受験勉強で「合格ライン」を狙うのは絶対ダメ…東大現役合格者が受験生に勧める目標設定のやり方
プレジデントオンライン / 2023年10月18日 15時15分
※本稿は、林輝幸『一生役立つ独学戦略』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■勉強が続かないのではなく“目標設定”をしくじっている
勉強が長続きしない人は、「スタート時点ですでにしくじっている」といます。
つまり、目標設定の段階で、すでに勝負は始まっている。
言い換えれば、
「目標とは(大変だろうと、楽しかろうと)勉強をがんばり続けるための重要な初期設定」
ということなのです。
そうなると、どれくらいの目標を設けるのかがポイントになってきます。現実離れした目標では、勉強の理由づけ、継続力の源として機能しません。
たとえば、「100メートルを5秒で走りたい」という目標はどうでしょうか。現在の世界記録がウサイン・ボルト選手の9秒58であることから、これはあきらかに現実離れした目標です。
人間の性能にも限界というものがあります。今後どんなにスポーツ科学が発達して記録が伸びたとしても、さすがに5秒に届くことはないでしょう。
ここで浮かんでくるのは、おそらく「厳しいが実現可能な目標」と「現実離れした目標」の線引きをどうすればいいのか? という疑問でしょう。
たとえば、高3の春の段階で「東大E判定」の人が東大を目指すことは、「現実離れした目標」でしょうか?
TOEIC300点台の人が1年後に600点超えを目指すことは、「現実離れした目標」でしょうか?
繰り返しますが、目標は、がんばり続ける力を創出する装置です。
極端なことをいえば、具体的な目標のもとで勉強をがんばり続けることができるのであれば、「世界トップレベルの人ですら無理と思われる」というものでない限りは、「厳しいが実現可能な目標」としていいでしょう。
先ほど挙げた「100メートル走を5秒」は有効な目標になりえませんが、「東大E判定から東大合格を目指す」「TOEIC300点台から600点超えを目指す」は、独学の理由づけ、継続力の源たる目標として機能する、ということなのです。
■合格ラインギリギリを達成しても、落ちる
ここまで、大学受験や資格試験のような、目標を数値化しやすい勉強についてお話ししますが、「合格ライン」がはっきりしているものは、当然、その合格ラインをクリアできる学力をつけることが目標になります。
しかし、「合格ラインギリギリの点数」を目標にするのは危険すぎます。
なぜか。本番では、何が起こるかわからないからです。
理論上は「合格最低点を超えさえすれば合格」ですから、合格最低点を目標とするのが、もっともコストパフォーマンスのいい目標設定のような気がするかもしれません。しかし、これは誤りです。なぜなら、そのとおりに行かないことのほうが圧倒的に多いからです。
たとえば、本番でミスをして得点が下ブレするパターン。「いつもはちゃんと解けるのに」という言い訳は通用しませんし、後悔してもあとの祭りです。
合格点ギリギリを取れる実力だと、本番で少しでもミスをしたとたんに合格点を下回り、あと少しのところで涙を呑むことになってしまう……。こういうことが起こりやすくなるのです。
■目指すべきは「合格平均点」
これらのミスを織り込んで考えると、
「点数に余裕をもたせ、それでいて厳しすぎない」
というのが目指すべき目標の大枠になってきます。
たとえば、受験でいうと「合格平均点」です。合格平均点を目指すというのは、ある程度余裕をもって合格することを目指すことであり、これで先ほどの「目標ラインがギリギリすぎる」という不安は解消されます。
目的は「試験・検定に合格すること」にあるので、わざわざトップを狙う必要はなく「合格者の群に無難に収まる」ことを目指したほうが賢明です。
また、合格平均点くらいを得点できるようになっておくと、本番での保険がききます。多少のミスをしても合格最低点はクリアできるほどの余裕が生まれます。
もちろんノーミスで試験を乗り切るのが一番なのですが、合格平均点を安定して得点できる状態であれば、ミスが原因で合格圏内から漏れることはほぼないでしょう。
しかし、当日のコンディションによって点数はいくらでもブレるものです。
「体調が悪くていつもより10点、20点下だった……」
これもよく聞く話です。自分がベストな状態で試験本番に臨めるよう、体調管理には常に気を配りましょう。
僕は東大入試において目標点を360点に設定しました。これも、合格者平均点が310点~340点台で推移していることをふまえてのものです。
■ミスを織り込む“フェイルセーフ”システム
ちなみに、学生向けのクイズ大会「STU」の予選であるペーパーテストでは、通過ボーダーが通常70点台前半だったので目標点を80点に設定しました。これは当日のアクシデントも想定して決めました。
クイズは出題範囲が無限大なので、覚えたものが出題されず、逆に押さえていないものがたくさん出題される可能性もあったわけです。
それでもなお通過ボーダーに乗せるには、どんな問題群でも対応できる地力が必要だな、という意識づけだけはしておきました。
「ミスをしないように日ごろの勉強から気をつければいい」という反論もあるでしょうが、「ミスが起こる可能性を0%にする」というのは不可能です。
もちろんミスを防ぐ意識は大切です。ただし、どれだけミスを防ぐ努力をしても、完全になくすことはできません。
したがって、僕らにできるのは、
「ミスを防ぐ意識を最大限に注いで、ミスを最小限に抑える」
ということだけなのです。
みなさんは、「フェイルセーフ」という言葉をご存知ですか? これは、製品やシステムに異常があっても安全を維持できるような仕組みのことです。
たとえば、踏切の遮断機。停電になって、機械が動かなくなったときでも、衝突事故を防ぐため、必ず遮断桿を下ろした状態で止まるようになっています。
