なぜ独身男性より既婚男性のほうが風俗・キャバクラに行くのか…女性には意外すぎる「愛の分散投資」現象
プレジデントオンライン / 2024年5月10日 8時15分
■「好きで好きでたまらない」感情の行き先
言葉は社会を映します。
「推し」。この言葉が急速に社会に広まったのも、時代の一つの反映だといえます。日常におけるリアルな恋愛というものが衰退する中で、「推し」という言葉が、「好き」という感情の受け皿になったのです。
今の日本社会において、「好きで好きでたまらない」といったロマンティックで非合理な感情は、現実の身近な人間よりも、スターやアイドル、キャラクター、またはキャバクラやホスト、あるいはペットなどに向かっているように見えます。
ダイレクトに相手に好意を伝える「好き」とは違い、「推し」にはどこか「応えてもらわなくてもいい」とでもいうような、一方通行の感覚がある。だからこそ、どこまでも好きになれる。すなわち「好きで好きでたまらない」状態を受け入れてくれるのが、「推し」なのです。既婚女性が、韓国アイドルにハマって月に数回渡航する、などというエピソードはこの言葉が使われ出す以前からありましたが、「推し」という言葉によって、その行為は市民権を得るようになりました。
それと同時に、「推し活」という表現も生まれ、「好きで好きでたまらない」ゆえの行動は、その活動的な面がポジティブに捉えられていくようになります。
■なぜ、男はキャバクラや風俗に行くのだろう…
最近ではとうとう、「身近推し」なる現象も出てきました。学校や職場で素敵で「好きで好きでたまらない」人がいても、遠くで眺めて応援しているだけで満足という感覚です。この「身近推し」については、今後の回で詳述したいと思います。
「推し」という言葉がなかった時代は、「追っかけ」もしくは「ストーカー」という、どこか暗い側面も想起させる表現が使われていました。
たとえば、好きなアイドルの「追っかけ」となり、時間やお金をつぎこんでしまい、生活に破綻をきたす。もしくは、男性がキャバクラに通いつめたり、女性がホストクラブに多額の金を貢いでしまったり。その行き着く先が刑事事件になってしまうことも決して少なくはありません。
もしくは、そこまでいかなくても、「妻も恋人もいるのに、なぜ男性はキャバクラや風俗に行くのだろう?」というのが、多くの女性にとっての長年の疑問であるかもしれません。
いずれにせよ、家族やパートナー以外の異性に対し、成人が「好きで好きでたまらない」感情を寄せる行為は「推し」という言葉にソフトにくるまれ、認知されているのが今の日本社会の実情です。
■性的サービス産業に行く男性は既婚者が多い
そんな背景をもとに、ある学会誌に「独身中年の生活実態」という論文を書きました(『家族社会学研究』31巻②号/2019年/日本家族社会学会)。その中で、私も参加した次のような調査結果を引用しました(図表1)。
すると、この論文を読んだ女性研究者から、「結婚してない男性より、結婚している男性の方が、キャバクラや性的サービス業(いわゆる性風俗)に行っている割合が高いという結果に驚いた」という感想をもらいました。
「妻がいないから行く」のなら理解できるが、妻がいるのに、「なぜ、キャバクラや性的サービス業に行く必要があるのか?」という疑問です。
この調査では、独身者のうち「恋人の有無」も集計していますが、そこでも、キャバクラや性的サービス産業などに行く人は、「恋人がいない人」より「恋人がいる人」の方が多いという結果が出ました。
■「なんで結婚してるのかわからない」
みなさんはどのような感想を持ちますか。
男性の平均初婚年齢は、約30歳です。ですから、30代前半既婚者といえば、結婚してそれほど経っていない男性です。そうした中で、どちらかに行く人は約20%。つまり、五人に一人はキャバクラか性的サービス業(どちらか、もしくは両方)に行き、そこのキャストを恋愛対象にしている、つまり、親密な関係を持っている、もしくは親密になりたいと思っているという結果です。
私が教えている大学の授業でこの結果を話したところ、ある女子学生からこんな感想をもらいました。
「私、ガールズバーでアルバイトしてたことがあるんですが、そこに来る男性は、奥さんの悪口ばっかり言ってました。あれじゃあ、なんで結婚してるのかわからない」と。
男性にも言い分があるでしょう。妻を大切にしていないわけではないとか、妻とは性的関係が終わっているので、風俗に行くのは単なる遊びでのことだから、とか――。
先の女性研究者の言い分のように、キャバクラや性的サービス業に行く男性は、恋人や配偶者がいない、つまり、一緒にお酒を飲んで楽しく話をする相手や性的欲求を満足させてくれる相手がいない。だから仕方なく行っているはず……。行く人も実は、恋人や配偶者を最優先の相手にしたいと思っているはず……。未婚化が進み離婚が増え、恋人がいない人も増えているから、キャバクラや性風俗に行く人が増えているのだ……。そう思いたくなります。
しかし、現実はそうではありません。配偶者や恋人がいても、そのような所に行く人は多いのです。
■夫ではなくペットを選ぶ女性
次に、別の調査を見てみましょう。
ペットとの関係についてインタビュー調査をしたとき、ある既婚女性(50代専門職、子どもなし)から、「夫よりペットが大事、もし無人島に誰かと流されるのであれば、夫ではなくペットのワンちゃんを選ぶ」と言われました。
より詳しく聞くと、彼女は夫と仲が悪いわけではありませんでした。夫婦で旅行に行くなど、傍から見れば、一般的な日本人中年夫婦よりよほど親密に見える。しかし、彼女にとっては、ペットと遊ぶときが最も幸せを感じる時間だというのです。
ペットに関する調査結果の一部を紹介しましょう(図表2)。
犬かネコを飼っている人(24~65歳対象)で、ペットと同じ布団で寝る人の割合は、ほぼ毎日35.5%、数日に1回は10.7%と、ほぼ半数の人が、ペットと一緒に寝るのが常態化しています。
■愛情を分散させて満足する社会
ペットと一緒に寝る一人暮らしの人が多いのは、わかります。女性の一人暮らしでは、犬やネコを飼っている人の8割以上がペットと共に寝ています。ちなみに、私のところのネコちゃんも、毎晩、私の布団の上で寝ていました。残念ながら一昨年、19歳で亡くなりましたが。
ただ、配偶者がいる人であっても、男女とも半数近くがペットと布団を共にしているのです。もちろん、夫婦とペットが2人プラス1匹で、川の字になって寝ているケースもあるかもしれませんが、配偶者とは別のベッドで寝ている人も多いことでしょう。
このように、現代日本社会では、配偶者や恋人がいても、キャバクラやペットなど別の所に、親密な関係をつくることが常態化しています。いや、昔からそうだったのかもしれません。いわば、愛情関係を1人に絞ることなく、分散させて満足させようとするのが、日本社会の特徴なのかもしれません。
こうした現象を、「愛の分散投資」と呼んでみます。この連載では、私自身が行ったさまざまな調査データも基にしながら、分散した愛情関係の広がりについて明らかにしていきたいと思います。御期待ください。
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中央大学文学部教授
1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主著に『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『「家族」難民』『底辺への競争』(朝日新聞出版)、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社)、『結婚不要社会』『新型格差社会』『パラサイト難婚社会』(すべて朝日新書)など。
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(中央大学文学部教授 山田 昌弘)
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