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東京の地下鉄駅から徒歩10分圏に住む人はたった13%で主要先進国最低…規模世界一のなのに不便といえるワケ

プレジデントオンライン / 2024年5月10日 10時15分

筆者作成

東京の地下鉄の利用客数は1日934万人で世界一。ラッシュアワーなど混雑度も高いが、張り巡らされた地下鉄網を便利だと認識する人は多い。ところが、統計データ分析家の本川裕さんは「地下鉄駅から徒歩10分=666m以内に住む都民は全体の13%程度しかいない。実はアクセスがいいとは言えない」という――。

■東京の地下鉄は世界一

国連の持続可能な開発目標、いわゆるSDGsの中には、「公共交通の利用の容易性」という項目がある。今回は、わが国の公共交通は便利なのかについての国際比較データを検討していこう。

まず、東京の地下鉄に関するデータを見てみよう(図表1参照)。

東京の地下鉄の「利用客数」は1日934万人で、この数字は世界一である。ニューヨーク560万人、パリ418万人よりはるかに多い。

では、「路線延長」の長さではどうかといえば、東京(304km)は世界7位である。1位は上海(548km)、2位は北京(527km)だが、外国の地下鉄は、計画時に都心の地下区間から地上を走る郊外路線まで連続して直通で整備された地下鉄路線であることが多い。純粋な地下区間だけの延長キロの比較では東京はもっと上位となる可能性が高い。東京やパリ、モスクワ、ニューヨークなどは路線延長と比較して利用客数が多いのが特徴である。

なお、地下鉄の車両が直接到達する地点までを地下鉄網と考えて試算すると、私鉄やJRとの相互直通乗り入れが特徴の東京の路線長は867kmに達し、世界一の路線長を誇る地下鉄ネットワークとなる(石島徹「世界の地下鉄と日本の地下鉄」『運輸と経済』2017年10月号)。

つまり、利用客数も実質的な路線長も東京は世界一ということになる。

■都市住民アンケートの満足度では東京の公共交通機関は世界第3位

こうした地下鉄を含む世界各都市の公共交通機関に対する住民の評価はどうなっているか、といえば、東京の住民評価はかなり高い。

各国でシティーガイド誌を発行する英国タイムアウト社が、世界の公共交通機関ランキングを発表した。世界50都市の住民2万人を対象に、地下鉄や列車、バス、路面電車、フェリーなどの「公共交通機関を使って市内を簡単に移動できるか」を聞いたところ、ランク入りした19都市のうち、上位10位をアジアと欧州の都市が独占した。

東京の公共交通機関の便利さは世界第3位
筆者作成

トップ3はドイツのベルリン、チェコのプラハ、日本の東京の順であり、アンケート結果はそれぞれ97%、96%、94%だった(CNN.co.jp2023.4.7、タイムアウト2023.4.17、図表2参照)。

タイムアウト社の英文ホームページ(2024.2.23)によれば第3位のランキングとなった東京の公共交通機関については、ウイットを交え、次のようにコメントされている。

「ニューヨークには世界で最も多くの駅があり、また上海の路線延長は世界で最も長いが、東京におけるほど多くの人びとが利用している公共交通機関は世界にない。あなたは日本の首都における満員の地下鉄のビデオを何度か見せられているかもしれないし、そうした光景は実は異例なものでもない。加えて、入り組んだ地下鉄網はラビリンス(迷宮)のようだ。しかし、東京の公共交通機関は見事に管理されており、自分たちの都市は公共交通機関で移動することが容易だと94%が回答している東京人だけでなく、外国人にとってもますます利用しやすくなっている。もっともラッシュアワーを避けられればの話だが……」

■世界最大都市「東京」の公共交通:大男総身に知恵が回りかね

このように見てくると、地下鉄網が張り巡らされた東京の公共交通については、世界の中でも優秀であり、インバウンド客によっては快適に違いない。

しかし、世界一便利かと言えば、そうではない。まず、地元住民にとっては通勤ラッシュの大きな問題がある。さらに、都市の範囲を厳密にして比較すると、意外な不便さもあることがわかるのである。

図表3を見てほしい。これは、都市の公共交通の充実度・カバー率を示すため、「道路系のバス停」と「軌道系の地下鉄・市電駅」から徒歩10分圏の人口の比率を算出し、OECD各国の最大都市の間で比較したグラフだ。グラフの都市の並び(赤数字)は、「地下鉄・市電駅」から10分圏の人口カバー率の低い順である。

地下鉄・市電のカバー率の低さが目立つ東京の公共交通
筆者作成

公共交通の利用の容易性というSDG項目がある点については冒頭で触れたが、公共交通の利用の容易性は、バスは停留所まで500m、鉄道や地下鉄は駅まで1kmと考えられている。図表3のデータでは、公共交通のカバー率の基準としてバス停、地下鉄・市電駅共通で徒歩10分以内としている。徒歩10分は徒歩速度が時速4kmとして666mに当たる。

こうした都市比較に際しては、単なる行政区域としての都市データを比較するとどこまで郊外を含んでいるかなど都市の成り立ちの違いでバイアスが生じる。そこで、ここでは、人口の密集度から都市域(都市核)を設定し、それと通勤でむすばれた地域(後背地)を合わせた「機能的都市圏」に着目し、そこでの公共交通のカバー率を比較している。

■地下鉄駅から徒歩10分圏の人口カバー率13%は主要先進国で最低

「機能的都市圏」とはOECDとEUが連携して国際比較のために共通の基準で設定している都市圏域であるが、そのイメージをざっくりとつかむため、図表4には、東京、ロンドン、ニューヨーク、パリの圏域マップを掲げた。

主要都市の機能的都市圏
筆者作成

「人口規模」では東京23区は965万人、パリ市225万人であるが、「機能的都市圏」では東京3647万人、パリ1124万人であり、機能的都市圏のほうが4倍前後のずっと大きい範囲となっている。東京の機能的都市圏は間違いなく世界最大である。

上で触れた世界の地下鉄の路線延長や利用客数、あるいは公共交通機関の便利さ満足度のデータは基本的に東京23区やパリ市といった行政区域の比較であるが、厳密な比較は世界共通基準の機能的都市圏で行う必要がある。

図表3のデータにもう一度戻ると、いずれの都市においてもバス交通のカバー率は地下鉄・市電交通のカバー率を大きく上回っている。公共交通全体のカバー率はバス交通のカバー率とほとんど重なっている。

公共交通全体のカバー率が最も低い都市はメキシコシティーの27.5%であり、これにニューヨークの56.3%が続いている。主要先進国の中ではニューヨークの低さが目立つが、米国ではマイカー利用が多いせいであろう。

一方、OECD諸国における公共交通のカバー率はおおむね7~8割を越えている。

軌道系の公共交通のカバー率には都市により大きな差があるが、それをバス交通が補完するので、バス交通を含んだ公共交通という点では、各国の違いはそれほど目立たない。バス交通は先進国であればどこでもそれなりに発達しているといってよかろう。

なお、東京の公共交通全体の人口カバー率は82.4%とOECD平均の84.8%を若干ながら下回っている。

都市間で差が目立つのは軌道系の公共交通カバー率である。主要先進国(G7)と韓国の首都における「地下鉄・市電駅」カバー率は高い方から以下である。

1.ベルリン(47.9%)
2.ソウル(42.7%)
3.パリ(41.1%)
4.ニューヨーク(30.7%)
5.ローマ(30.6%)
6.ロンドン(21.1%)
7.東京(13.6%)

何といっても東京が最低である点が目立っている。効率的なインフラ配置のためコンパクト・シティーが目指されているが、東京は軌道系の公共交通についてはこの点で大きく後れを取っており、都市内交通が便利な都市とはとても言えない。

その要因としては、東京が巨大都市すぎるからであろう。「大男総身に知恵が回りかね」といったところである。

他方、軌道系の公共交通のカバー率が高いのはブリュッセルの79.9%、チューリッヒの72.4%、ウイーンの63.1%などであり、これらはコンパクト・シティーならではの便利さを発揮している都市と言ってよかろう。

23区内の東京都民にとっては、おそらく公共交通に不満は少なかろう。しかし、南関東全体に広がる機能的都市圏の東京人にとって公共交通は便利とは言えず、特に地下鉄・市電といった軌道系の公共交通ではかなり不便である。地下鉄・市電一本で目的地に到達できる所に住んでいる人口は実は他都市と比べかなり少ないのである。

SDGsの理想を目指すためには、軌道系の公共交通が不便な東京周辺部へとさらに地下鉄網を延伸していく必要があろうが、東京は都市圏域がすでに考えられないほど巨大であるため、投資効率はどんどん落ちていくだろう。

そのしわ寄せが財政面や他のインフラ投資の制約となってあらわれ、別のSDG項目にマイナスが出かねない。であるとするなら、やはり東京への一極集中を抑制するとともに、多極分散型の東京圏の形成を目指しコンパクト・シティーの連合体に東京を改造するという従来からの対策を進めていくしかないのではなかろうか。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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