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中国が「グローバルな覇権国家」になることは永久にない…中国から外国人駐在員が逃げ出している当然の理由

プレジデントオンライン / 2024年5月22日 10時15分

中国への借金は踏み倒しやすい(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Grindi

中国経済はこれからどうなるのか。エコノミストのエミン・ユルマズさんとフリーアナウンサーの大橋ひろこさんの共著『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(ビジネス社)より、中国経済の現状についての解説をお届けする――。

■不動産バブル崩壊で「一帯一路」にもブレーキ

【大橋ひろこ(以下、大橋)】中国の不動産バブルの崩壊は、習近平国家主席肝いりの「一帯一路」にも影響するような気がしています。一帯一路に投じたお金についても、結局中国は回収できないまま、やり散らかしたままなのかなって。

【エミン・ユルマズ(以下、エミン)】可能性は十分にあります。

【大橋】だから国内のみならず、世界戦略的にも結構ほころびが、いま見えてきているのかなという気がしてなりません。

【エミン】スリランカが中国からの融資を返済できないのは広く知られていますが、今後は南米やアフリカ諸国で、中国が供給した資金が焦げつく可能性は大いにあります。

【大橋】南米やアフリカ諸国もなんですね。結果として、中国にすり寄っていた新興国は、中国がこうして没落していく姿を見ると、離れていくかもしれない、とも思ってしまうのですが。

■中国への借金は踏み倒しやすい

【エミン】そうでしょうか? じつは私自身は、中国とは借金を踏み倒しやすい国だと捉えています。

【大橋】ええっ、そうなんですか?

【エミン】米国からの借金と中国からの借金、どちらが踏み倒しやすいかというと、これは間違いなく中国からの借金のほうが踏み倒しやすいのです。

例えば、私が新興国で、米国と中国から借金したとしましょう。米国からの借金を踏み倒すと、ドル基軸の金融システムから“除外”されるから、貿易が何もできなくなる。

制裁されて原油一滴買えなくなってしまいます。

【大橋】基軸通貨であるドルが使えなくなる危険性がある、ということですね。

【エミン】そうです。

■人民元は基軸通貨でも何でもない

【エミン】中国の場合は、債務を払えなくなったスリランカに対して、ハンバントタ港の99年間のリース契約を結んだものの、中国軍を侵攻させて包囲するようなことはしない。経済制裁にしても、例えば中国は米国のように、「国際銀行間の送金や決済に利用される安全ネットワークのSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除するぞ」とスリランカ政府に対して脅しをかけられない。

【大橋】結局のところ、依然として人民元は基軸通貨でも何でもないのです。たしかに中東諸国との原油売買の決済を、ドルでなく人民元にするという話が五月雨的には出てきてはいます。

しかしながら、このところの人民元レートは1ドル=約7.2元と2007年以来16年ぶりの“安値圏”をさまよっています。

加えて、米国債の保有額を減らし続けているのは、中国政府が人民元を買い支えするためだという見方が有力なのです。なんだかんだ言っても、ドルが強いことは確かだと思います。

■米国は「日本重視」に路線転換した

【大橋】ここまで語り合ってきたように、このところ中国の経済運営に失敗とほころびが目立ってきたこと。もう一つ、欧米とりわけ米国がジャパンバッシングの時代から、中国と対峙するフェーズへと移行するなか、今度は日本を同盟国として、ことさらに重視する路線に確実に転換したことは大きいですよね。

アメリカと日本の国旗
写真=iStock.com/bee32
米国は「日本重視」に路線転換した(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/bee32

【エミン】そのとおりです。路線転換の意味は大きい。

【大橋】日本はバブル期の1989年に、米国の象徴だったロックフェラーセンターやコロンビアピクチャーズなどを次々と買収し、米国の逆鱗に触れてしまいました。

その4年前の85年には、「プラザ合意」でドル高是正に動いたため、日本は急激な円高を強いられました。米国はさまざまな政策転換により、日本を追い詰めようとしました。

【エミン】そうでしたね。

【大橋】いまは1ドル=150円を超える円安ドル高となっても、何も文句を言いませんね。

米国は、日本が再び強い経済を取り戻すことを許容した。つまり共に中国と戦いましょう、と日本に協力するというスタンスへの大きな転換がなされたとも考えられますね。

■これからは日本株の時代が来る

【大橋】このことをエミンさんは2年くらい前から、「エミンチャンネル」のなかで強調されていました。

そこで一昨年あたりから、私は仲間内の金融関係者などに「これからは絶対に日本株の時代が来るよ」という具合にけしかけたのだけれど、誰もついてきてくれなかった。

彼らの言い分はおおかたこうでした。「日本はやっぱりダメだよ。人口も減っているし、米国みたいなプラットフォーマーがいないし」と、異口同音にそう言って、首を傾げていましたね。しかし、昨年著名投資家のウォーレン・バフェットが日本株に投資していることが報じられるとガラリと景色が変わりました。

■外国人駐在員が中国から離れている

【大橋】さて話をもう一度、中国に戻します。中国にはほとんど魅力が残っていない。世界からはそんな受け止めをされているのでしょうか?

