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自己破産しても死ぬまで損害賠償が続く…違法で危険な「電ジャラス自転車」に潜むとんでもないリスク

プレジデントオンライン / 2024年1月15日 9時15分

ナンバープレートが付いていない「ペダル付き電動原付バイク(モペッド)」 - 筆者撮影

ペダルを漕がずに猛スピードで走行できるフル電動自転車=「電ジャラス自転車」には、どんな問題があるのか。ほぼすべての都内移動に自転車を使う自転車評論家の疋田智さんは「本来はナンバープレートの取得が必要だが、無登録での違法走行が後を絶たない。もし人身事故が起きれば、加害者も被害者も悲惨な目に遭う」という――。

■参院議員会館で見た「狂暴電ジャラス」

東京都千代田区永田町にある衆参の議員会館には、改築後ちゃんと駐輪場が設えられるようになり、自転車人である私としては「これはいいことだなぁ」と思ってきた。ところが、先日ここを訪れた際、せっかくの駐輪場に奇妙な自転車が駐まっていたのだ(写真)。

奇妙な自転車というのは、私が「電ジャラス自転車」と呼んでいるものなのだが、その中で最も速くてパワーがあって狂暴なのが、「カテゴリー①違法フル電動」というやつだ。

3種類の「電ジャラス自転車」については、前回記事〈ペダルを回さず猛スピードで走り去る…危険すぎる「電ジャラス自転車」を、なぜ警察は野放しにするのか〉で解説した。

■ナンバープレート付きなら原付扱いになるが…

簡単に説明すると以下の通りだ。

カテゴリー① 違法電ジャラス自転車
「フル電動」あるいは「モペッド」

カテゴリー② 脱法電ジャラス自転車
アシスト率オーバー・電アシもどき

カテゴリー③ 合法電ジャラス自転車
なぜか合法の「特定小型原動機付自転車」

写真のモデルの場合、パワーは500Wか750W。通常の電動アシスト自転車の2〜4倍という異常さだ。ナンバープレートを付ければ、即原付バイクとして登録可能で、要するにこれは自転車じゃない。単に「ペダル付き電動原付バイク(モペッド)」なのだ。

原付バイクだから、もちろん免許は要る。500Wの場合、原付一種(普通免許可)、750Wの場合は原付二種(普通免許不可)が必要で、もちろん自賠責保険に入る必要がある。

■法も警察も完全に舐められている

ところが、写真のこの電ジャラスには、ナンバーがついていない。ということは、この状態で公道を走ること自体が、すでに違法なのだが、ここまでどうやって来たのだろう。

押してきたのか? まさか。乗ってきたに決まっている。

駐めた場所は「良識の府」であるところの参議院議員会館の駐輪場だ。周囲には警察官もたくさんいる。でも、警察官たちの前を通って、「平気っしょ」とばかりに駐輪している。正直、舐められているのだ。

参院議員会館の駐輪場、入り口には警備を担当する衛視の姿も
筆者撮影
参院議員会館の駐輪場、入り口には警備を担当する衛視の姿も - 筆者撮影

再度言うが、この電ジャラスはナンバーを付ければすぐに「電動モペッド」として登録可能である。ネットで買った際にも注意書きに「ナンバー付けて、自賠責入って、免許取って」と書いてあったはず。

しかし、オーナーはそれをしない。ナンバーを付けなくても摘発されないとタカをくくっているからだ。

私はいささか驚きながら、この電ジャラス自転車をジロジロ見てしまったのだが、あれ? とちょっと気づくことがあった。

バッテリーがない。オーナーがバッテリーを外して持っていってしまっている。

バッテリーが外されたモペッド
筆者撮影
バッテリーが外されたモペッド - 筆者撮影

■「道交法違反」ですむ問題ではない

間違いなく充電するためだろう。ということは、この電ジャラスオーナー、フードデリバリーや出入りの業者などではない。議員会館の中に、充電できる部屋をお持ちの方の可能性が高い。

本当にもう、センセイ方はこの電ジャラス自転車問題自体を真剣に考えていただきたいと思う。

このところの事故頻発(特に歩道上)と、電ジャラス自転車の蔓延は、確実にリンクしている。国会関連の人が「大丈夫っしょ」と平気で職場に乗りつけるようなシロモノではないのだ。もっとマジメに、路上を、交差点を、交通を、世の中を見てほしいものだ。

さて、話の本筋はここからである。

喫緊の問題は、日常的に乗っている一般の若い人々の電ジャラス具合だろう。

この話、単に「おっと知らなかった」「道交法違反だったね」ですむ話ではなく、悪くすると「人生終わった」に結びつくのである。

どういうことだろうか。

■事故を起こした、そのときにどうする

一番まずいのは、この違法な電ジャラス自転車に乗って、不幸にして人身事故を起こしてしまったときだ。

これらの電ジャラス自転車には、本来あるべきナンバーがついていない。ということは、自賠責保険に入ってないということも意味している。自賠責に入るときには必ず登録ナンバー(またはナンバーを取ることを前提とした車台番号)が必要だからだ。

