稼げる見込みのない「定年後の夫」に尽くすのはムダな投資…60歳を契機に妻が「熟年離婚」を検討すべき理由
プレジデントオンライン / 2024年4月27日 9時15分
※本稿は、和田秀樹『60歳から女性はもっとやりたい放題』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■定年後の夫ほどやっかいなものはない
親の介護から自由になったとしても、結婚している女性には、別の「問題」があります。
それは、定年退職して、家でダラダラ過ごす夫の存在です。
やっと子どもが自立してくれたと思ったら、働きもしない夫が1日中家にいて、飯だの風呂だの言ってくる。タレントの上沼恵美子さんが告白したことで、夫の言動がストレスとなり妻の心身に不調をきたす「夫源病」が話題になりましたが、夫の定年前からすでにその兆候が見られた方は、ますます症状が深刻になるかもしれません。
もちろん、深い愛情が残っていればそんな夫の世話も苦にならないのでしょうが、多くの女性は「仕方ないからやっている」というのが本音でしょう。それでも多くの女性は、「誰かの世話をする」ということが長年の癖になっているのか、あまり深く考えることなく、その面倒なタスクをつい受け入れてしまうのです。
■第2の人生は「自分の人生」であるべき
平均寿命からすれば夫のほうが先に旅立つ可能性は高いので、それが永遠に続くわけではないにしろ、その時、あなたは一体何歳になっていますか?
70代、80代になってから、さあ、やっとこれからは自分の人生だと思っても、そこで自分のやりたいことをゼロから始める体力や気力が残っているとは限りません。もしかすると、自分自身に介護が必要な状態になっている可能性だってゼロではないでしょう。
第2の人生は誰のものでもない「自分の人生」であって然るべきです。その人生の大半を誰かにせっせと尽くすことに費やすなんて、あまりにもったいないと思いませんか?
■第2の人生でも夫と一緒にいたいか?
そもそもの話、あなたは第2の人生でも今の夫と一緒にいたいのでしょうか?
『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書)や他の本でも、「60歳を契機に、このまま結婚生活を続けるか否かを考えるのはとても良いことだ」と、繰り返し私は書いているのですが、女性は特にその必要があると思っています。
世の中の価値観が変わってきたとはいえ、多くの家庭では相変わらず、女性が男性に尽くす構図になっているのが現実です。
それでも夫が働いているうちなら、仕事に専念できるように夫を支えるとか、家事のほとんどを請け負ったりすることにも多少のメリットはあります。そのおかげで夫の稼ぎが増えていい暮らしができるとか、「勝ち組」の気分を味わえるといった「見返り」を妻のほうも得られる場合がありますから、そうなれば「尽くす」ことは必ずしも損な役割とは限りません。
■退職した夫に「投資」する価値はあるか
こういう言い方をすると怒る人がいるかもしれませんが、これは資本主義の世界でいうところの一種の「投資」なのです。
もちろん性的役割の話をしているわけではありません。妻のほうが稼ぎがいいなら、夫が妻に尽くせばいいだけの話です。私が言いたいのは、誰かに尽くしてちゃんと見返りが得られるのであれば、決して悪い選択ではないということです。
けれども、相手が定年退職したあとは、その状況は一変します。
はっきり言えば、定年後の夫というのは、ごく一部の人を除いて、たいした稼ぎはありません。それにもかかわらず、夫に尽くし続けることは、この先値下がりすることがわかりきっている株にせっせと投資するのと同じです。
つまり、このタイミングで夫婦の在り方を考え直さない限り、女性は単なる「尽くし損」になってしまうのです。
■二人だけの生活がもたらすストレス
若い頃の結婚というのは、学歴や年収、年齢やルックスといった条件を重視しがちです。そのせいで、実際結婚してみると、考え方が合わないなあとか、あまり会話が弾まないなあなどと感じることも多いのですが、その一方で、仕事や子育てに割く時間が多いので、多少相性が悪くても、案外なんとかなるものです。
