なぜアップルとグーグルは「GAFA」から脱落したのか…代わって時価総額が急増している「4つの巨人」の正体
プレジデントオンライン / 2024年4月8日 9時15分
■M7から「エヌビディア、アマゾン、メタ、マイクロソフト」へ
足許の米国株式市場で、これまで主役を演じてきた“マグニフィセント・セブン〔壮大な7社=テスラ、アップル、アルファベット(グーグル親会社)、エヌビディア、アマゾン、メタ、マイクロソフト〕”から、テスラ、アップル、アルファベットの3社が脱落しつつある。残りの4社を称して“ファビュラス4”という。マグニフィセント・セブンからファビュラス4へ、世界の投資家の注目は移っている。
テスラは中国EVメーカーとの競争激化、EV販売鈍化などの懸念が高まった。アップルは生成AI関連事業において、マイクロソフトなどに後れをとった。米国と欧州委員会のIT関連政策・規制もアップル、グーグルなどに逆風だ。これらの3社の株価動向は、目に見えて鈍くなっている。投資家の目が慣れ始めている証拠だ。
世界的にカネ余りが残っていることもあり、当面、ファビュラス4への資金流入は続くだろう。ただ、米国株全体の割高感は強い。今後、米金利やAI関連の有力企業の事業展開次第で主要銘柄の株価上昇が鈍化すると、世界的に株式市場が不安定化することが懸念される。そのリスクは頭に入れておいたほうがよい。
■米国経済の強さを象徴する7企業だったが…
足許の世界経済は米国の一人勝ちの様相だ。賃金は高止まりしており、個人消費はしっかりしている。総じて、米国の経済は大方の経済の専門家が想像した以上に良い状態を維持している。ある意味、米国経済の強さを象徴する存在が、株式市場の象徴であるマグニフィセント・セブンだった。
半導体の設計開発を行うエヌビディア、iPhoneのヒットを実現したアップル、EVメーカーのテスラなど、ビジネスモデルは異なるが、いずれも成長期待の高い分野で高いシェアを持つ。年初以降、一時は年6回の利下げを予想する投資家も増加した。金利上昇に一服感が出て、株式市場への資金流入は加速した。
高い利得を求め、主要投資家はエヌビディアなど成長期待の高い銘柄に資金を投じた。3月、S&P500インデックスは最高値を更新した。株価上昇による資産効果は米国の消費者心理を支え、緩やかな景気の拡大が続いた。
■iPhoneを抱えるがゆえに乗り遅れたアップル
一方、米国の株式市場では、マグニフィセント・セブンの中での優勝劣敗の選別が進んだ。世界的なEV需要の増加ペース鈍化などから、テスラの脱落懸念が高まった。不動産バブル崩壊で中国の需要は減少し、欧州や米国では政府の計画通りにEVの普及が進まなかった。欧州委員会が中国製EVに関税を賦課する恐れが高まったことも、上海で生産を行うテスラの業績懸念を高めた。
次に、アップルの株価が怪しくなった。エヌビディア、マイクロソフトなどに比べ、アップルは生成AI分野での成長戦略が遅れた。iPhoneという有力製品の存在感が大きすぎるため、環境変化に遅れたともいえる。さらに今年3月、米司法省は同社を反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いで提訴した。欧州委員会もデジタル市場法(DMA)違反の可能性で調査を開始した。
グーグルの親会社であるアルファベットの脱落懸念も高まった。2023年10月~12月期決算で広告事業の売上高は市場予想を下回った。欧州委員会はグーグルに関してもDMA違反の疑いで調査を行う。
■「生成AI分野の戦略」が明暗を分けた
残る4社、エヌビディア、マイクロソフト、アマゾン、メタを“ファビュラス4”として注目する投資家は増えた。これら4社の共通の要素として、大規模言語モデル(LLM)の強化による生成AI関連事業の成長期待がある。それぞれの業績拡大ペースに違いはあるものの、生成AI分野での成長戦略によって選別が進んだといえる。
筆頭役がエヌビディアだ。3月に出荷が始まった先端のAIチップ“H200”は、既存のH100チップに比べて生成AIの処理速度が最大で45%高まる。年内にエヌビディアは次世代チップの“B200”も投入する計画だ。B200とCPU(中央演算装置)などを組み合わせることで、処理能力は既存のAIチップの約30倍になるという。
AIの学習強化に欠かせないGPU(画像処理半導体)分野では、米AMDも競合製品を投入し競争が激化しつつあるが、市場の80%程度のシェアを持つエヌビディアの優位性が簡単に揺らぐとは考えづらい。エヌビディアは、AIチップの効率的な利用を支えるソフトウェアでも競争力が高い。
■ネット通販でAIの実装を目指すアマゾン
マイクロソフトはオープンAIとの協業を強化することで、“アジュール・オープンAI・サービス”の需要増加につなげた。オープンAIと共同で、最大で1000億ドル(15兆円)規模のデータセンターの建設を計画するなど、生成AI関連分野で高い成長を目指す。そうした期待から株価は上昇し、3月末時点で米国最大の時価総額にまで成長した。
アマゾンも、自社開発したLLMである“Amazon Titan”を使ったAI事業の強化に集中しはじめた。その一例として、同社はネット通販などのプラットフォームに生成AIを実装し、出店者がより魅力的なマーケティングを行ったり、潜在的な消費者の需要をつかみとったりするサービスにつなげようとしている。
メタも、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が、AI事業の強化を明確に示し成長期待は高まった。ただ、アップル、グーグル同様、欧州委員会はメタに対する調査も開始した。調査の結果次第では、欧州委員会が巨額の制裁金の支払いを命じる恐れもある。
■ファビュラス4の間でも競争は激化する
当面、ファビュラス4への資金流入は続くだろう。米国など世界の金融市場でカネ余り状況は残っている。3月の連邦公開市場委員会(FOMC)は、2024年に0.25ポイント刻みで3回の利下げを行う従来の金融政策の運営見通しを維持した。
ユーロ圏では、利下げの必要性に言及する欧州中央銀行(ECB)関係者が増えた。それは成長期待の高い米国株への資金流入を支えるだろう。米国やユーロ圏では信用格付けが低い(投資適格級未満、BB格以下)のジャンク債の価格も上昇傾向にある。投資家のリスク選好の姿勢が急激に悪化することは考えづらい。
ただ、少し長い目で見ると、ファビュラス4にも投資家の選別が及ぶ可能性はある。今年3月末時点で、ナスダック100インデックスの予想PER(株価収益率)は27倍と割高感は強い。ファビュラス4といえど、上昇が永久に続くことはない。特に、メタに関しては欧州委員会の調査次第で業績にかなりの影響が出るはずだ。
■エヌビディアの成長期待は高すぎるとの見方も
また、エヌビディアの成長期待は高すぎるとの見方もある。今後の業績を慎重に考える投資家もいる。半導体などの先端分野で、米国が中国への輸出規制を強化していることは米国のAI半導体関連銘柄のリスク要因にもなりかねない。
さらに、米国の金融政策のリスクを過小評価する主要投資家は多い。米国の物価は2%を上回る状況が続いている。個人消費の増勢もあり、理論的に利下げが必要とは考えづらい。OPECプラスの一部加盟国が自主減産の追加延長、あるいは拡大などを示唆すると、インフレ懸念は上昇し米国の金利が上昇する恐れもある。
金利の上昇は株価にマイナスに働く。11月の米国大統領選挙がどうなるかもわからない。ファビュラス4の一角で株価が調整し、米国をはじめ世界的に株価が調整気味に推移する懸念は徐々に高まると考えられる。
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多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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