1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「新Vポイントvs楽天ポイント」どちらが勝つか…楽天が巨額投資で"決済3アプリ"の統合を進める決定的理由

プレジデントオンライン / 2024年4月24日 10時15分

楽天グループの入社式であいさつする三木谷浩史会長兼社長=東京都世田谷区で2024年4月1日、藤渕志保撮影 - 写真=毎日新聞社/アフロ

楽天ペイメントは、「楽天ペイ」「楽天ポイントカード」「楽天Edy」の3つの決済アプリを統合することを発表した。何が狙いなのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「アプリ統合には巨額の投資が必要になる。それでも統合をするのは、アプリの使いやすさが楽天の金融ビジネスの成否を左右するほど重要だからだ」という――。

■決済アプリの統合には巨額の投資が必要

楽天グループには決済アプリが3つあります。楽天ポイント、楽天ペイ、そして楽天Edyです。このなかで、楽天ポイントカードアプリと楽天ペイアプリを統合し、その後、楽天Edyも統合することが発表されました。3つのキャッシュレス決済を一つのアプリで完結できるようにして利用者の利便性を高める方針のようです。

そこで読者の皆さんにクイズです。この統合は楽天グループにとっては大きな戦略価値があるのですが、いったいどうやって儲けが増えるのでしょうか?

これは実は簡単なクイズではないんです。ユーザーの利便性を上げることで利用が増えるとしても、異なる3つのアプリを統合しようとすると裏側のシステム投資額は莫大な金額になります。

決済アプリは金融システムなので安全性が求められます。銀行がシステム改修に数十億円の投資がかかるのと同じようなレベルの投資になります。楽天モバイルの赤字が大変な時期に、なぜわざわざ巨額な投資が必要となるアプリの統合に投資をするのか? これがこのクイズのひとつめの謎です。

■統合によって楽天はどう儲かるのか

もうひとつの謎は「そうやって統合することでどう儲かるのか?」についてのメカニズムです。たとえば携帯電話なら「ゼロ円で契約しても、その後24カ月の通信料で儲けられる」といった形で儲けにつながるビジネスモデルは明確です。

TikTokを友人に招待してもらい、毎日指示された簡単なタスクをこなしていくとびっくりするほどの金額のポイントがタダでもらえます。これもビジネスモデルとしては、そうやって新規ユーザーがTikTokの画面を毎日見るようになると、TikTokに広告収入がたくさん入るようになるというビジネスモデルが裏にあります。

では楽天が決済アプリを統合することで、なぜ楽天は儲かるのでしょうか? これがクイズの2番目の謎なのですが、この謎に答えるのが実は簡単ではありません。なぜならこの謎は普通の経済学では説明できない話だからです。この記事ではまず先に2番目の謎から解説していきたいと思います。

■ポイントをもらった人は無駄な買い物をしてしまう

そもそも、楽天グループの最大の競争優位は楽天ポイント経済圏にあると一般的には言われています。さまざまな調査結果を総合すると、「もっとも活用するポイント」という切り口では楽天ポイントが日本最大のポイント経済圏で、日本人の約3分の1が楽天経済圏に囲い込まれているといいます。

ではそれだけのユーザーが楽天経済圏に囲い込まれていることで、楽天はいくら儲かっているのでしょうか? これが古典経済学では実は説明ができないのです。その理由はポイント経済圏の効果は比較的新しい分野である行動経済学的な経済効果だからです。

たとえば私自身の行動で説明すると、楽天ポイントが2000円ぐらい貯まっているときに実につまらない変なものを買ってしまうことがあります。

「どうせポイントはタダだから」

と普段はぜったいかぶらない、出オチのようなジョークが描かれた帽子を買ってしまったりします。

古典経済学ではこういった行動は合理的には説明できません。なぜなら2000円のポイントはタダではなくて2000円だからです。でもなぜかポイントをもらった人は心理的な錯覚で「ポイントはタダだから」と無駄な買い物をしてしまうことが知られています。行動経済学的にはポイントを付与すると無駄な消費が確かに増えるのです。

