1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

なぜ共産、れいわ、参政党の支持者には「ワクチン懐疑派」が多いのか…東大教授が分析する「政治と陰謀論」の関係

プレジデントオンライン / 2024年3月22日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oatawa

SNSで「ワクチンに懐疑的な態度」を掲げるアカウントにはどんな共通点があるのか。東京大学大学院の鳥海不二夫教授は「2021年1月から12月までの1億件のツイート(当時)を分析したところ、コロナ禍以前からワクチン懐疑派だったアカウントはれいわ新選組や共産党と親和性が高く、コロナ禍以降にワクチン懐疑派になったアカウントは参政党の支持者が多かった」という。ジャーナリストの末並俊司さんが聞いた――。

■約1億件のツイートを収集し、ワクチン懐疑派を分析

コロナ禍でワクチン反対派になった人は、陰謀論や自然派、スピリチュアルな世界観に傾倒している傾向がある――。東京大学大学院工学系研究科の鳥海不二夫教授らの研究グループは、ツイッター(現X)を分析し、そうした結論を導き出した。分析の対象となったのは、2021年1月から12月までの「ワクチン」という単語を含む約1億件のツイートだ。

「ワクチンに懐疑的な考え方を持つ人たちについての研究はありましたが、“人はなぜワクチン懐疑派になるのか”という分析については、これまでありませんでした。今回の私たちの研究はそこにメスを入れたものとして、意義があると考えています」(鳥海教授)

2020年から、新型コロナウイルスによるパンデミックのために、私たちの生活は著しく制限され、ストレスによるさまざまな問題が国中を覆った。世界規模で多くの死者を出すコロナの猛威に、人類は震え上がった。世界はワクチンの開発を待ち望んだ。

アメリカの大手製薬会社ファイザー社がいち早くコロナワクチンを完成させ、2021年1月から、日本でも接種が始まった。テレビや新聞雑誌など、ワクチンを話題にするニュースが急増した。巷(ちまた)でもワクチンに関する言説が飛び交い、なかには怪しげな情報も散見された。

「もともと私は、ツイッター上のさまざまな話題や炎上の過程、フェイクニュースなどの研究を行っていました。コロナ禍においてはワクチン政策が非常に話題になっていたので、2020年の中ごろから、ツイッター上でのコロナに関する分析は行っていました」

そうしたなかで感じたのが、ワクチンに対して懐疑的なツイートをする人たちのことだった。

「どういったきっかけで懐疑的な考えを持つようになるのか、そもそもどういう人たちなのか、ツイートを分析することで見えてくるのではないかと感じたのです」

■継続的な反ワクチン派が政治への関心が高い理由

まず、収集した約1億のツイートを、次の3つのカテゴリーに分類した。

①「ワクチン賛成ツイート」
②「ワクチン政策批判ツイート」
③「ワクチン懐疑ツイート」

「そして、③を多くツイートしている場合は、リツイートしているアカウントを特定し、これを“ワクチン懐疑ツイート拡散アカウント”と定義しました。さらに、このアカウントを多くフォローしているユーザーを“ワクチン懐疑派”と定義しました」

これらを分析したところ、ワクチン懐疑傾向の低いアカウントはアニメ、ゲーム、漫画などへの関心が高く、逆にワクチン懐疑傾向の高いアカウントは、相対的に政治への関心が高いことが分かったという。

【図表】反ワクチン傾向が高いアカウントと低いアカウントの比較
「人はなぜワクチン反対派になるのか コロナ禍におけるワクチンツイートの分析」より

「ワクチンというものは、病気が悪化してから接種するものではなく、感染症が広がるかもしれない集団に対して、広く接種することで、感染の広がりを食い止めようとするものです。つまり公衆衛生の側面も非常に強い。そうした背景もあり、ワクチン接種政策を“全体のために個人が強制されるもの”と感じる人たちが一部いるのでしょう。ある意味で、全体主義的な考え方への忌避があるからか、リベラル的な政治志向と親和性が高いと言えます」

