うちの最大のライバルは「水道水」…3年連続楽天1位企業が見つけたキリンやアサヒとは違う戦い方
プレジデントオンライン / 2024年2月15日 14時15分
■無名の飲料メーカーが炭酸水で楽天市場を席巻
ライフドリンクカンパニー(以下LDC、本社:大阪市)という社名を聞いたことはあるだろうか。同社の炭酸水「ZAO SODA(ザオウソーダ)」は、大手他社を差し置いて、「楽天市場」の水・ソフトドリンク部門で3年連続1位を獲得している。
LDCは、ミネラルウォーターやお茶などの飲料の製造・販売を行う従業員500人ほどの会社だ。もともと茶葉の加工・販売を手掛けていたが、事業の多角化を目的として飲料メーカーを買収し、2001年から清涼飲料水事業に進出。その後、事業を飲料に絞り、17年に現在の社名になった。
飲料を扱い始めた当初は、自社ブランドの低価格飲料を小売店に卸していたが、小売各社がプライベートブランド(PB)に力を入れ始めたのに合わせ、イオンや西友など大手のPBのOEM生産比率を高めていった。
そのPB商品の近年の人気が功を奏し、2023年3月期の年間売上高は303億円と、20年3月期の195億円から大きく伸び続けている。PB・自社ブランドを含む総生産本数は23年3期は5700万ケース、24年3期は6400万ケースとさらなる成長を見込む。
■BtoC向けの商品として新たにブランドを立ち上げ
オリジナルブランド「ZAO SODA」を始めた目的は、山形県にある蔵王工場の稼働率の向上だった。
「当時から炭酸水も製造していましたが、お茶やミネラルウォーターと比べてBtoBの広がりがイマイチでした。そこで、『ZAO SODA』というブランドを立ち上げて、BtoC向けに販売してみようということになりました」(経営管理本部長・清水大輔さん)
社名の認知度とは裏腹に、炭酸水は出だしから好調な勢いを見せ、2021・22・23年の3年連続で楽天市場の部門別でトップの座を獲得した。現在では楽天のみならず、アマゾンやヤフーでも販売している。
■「圧倒的な安さ」と「誰にでもウケる味」
「ZAO SODA」はなぜ消費者の心をつかんだのか。
最大の理由は「圧倒的な安さ」と「誰にでもウケる味」の2つだ。
「ZAO SODA」の1本あたりの価格は、時期やキャンペーンによって多少変動するが、およそ50~60円。スーパーやコンビニの炭酸水の価格は100円程度が相場であり、LDCは3~4割程度安い。同社SCM本部長の橋本知久さんは「安さの秘訣(ひけつ)は『脱付加価値戦略』と『徹底したコストカット』です」と自信をのぞかせる。
■大手飲料メーカーとは真逆を行く「脱付加価値戦略」
「脱付加価値戦略」とは、性別や世代など、特定の層にしか刺さらないようなユニークな商品で差別化を図るのではなく、特徴がない代わりに万人受けする「王道」を目指すというものだ。
これは大手飲料メーカーの「独自の商品価値を模索し、消費者に手に取ってもらおう」という戦略とは真逆と言える。
キリンビバレッジの吉村透留社長は23年の事業方針発表会で「価格だけの価値ではなく、付加価値での戦いを挑み、飲料メーカーとしての存在価値を高める」と発言している。アサヒ飲料も「高付加価値化商品の強化に取り組む」ことを事業方針に掲げ、「健康」「無糖」などの付加価値を追求していくとした。当然、新しい商品を開発しようとするとそこには費用がかかる。
一方、LDCの炭酸水は炭酸水の「ど真ん中」を徹底的に追求する。
「私たちはスタンダードな炭酸水を売りにしています。現在のトレンドは強炭酸です。しかし強炭酸の商品の中には飲むと喉が痛くなるようなものもあり、そういった商品は女性や子ども受けがよくありません。炭酸の強さをちょうどいい具合に調整することでスタンダードを狙いました」(橋本さん)
「スタンダード」の追及には、PB商品の製造ノウハウが役に立った。PB商品の売りは何と言っても、味や見た目がシンプルな点にある。LDCの「脱付加価値戦略」にドンピシャだった。
「炭酸水一つを取っても、合う水、合わない水があります。『ZAO SODA』の場合は、天然水ではなく、炭酸の強さにちょうど合う硬度に水を調整して使っています。一見するとただの炭酸水ですが、細かな工夫をしています」
■同じ土俵で勝負しないことで生き残る
こうした「あえて目立たない」場所に陣取る姿勢は、まさに大手がしのぎを削る中で間隙(かんげき)を突く戦略だった。