オンラインショッピングをする人
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

■日本人は値引きよりもポイントを欲しがる

もうひとつ行動経済学的な視点でよくいわれることが、日本人は値引きよりもポイントを欲しがるという謎行動です。私自身の例で話をすると、私のステイタスだと楽天市場ではだいたい6~7%のポイント還元を受けられます。一方でアマゾンでの買い物だと1%しかポイントがつきません。

それで同じ商品がアマゾンだとタイムセールで10%引になっているような場合があります。このような場合、アマゾンで買ったほうがあきらかに安いのですが、多くの消費者がポイント還元率の高い楽天市場で買ってしまう。これが行動経済学で観察される消費者行動です。

こういった行動経済学的な知見から、今回の謎をひもとくことができます。

楽天グループの最大の強みは楽天ポイント経済圏にあります。その優位性の源泉は「人間は経済合理的ではない」という要素に支えられています。そしてそのポイント経済圏に新たな侵略者が出現します。それがキャッシュレス決済でした。

■アプリを見せて楽天ポイントを貯めつつも、支払いは「PayPayで」

5年前、いまのようなキャッシュレス環境になる前の時代には、日本で一番使われているキャッシュレス決済ツールはSuicaなどの交通系ICカードでした。そして2位グループにいたのが楽天Edyです。これらの決済手段はソニーが開発したFeliCaという非接触チップを利用する新サービスとして出現したのですが、残念ながら普及の道半ばでキャッシュレス決済の主流はQRコード決済に移ってしまいました。

そして楽天ポイント経済圏の前に立ちはだかるようになったのがPayPay経済圏です。「キャッシュレスの利用頻度」で調査をするとPayPayは圧倒的な日本一の決済手段になってしまいました。

ここが人間の行動の不合理なところです。もともと楽天ポイントが好きで集めて、楽天ポイントがタダだからと楽しく使っていたのが日本人ですから、キャッシュレスでも楽天ペイが日本一になりそうなものなのですがなぜかそうならない。理由はおそらくアプリの使い勝手にあります。

楽天ペイでは本当は楽天ポイントを使えます。でもユーザーがそのことをよくわかっていない。スマホアプリに楽天ペイと楽天ポイントそれぞれのアプリを入れていて、買い物をしてポイントを受け取るときには楽天ポイントアプリを開いてレジで見せて、支払いになると「PayPayで」と消費者が経済合理的ではない行動をしてしまっているのです。

QRコード決済
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kayoko Hayashi

■アプリを統合したほうがユーザーの行動を変えやすい

この問題を打破するために必要な対策もおそらく心理的なものです。何しろこのゲームのルールは行動経済学なのですから。

たとえばお店で支払いのときにまず楽天ポイントをもらうための画面を開きます。そこでバーコードをスキャンしたら「楽天ペイで払えばポイントが当たるスクラッチチャンス」みたいな音声が出るようにするとします。それでワンタップで決済画面が出るのだったら楽天ペイを使う人は心理的に増えるかもしれません。こういった対策をするためには、楽天ポイントのアプリと楽天ペイのアプリが統合されていた方が変えやすいのです。

ただここまでの話では謎が半分しか解けません。楽天ペイがPayPayよりも弱いことからそこを補強することで楽天ポイント経済圏を強くしようというところまではわかるのですが、それでどう楽天が儲かるのかがいまひとつ判然としないのです。

■Vポイント経済圏がトップグループに飛び出る可能性がある

実は今回の楽天の3アプリの統合と同時に、別の統合が進んでいます。それが楽天カード、楽天銀行、楽天証券の経営統合です。楽天市場と並ぶ楽天グループの二本柱である金融事業をひとつにまとめていこうという動きがあるのです。そしてこのもうひとつの統合話は実はまた別のポイント経済圏のライバルと関係してきそうです。