■「アニメ好き=ワクチン賛成派」ではない

しかし、ここでひとつ疑問が残る。なぜ、ワクチン懐疑傾向が低いアカウントは、アニメやゲームや漫画に親和性が高いのだろう。

「そもそも、ツイッターの利用者が全体的にアニメや漫画のファンが多いということが理由のひとつとして挙げられます。つまり、これらの趣味を持つ方々というのはツイッター上では普通の人たちだといえます。ようするに、ツイッターを利用している大多数のアカウントはワクチン懐疑傾向が低いため、ツイッター利用者全体の傾向が表れてしまっただけだと言えます。けっしてアニメが好きだからといって、ワクチン懐疑派にならないわけではありません」

同研究では、ツイッターユーザーのワクチンに対する態度がコロナ禍前と後でどのように変化していったかの検証も行っている。ワクチン懐疑傾向の高い層をHighグループ、逆にワクチン懐疑傾向の低い層をLowグループとした。

【図表】パンデミックを経て新たに高い反ワクチン的傾向を持つようになったアカウントの特徴
「人はなぜワクチン反対派になるのか コロナ禍におけるワクチンツイートの分析」より

「コロナ禍以前からHighグループに属していたユーザーと、コロナ禍を経て2021年12月までにLowグループからHighグループに移行したユーザーの2つを比較分析しました。コロナ禍以前からHighグループだった人たちは、政治的な関心が強く、どちらかというといわゆるリベラルな傾向を示していたのに対し、LowからHighに移行したユーザー、つまりコロナ禍を経てワクチン懐疑派になったユーザーは陰謀論や自然派、スピリチュアリティに関する単語がツイッターのプロフィール文に頻繁に現れることが分かりました。一例を挙げると、“テクノロジー犯罪”や、“波動”などの単語です」

■ワクチン懐疑派を支持者に取り込んだ参政党

他にも“集団ストーキング”や“柔軟剤”などの単語も多く見られたという。

「柔軟剤というワードがワクチンとどう関係しているのか不思議に感じられるかもしれませんが、人工物を嫌う“自然派”的な考え方の人たちもワクチン懐疑派になりやすい傾向があるようです。そうした人たちが柔軟剤の弊害について多くツイートしているのでしょう」

ワクチンに対する態度と政治的な相関性についての見地も実に興味深い。

コロナ禍からHighグループだったユーザーは立憲民主党やれいわ新選組、日本共産党などのアカウントをフォローする率が高いのに対して、コロナ禍を経てLowからHighグループに新規に移行したユーザーは上のような既存の政党をフォローする傾向が弱いことが分かった。ところがこのLowからHighに移行したグループは、2022年3月から9月にかけて、参政党のアカウントをフォローする率が急上昇したのだという。

【図表】主要政党/代表のアカウントをフォローする割合
「人はなぜワクチン反対派になるのか コロナ禍におけるワクチンツイートの分析」より

「これは、参議院選挙の影響だと思われます。この時参政党は、反ワクチンの態度を前面に押し出して選挙戦を戦っていたようです。今回の分析の結果、コロナ禍以降に新規にワクチン懐疑的な傾向を持つようになったユーザーは、陰謀論や自然派、スピリチュアルな世界観をきっかけに、ワクチン懐疑的な態度を持ち、さらに反ワクチンを政治信条に掲げた政党への支持を高めた可能性が示唆されていると考えます」

■陰謀論を強く打ち出した方針は結果的に成功している

この結果を別の角度から見ると、参政党を支持した一部の人たちは、コロナ禍以前はさほど政治に興味がなかったのかもしれない。しかし、コロナ禍での参政党の政治信条に触れることで、政治に興味を持つことになったということもあるのだろう。参政党への支持はそうした側面もあるように思われる。

「多くの人たちの意見をすくい上げて、政治の現場にフィードバックするのが政党の役割です。実際、参政党は陰謀論で使われるキーワードや、自然派・スピリチュアリティに親和性の高いキーワードを使って政治キャンペーンを展開していました。方法論や主張の是非は別として、新たな支持者を獲得した参政党の方針は、政治活動としては正解だったのだろうと思います」

以上のように、ツイート分析は、大きな集団の思考の変化を時系列で追う有効な手法だった。ところが2023年4️に、ツイッターがX社に吸収合併され、同7月にツイッターがXに変わったことで、情報の収集が困難になっているという。

