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なぜNHK大河ドラマは史実とかけ離れているのか…ドラマ好きライターが「どうする家康」を見て感じること

プレジデントオンライン / 2023年7月23日 12時15分

NHK大河ドラマ「どうする家康」公式サイトより

NHK大河ドラマ「どうする家康」について、「史実とかけ離れている」との批判が相次いでいる。ライターの吉田潮さんは「ドラマとして面白いものになるのであれば、史実とかけ離れてもいいと私は思う。独自路線の物語だからこそ描けることもある」という――。

■大河ドラマは史実に忠実でなくていい

大河ドラマが「史実とかけ離れている」とつっこまれることを、実は楽しみにしている。歴史に詳しくないがドラマ好きな私は、正直、史実に忠実でなくてもいいし、想像力の飛躍で物語が盛り上がるのならかけ離れてもいいとさえ思っている。

むしろ歴史研究の専門家から「史実と違う」と反論記事が出たら、それを読むことも楽しみにしている。「そうか、実際には諸説あって有力説はこうだけど、脚本家がこんなふうに解釈と表現を膨らませたのねぇ」と、学びながらもエンターテインメントの力を愛でることができるから。一粒で二度おいしいとはこのことよ。

LGBTQに配慮する家康(松本潤)、築山殿(有村架純)の乱などが話題になった「どうする家康」もまさにその類い。史実はさておき、令和の感覚にアップデートしながら、おおいにあちこちからつっこまれながらも、独自路線を突っ走る古沢良太大河、私は好き。

前半は、同時期スタート火曜枠の「大奥」(冨永愛演じる八代将軍吉宗のかっこよさったら!)に話題性も注目度もかっさらわれたような気もするが、小さいながらもヤマ場が小気味よく訪れていたので、印象に残った場面を振り返っておこう。

■有村架純の築山殿の重要な役割

悪妻説が根強かった(私の中では)築山殿だが、ここでは右往左往して頼りない家康を叱咤(しった)激励と慈愛で支えた、賢くて優しい妻だった。まさに「有村架純シフト」。

今川家に辛酸を舐めさせられた悲劇を乗り越え、民の声に耳を傾け、家臣からの人望も厚い。嫌味を直球でぶつける姑(松嶋菜々子)にも、家康をまんまと風呂で落として身ごもった策士の女中(松井玲奈)にも、息子の妻だが織田信長(岡田准一)の娘であることを振りかざす傲慢(ごうまん)な嫁(久保史緒里)にも神対応。老若男女、敵方の人間でさえも心をつかむ寛容さ。

側室オーディションの回(第10話)はちょっと可愛い嫉妬も見せたが、魅力的な悲運のヒロインだった。平和を望む民のために「慈愛の心で結びつく大きな国」を目指すはかりごとを画策するも、武田勝頼(眞栄田郷敦)の暴走によって失敗。責を負って自ら命を絶ったのが第25話(ボロボロ泣けた)で、ちょうど前半が終了。

運命に翻弄(ほんろう)されながらも、のちに太平の世を目指す家康の信条の礎を築かせた功労者であり、前半の重要な柱だったと思う。築山殿の死は家康を変えた。信長を殺して天下をとる決意をさせた。「どうする」から「こうする」への転換を有村架純が見事にサポートした感がある。

■垣間見える男女不平等社会への不満

正妻が優等生ならば側室はどうなるかっつうと、これまたみんなキャラが立っていて。

勇ましく慎ましく働き者の女中・お葉(北香那)は側室に選ばれたものの、出産後に同性愛者であることを告白。手討ち覚悟で「営みの苦しみ」を吐露。その潔さと功績でお咎めなしとなったが、生きづらさゆえの覚悟を象徴していた。

そもそもは築山殿の女中だったが、家康のお風呂ガールとなって、ちゃっかり妊娠したお万(松井玲奈)もなかなかのオナゴだった。殿をたぶらかしたことを反省している風味の小芝居を打ち、寛容で慧眼の築山殿に許される。ただ、その行動の根底には男女不平等社会への呪詛(じゅそ)があり、戦ばかりする男どもへの怒りを含んでいた。平和を求める民の肉声であり、女を武器にすることを恥じない強さとしたたかさを見せてくれた。

そして現段階で最も天然なのが於愛の方(広瀬アリス)だ。目が悪く、間違えて家康の尻をぶっ叩いたり、笛が得意と言いながらも超絶下手すぎて笑わせてくれる、陽気でコミカルなキャラだ。家康の後家好き遍歴の始祖かなと思わせる。

今後登場する側室も楽しみだし、ふたりめの正室となる豊臣秀吉(ムロツヨシ)の妹・旭(山田真歩)のキャラにも注目したいところである。

■松本まりかのあるセリフ

個人的には、忍の二代目大鼠(松本まりか)の生きざまも気になっている。亡くなった父(千葉哲也)の跡を継いだ手練れのくノ一。ところが、忍集団のリーダー・服部半蔵(山田孝之)が微妙にアイデンティティ迷子状態で、忍の自覚をもたず、しかも滅法弱くてヘタレなのだ。

こっちはこっちで「どうする半蔵」である。大鼠は諜報(ちょうほう)活動も戦闘能力も超一流、八面六臂(ろっぴ)の活躍なのだが、ふがいない弱気なリーダーが仕事をとってこない限り、おまんま食い上げ状態。