私自身は未来予測専門の経済評論家です。最近、一番気にしている未来予測が、いまのところノーマークに近いポイント経済圏であるVポイント経済圏が、この先、ポイント経済圏のトップグループに飛び出てくる可能性があるという予測です。

お金の世界では情報としてのブームがあります。少し前なら「ふるさと納税をやらないのは損だ」みたいなブームがありましたが、2024年現在では新たにふたつのブームが起きています。ひとつは「セブン‐イレブンで現金で買い物をするのは損だ」というのと、もうひとつが「新NISAをやらないのは損だ」という話題です。このふたつの話はどちらもVポイントの戦略とつながっています。

■コンビニでのVポイントの大盤振る舞いには目を見張る

すでに気づいている人はやっていることですが、今、なぜかセブン‐イレブンとローソンで買い物をする際に、三井住友カードを作ってアプリでタッチ決済すると最低でも7%のVポイントが還元されます。PayPayで支払うと最大でも2%しか還元されませんから、これらのコンビニでのVポイントの大盤振る舞いには目を見張るものがあります。

話題の新NISAでは口座開設数が多いのが2大ネット証券であるSBI証券と楽天証券です。このうちSBI証券で新NISAの積立を行う際には、やはり三井住友カードを作ってそれで毎月の積立を設定すると、なぜかVポイントがたくさんたまります。ゴールドカードなら積立上限の10万円で毎月1000円分のVポイントがもらえるのですから、やはり大盤振る舞いです。

「新NISA」と書かれたブロック
写真=iStock.com/78image
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/78image

こういった今ブームになっている入り口で、三井住友カードを作った人にはどんどんVポイントがたまります。それを使ってもいいのですが、もうひとつ秘技があります。大量にもらったVポイントはSBI証券で新NISAで運用できるのです。

最近のポイントまわりではポイント運用が話題です。PayPayを例にとるとポイントを使わずに、比較的簡単な操作でアメリカ株の運用に回すことができます。それが最近の円安と株高でいつのまにか30%ぐらいポイントが増えていたりするのです。

■Vポイントのアプリ統合が非常にうまい

4月22日にVポイントはTポイントと統合して新Vポイントが始まりましたが、これまでポイント経済圏の5位グループだったこのVポイント陣営は、Tポイントとの統合後に躍進する可能性がある。それがセブンなどコンビニでの7%還元と、SBI証券の新NISAでのVポイント付与・運用というふたつの新たな入り口から始まるのです。

そして行動経済学的に表現すると、このVポイントのアプリの統合のされ方が非常にうまくできているのです。SBI証券だけでなく三井住友カード、三井住友銀行、住友生命などのサービスが組み合わされてコンビニでは最大20%まで還元率が上がります。

その支払はiPhoneの場合はサイドボタンを2クリックすれば決済画面が立ち上がります。とにかく統合されたアプリのユーザーインターフェイスがうまくできているのです。

ポイントアップのイメージ
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■アプリの使いやすさが楽天の金融ビジネスの成否を決める

この新しい敵を目の前にすると、楽天がやるべきことは楽天ポイント、楽天ペイ、楽天Edyの統合に加えて、楽天証券での新NISAやポイント運用と、楽天カード、楽天銀行のサービスをどうアプリ上で統合し、どう心理的に自然に使えるように仕向けてくかが主戦場になることがわかります。

つまり楽天市場でのポイント利用が増えるような世界観ではなく、証券、カード、銀行を含めた一大統合市場での儲けがどうなるかに戦場が移りつつあるのです。だからそれにかかる投資が巨額でもいい。逆に言えばプロジェクトの範囲がそれくらい広くなければ今回のようなアプリ統合を考える必要もないわけです。

結論をまとめると、楽天の決済3アプリ統合が決行される理由は、その戦略意図が楽天の金融ビジネスすべての統合につながる大きな図面だからで、その成否を左右することは心理的なアプリの使いやすさ次第だということなのです。

----------

鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。

----------

(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください