現場を知らない素人コンサルが「虚無」を売っている…日本のモノづくりを30年間停滞させた「外コン」という存在
プレジデントオンライン / 2024年4月19日 8時15分
※本稿は、ものづくり太郎『日本メーカー超進化論 デジタル統合で製造業は生まれ変わる』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■低すぎる工場の生産性を高めたい
本稿では、これから私、ものづくり太郎が何をしていくつもりなのかをまとめながら、製造業の未来を考えていきます。
私がこれからやろうとしているのは、誰かがやらなければならないことです。誰かがやったなら、日本の製造業はガラリと変わります。おおげさではなく製造業の存亡がかかっていることです。
日本のメーカーがこれから世界と戦っていくためには何をしていくべきなのか? その道筋を示していきたいと考えているのです。
実をいうと、少し前までは自分で工場を開設することを予定していました。どうして工場をやろうと考えていたかといえば、目的の1つはやはり未来への道筋を示したかったからです。
日本の工場の生産性が低すぎることはここまでに解説しました。しかし、的確なデジタル化ができたなら稼働率はまったく違ってきます。
装置設計次第で生産性は大きく向上させられます。「百聞は一見に如しかず」ともいいますが、その様子を動画にして配信していこうと考えていました。
■計画していた工場経営を中止した理由
工場を開設するというのは経営をすることです。当然ながら利益をあげることを前提にして、そのうえで工場をデジタル化する見本を示していくつもりだったのです。
なぜそこまでしようと考えていたのかといえば、ものづくり太郎は製造業に育ててもらった人間だからです。製造業に恩返しをするため、現場の変革をモデル化しようと考えていました。
しかし、工場経営はいったん中止しました。危機感が薄すぎる今の状況を鑑(かんが)みれば、まず製造業界の上流を変えていくべきではないかと気がついたからです。
現場の効率を高めるのは重要なことながら、現場を動かす上流を変えることのほうが製造業全体には意味があることではないかと考えました。
180度、方向転換することにしたわけなので、工場は開設しません。もしかしたら、いずれ開設することもあるかもしれませんが、まず、本当の意味での案内人のような役割を果たしていこうと決めたのです。
少しおおげさに言えば、製造業界のアンバサダーのような存在になっていきたいと思っているのです。
■製造業に関わるコンサルタントの心底驚いた一言
ものづくり太郎が本気を示す第一歩としては、研究会のような性格を持つコンソーシアムを立ち上げる予定です。会員制のサロンのようなもので、基本的には、自分の会社を動かせるようなエグゼクティブに集まってもらいます。
なぜエグゼクティブに限定するのかといえば、製造業全体の今後に関わる規模のことをやっていきたいからです。
コンサルタントのような存在になるつもりなのかといえば、そういう面もあるかもしれませんが、一般的にイメージされやすいコンサルタントとは一線を画します。
企業によっては、製造業のことをまったく理解していないコンサルタントを入れてしまっていることも多い気がします。
最近、外資系の大手総合コンサルティング会社のマネージャークラスの人間と話してみたことで、心底、驚く経験をしました。そのコンサルタントは「製造業にソリューションを提供していきたい」と話していたのに、CAD(※)という言葉さえ知らなかったのです。
彼らがどこかの企業とコンサルタント契約を結べば、かなりの金額を受け取ることになります。
※computeraided design。「コンピュータ支援設計」と訳される。コンピュータ上で設計を行うためのツールで、ほとんどの産業製品がCADを使って設計されている。
■“虚無を売っている”と言ってもいい
製造業ソリューションの1つの鍵(かぎ)を握るのがCADなのにもかかわらず、CADを知らずに何ができるのでしょうか? これまでにはない新しいソリューションを提案されたとしても、実際にそのやり方を導入すれば、現場の作業効率はあがるどころか後退することもあるはずです。
言葉は厳しくなりますが、プラスがないどころかマイナスになりかねないアドバイスによってお金を取る行為では、“虚無を売っている”と言ってもいいのではないかと私は思います。
いつまでもこうしたことがまかり通っているようでは日本の製造業は本当に終わってしまいます。無残な結末を迎えてしまわないためにも、本当にやるべきこと、できることを示していきたいと考えています。
エグゼクティブのコンソーシアムを立ち上げてどうしようと考えているのか……。オンラインサロン的なものにとどめるつもりはありません。
セミナーを開催したりディスカッションの場をつくるだけではなく、自分自身がアクティブに動いて、実のあるビジネスチャンスを提供していくつもりです。そのため、国の機関や外国の企業とつないでいく仲介役も果たしていきたいと考えています。
私にもそれなりのコネクションはあるので、今まさにつながっておくべき海外企業などには積極的に視察に行きたいとも思います。
■日本の幹部クラスは海外から学ぶべき
まずつながっておきたいのは世界のCADメーカーです。CADはこれまで以上に重要な役割を果たすことになり、現場のあり方は抜本的に変わっていきます。
製造業ではIPCにChatGPTが実装されるようになりましたが、建築業界などでも設計などの重要部分においてChatGPTが利用されるようになっています。これから先、AIが活用される分野がどんどん広がっていくのは間違いありません。
そこで生きてくるのが、これまでに蓄積されたCADデータです。大量のデータとディープラーニング技術によって構築された言語モデルはLLM(大規模言語モデル)と呼ばれ、ChatGPTもLLMの一種になります。
LLMに既存のCADデータを読み込ませれば、さまざまな応用ができます。以前に設計していたものを現在のトレンドに合わせて最適化することも容易になるので、設計のあり方そのものが変わるはずです。
蓄積していたCADデータは、多ければ多いほど意味を持ちます。CADデータは“資産”なのです。どのように生かしていくかがこれから議論されることになります。
