「野菜ばかりの食事」はむしろ健康寿命を縮める…元気に長生きしたいなら"小太り"がオススメな理由
プレジデントオンライン / 2023年8月24日 14時15分
※本稿は、中野ジェームズ修一『血管を強くする 循環系ストレッチ』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■平均寿命は90歳でも、健康寿命は70歳
日本人女性の平均寿命が90歳に近づいた一方で、健康で長生きの指標となる「健康寿命」は70歳台と、残念ながら大きな開きがあります。近年「人生100年」などと言われるようになりましたが、じつは人間の平均寿命は何万年ものあいだ40歳以下でした。そう考えると、男女ともに40代からさまざまな痛みや不調を訴える人が急増するのも納得できます。
もし体が健康に100年生きられるよう設計されていないとしたら、修復する力を落とさない工夫が必要。そのために役立つのが血管の健康維持です。
血管の健康維持に役立つ、血流を増やす活動をしている人としていない人の差は、年齢を重ねると見た目に顕著にあらわれます。拙著『血管を強くする 循環系ストレッチ』(サンマーク出版)を監修した田畑医師は内科医としてさまざまな患者さんを診ていますが、以前「高齢者になると明確な差が出ます」とおっしゃっていました。それは私自身も25年以上トレーナーを続けているなかで強く感じていたことなので「医師から見てもそうなのか」と思いました。
実際、血流を増やす習慣が病気の予防や未病対策に適していることは、医学的にも明らかです。だからこそ健康診断では血液や血管の状態をしっかり確認するのです。
■やはり血液はサラサラがいい
健康診断では、内臓脂肪や血圧、血糖値、血液検査値などから異常値を洗い出しますが、これらはすべて血管の健康状態に関係する項目です。
病気の予防は、酸素や栄養素、免疫物質などを体のすみずみまで届けて老廃物を回収してくれる、健康な血管を維持することから始まります。未病の段階であれば、食事を適切なものへと見直し活動量を増やすことで、糖や脂質にまみれてドロドロだった血液の状態が改善されて血流がよくなり、その結果として血圧も血糖値も下がる。すると血管もしなやかさを取り戻し、健康を取り戻したり維持したりするうえで大いに役立ちます。
さらに、筋肉が増えれば、運動を続けることでインスリンの効きがよくなることもわかっています。これは動脈硬化や糖尿病の進行を食い止めることにもつながること。だから医師は生活習慣病患者にも「運動しましょう」と言うのです。
■野菜たっぷりの食事は本当に健康的?
ただし、筋肉量を維持する、あるいは増やすには、運動だけでなく筋肉を増やせるだけの「余裕度」が体に必要です。私たちは、生きるために必要なエネルギーを食事から摂っています。しかしエネルギーの摂取量が生きるだけでギリギリの状態では、筋肉をつくるだけの「余裕度」がありません。特に昨今の粗食ブームによる栄養とエネルギーの不足は、若い女性だけでなく高齢者にも多く見られる心配事の一つです。
このことに気づいたのは、田舎暮らしの老夫婦を取り上げるテレビの特集番組を偶然見たときでした。山や畑で穫れた野菜たっぷりの食事を「健康的」と紹介していたのです。
野菜を摂るのはいいことですが、彼らの食卓にはタンパク源となる食品はほとんどありません。また、ご飯の量もかなり少なくて、2人は見た目も非常に細く、スリムというより栄養失調のような印象を受けました。私は「こんな状態でも世間的には“細くて健康”というイメージなのか」「野菜ばかりの粗食は、果たして本当に健康的なのだろうか」としばし考えてしまいました。
■体脂肪を減らし過ぎてはいけない
高齢者は、タンパク質を摂っても若者と同じようには消化・吸収されません。しかもある程度の体重がないと筋肉をつくる反応すら起きなくなります。これは、体脂肪がついていなかったりエネルギー摂取量が少なかったりすると、日常生活を送っているだけでエネルギーを使い果たしてしまうからです。