目標設定でも、この「フェイルセーフ」の考え方が大切です。
本番に何かトラブルがあっても合格ラインに達するよう、目標は余裕をもって設定しましょう。
■目標までの距離を知るには――今の立ち位置を“数値化”する
目標設定の重要性については、すでにお話ししたとおりです。
目標は「勉強する理由づけ」であり「独学を続ける力の源」になる。だから目標を設けることが独学では欠かせない。
そういう話でしたね。
そのうえで重要になるのが、
「自分のいまの実力を測る」
ということです。
言い換えれば「現在地」を把握するということです。
それも、なるべく正確に「数値」で把握することが、適切な計画を立てる必須条件なのです。
受験の場合は、模試を受ければ、「点数」「偏差値」という数値で現在地を把握できます。「A判定」「B判定」「C判定」といった指標も示されます。
いまの自分の実力や、いまの自分に足りないものを、残酷なまでに正確に教えてくれるわけですね。
僕はそれほど模試がイヤではありませんでしたが、もちろん、思ったよりぜんぜんできなくてガックリきたことはあります。
でも決して結果から目をそむけずに「なんで?」「どうすればいい?」という発想をもって計画を立てる、という具合に独学を進めました。
受験や資格試験など「合否」が下されるものなら、模試を受けずとも、「過去問」を解くことで、自分の現在地を数値で把握できます。
こうしたわかりやすい指標がない場合でも、何かしら数値的な指標を設け、そのなかで自分の現在地を把握することをおすすめします。
たとえば次のように。
「ネイティブと問題なくチャットできるくらい英語力をつけたい」
→ネイティブの知人がいれば、1時間くらいチャットして相手に点数をつけてもらう
「経済ニュースに対して自分の見解を述べられるくらいの知識をつける」
→日経新聞からサンプル記事を採取し、そのうち何割、経済用語を正確に理解しているかを点数化する
このように、独学では「数値化」する、ということが非常に重要になってくる場面があります。
ポイントは主観的ではなくなるべく客観的に行うことです。
■独学は“鉄道”、どこへ向かって線路を敷くか
突然ですが、ここで独学を「鉄道」に見立てて考えてみましょう。
みなさんは、とある街のローカル鉄道会社の人で、「わが街の暮らしを向上させるために、1本、線路を増設する」ことになったとします。
さて、何から始めましょうか?
まず、当然ですが、「どこにつながる線路を敷くか」、つまり「終着駅」を決めなくてはいけませんね。
じつは隣町にあるB駅の周辺は非常に栄えています。そこへのアクセスがよくなったら、わが街の人たちの暮らしはぐんと向上するに違いない。ということで、B駅を終着駅として、わが街のA駅から線路を敷くことになりました。
これで新設する線路の終着駅と始発駅が決まりました。目標を定め、現在地を把握したということですね。
学びに終わりはないので、あまり「終着」という言葉は使いたくないのですが、ここでは便宜上、そう表現することにします。
ここまで決まったら、いよいよ次は実際に線路を敷く作業に入ります。これが独学でいうところの「具体的な勉強計画の設定」に当たります。しかし、線路を敷く前にやらなければならないことが、じつはもう1つあるのです。
それは、「調査」です。
線路を敷くには、周辺地域の土地を調べて、どういうルートで線路を敷くか、その場合、どれくらいの数のレールが必要なのか、といったことを把握しておく必要があります。
要するに、始点から終点までの距離や環境条件を調べる必要がある、ということです。
■ゴールまでの具体的なルートを描く
いまの自分の実力を「数値」で把握することが大切といいましたが、しかし、それだけでは、おそらく適切な計画を立てるのは難しいでしょう。
次の段階として、
「いまの実力と目指したい到達点の間の道のりを、なるべく具体的に把握する」
ということをもってして初めて、適切な計画を立てることが可能になるのです。
具体的な計画を立てる前に、まず現段階での自分の実力が、どれほどのものなのかを測定します。
そこで明らかになった実力を、目指したい到達点に足るほどまでに高めるには、どんなステップを踏んでいけばいいのかを洗い出します。すると、すでに明確に見えている「目指したい到達点」と「いまの自分の実力」に加えて、その間のルートもはっきりと見えてきます。
「いまの自分の実力」からすると、「弱点は何か」「どこでつまずきそうか」「どう攻めるか」などのイメージもつかめるでしょう。
ビジネスでいえば、長期目標を達成するための「中期目標」「短期目標」が見えてくる、といったらイメージしやすいでしょうか。
ここまできたら、あとは「いつ」「何を」「どれだけやるか」を具体的な日程に落とし込んでいくだけ。これで「適切な計画」が完成します。
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クイズプレイヤー
1997年、富山県生まれ。2016年、東京大学に現役合格。東京大学クイズ研究会(TQC)に所属し、競技クイズを始める。人気クイズ番組「東大王」(TBS系)に東大王チームとして出演し、活躍する。東京大学文学部卒業後は、クイズプレイヤー、タレントとして「クイズプレゼンバラエティー Qさま‼」(テレビ朝日系)などクイズ番組を中心にテレビ出演多数。また、クイズ制作集団「Q星群」を立ち上げ、クイズを軸とした事業やイベントを手がけるなど多方面に活動の場を広げている。
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(クイズプレイヤー 林 輝幸)
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