そう考えたなら、日本のエグゼクティブは、なるべく早い段階で3大CADベンダーなどとつながっておく必要があるわけです。そこで交わされる議論のなかから新しい設計の概念などが生まれていくことになるでしょう。
■建築業界ではすでにAIが導入されている
例えば建築業界では、ChatGPTに対して、BIM(Building Information Modeling)情報を使ってチューニングを行い、その土地環境に合わせて、建物に必要な強度や配管などの基礎情報もLLMが学習し、最適な構造物の設計やモデルの抽出が可能になっています。しかも、今まで数日かかっていたものを、1日で数十個のモデルを作りだすことが可能になっています。
CADの世界は、常に建築から変化していきます。なぜかというと建築の世界は、人間のサイズが大きく異なることがないので、標準化しやすいのです。しかし、建築業以外の製造業では、対象物が千差万別であり、そのため建築業界のCADソリューショントレンドが後日、建築業界以外の製造業側にも適用されることになります。
この建築業界がAIによって激変した事例を鑑みると、今後は、建築業界以外の製造業もAIによって激変しますので、CADソリューションがAIによってどのように変わるのかをすぐそばでキャッチアップしなければなりません。
そして、大手CADベンダーは、日本のものづくりに対して非常に関心を持っているはずなので、大手CADベンダーに対して、日本のものづくりのDNAを埋め込んでおく必要があります。なぜなら、CADは製造業の上流なので、日本の製造業流にCADをカスタマイズできれば、日本に有利な状況をつくりだせる可能性があるからです。
■どの家にも同じような炊飯器がある時代ではない
社内システムを見直していくうえでもお手伝いできることはあると思います。
根本的な効率化を図り、新たなビジネスチャンスを掴つかんでいくためには、まず二次元データの運用をやめることです。CADで設計したものをわざわざ二次元データにして現場で運用しているのは、量産時代から脱却できていないことの表れです。
昭和の高度経済成長期は、同じ製品でも、造れば造るだけ売れる時代でした。
対して現代は「多品種少量生産の時代」になっています。
昭和であれば、どの家に行っても同じような炊飯器があったものですが、今はさまざまなメーカーのさまざまなシリーズの炊飯器が使われるようになっています。
誰かの家に行って、自分の家と同じ炊飯器が使われていることなどは稀(まれ)なのではないでしょうか。流行(はや)りすたりもあるので、同じ製品を長く造り続けるケースもほとんどなくなっています。
そうであるなら、量産時代の手法が通用しなくなるのは当然です。
三次元データをわざわざ二次元データに変換してしまうように、時間とお金を要しながら何のプラスも生み出さない工程を守り続けている場合ではありません。
■多品種少量生産にシステムも合わせる必要がある
製造業にはいくつかのフェーズがあります。まずどういう製品を造ればいいかといった「構想」を練るところから始まります。
次に「開発・設計」が行われ、「生産準備」、「製造」と移っていきます。製造のためには「調達」や「装置設計」も行われます。製品ができあがれば「販売」、「保守・メンテナンス」へと進みます。
各部門を連携させられるマスターのデータがあれば、設計から製造への流れが良くなるだけでなく、調達や保守・メンテナンスにおいてもさまざまな情報を生かせます。販売にフィードバックもかけられるのでマーケティングのあり方も変わってきます。
多品種少量生産の時代だからこそ、正確な情報にもとづいたスピーディな動きをしていく必要があるのです。
そのためにも、情報をすべての部門につなげることは必須です。データの管理方法を見直すだけでも効率化は進みます。製造業を変えるキモとなることなので、まずそこをやらなければ始まりません。
それと同時に企業間や業界の垣根をつくらない標準化の取り組みを進めていく必要もあります。自分たちのことだけを考えていたのでは遅れは取り戻せないからです。
■「違った視点で見られるから…」に騙されてはいけない
世の中のコンサルタントは、「製造業は専門分野ではないが、違った視点で見られるからこそ新しい領域に導ける」といった論法を持ちだすことが多いのだと想像されます。ガラパゴス化しないためにも自分たちの言葉に耳を傾けるべきだというのが彼らの言い分ですが、単なるレトリックに過ぎない気がします。
製造業をわかっているなら、改革すべき部分はハッキリしています。独自のソリューションを持ち込もうというなら、必要な改革を終えてからにすべきです。いたずらに横からシステムに手をつけても“改悪”になるだけです。
実際にそういうことをしてしまったコンサルタントが複数存在していたため、日本の製造業は正しい進化ができなかったのだと見ることもできます。
欧米や中国が次のステージへと進んでいくなか、日本の製造業界は30年間、迷走を続けてしまった。その事実には、ただただ怒りを覚えます。
繰り返しになりますが、今の製造業界に騙(だま)されている余裕などはありません。だからこそ私は、実のある改革を提供していきたい。役割は地味でも、製造業を下支えするような存在になりたいと考えているのです。
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ブーステック代表取締役/製造業系YouTuber
本名は永井夏男。1988年、愛知県尾張旭市生まれ。(株)製造業盛り上げ隊代表取締役。2012年に京都産業大学卒業後、大手認証機関に入社。電気用品安全法業務に携わった後、(株)ミスミグループ本社やパナソニックグループでFAや装置の拡販業務に携わる。20年から本格的にYouTuberとして活動を開始。製造業や関連する政治、経済、国際情勢に至るまで、さまざまな事象に関するテーマを平易な言葉と資料を交えて解説する動画が製造業関係者の間で話題。YouTube「ものづくり太郎チャンネル」の登録者数は27万人(24年3月現在)。
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(ブーステック代表取締役/製造業系YouTuber ものづくり太郎)
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