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「健康食品は健康に悪い」という不都合な事実…紅麹サプリ問題で明確になった健康食品の恐ろしいリスク

プレジデントオンライン / 2024年4月25日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mykola Sosiukin

健康食品で本当に健康になれるのか。科学ジャーナリストの松永和紀さんは「健康食品の原料となる食品や植物、微生物などには、健康に悪影響をもたらすものも含まれている。錠剤やカプセル、粉末などに加工されることで、気づかぬうちにそれらを大量に摂ってしまうのが問題だ」という――。

■「食品だから安全」は幻想にすぎない

小林製薬の紅麹サプリメントの健康被害問題により、健康食品の生産管理の難しさがクローズアップされています。健康食品の原料の多くは、食品自体だったり植物や微生物だったり。「食品だから」「伝統的なものだから」「自然だから」というフレーズで、安全・健康という幻想がふりまかれています。

紅麹サプリも、そんな幻想に乗った製品でした。しかし、これまで書いたとおり、紅麹菌と麹菌は異なる「種」であり、紅麹が伝統的な食品であったという科学的根拠はありません。実際には、効果は医薬品相当の成分によるものであるにもかかわらず、管理はずさんであったことを前回の記事で指摘しました。

自然はむしろ、怖いものです。「食品だから安全」というイメージは、間違っています。食品はそもそも、さまざまな化学物質や微生物などを含んでいて、ゼロリスクではなく、ちょっとした瑕疵が健康被害に直結します。

健康食品の問題を長年検討してきた畝山智香子・立命館大客員研究員は「食品の安全マージン」という概念を知ってほしい、と言います。この概念が、紅麹サプリメントや機能性表示食品制度の問題点を理解し、今後の制度の行末を考えるうえで、非常に重要になってきますので解説します。

■安全マージンの小さい食品が多数ある

マージン(margin)は、勝敗などでの差、開きを示す言葉。食品の安全マージンは通常、食べて健康に影響が出る量と実際の摂取量の差を表します。多くの人が、食品には健康を脅かすような物質は含まれていないと考えていますが、そうではなく、毒性物質が含まれていますし、有害な微生物が含まれる場合もあります。

化学物質、微生物ともに、図表1のように、摂取量が増えると健康影響が表れ大量摂取になると深刻な影響をもたらしますが、無毒性量を下回ると影響は検出されなくなります。

できれば、摂取量は無毒性量を大きく下回る程度にとどめておきたいところ。これが「安全マージン」です。そして、普通の食品の安全マージンは、意外に小さいことが多いのです。つまり、健康影響が出る量に近い量を食べている場合が、けっこうあります。

【図表1】 化学物質や微生物の用量反応関係の概念図
筆者作成

■じゃがいもは天然毒素を含んでいる

有名な例は、じゃがいもに含まれるソラニンやチャコニンなどの天然毒素。まとめて「グリコアルカロイド」と呼ばれています。芽や緑色になった皮に多く含まれますが、人がイモとして食べる髄質部も、含有量はゼロではありません。

【図表2】ジャガイモに含まれる天然毒素
出典:農林水産省資料

グリコアルカロイドを摂取して食中毒症状が出る可能性がある量は、FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)合同の食品添加物専門家会議(JECFA)の評価によれば、体重1kgあたり1mg以上の摂取。体重1kgあたり3~6mg以上を摂取すると死ぬ可能性があるとしています。

ということは、体重60kgの成人で症状が出る可能性があるのは、60mg以上のグリコアルカロイドを食べる場合。図表2から換算すると、成人が通常のじゃがいもを皮ごと、600〜700g程度食べると食中毒になるかもしれない……ということなのです。

■小学校で食中毒事故が起きてしまう理由

皮付きじゃがいもを調理したフライドポテトなら、100〜200g程度はすぐ食べられる、という人も少なくないのでは? グリコアルカロイドは、加熱では毒性は減りません。つまり、普段食べる量と食中毒になる量はそれほど大きくは離れていません。これが、安全マージンが小さい、という意味です。

グリコアルカロイドは、成人よりも子どものほうが感受性が高く、体重1kgあたりでもっと少ない量により食中毒になると考えられています。農林水産省によれば、小学生が体重1kgあたり0.16~1.1mgのグリコアルカロイドの摂取で食中毒になった事例もあるそうです。

しかも、子どもはじゃがいもをよく食べます。そのため、小学校でじゃがいもの食中毒事故がしばしば起きています。小学生が授業でじゃがいもを栽培し、未熟だったり日があたって緑色になったいもを収穫して食べて、中毒になるのです。厚生労働省や農林水産省が授業でのじゃがいも栽培について注意喚起しています。

■残留農薬や食品添加物なら「却下」レベル

じゃがいもの安全マージンは数倍、というところでしょう。だから事故が起きます。化学物質(遺伝毒性のないもの)については国際的には、摂取量と健康影響が見出される量の間が100倍以上離れていれば、安全上の問題は生じないだろうと判断されます。

残留農薬や食品添加物の場合、安全マージンが100倍以上あります。それに比べて、じゃがいもは安全マージンが小さく、前述の畝山さんは「欧米で今、じゃがいもに含まれるアルカロイドが農薬などの規制対象物質と同じように審査されたら、却下されるレベル」と言います。

欧州食品安全機関(EFSA)の消費者への注意喚起。
欧州食品安全機関(EFSA)の消費者への注意喚起。皮を剥くのがリスク低減に効果的であることや、茹で調理で湯にグリコアルカロイドの一部がうつること、フライ調理でも油に一部が移行して、摂取量を低減できることなどを伝えている

毒性物質を含む食品はじゃがいもだけではありません。どの食品も多かれ少なかれ、こうした化学物質を含んでいますし、加熱していない生の食品は微生物やウイルスも含み、しばしばリスクとなります。

■コメでさえもリスクにつながる物質を含む

日本に住む多くの人にとっての主食であるコメでさえも、大量摂取が健康被害につながる物質を含みます。コメは、無機ヒ素やカドミウムが比較的多く、内閣府食品安全委員会はヒ素について「食品からの摂取の現状に問題があるとは考えられないが、一部の集団で多く無機ヒ素を摂取している可能性がある」としています。平均的な日本人で安全マージンはおおまかに見て10倍程度です。

カドミウムもコメが主要な摂取源で、食品安全委員会が決定した「耐容週間摂取量」(TWI)は、推定摂取量の3倍程度です。

安全マージンが小さいため、コメの現在のカドミウムや無機ヒ素含有量では、コメの摂取量を増やすことは軽々には勧められません。農林水産省は低減のための品種改良や栽培時の水管理の変更指導などに力を入れています。コメはそのほか、カビ毒の懸念もあり、農林水産省は「米のカビ汚染防止のための管理ガイドライン」も策定して、関係者に管理を求めています。

■大量摂取してしまう健康食品のリスク

これが食品です。多数の栄養素や毒性物質や微生物を含み、加熱では制御できないリスクがあります。さらに、調理で発がん物質が作られることも知られています。食品になにが含まれているか、科学で完全に把握できているわけではありません。

主食であるコメでさえも、100%わかっているわけではありません。ましてや、今まで食べられてこなかった植物や菌は、なにがどの程度含まれるのか、栽培や培養の違いによりできるものがどう変わるか、把握は非常に難しい。というよりも、不可能です。

こんなことを書くと、食品はあれも、これも、危ないのか? と不安を呼び起こしそうです。しかし、心配しないでください。通常の食品形態であれば、急にこれまでの数倍、10倍量を毎日食べる、というのは無理です。これにより、安全マージンが小さくても、ぎりぎりのところで安全が守られる。それが、一般的な食事の形態です。

ところが、錠剤やカプセル、粉末などの加工による健康食品化、サプリメント化は、大量摂取かつ毎日摂取が容易になり、自分がなにを食べているのか知らないまま、特定の物質が簡単に安全マージンを超える、ということが起こり得ます。これが、加工の怖さです。

■食品にかけられる開発費には限界がある

医薬品の中にも、植物や細菌培養などにより得た化学物質を、抽出濃縮したものがあります。サプリメントも同じではないか、医薬品と同様にGMP(適正な製造・品質管理)を実行すればよい、という主張もありますが、医薬品と食品ではそもそも、開発費がまったく異なります。

医薬品の場合には、多数の試験を行い、不純物も調べ、精製度を上げることが要求され、莫大な開発費がかかります。一方、食品は、多数の有効性試験や安全性試験が要求され国が製品ごとに審査を行う特定保健用食品(トクホ)でさえも、かかる金額は少ないとされます。農薬や食品添加物よりも少ないのです。食品にかけられる費用には限界があります。

【図表3】製品開発にかかるコスト
出典:『「健康食品」のことがわかる本』(日本評論社、畝山智香子著)

なのに、多くの人が医薬品よりも、「食品だから」「伝統的なものだから」「自然だから」、よいと思い、魅力を感じてしまう。まことに皮肉としか言いようがありません。

■専門家たちはすでに警告していた

自然の食品がこうしたリスクにつながる要素を多数含み、過剰摂取に陥りやすいことは、食品の安全性に関わる人たちにとっては“常識”です。これを踏まえているからこそ、海外の食の安全に関わる機関のサプリメントへの視線は厳しく、紅麹サプリメントに対しても前回紹介したように、注意喚起や禁止がずらりと並びます。

特定保健用食品や機能性表示食品、その他の健康効果を期待されて摂られるいわゆる「健康食品」についての警鐘は2015年の食品安全委員会の報告書でも示されており、「19のメッセージ」が出されていました。

【図表4】 内閣府食品安全委員会の「健康食品」についての19のメッセージ

今回の小林製薬の問題を予見したかのような内容だと思いませんか? 科学者はそれだけ、機能性表示食品制度を懸念していたのだ、と思います。

■病気の人は健康食品を摂ってはいけないのに…

厚生労働省が研究費を出す「厚生労働科学研究」でも2012〜14年度、「いわゆる健康食品による健康被害情報の因果関係解析法と報告手法に関する調査研究」が実施され、健康食品による被害の医学的な解析も行われていました。

興味深いのは、この調査研究で行われた健康食品関連の講演会参加者と医療機関受診者約5000人を対象にしたアンケート調査です。通院中の人の約40%、入院中の約21%の人が健康食品を利用し続けていたのです。製品の形態としては錠剤・カプセル型が多いという結果。健康食品のイメージは、「値段が高い」(そう思う82.0%)、「安全である」(同45.3%)、「効果が期待できる」(同38.6%)、「薬と併用しても大丈夫」(同31.3%)でした。

健康被害をすでに経験した人も約3.4%いました。下痢・便秘、発疹・かゆみ、倦怠感などの症状でした。医療機関を利用していながら健康食品を利用中の人で、利用を主治医に相談すると回答したのは、通院中の人、入院中の人両方ともに、29.3%しかいませんでした。

■理解が進まないまま機能性表示食品制度へ

厚生労働省や食品安全委員会はこれまで、安全マージンという言葉こそ使わなかったものの、自然の怖さや食品の安全マージンの小ささ、健康食品と医薬品との併用の怖さなどを、健康食品関係者や消費者に幾度となく伝えてきました。

しかし、情報発信が足りなかったのか、理解が進んでいたとは言えません。2015年に機能性表示食品制度ができて以降、店頭にサプリメント製品がずらりと並び、むしろ「国が認めた制度」という信頼感も高まった中で、今回の紅麹サプリの健康被害が生じました。

厚生労働省は2020年、食品衛生法を改正し、健康食品のうち、「食品衛生上の危害の発生を防止する見地から特別の注意を必要とする成分又は物であって、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定したもの」(指定成分等)を含む食品についてはGMPを義務付け、健康被害情報の把握を強化しています。海外の情報や国内での被害報告などをもとに決められもので、現在は4品目が指定されています。

現在、指定成分等となっている4品目
・コレウス・フォルスコリー
・ドオウレン
・プエラリア・ミリフィカ
・ブラックコホシュ

しかし、食品はすべてを把握しきれない“複雑系”ですから、おそらく、まだ表面化していないリスクにつながる要素がいくらでもあるはずなのです。食経験のない植物などの抽出濃縮物を摂ることについては、より一層の警戒をして当然です。

こうした背景、食品の性質を踏まえて、機能性表示食品制度を今、考え直さなければなりません。

■人類は、壮大な人体実験を続けている

畝山智香子・立命館大客員研究員(本人提供)
畝山智香子・立命館大客員研究員(本人提供)

さまざまな書籍で、食品の安全マージンや健康食品のリスクを訴えてきた畝山さんは今、こう話します。「食品は未知の化学物質の塊であり私たちはその一部についてしか知りません。人類は、現代の日本のような長寿をこれまで経験してきていないので、これまでの食経験が高齢者にはあてはまらない可能性すらあります」

えっ? どういうこと? つまり、若い人たちはまったく平気、安全な普通の食品が、体力、代謝力が弱まった高齢者には安全でない可能性だってある、ということ?

畝山さんの締めの言葉が印象的でした。「現在も人類は、食品について壮大な人体実験を続けているのです。敢えて、健康食品のような、さらにリスクの高い実験に参加する必要はないのでは?」

さて、あなたはどう考えますか?

※記事は、所属する組織の見解ではなく、ジャーナリスト個人としての取材、見解に基づきます。

<参考文献>
農林水産省・食品中の天然毒素「ソラニン」や「チャコニン」に関する情報
欧州食品安全機関(EFSA)・Glycoalkaloids in potatoes: public health risks assessed
内閣府食品安全委員会・無機ヒ素の健康影響は?
食品安全委員会・汚染物質評価書カドミウム
食品安全委員会・「健康食品」に関する情報
厚生労働科学研究・いわゆる健康食品による健康被害情報の因果関係解析法と報告手法に関する調査研究
厚生労働省・いわゆる「健康食品」のページ

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松永 和紀(まつなが・わき)
科学ジャーナリスト
京都大学大学院農学研究科修士課程修了。毎日新聞社の記者を経て独立。食品の安全性や環境影響等を主な専門領域として、執筆や講演活動などを続けている。主な著書は『ゲノム編集食品が変える食の未来』(ウェッジ)、『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書、科学ジャーナリスト賞受賞)など。2021年7月より内閣府食品安全委員会委員(非常勤、リスクコミュニケーション担当)。記事は、所属する組織の見解ではなく、ジャーナリスト個人としての取材、見解に基づきます。

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(科学ジャーナリスト 松永 和紀)

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