【エミン】残っていないというよりも、中国はこれからちょっとした“鎖国状態”に入る、準鎖国状態に突入すると認識すべきだと思っています。

深セン空港、中国の出発エリアを歩くアジアのビジネスマン
写真=iStock.com/allensima
外国人駐在員が中国から離れている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/allensima

中国はいまだに十分魅力を備えている国だと私自身は評価しているけれど、ただ、いまは習近平国家主席が鎖国に踏み込もうとしているのです。

ですから、エクスパットと言われている外国人駐在員は、中国からどんどん離れていっている。

■中国の人種差別がひどい

【エミン】最大の理由は、彼らが生活しにくくなっているからです。知ってのとおり、中国は少子高齢化が日本よりも進んでいる国なのに、移民についてはきわめて否定的なのです。

まあ実際に移民を少しだけ入れても、滅茶苦茶に扱いが悪いことから、移民する側からはすこぶる評判が悪い。

要は、人種差別がひどいわけです。例えば、黒人の労働者が移民で中国にやって来たことがありました。あれだけ中国企業がアフリカ諸国に進出しているのにもかかわらず、黒人の移民が入って来たときには、日常生活においてかつての米国並みのとんでもない差別を平気で行っている。それが現実なのです。

赤いペンで書かれたNOの文字
写真=iStock.com/mattjeacock
外国人投資家の多くが「もう中国はいいや」と興ざめの心持ちに(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/mattjeacock

例えば、住居からの強制退去にはじまり、商店や飲食店の利用拒否、バスやタクシーの乗車拒否などが挙げられます。

■「反スパイ法の強化」で外国人全員にスパイ容疑の可能性

【エミン】黒人に対する扱いは本当に極端ですが、いまの中国国内の空気感は、「外国人はもう来なくて結構」といったものだし、“反スパイ法”が強化されたことで、大仰でなく、中国にいる外国人全員がスパイ容疑をかけられる可能性があると言っても過言ではありません。

ですから、一時はあれほど中国ビジネスに入れ込んでいた外国人投資家の多くが「もう中国はいいや」と興ざめの心持ちになっています。

■「毛沢東時代」に戻ろうとしている

【エミン】そして、このところ習近平国家主席がやっていることは実質上、“資本家潰し”としか思えないところがあります。

【大橋】そうなんですよ。やっぱり毛沢東時代に戻るんでしょう。御自分の写真を毛沢東と並べているわけでしょう。資本家が儲けるのは気に入らないということですよね。

習近平氏、2024年5月6日
写真=ABACA PRESS/時事通信フォト
中国は「毛沢東時代」に戻ろうとしている(写真は習近平氏、2024年5月6日) - 写真=ABACA PRESS/時事通信フォト

【エミン】そうですよね。だから、そういう意味で中国はすでに経済的な鎖国に入っているのでしょう。なにしろ、英語を教育から外してしまったくらいですから。

【大橋】留学生を本国に呼び戻すような話も聞きます。

【エミン】これも毛沢東時代に似ていて、極端に外国の思想や文化は危険だ、毒だというような考えに染まっている。中国の書店では、習近平の本が常にベストセラーなんですよ。

共産党幹部も教育機関の人たちも習近平思想を学んで、なおかつ暗唱しないといけないので、みんなが競って買うんです。毛沢東時代には『毛主席語録』が9億部売れたという記録が残っているけれど、このぶんだと、習主席の本もそうなりかねません。

■このままでは中国は空中分解してしまう

【大橋】学校教育のカリキュラムにも習近平思想が必修化されたと聞いていますし、完全な思想統一政策が進んでいるようです。

【エミン】そうした体制づくりは、当然ながら、経済にとっては“逆効果”になります。

けれども、習主席は国内景気の実態をよく知っているから、これぐらいやらないと、逆にもうこの国はもたないと判断をしている可能性さえある。

「景気の実態は悲惨だから、この国はこのままでは空中分解してしまう。中国共産党自体も、それに巻き込まれて空中分解しかねない。ならば、ここは鎖国して、得意のデジタル監視技術を駆使して、国民を押さえ込まねばならない」といったところなのでしょう。

その一環として、国民の幼年期から習近平思想を植え込んでいくという戦略が取られていると考えれば、妙に納得感が得られます。

■国内の不満が外に向けられるリスク

【エミン】しかし、こうした中国の変化を、われわれは歓迎できません。中国がとてつもなく危険な時代に突入したわけですから。これからの中国は際立ってアグレッシブに動く可能性を秘めているのだと、私は捉えています。

【大橋】アグレッシブというのは、中国国民の対内的な不満が抑制できなかった場合、それが外に向くというリスクでしょうか。

【エミン】そういうことです。

【大橋】だから、台湾有事の可能性だって高まってきますよね。若者の失業が50%は恐ろしいです。仕事を持たずに不満を抱えて生きている若者が、中国全土にあふれ返っているわけですから。

中国国旗と軍用機のシルエット
写真=iStock.com/e-crow
台湾有事の可能性が高まっている(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/e-crow

【エミン】どこかで彼らの怒りをかわさないと、国内で反乱を起こす危険性を絶えずはらんでいる状況が続くのです。

■利下げしても効果は限定的

【大橋】ここで再び、中国の不動産問題に返ります。デベロッパーや地方政府のノンバンクが生んだ1000兆円単位の焦げつきについて、エミンさんにお聞きしたいことがあります。

これは中国政府がしゃかりきに人民元を刷って、それを充当するやり方で回復できるものなんですか?

【エミン】とりあえず、中国人民銀行は利下げをして、流動性供給を行ってはいます。ただ、バランスシート不況というのは、国から流動性供給をしても、つまりいくら金融緩和をしても、みんな借りようとしないわけです。かつての日本がそうだったように。

先に指摘したとおり、デレバレッジしようとしていますからね。

そんなバランスシート不況の最中、国から流動性供給を強化したところで、焼け石に水とは言わないまでも、効果はきわめて限定的です。

それを乗り越える方法とは、本来ならば、いかに若者の失業率を下げるかといった観点から、国家プロジェクトを敷かなければならない。例えば、大掛かりなインフラプロジェクトを打つとか……。

■財政出動は今回はムリ

エミン・ユルマズ 、大橋 ひろこ『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(ビジネス社)
エミン・ユルマズ、大橋ひろこ『無敵の日本経済! 株とゴールドの「先読み」投資術』(ビジネス社)

【大橋】でも、中国はリーマン・ショック以降、全国各地に新幹線プロジェクトや高速道路プロジェクトを大規模に展開して、すでにやり尽くしてしまいました。「空気を運ぶ」と言われる交通インフラをつくりすぎたので、これ以上の国家インフラプロジェクトを進めるのは、無理じゃないですか。

【エミン】そう。大橋さんが言われたように、リーマン・ショックのあとに中国は景気刺激策を出して、超大型の財政出動を連発した。今回はそれができないわけです。余力がないのか、それとも習近平的には「潰れそうな“民間”の資本家は潰れてしまえばいい、金持ちを国民の金で救う必要がない」と決めている可能性もあります。

【大橋】通常の国家の舵取りであれば巨額の財政拡張が必要な事態ですよね。中国がなぜ今回景気刺激策を打たないのか不思議ですが、経済のパイが縮小してもイデオロギーが重要ということでしょうか。

■中国共産党の支配が揺るがなければOK

【エミン】経済のパイが縮小しても、そのなかで中国政府、共産党が直接もしくは間接的にコントロールしている企業の数が増えていけば、彼らにとっては共産党の支配が揺るがないというメリットにありつける。

中国共産党指導部の視点に立ってみると、中国共産党という組織の存亡を考察する上で、そうした選択はきわめて“合理的”です。それが中国国民のためになっているかは、別の話ですが。

【大橋】彼らが生き延びるには、ですね。

■習近平はソ連崩壊を徹底的に研究している

【エミン】そう。彼らが生き延びるために、組織として生き延びるためにやっていることは、驚くほど“合理的”です。

しかも、習近平というリーダーは、ソ連の崩壊を徹底的に研究している筋金入りの人物なのです。絶対にソ連共産党の轍(てつ)は踏まないと考えているはずですから。

したがって、国の景気が後退しようが、経済が縮小しようが、巨大な民間企業が潰れようが、中国共産党一党独裁が今後も続くのであれば、モウマンタイ(無問題)なのです。

国民の利益、国民の発展がどうかなどは、さほど気にしていません。

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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。著書に『夢をお金で諦めたくないと思ったら 一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)、『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)、『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)などがある。

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大橋 ひろこ(おおはし・ひろこ)
フリーアナウンサー、ナレーター、個人投資家
福島県出身。アナウンサーとして経済番組を担当したことをきっかけに自身も投資を始め、現在では個別株、インデックス投資、投資信託、FX、コモディティと幅広く投資している。個人投資家目線のインタビューに定評があり、経済講演会ではモデレーターとして活躍する。自身のトレードの記録はブログで赤裸々に公表しておりSNSでの情報発信も人気。一時期は海外映画やドラマの吹き替えなど声優としても活動していたが、現在は経済番組に専念。現在ラジオや自身が運営する「なるほど!投資ゼミナール」チャンネルで経済番組のレギュラーを多数抱え、キャスターとしても多忙な日々を送っている。

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(エコノミスト エミン・ユルマズ、フリーアナウンサー、ナレーター、個人投資家 大橋 ひろこ)

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