を行い自己実現していくか、というように変わっていく、その転換点に来ている。
自ら仕事を選べる、エンプロイアビリティ(雇用能力)、市場価値が上がるなど、だれもがそのメリットを挙げるが、キャリア自律がなかなか進んで来なかった理由は、その将来のメリットよりも前に、目の前のデメリットがあるからだ。
それは、自分で何をやるか考えなければならない、それが正しいかどうか分からないまま自分で判断しなければならない、自分への投資にはお金も時間も掛かる、などだ。その短期的なデメリットを乗り越えた先には素晴らしいメリットが待っている。それが『起業家のように企業で働く』の中で紹介している自律的に働く人たちだ。
■日立やソニーの成功例は、人的資本経営の推進で加速される
企業側も、人材が自律的にキャリア形成を行うために様々な施策を行うようになってきた。キャリア公募、リスキリングの機会提供、副業解禁、社内副業制度、留職、レンタル移籍などなど。また退職者のアルムナイネットワークを整備し、出戻りを歓迎するなどだ。
実際、V字回復を果たした日立やソニーなど出戻りや子会社から親会社のトップになった経営者が変革に成功するなどの例も数多くある。これが冒頭に述べた人的資本経営の推進によって加速されるのは間違いない。
さて、あなたはどうしますか? 自律でいきますか、やっぱりやめておきますか?
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慶應義塾大学SFC研究所上席所員・大学院理工学研究科非常勤講師、THS経営組織研究所 代表社員
早稲田大学法学部卒業後、NECに入社。マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ユニデン人事総務部長、アップルコンピュータ人事総務本部長を歴任後、独立。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科准教授、同大学大学院理工学研究科特任教授などを歴任。ふくおかフィナンシャルグループ・福岡銀行などの社外取締役を務める。主な著書に『起業家のように企業で働く 令和版』(クロスメディア・パプリッシング)、『リーダーシップ3.0 カリスマから支援者へ』(祥伝社)など。
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(慶應義塾大学SFC研究所上席所員・大学院理工学研究科非常勤講師、THS経営組織研究所 代表社員 小杉 俊哉)
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