大手飲料メーカーに真っ向勝負を仕掛けると、資金面や流通面でとてもかなわない。そこであえて「同じ土俵で勝負しない」ことで、同じ飲料業界でも共存できる。
一方で、「王道を全く外れない」というわけでもない。事実、「ZAO SODA」はプレーンのほかに、レモンやライムといったフレーバーを展開したり、季節限定でマスカット味などを販売したこともある。
「これは脱付加価値をどの範囲まで捉えるかだと思います。われわれはレモンやライムをスタンダードな味と捉えています。消費者アンケートでも、レモンやライムは『ウイスキーのなどの割り材にマッチする』という声が少なからず聞かれます。他にも、日々変化する『スタンダードの中心』を見極めるために、期間限定のフレーバーを発売することもあります」(橋本さん)
ただ、「特徴がない」だけでは消費者は付いてこない。ましてや、無名の会社の商品ともなると購入に一定のハードルが生まれるだろう。そこで、LDCが「譲れない」としているのが、徹底したコストカットに基づく価格の安さだ。
■ペットボトルも原料から自作しコストカット
「ZAO SODA」の楽天での価格は、24本入り送料込みで1429円(2月8日現在)。1本あたり約59.5円だ。クーポンやタイムセールではさらに安くなる。
同社ではコストカットのために「ペットボトルの自作」を行っている。
「他社ではペットボトルを中間原料であるプリフォームから作る事が多いですが、私たちは原料となるレジンチップを輸入して100%自社で生産しています。大手飲料メーカーさんでも自社で原料からペットボトルを作るところはありますが、ペットボトルの形状が商品によって異なるため自社生産がむしろ非効率になってしまい、一部は外注するという事もあるようです。一方、規模の小さい飲料メーカーさんだと高価なペットボトル生産設備を保有することができず、コスト削減を実現できません」
LDCでは、ペットボトルの形状を1種類に限定。さらに、容量も500ミリリットルと2リットルの2つに絞り、キャップもすべて統一することで、ロスをなくし、費用を抑えている。こうした垂直生産による合理化は、新商品の開発に追われる他社には難しい戦略といえる。
「地方単位で見ると、われわれと同じようなスタイルでやっている企業も中にはありますが、全国規模で展開する飲料メーカーは他にはありません。そういう意味では、唯一無二のポジションであると思っています」
■「競合は水道とやかん」
ECサイトという「売り場」もうまく活用した。炭酸水などの飲料はケースで買うと重く、スーパーなどの実店舗で購入すると、車や家にまで運び込むのは一苦労だ。ところが、多くのECサイトの場合、配達員が玄関先まで運んでくれるメリットがある。
嗜好(しこう)やその時の気分に合わせてする「買い物」と違い、ある程度のクオリティーと安さを兼ね備えた商品を、労力をかけずに「調達」する購買方式にLDCは強みを発揮している。ECの場合、一度でも購入されると、その後も継続して購入される傾向があるという。
生きていく限り「のどを潤す」という需要はなくならない。「買い物」ではなく「調達」したいとき、最も力を発揮する要素が「安さ」であり「王道を外さない味」なのだ。
「値段で勝負すると、どうしても『おいしくない』とか、『薄利多売』というイメージが付きまといます。ですが、われわれの場合は、芯を外さないおいしさの追求にはこだわっていますし、実は営業利益率も10%を超えていて、薄利多売ではないんです。日常に欠かせない飲料を高品質・低価格で提供するという意味では、私たちの競合は、大手さんでも地方の飲料メーカーさんでもなく、水道ややかんですね」
LDCの躍進の背景には、「安かろう悪かろう」と消費者に思わせないひたむきな戦略がちりばめられていた。
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ライター
化学メーカーに勤めながら副業でライターをしている。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁っており、得た知識を参考に経済関連の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。
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(ライター 山口 伸 取材・構成=ライター・山口伸)
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