私の思う「健康体」のつくり方は、筋肉量を増やし毛細血管も増やして血流をよくすることです。全身の血流をしっかり増やすような活動をすれば、エネルギー消費量は上がります。そうすると血中の糖や脂質が消費されて血液の状態がよくなり、筋肉もついて健康的な体つきを維持できる。そんなふうに次々とメリットが得られるようになるのが理想です。
ここまで栄養不足の話をしてきましたが、「自分は太っている」と感じている人がいらしたら「筋肉をつける余裕度のある体である」と前向きにとらえてほしいと思います。体重のある人は日常生活が軽い筋トレのようなものなので、脂肪の下にはある程度の筋肉があるはずです。後はそれを動かすだけ。このようにポジティブに考え、血流を増やし血管を強くする運動に取り組んでいただけると、うれしく思います。
■見えない血管だからこそ放置すると危険
いわゆる筋肉以外にも、血流や血管の状態が強く影響する部分があります。
たとえば肝臓や腎臓は、細かい血管が張り巡らされてかたちづくられる「血管のかたまり」のようなもの。そこにきれいな状態の血液がサラサラと流れ込むことで、毒素を分解したり血液を濾過したりするという、臓器本来の機能が十全に働くようになっています。
ほかにも、日々の食事で消化・吸収が行われるのは、血液がしっかり行き渡ることで胃腸が活発に働くからです。
つまり、もし動脈硬化などによる「血管機能の衰え」が確認できたとしたら、それは同時に臓器も障害を受けやすい状態になっているということ。もし、少し走っただけで息切れがする、便秘や下痢を繰り返す、胃がもたれるなどが気になるとしたら、それは臓器が弱り始めたことを示すシグナルかもしれません。
血管機能の衰えを放置すると糖尿病になり、さらに血管のダメージが蓄積されると、次の段階としてあらわれるのが臓器の障害です。
たとえば高血糖の状態が続くと腎臓の毛細血管が傷ついて血液を濾過する機能が働かなくなり、血液に老廃物が溜まったままに。糖尿病から腎不全になると、週に数回病院に通って血液の濾過をしてもらう人工透析が必要になります。
■ウォーキングよりも多くの筋肉を動かせる
動脈硬化の因子となる高血圧、高血糖、脂質異常症といった異常がある人、またその予備軍の人が抱えているちょっとした不調にも、血流や血管の状態が深く関連していることが考えられます。
「運動不足か食べすぎなのか、このところどうも調子が悪い」という人は、ひそかに血管の劣化が進行しているのかもしれません。まずは1日に1回、血流をよくすることを心がけて、しなやかで強い血管を取り戻しましょう。
循環系ストレッチは、肩甲骨まわり、脊柱、股関節といった日常生活で動かす機会が激減した部位をしっかり動かし、血管の幹線道路が集中する部位を刺激する、血流を上げ血管の状態をよくするためにつくられたプログラムです。
上半身の動きが激減した部位をしっかり動かしながら下肢の筋肉を伸び縮みさせ続けるので、運動不足による不調や肥満にもとても効果的です。ウォーキングよりも多くの筋肉を大きく動かすため、パワフルに、そしてすばやく体の巡りを改善できます。
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フィジカルトレーナー
1971年生まれ。フィジカルトレーナー。米国スポーツ医学会認定運動生理学士。アディダス契約アドバイザリー。日本では数少ない、メンタルとフィジカルの両面を指導できるスポーツトレーナー。トップアスリートや一般の個人契約者の、やる気を高めながら肉体改造を行うパーソナルトレーナーとして数多くのクライアントを持つ。現在は大学駅伝チームのトレーナーも務めつつ、講演会なども全国で精力的に行っている。おもな著書に、『下半身に筋肉をつけると「太らない」「疲れない」』(だいわ文庫)、『青トレ 青学駅伝チームのコアトレーニング&ストレッチ』(徳間書店)、『血管を強くする 循環系ストレッチ』(サンマーク出版)などがある。
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(フィジカルトレーナー 中野 ジェームズ 修一)
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