「梅干しは健康に悪いから食べない」は間違っている…「疲れが取れない」という人が不足しがちな意外な栄養素
プレジデントオンライン / 2024年3月30日 14時15分
■「ミトコンドリアの活性化」がカギ
全身の細胞レベルで見ると、私たちの体のエネルギーをつくっているのは、約60兆個ある細胞のひとつひとつにある「ミトコンドリア」という細胞小器官です。
細胞内のミトコンドリアという「エネルギー生産工場」のなかで、酸素を使ってエネルギー(ATP)に変えていくことによって、私たちは体を動かし、呼吸をし、脳を働かせているわけです。
ですから、ミトコンドリアを活性化させ、細胞を元気にすることが、私たちがいつまでも健康でいつづけるカギになります。
■「ビタミンB群」「L-カルニチン」が必要
ミトコンドリアを活性化させるために必要な栄養素は、ずばりビタミンB群、羊や牛の赤身肉に多く含まれているL-カルニチンです。
脂肪(脂肪酸)を燃焼させてエネルギーに換えるには、エネルギー産生のミトコンドリアに運ばれる必要がありますが、その運搬役をするのがL-カルニチン。ビタミンB群は補酵素としてエネルギー産生サイクル(クエン酸回路)をぐんぐん回していくのに必要です。
■オメガ3系オイルは生でとる
細胞や健康な細胞膜をつくるために欠かせない栄養素は、オメガ3系の“いい油”です。
最近は「体にいい油」への関心が集まっていますが、亜麻仁(あまに)油やエゴマ油、シソ油、魚油などのオメガ3系オイルを毎日の食事に積極的に取り入れていきましょう。
ただ、酸化しやすく熱に弱いため、加熱調理には向きません。仕上げに振りかけるか、ドレッシングなどにして生でとるのがおすすめです。
また、脳細胞の活性化はもちろん、脳の状態を整えるのもオメガ3系の油が必須です。
■穏やかでいるために重要な「大脳基底核」
脳というと前頭葉(ぜんとうよう)、つまり「大脳新皮質(しんひしつ)」と呼ばれる部分が何かと注目されますが、副腎ケアから見て私たちが重視しているのは、その下(深部)の「大脳基底核」のほうです。
大脳基底核は爬虫類(はちゅうるい)にもある原始的な脳です。不安や恐怖といった原始的な感情を司る脳の核のような場所ですから、大脳基底核が安定していなければ、私たち人間は穏やかではいられません。
■オメガ3が足りないと不安感が増す
抑うつ感、不安感などといわれる感情は、精神的なストレスとなって副腎に負担をかけます。
不安やうつなどの症状を感じているのはどこかといえば、脳は脳でも実は大脳基底核であることが多いのです。
前置きが長くなりましたが、この不安をとるのにも、オメガ3系の良質な油が役立ちます。オメガ3が足りないと不安感が増し、大脳の深い部分で誤作動を起こしてしまいます。
また、ビタミンB群が足りない場合も大脳基底核で不安を感じやすくなります。ですから、うつ病の患者さんで一般的に処方される抗うつ薬が効かない場合、オメガ3系の油やビタミンB群を補給してあげると改善するケースが多々あります。
■たんぱく質でセロトニンが増える
最後に、忘れてはならない栄養素は、細胞の材料そのものといえる、たんぱく質です。すでにふれたように、細胞の生まれ変わり(新陳代謝)に欠かせません。
また、脳の伝達物質セロトニンやメラトニンは、たんぱく質から分解されたアミノ酸(トリプトファン)からつくられます。
幸せ物質として有名なセロトニンは精神の安定に関わっており、「睡眠ホルモン」と呼ばれるメラトニンは、このセロトニンからつくられます。
そのため、これらが不足すると、うつや不眠に悩まされたりします。
ですから、豚肉や牛肉、魚介類、卵、豆製品等、たんぱく質を増やす食生活がセロトニンを増やし、抑うつ状態の改善や、不眠の解消に有効なのです。
■腸と脳は直結している
ここで腸と脳の切っても切れない関係について説明しましょう。
「腸は第二の脳」といわれるように、実は、腸と脳は直結していたのです。
緊張したり極度なストレスがかかると、お腹が痛くなったり、下痢をしたりした経験はありませんか。
最近では過敏性腸症候群も増えていますが、これもストレスと深く関わっています。また、便秘になると気分が落ち込んだり、イライラしたりします。
先ほどセロトニンの話をしましたが、精神の安定に働くセロトニンがつくられている場所は、なんと脳が20%、腸が80%(脳が5%、腸が95%という最近の論文まであります)! 腸のほうが圧倒的にセロトニン生産量が多いのです。
■「血液脳関門」は思ったよりもゆるい
一見、脳の問題といえる抑うつ症状を改善するためには、まず腸を整えることが先決だったのです。
これまで脳には「血液脳関門」というバリアがあり、脳を守るために、血液を通じて脳に悪いものが入らないようにしているとされてきました。
ですから、同じセロトニンでも、腸でつくられたものは脳に作用しないとされてきたのです。
ところが、最近ではどうもこの「血液脳関門」は思ったよりもゆるいのではないかという説が有力になってきました。つまり、腸で生産されるセロトニンも、脳で共有されているのではないかというのです。
脳と腸のセロトニンは別物だといっても、同じ一人の人間の体ですから、考えてみれば共有されてもおかしくはありません。
■脳は腸から直す
「ブレインガットコネクション(脳と腸の関係)」という言葉があるように、腸と脳の関係は重要です。
今日の医学では、「脳は腸から治す」というのがスタンダードな流れになってきました。腸を治すことで脳は落ち着いていきます。
実際、認知症状がある人で、便秘ではない人を探すのは難しいといわれています。
逆に、元気なお年寄りに便通状態を聞くと、とても良好だと答えます。
こうした事実からも、脳と腸が深くつながっているのがわかるでしょう。
■副腎が疲れるとカリウム・ナトリウムが不足
ナトリウムとカリウムは、お互いに天秤(てんびん)のようにバランスを取り合っている関係です。
副腎が疲れ始めると、コルチゾールがさかんに分泌されます。この過程でナトリウムを吸収し、その分カリウムを排出しようとするので、カリウムが不足しがちです。
ところが副腎疲労が進み、副腎が疲れきってコルチゾールを分泌できない状態になると、ナトリウムを吸収できずに尿として排出されてしまうので、ナトリウム不足にもなります。
副腎疲労になると、このようにカリウムとナトリウムのバランスが乱れがちになります。同じ人であっても、時と場合によって、ナトリウム不足になったりカリウム不足になったりするのが副腎疲労の人には多いのです。
■適度な塩分は必要
このバランスを整えるために、ナトリウムもカリウムもバランスよく摂取するといいでしょう。
ナトリウムをとるのにおすすめなのが梅干しです。
ドクターストップがかかっている人でない限り、適度な塩分は必要です。
梅干しはミネラルも豊富なので、朝食などに取り入れてみてはいかがでしょうか。
ただし、減塩タイプのものには防腐剤などの添加物が入っているものが多いので、選ぶなら塩分濃度15%以上の、昔ながらのしょっぱいものにしましょう。
一度に丸ごと1個食べなくてもかまいません。梅干しなら量も調整しやすいでしょう。
カリウムの摂取には、果物がおすすめです。
副腎疲労でクリニックを訪れる患者さんで、果物を食べていないという人が多いことに驚いています。果物は糖質が高いために食べないようにしている、というのがその理由のようです。
ただ、そのメリット・デメリットを考えたとき、メリットのほうを優先すべきだと思います。
■果物はビタミン、ミネラルを豊富に含む
たとえば朝から同じ糖質をとるならパン(小麦)からとるよりは果物からとるほうがいいでしょう。
果物はビタミン、ミネラルを豊富に含むだけでなく、食物繊維も摂取できます。さらに抗酸化作用が強い成分も含まれています。
またホールフードといって、食材全体をそのまま食べることにより、さまざまな栄養が摂取できるメリットもあります。
もちろん果物には、農薬の問題などデメリットもあります。
安全性がはっきりしているもの以外は皮をむいて食べるように心がけましょう。
また、糖質が気になる人は糖度の低い、甘くないもの、酸っぱいものを選ぶようにしましょう。
果物以外でカリウムを摂取するには、こんぶやひじきなどの海藻類のほか、にんにく、アボカド、納豆、さつまいも、旬の生野菜もおすすめです。
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医師、スクエアクリニック院長
米国発達障害児バイオロジカル治療学会フェロー。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、同大学病院総合診療内科入局。副腎疲労の夫をサポートした経験を活かし、米国で学んだ最先端医療に基づく栄養指導もおこなう。また、日本で唯一、副腎疲労、グルテンフリー外来を開設している。
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医師、スクエアクリニック副院長
米国抗加齢医学会フェロー。日本抗加齢医学会専門医・評議員。医学博士。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、同大学院医学研究科修了。自身が原因不明の重度の疲労感に苦しんだことをきっかけに、アドレナル・ファティーグ(副腎疲労)の提唱者であるウィルソン博士に夫婦で師事。帰国後、日本初の副腎疲労外来を開設。近年は、副腎疲労治療を応用し、認知症状や発達障害など脳のトラブルにも治療効果を上げている。
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(医師、スクエアクリニック院長 本間 良子、医師、スクエアクリニック副院長 本間 龍介)
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