ところが仕事や子育てがひと段落して、二人だけの生活が始まるとそうはいきません。夫婦間の相性の悪さがこれ以上ないストレスをもたらすのです。
だからこそ、60歳あたりを契機に、「第2の人生でも今の夫と一緒にいたいのか」をちゃんと考えるべきだと私は思っています。
とりあえず気心も知れているし、だいぶくたびれてはきたけど、結構物知りで話していて楽しいし、旅行に行くならやっぱり一緒がいいし、というふうに、概ね「イエス」という前向きな結論を出せるのであれば、そのまま夫婦関係を維持していけば良いでしょう。
相手が「楽しさ」とか「幸せ」という見返りを十分返してくれて、かつ、その人に「尽くす」ことが最高の喜びというのであれば、相変わらず「尽くす」ことになったとしても、それなりに意味のあることなのかもしれません。
■一方的に尽くす夫婦関係はいますぐ脱却を
でも、絶対に「ノー」ではないけれども、「イエス」とも言えないという場合、あるいは本当は嫌だけど仕方なく尽くしているという場合は、「家事は半々にする」「昼食はそれぞれ自分で用意する」といったルールを決めて、少なくとも自分が一方的に夫に尽くすとか、我慢するというかたちの夫婦関係からは絶対に脱却すべきです。
場合によっては、夫婦としてのかたちは残しつつも、別々に暮らすということを検討してもいいのではないでしょうか。
「夫は何もできないから」などという心配は不要です。また、一人で全部やらせるのはかわいそうだと思ったりしたら、結局自分がかわいそうになるだけです。
申し訳ない気になる必要などもまったくなくて、家事だって今や家電をうまく使えばいいだけですし、食事だってコンビニに行けば栄養バランスのいい食事は十分調達できます。ウーバーイーツなどの宅配サービスも充実してきました。
それが楽しいとか幸せとか感じられるのなら話は別ですが、本当はやりたくないと思っているのなら、妻だからといって別に稼いでくるわけでもない夫の面倒を無理に見る必要などないのです。
■「熟年離婚」という決断があってもいい
「第2の人生でも今の夫と一緒にいたいのか」という問いに対し、はっきり「ノー」という答えが出るのなら、無理して婚姻関係を続ける必要はないと私は思います。
世間の目が気になるという人もいるかもしれませんが、今や熟年離婚など珍しいことではありませんし、そもそも世間の目などを気にせずに生きることこそが、本当の自分の人生を生きることであり、第2の人生を充実させるコツでもあるのです。
「子どものことを考えると離婚できない」という方が時々いらっしゃるのですが、子どもが小さい頃ならまだしも、すでに自立している子どもに気を遣う必要などありません。自立してさえいれば、親が離婚したって子どもが困るようなことはないはずです。
そもそも子が自立できた時点で「子育て」という責任はもう十分に果たしているのですから、この先はとことん自分本位で構わないのです。
■法律は妻の権利を保証してくれる
結婚生活を長く続けてきた人ほど、また、とりわけ専業主婦だった方は、離婚という決断を下すのに、さまざまな不安を覚えるかもしれません。
最大の不安は金銭面だと思いますが、実はそこでは法律がかなり味方になってくれます。
まず、夫婦の財産分与は基本的に半々だと決められているので、極端な話、そのすべてを夫が稼いでいた場合であっても、また、夫の稼ぎで購入した不動産なども、その半分を妻が受け取る権利が保証されています。
また、2008年から年金分割制度が始まり、婚姻中に納めた厚生年金は夫婦の共有財産として扱われ、離婚した場合には分割して受け取ることができるようになりました。つまり、妻が専業主婦だった場合でも、夫の給料から保険料が支払われてきた場合には、厚生年金の半分を受け取ることができるのです。
ただし共働きの場合も「婚姻中に納めた厚生年金は夫婦の共有財産」として扱われるので、妻のほうが高収入の場合は、自分がもらえるはずの年金が目減りするので、その点は注意が必要かもしれません。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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