もちろん任意保険にも入っていない。……ここは重要なところで、たとえ自転車保険(自家用車の任意保険・自転車特約も含む)に入っていたとしても、その保険は適用されない。

なぜなら、これは「自転車ではない」からである。

となると、どうなるか。

この電ジャラス自転車が起こした事故は、すべて加害者本人が賠償責任を負い、賠償額を全面的に支払わなくてはならないということなのだ。

深夜、無灯火で歩道を走行する「電ジャラス自転車」
筆者撮影
深夜、無灯火で歩道を走行する「電ジャラス自転車」 - 筆者撮影

■「億単位の賠償金」を支払うことは困難

それは無保険の普通自転車による事故でも同じことだが、重さ20kg~40kg、スロットルによる急加速で最高時速30~40kmも出る電ジャラス自転車では、被害がさらに大きくなることが予想される。

多くの場合、過失責任はかなりのパーセンテージとなるだろう。

この電ジャラス自転車の場合、そもそも公道上で走行していること自体に道交法違反があるため(ナンバーなしで走っているだけで道交法違反)、最初から「過失は電ジャラス側にあり」から扱いがスタートするためだ。

現に警察庁の交通局長は「ナンバーなしで公道走行すること自体が道交法違反である。警察庁でも問題視しており、今後取締りに力を入れていく」と、自転車議連の席上で語った。

2023年12月に参議院議員会館で開かれた自転車議連にオブザーバーとして参加した筆者
筆者撮影
2023年12月に参議院議員会館で開かれた自転車議連にオブザーバーとして参加した筆者 - 筆者撮影

事故が人身の場合、賠償金は「億」の単位に達することも少なくない。

その結果、事故後のストーリーは次のように展開する。

■「だれも救われない」という悲劇

事故が人身になったとして、億近い額を払えるだろうか。多くの若い人たちは払えない。自己破産である。

しかし免責はされない恐れがある。破産法第253条第1項3号には「故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」が定められているからだ。最初から違法を認識しながら、こうした電ジャラスを無免許で運転していた場合、それは「故意又は重大な過失」と認定される可能性が否めない。

するとどうなるか。すべてを吐き出して自己破産した上で、その後、収入の4分の1が常に差し押さえられる人生が待っている。

一方の被害者(または遺族)の方はどうか。事故直後は泣き寝入りとなる。保険がないからだ。その後、損害賠償は長い年月をかけて加害者の収入の4分の1でチビチビ支払われるものとなる。

これらの悲劇を救うものはなにもない。セーフティーネット、ゼロ。だれも助けてくれない。だれが悪いからこうなったのだろうか。電ジャラス自転車に乗っていること自体が、ひとえに悪いのだ。

足を組んだままスロットルで爆走する「フル電動自転車」
筆者撮影
足を組んだままスロットルで爆走する「フル電動自転車」 - 筆者撮影

■なぜ高額、高リスクの電ジャラスを買うのか

それに、こういう自転車が「ゴツくてカッコいい」と思う前に、考えてみたほうがいい。もし故障したらどうするつもりなのか。

ほぼすべての自転車ショップ(プロショップ、チェーン店など含む)は、この手の電ジャラスの修理を拒否する。なぜなら、これらは自転車じゃないからだ。「違法なものは修理しません」。HPでもそう明言されているし、そう書かれたポスターが店舗入り口に貼ってある。

自転車専門店ウェブサイトのQ&Aに「修理お断り」とある(サイクルベースあさひの例)
自転車専門店ウェブサイトのQ&Aに「修理お断り」とある(サイクルベースあさひの例)

では、オートバイ屋さんなら修理してくれるかというと、これも修理できない。扱いメーカーが違うし、そもそもオートバイ屋さんが手がけているのはレシプロエンジンだ。

最終手段として、自分で直せるならそれもいい。しかし直せるか? 直せない。ネットで買っても、30万円前後するような電ジャラスが、ここでゴミ化するわけだ。

私には本気で分からないのだが、そういうリスクを背負って、結構な金額を払って、なぜこれを選ぶのだろうか?

自転車なら自転車、オートバイならオートバイに乗ればいいじゃないか。現在は自転車方面なら“e-bike”のいいやつが、オートバイならオートバイで、電動原付が普通に出ているのだから。

買う前に熟慮すべし。それは今後の人生のためにもだ。

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疋田 智(ひきた・さとし)
自転車評論家
1966年生まれ。東京大学工学系大学院(都市工学)修了、博士(Ph.D.環境情報学)。学習院大学、東京都市大学、東京サイクルデザイン専門学校等非常勤講師。毎日12kmの通勤に自転車を使う「自転車ツーキニスト」として、環境、健康に良く、経済的な自転車を社会に真に活かす施策を論じる。NPO法人自転車活用推進研究会理事。著書に『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)、『自転車の安全鉄則』(朝日新聞出版)など多数。

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(自転車評論家 疋田 智)

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