のんきに「おなごの幸せは男に可愛がってもらうこと」などと抜かして花を摘んできた半蔵に、「殺すぞ」と吐き捨てて、その花を食いちぎったシーンがもう大好きすぎて。

うわついた男に塩対応、忍び働きが生きがいのくノ一、たくましくて頼もしい限りである。

■地味だけど確実に爪痕を残した3人

ほんのちょっとの登場、あるいは回を重ねて、その切なくも短い半生を見せた人物がいた。「忠誠心」という意味で、私の心に爪痕を残した3人を紹介したい。

まずは、信長の妹・お市(北川景子)の女中・阿月(伊東蒼)。敦賀・金ヶ崎育ちの阿月は貧しい家の生まれ。足が滅法速いが、女であるがゆえに能力を発揮する場もなく。口減らしのために、父親に売りとばされたものの、奉公先から逃げ出したところをお市に助けられる。

命の恩人であり、侍女として迎え入れてくれたお市に忠誠心を誓う阿月。

お市が浅井家の謀反を徳川勢に伝えようとした思いを汲んで、命を賭してとんでもない長距離を一晩中走り抜ける。もうこの第14話がぐっときちゃってね。阿月はお市が書いた文「お引き候へ」を無事に徳川家の陣に届けた後、絶命してしまう悲話なのだが、伊東蒼がひとりでひきつけた。たった1話で名もなき貧しい女子の切ない一生を描くところに、作り手の良心を感じた。

■すねえもんソングが醸し出したエレジー

もうひとり、たった1話だが“エレジー”を見事に魅せたのが、岡崎・奥平家家臣の鳥居強右衛門(すねえもん)、演じたのは岡崎体育である。

第21話、武田勢の猛攻撃&兵糧攻めに遭う長篠城で、徳川の援軍を待つ奥平信昌(白洲迅)。家臣のすねえもんは助けを求めて、泳いで走って徳川の陣に辿り着く。家康の娘・亀姫(當真あみ)の優しさに触れ、信長のムチャブリに翻弄されている徳川家の実態も知ることに。

敵に捕らわれた鳥居強右衛門が味方に援軍が来ることを伝える錦絵
敵に捕らわれた鳥居強右衛門が味方に援軍が来ることを伝える錦絵(画像=楊洲周延作「鳥居強右衛門敵捕味方城中忠言」/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

ところが、援軍の約束をとりつけて長篠城に戻ろうとしたとき、武田軍に捕まる。金に釣られて武田軍に寝返ったかと思いきや、奥平家への忠誠心と亀姫への恩を胸に、自らが犠牲になることを選ぶ。

これも阿月同様、「命を賭した伝言&忠誠心の悲話」ではあるが、劇中に流れたのんきな“すねえもんソング”が、物悲しさと切なさをうまく醸し出す秀逸な回だった。

■人の数だけドラマがある

そして、言わずもがなの夏目広次、演じたのは甲本雅裕。最初っからずーっと家康に名前を覚えてもらえなかった家臣のひとりだ。気の弱い穏やかな事務方という役どころだったが、三河一向一揆で一度は家康を裏切ることに。僧侶や民を攻撃することに疑問をもっていたからだ。

結局は捕らえられたものの、謀反は不問に。許されたことから家康に再び忠義を尽くす。その恩返しとして家康の「身代わり」となって落命したのが第18話。しつこいくらいに名前を覚えてもらえなかった理由(家康の父・松平広忠から改名を命じられた)がわかり、長きにわたって松平家に仕えてきた夏目と家康の背景がようやっと可視化。

コメディ要素が忠義の裏付けへと見事につながり、膝を打った。

「みんな死んだから記憶に残ってるだけでは?」と言われそうだが、人の数だけドラマがあるという視点を改めて見せてもらった。

■武将の演技だけじゃない魅力

三河一向一揆では賑やかなミュージカル風ステージ感を楽しめたし、武田軍の鬼気迫る赤備えの皆さんには迫力があったし、家康の優柔不断と右往左往っぷりをコミカルに描くコメディ要素も小気味よく投入されてきた。

いろいろな要素を愛でつつも、全体的には殺戮と戦を求めていない人々のトライアル&エラーという様相が気に入っている。反発する民の声もそこかしこに投入され、戦国時代を多面的にとらえる気骨も感じる。

「弱き主君は害悪なり、滅ぶが民のためなり」とまで言われた家康だが、己の弱さを知ったからこそのしたたかさと賢さを身につけ、第26話で大きく変貌を遂げた。

■私が気になる豊臣家の女たち

今後、気になる人物としては、やはりひとくせもふたくせもある、あの人たち。まずは、ちょっと頼りないが、一応暗躍している忍び集団のリーダー・服部半蔵。山田孝之が魅せるダメリーダーの来し方も行く末も気になる。

また、そろそろ戻ってくるであろう本多正信。家康を裏切ったものの、最終的には右腕として活躍した本多を松山ケンイチがどう見せてくれるのか、楽しみだ。他の徳川家臣から嫌われているのもポイントで、徳川が勢力を拡大していく中で家臣同士の小競り合いには大いに期待したいところ。

NHKのホームページを観る限り、今度最大のクセモノはやはり豊臣さん家(ち)であると予測できる。軽やかに忠犬、憎たらしげにコバンザメ、猿と虐げられる豊臣秀吉を演じてきたのは、歌うようにセリフを奏でるムロツヨシ。家康の天下統一の前に立ちはだかる最高に厄介な人物として君臨するはずだ。妻の寧々(和久井映見)に母の仲(高畑淳子)と、豊臣家の女たちも“クセつよ”の予感。

この後、歴史的には屈指の大イベント(本能寺の変や関ヶ原の戦い)が待ち構えているわけだが、想像力の翼をどんどん広げてほしいと思っている。最終的には、今まで観たこともない、新しくて奇抜な家康像を構築してほしいなぁ。

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吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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(ライター 吉田 潮)

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