「ツイッター時代は、研究等の用途でデータを取ることが許可されていたのですが、X社になってからはそれができなくなりました。これまでと同じような研究をしようとすると、年間で日本の平均年収の2倍くらいのお金がかかることになります。うちは小さな研究室なので、とてもそんな資金はありません。こうした研究に興味のある団体や企業との共同研究を募集しているところです」

■ネットの発達によって、情報の偏りに気づきにくくなった

ワクチン政策に対する賛成・反対は、人それぞれの考え方であり、そうした情報発信をするのは個人の自由だ。ただ、より正しい情報にたどり着くには、それなりの工夫や注意が必要だと鳥海氏は言う。

「そもそも人間はすべての情報に接することはできません。結局自分が接した情報のなかから判断することになります。人は得てして、自分が接している情報が全てだと思いがちです。それがどんなに偏っていても、その偏りに気づくことができない。SNSを含むインターネットの発達は、これに輪をかけることになりました。

一度検索した言葉や、クリック、フォローしたアカウントなどの情報に近しい情報が多く表示されるようになります。そのために、検索すればするほど接する情報が偏っていくという現象が起こる。陰謀論などに取り憑かれる構造はこうしたところにあるのだと思います」

■「情報的健康」に意識を向けるべき

また、インターネットから離れたとしても、偏った情報から完全に離れるのは難しいという。

「テレビや新聞、雑誌なども含めて、既存のメディアもインターネットに流通している情報の影響を受けています。現代社会を生きるわれわれにとって、偏った情報やそうした情報の影響を受けていないメディアに触れることは実質的に不可能だと言っていいでしょう。

たとえば、以前、ジャーナリストの方と話をしていて『私はさまざまな情報を収集しているので偏っていないはずだ』と主張されましたが、実際に分析してみるとその方のアカウントが接する情報にも偏りがあることがわかりました。もちろん、ネットに溢れる信頼性の低い発信者や情報に与えられるがまま接触するよりは、接触する情報に気を付けている方のほうが偏りは少ないのでしょう。ですが、情報のプロでさえ偏ってしまうわけですから、われわれはどれだけ注意しても偏った情報に接してしまうと認識すべきです」

情報過多社会に生きるわれわれは、どういったところに気をつければいいのだろう。鳥海氏は「情報的健康」という言葉を使って説明する。

「ジャンクフードは食べ過ぎると栄養過多になって健康を害します。でも美味しいからついつい食べてしまう。情報も同じです。一見面白そうな情報の中にはジャンクなものも紛れ込んでいるものです。時には冷静になって、一見美味しくなさそうだけど、しっかり裏取りされた情報に触れることも情報のバランスに気を使いたいのであれば必要でしょう。健康でいるためには摂取しているモノ(食事・情報)が何なのか知ることが重要です。

幸いなことに、諸外国に比較して、日本はマスメディアに対する信頼度が非常に高い国です。もちろん、新聞や雑誌、テレビのニュースなど、これらのマスメディアがすべて正しい情報を流しているとはいいませんが、ネットに跋扈(ばっこ)するジャンクな情報よりは信頼度が高いといえるでしょう。盲目的に信じるかどうかは別として、マスメディアの情報に定期的に触れておくことも、『情報的健康』を保つうえでは有用だと私は考えています」

----------

鳥海 不二夫(とりうみ・ふじお)
東京大学大学院工学系研究科 システム創成学専攻 教授
1976年生まれ。長野県出身。研究テーマは計算社会科学、人工知能(AI)技術の社会応用。東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程を修了後、名古屋大学情報科学研究科助教を経て、12年に東京大学大学院工学系研究科准教授、21年から現職。主な著書に『強いAI・弱いAI 研究者に聞く人工知能の実像』(丸善出版)、『デジタル空間とどう向き合うか 情報的健康の実現をめざして』(日経BP)などがある。

----------

----------

末並 俊司(すえなみ・しゅんじ)
ジャーナリスト
1968年福岡県生まれ。日本大学芸術学部卒。テレビ番組制作会社勤務を経てライターに。両親の在宅介護を機に、2017年に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)を取得。「週刊ポスト」などで、介護・福祉分野を軸に取材・執筆を続ける。『マイホーム山谷』で第28回小学館ノンフィクション大賞を受賞。

----------

(東京大学大学院工学系研究科 システム創成学専攻 教授 鳥海 不二夫、ジャーナリスト 末並 俊司)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください