県内一の進学校から早稲田では恥ずかしい…「自称名門校」にはびこる国公立至上主義という時代錯誤
プレジデントオンライン / 2024年4月11日 9時15分
※本稿は、清水克彦『2025年大学入試大改革 求められる「学力」をどう身につけるか』(平凡社新書)の一部を再編集したものです。
■受験生の「最大の敵」は学校の進学指導
「通っている高校は、県内で一、二を争う進学校。ライバルの県立高校と『国公立大学に何人合格させたか』を競っているので、早慶志望の自分に、地元や近県の国立大学を勧めてくる」
「うちの高校は『自称進学校』で、国公立大学への合格者を増やそうとしているので、国公立大学を第一志望にしないと、進路相談でろくに話を聞いてもらえない」
これらは、筆者の教え子たちから毎年のように聞かされる言葉である。
国公立大学か、それとも私立大学か、という問いの答えは、各家庭の事情や子どもの将来の夢にもよるので一概には言えない。
ただ、家計的に許容範囲で、なおかつ、子どもの夢が、地方の国公立大学に進学するよりも東京の私立大学に通ったほうが叶えやすいものだとすれば、高校側の進路指導は間違っていると言うほかない。
こういうケースは、各地の県庁所在地や第二の都市に多く存在する、地域屈指の進学校と称されてきた公立高、そして、埼玉や千葉、神奈川といった首都圏近郊の伝統ある公立高、あるいは、京都大学、大阪大学、それに神戸大学といった難関国立大学が近くにある関西圏の国公立高や私立高で生じやすい。
■「早慶よりも地方国公立大学のほうが上」?
◇高校で生じやすい進路指導の「罠」
○総合型選抜入試で難関の私立大学を受験したいという子どもに、国公立大学受験を迫る。「総合型で出願するなら調査書は一通しか書かない」などと言われるケースもある
○「特進クラス」や「選抜クラス」の子どもには指定校推薦や学校推薦型選抜入試を受けさせず、一般入試で難関大学に挑戦させる
○「早慶よりも地方国立大学のほうが上」だと指導する(※上か下かの判断は子どもの志向などによるが……)
○生徒全員に大学入学共通テストを受験させる
○大学入学共通テストの点数が良かった場合、国立大学の前期日程だけでなく、後期日程でも受験させ、国立大学合格者数を水増ししようとする
○大学を併設している私立の中高一貫校の場合、外部受験(他大学受験)に何らかの制約を設ける(第1回参照)
このような指導が当たり前のように繰り返されているのだ。
■「国公立至上主義」は40年前から変わらない
振り返れば、筆者も、はるか昔、高校3年次の進路指導で、早稲田大学志望であったにもかかわらず、担任の教員に「近くの国立大学も受けるのが条件」と迫られ、「先生がお金を出すから」とまで言われた苦い思い出がある。
それから約40年が経過した今も、同じように「国公立大学至上主義」的な進路指導が行われているのは、ある意味、衝撃的なことだ。
また、国公立大学への合格者を増やそうと、生徒が実際に受験する国公立大学のランクを、本人の志向など関係なく、難易度では下位の国公立大学へと強引に下げさせるケースも数多い。
それぞれ、「国公立大学への評価は高い」や「無理をして浪人はすべきではない」などの理由はあるのだろうが、多くの生徒は従わざるを得ないため、一つ間違えば、高校の進路指導によって、無難な線に落ち着かされてしまうリスクもある。
■高校の進路指導だけに任せるのは危ない
埼玉県内や茨城県内の公立高の校長に話を聞けば、教員の評価は、担当するクラスの子どもを何人国公立大学に合格させたかで決まるわけではないという。昇進や昇給にも影響を与えないと口を揃える。
それは事実だとしても、先に述べたような高校では他校と国公立大学の合格者数を競い、教員間では「国公立に入れてナンボ」の固定観念が今もなお息づいていることも事実である。
もちろん、生徒本位で熱心に指導されている教員もいる。そういう方々にはお叱りを受けるかもしれないが、ドライな表現を用いれば、高校の担任教員や進路指導の担当教員の多くは、子どものこれからの人生に関わることなどまずない。
定期試験や模試の成績のような一過性の学力と、所属する高校の方針に基づいてアドバイスをしているだけだ。その教員自身、民間企業などを経て教員になった人を除けば、学校という狭い世界しか知らない。
つまり、子どもの進路を見誤らないためには、高校の進路指導だけに依存しないことが重要になるということだ。言い換えれば、子どもと密接に関わってきた保護者が「進路リテラシー」を持つことが大切なのである。
■保護者に持ってほしい「進路リテラシー」
筆者が考える保護者の「進路リテラシー」とは次のようなものだ。
○子どもが強い意思を持っていれば、それを尊重する
○子どもが強い意思を持っていない場合、「この子はどういう方面が向いているのだろうか」と、これまでの志向や得意分野などから考えてみる
○子どもがオールラウンダーかスペシャリストかを見極める。オールラウンダーなら国公立大学、スペシャリスト(英語だけ強い、文章力がある、弁が立つなど)なら私立大学を総合型選抜入試で、という作戦が成り立つ。どちらでもない場合も、じっくり考えれば方向性は見えてくる
○世の中の動きから、10年先、20年先の地域や日本全体、場合によっては世界の情勢を想像し、子どもの進路相談に真摯に向き合う
○大都市圏と地方、国公立、私立を問わずどの大学も特徴があり、小規模な大学でも「就職に強い」や「面倒見が良い」、あるいは「資格が取れる」などの利点があることを把握する
○世間体を必要以上に気にせず、保護者の世代の価値観を押しつけない
■二番目の敵は保護者の「古くさい価値観」
私立大学、それも大都市圏にある私立大学に一人暮らしをさせるような場合、家計との兼ね合いも不可欠になるが、それを除けば、これらの点に配慮していただけたら、と思う。
筆者の教え子の中には、父親から
「県内一の進学校から早稲田は恥ずかしい。それも一般入試ではなく総合型選抜入試で? あれは一芸入試だろ? どうしても行くと言うのなら勝手にやりなさい」
「慶應なんてお坊ちゃん学校、お金をドブに捨てるようなものだ。国立大学に行かないなら学費は出さない。旧一期校の国立に行きなさい」
などと言われた子どもが存在する。昭和の時代ならともかく、現在は平成も通り越して令和の時代である。
私立は国立より下、総合型選抜入試は一般入試より劣る、同じ国立大学でも、旧一期校(旧帝大や一橋大学、神戸大学など)は旧二期校(横浜国立大学や東京外国語大学など)より上、などという「古くさい価値観」がまだ存在していることは、正直なところ驚きでしかない。
■医師の父親と早稲田大を目指した子との確執
特に地方在住、あるいは地方出身の保護者に散見される価値観だが、価値観の相違は一朝一夕には埋められない。
教え子の例で言えば、前者は、国立大学医学部出身の医師の父親との間で、早稲田という私立の、しかも文系学部を総合型選抜入試という得体の知れない制度で受験することについて合意が得られず、受験はしたものの悪い結果で終わった。その後、奮起して一般入試に切り替え、早稲田の学生にはなれたが、父親への不信感は払拭されていない。
後者のケースも、国立大学出身で大手新聞社勤務の父親と、同じく国立大学出身の母親からともに反対された子どもは、望みどおり、旧一期校の千葉大学へと進学した。大手商社志望の本人は、「慶應なら有利だったのに」と語る。
このように、保護者の価値観は、大学入学後にも影響を与えるので、先にまとめたような「進路リテラシー」を持つことは重要になる。
■入学後のアドバンテージは地方より都会
保護者に持っていただきたい「進路リテラシー」で、もう一つつけ加えるなら、「大学は大学キャンパス内だけが学びの場ではない」という点だ。
地元の大学へ進み、公務員や教員、あるいは地元の企業や団体で働きたいというケースを除けば、大都市圏の大学に通ったほうが、有形無形の財産を得やすい。
在京メディアに籍を置く筆者は、仕事柄、地方の放送局や新聞社の人たちと話をする機会が多い。彼(彼女)らの中には、在京キー局や大手新聞社にもいないような優秀な人材も大勢いるのだが、会話の内容のスケールが小さい。
普段から、国政や国際情勢を取材したり、著名な文化人や芸能人とつき合いがあるディレクターや記者と、県議会や市議会取材、ローカルタレントとの接点が中心の地方局や地方紙のディレクターや記者とでは、長い年月を経れば、視野の広さ、視点の面白さが違ってくると感じてきた。
■誘惑は多いが気づきを得られる場所も多い
同じことは大学生活にも言える。
首都圏や関西圏のほうが刺激は大きい。様々な誘惑に引っ掛かりやすいというデメリットはあるものの、大学のゼミなどで赴くフィールドワークが最先端の場所であること、大学で講義を行う実務家の教員の質が高いこと、そして、学外で言えば、アルバイト先の豊富さ、見学する場所の多さ、世界各地から集まる人々と触れ合う機会の多さなど、気づきを得られる場所がふんだんに用意されている。
やがて訪れる就職活動に関しても、大都市圏のほうが企業のインターンシップに参加しやすく、OB訪問なども容易で、採用試験本番でも長距離の移動をしなくて済む。
「田舎のネズミと街のネズミ」、田舎のほうがいいというのがイソップ寓話のストーリーだが、大学生活の場合は、それとは異なり、「街のネズミ」に分がある。
日本よりも受験熱が高い韓国では、首都ソウルとそれ以外の街にある大学とでは、難易度も卒業後の就職も雲泥の差がある。日本の場合、地方にも魅力あふれる国公立大学や私立大学はあるが、何らかのアドバンテージを得たいなら、大都市圏の大学という選択も有りなのではないだろうか。
保護者がそういう考えに立つことも、高学歴を得させる一助になる。
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政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学特任教授
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。米国留学を経てキャスター、報道ワイド番組プロデューサー、大妻女子大学非常勤講師などを歴任。専門分野は現代政治、国際関係論、キャリア教育。著書は『日本有事』、『台湾有事』、『安倍政権の罠』、『ラジオ記者、走る』、『2025年大学入試大改革』ほか多数。
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(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学特任教授 清水 克彦)
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