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世界では「推しの子」と「鬼滅の刃」どちらが人気なのか…海外にいる2000万人のアニメファンが下した評価

プレジデントオンライン / 2024年2月18日 7時15分

クランチロール「デーモン・スレイヤー」のレッドカーペット・プレミアに出席した竈門禰豆子(左)と竈門炭治郎=2023年2月18日、カリフォルニア州ロサンゼルスのThe Orpheum Theatreにて。 - 写真=AFP/時事通信フォト

日本のアニメは海外でどのように見られているのか。エンタメ社会学者の中山淳雄さんは「海外のアニメファンは日本と同じタイミングで新作を視聴している。その結果、アニメだけでなくその主題歌も同時に、世界中でバズるようになっている」という――。

■日本のアニメは世界でどう見られているのか

世界中にいるアニメファン約2000万人が集う「MyAnimeList」は、アニメ好きのためのWikipediaのような存在だ。

3カ月ごとに60~70本放送される新作アニメのページが新設され、Members(アニメをリストインしている人)、Score(アニメ評価)、Popularity(Members数の歴代ランキング)、Ranked(Scoreの歴代ランキング)の4つがトップに表示される。当然海外のアニメファンのためのサイトであり、すべて英語。

ここはエンタメを研究する私のような立場の人間にとって宝の山だ。6~7割が10~20代の若者世代、5~6割が欧米ユーザー、あとはアジア・南米などで日本人はほんの1%未満、という純粋な「日本人以外のアニメファン」サイトだ。

ネットフリックスや海外における最大級のアニメ配信サイト・クランチロールによって世界中に配信されたアニメをどう受け止めているかのリアリティが、ここにある。

競合サイトもほぼおらず、2004年に個人が始め、転々とした後、2019年に買収したのが電子書籍取次最大手の「メディアドゥ」。

本特集は同社からのデータ提供も受けながら公式で「世界のアニメトレンド」を分析していく企画となる。

基本的に分析は人気度を3つのタイミングで計る。

「配信前(=最初にどのくらいの期待値があったか)」、「配信30日後(=最初の3~4話でどのくらい話題になったか)」、「配信3カ月後(=シリーズの最後までにどのくらいがリスト化したか)」の3点を計れば、そのアニメ固有のバズり度合いが見えてくる。

これは「世界からみた日本アニメ・ミシュラン」である。

■ファンの増加率が2023年1位だったアニメ

2023年を代表するアニメといえば、文句なしに『推しの子』(放送開始:2023年4月~)だろう。Score8.70の高評価は歴代56位(記事執筆時点)、Member数はアニメ期間中に約54万人も増え、『鬼滅の刃』や『地獄楽』を抑えての昨期1位。

「MyAnimeList」公式サイトより『推しの子』の評価
画像=「MyAnimeList」公式サイトより

本作の成功はもちろんアニメの出来によるものだが、YOASOBIの主題歌「アイドル」の世界的なバズ影響も小さくはない。

→配信初期からBillboard Global Excl. US(アメリカを除いたグローバルランキング)で日本楽曲として初の総合1位を獲得、アニメ配信期間の前後あわせての4カ月間、ずっとヒットチャートを独占し続けていた(2023年年間では米国以外の世界で16位という日本楽曲では断トツ1位のランク)。

そのくらいグローバルでもアニメとともに聞かれ続けたMVは、新しいリズム、テンポ、サウンドに加え、まるでアニメの内容が生き写しされたような歌詞とビジュアル。海外展開に伸び悩む日本音楽業界においても、本作がもたらした影響は計り知れない。

■海外のアニメファンから見た『推しの子』

299もあるレビューで、人によってはレポートかと思える1000語を超えるレビュー内容を投稿していた。「日本のエンタメ業界の闇にスポットをあてている秀作」「ウソが真実になるという業を背負ったアイの物語でまるで感情のローラーコースターのようだ」といった評価は日本のファンと共通したものだろう。

そのほか、「ここまで単なるエンタメではなく社会批評たろうとするアニメは多くはない」、「『かぐや様は告らせたい』と同じシリーズの作者が愛と闘争の心理的側面を描いた傑作で、ここ数年で一番の衝撃だった」、「いまMALで最も高い評価を得ている『推しの子』はこのバズりにふさわしいか? ……今春、これは「観るべきアニメ」の1つだろう!」といった絶賛が続く。

2023年シーズンにおける世界覇権アニメは間違いなく『推しの子』であり、このレトリックをもって日本の芸能・アイドルといったジャンルへの興味も広がっている。

『推しの子』が敷いた認知のインフラを使って、逆にタレントやJ-POP、J-ダンスがどのような海外浸透をみせていくかは今後に期待したいところだ。

■『鬼滅』の安定した人気

『推しの子』が放送していた2023年Q2(4~6月)で、配信前の下馬評が高かったのは、当然ながらすでにアニメ化で成功している4作品である。

『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』(3期目)の登録者31万人から始まり、『Dr.STONE NEW WORLD』(3期目)22万人、『トニカクカワイイ』(2期目)15万人、『この素晴らしい世界に爆焔を!』(4期目・スピンオフ)14万人など、貫禄のある数字が放送前から集まっていた。

この4作のトップ独走から始まった2023年Q2だが、アニメにとって2期目以降の課題は「伸びが悪い」点にある。すでに1期目でファンになったユーザーだけが最初に集まる傾向にあり、その後の成長幅が目覚ましくはない。

ただそうした中で『鬼滅の刃』はさすがにPopularity歴代7位の殿堂入りタイトルであり、初動31万から3カ月後にも2倍以上の69万人まで伸ばし、空前の勢いだった『推しの子』を僅差で破り、Q2のMembers数1位を堅持していた。

【図表1】アニメ別のメンバー増加数(万人)
筆者作成

こうした4つの人気作に対して成長著しかったのは、ダントツの『推しの子』(配信前12万→配信後66万)の5倍に続き、『地獄楽』(14万→57万)、『天国大魔境』(4万→38万)、『山田くんとLv999の恋をする』(7万→33万)などで、ご覧のように人気が“爆上げ”の状況にある。

■「アニメ化=成功」とは限らない

ジャンプ+でも高評価だったマンガ『地獄楽』はさすがの躍進で、初アニメ化ながら『推しの子』に比する成長も見せていた。『天国大魔境』が今クールのダークホース1位だろう。

「絶望的な世界で希望を探そうという世界観は『少女終末旅行』『メイドインアビス』を想起させ、多くの点でこれまで観たアニメとは違っている」という評価の示す通り、文明崩壊後の日本を生きる少年少女のSF世界は、『イカゲーム』『今際の国のアリス』などのブーム同様ディストピアモノとしてのトレンドにも乗りつつ、多くの視聴者の期待を超え続けた秀作だ。

2023年Q2の作品数は全部で69作であった。本記事でスポットライトを当てるのはそれでもごく一部なのだ。

図表1はそのうちの上位20作を載せたのみだ。中間の20~40位はMembers数万人に過ぎず、下位の40位以下になってくると正直Members数千人にも満たない(ショートアニメ、韓国アニメなどフォーマットが違う理由もあるが)。

比較的7~8点など高評価が並びがちな上位のScoreも、下位になってくると5点台も珍しくない。

「マンガのアニメ化」は作品にとってゴールとも目されるが、そのアニメ化が実現した作品の中でも大ヒット作は1割、下位の人気作になると箸にも棒にも掛からない「無風状態」ということも覚悟しなければならない。

■メジャー誌発のアニメでなくても海外でバズる

これがアニメ化の厳しい現実ではあるが、3カ月ごとにこれだけ多くの作品がショーケースのように並ぶ。その中で、『推しの子』のようにアニメも音楽もマンガもすべてがメディアミックスで世界中に広がるような珠玉の一作が誕生することもままある。

なにより、われわれが認識すべきことは「世界と日本で意外なほど時差もリテラシーの差がない」という事実だ。

中山淳雄『クリエイターワンダーランド』(日経BP)
中山淳雄『クリエイターワンダーランド』(日経BP)

すでにネットフリックス、クランチロール、アマゾンプライムといった動画配信視聴が当たり前になる中で、毎度3カ月ごとにほとんどの海外ユーザーはアニメに同時間帯でアクセスすることができ、日本人と同じように味わっている。

この5~6年で、海外のアニメファンは急激にアニメに対するリテラシーを上げてきている。ジャンプやマガジン、サンデーなどのいわゆるメジャー誌出身マンガの期待値大のアニメ作品! とはいわずとも、中堅どころやラノベ出自のアニメ化作品でも初動で数万人の海外ファンが集まるようになっている。

そこでは異世界モノも学園ラブコメも等しく消費されているのだ。

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中山 淳雄(なかやま・あつお)
エンタメ社会学者、Re entertainment社長
1980年栃木県生まれ。東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。著書に『エンタの巨匠』『推しエコノミー』『オタク経済圏創世記』(すべて日経BP)など。

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(エンタメ社会学者、Re entertainment社長 中山 淳雄)

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