親権争い -妻たちよ、急に優しくなった夫に要注意
プレジデントオンライン / 2013年3月21日 9時45分
育児ストレスでゆとりがなくなり、夫とも離婚寸前。そんなときに夫から「疲れているようだから病院で診てもらってきたら」と提案されたら、警戒が必要だ。離婚で親権を得るための策略という可能性もある。
離婚問題を数多く手がけてきた小嶋勇弁護士は、「夫が急に優しくなって、妻に精神科の診察をすすめたら注意したほうがいいかもしれない」と話す。背景にあるのは親権の問題だ。
「親権を争う調停や審判は、子どもを手元に置く親が圧倒的に有利。その状況をつくるために、妻に精神科への診察をすすめ、うつ病の診断が出たら『実家で休んでこい。子どもの面倒は俺が見るから』と提案。そのまま調停や審判を申し立てるケースがあるのです」
妻がうつ病との診断書は、親権が欲しい夫に有利に働く。ひどい話だが、夫側を一方的に責めるのはフェアでないかもしれない。これまで親権問題で立場が弱かった夫側の苦肉の策という見方もできるからだ。
そもそも親権は母親が有利になる場合が多いが、輪をかけたのがDV(ドメスティック・バイオレンス)防止法改正だ。従来は身体的暴力のみを暴力と定義していたが、2004年の改正で精神的暴力もDV法の対象になった。その結果、妻が「精神的な暴力を受けた」と訴え、子どもを連れてシェルターに逃げ込むケースが急増したのだ。こうなると、実際にDVがあったかどうかと関係なく、夫は不利になる。うつ病診断は、その対抗策でもある。
妻は夫をDVで訴え、夫は育児疲れの妻をうつ病に仕立てる。このような泥仕合が起きるのは、面会交流権(=子どもと自由に会う権利)の位置づけが不透明であることと無関係ではない。
本来、親子は親権に関係なく、お互いに会う権利を持っている。ところが民法で親権として認められているのは「身上監護権」(民法第820条)と「財産管理権」(民法第824条)であり、最近まで子どもと面会交流する権利については具体的な規定がなかった。そのせいか、現実には親権を失った親が面会交流を厳しく制限されることがまかり通っている。妻や夫がなりふり構わない手段に出るのは、こうした仕組みの犠牲になりたくないという思いがあるからだ。
欧米では離婚後も父親と母親の両方が親権を持つ共同親権制度を採用しているところが多く、監護親でなくても年間100日程度の面会交流が標準プランになっている。隔週で2泊3日、夏休みなどの長期休暇の半分を非監護親のもとで過ごすと、およそ100日だ。一方、日本の面会交流の相場はわずか月1回。臨床心理や児童心理の専門家からは、面会交流が少ないと子どもの精神状態が不安定になるという意見も出ているが、日本の裁判所は頑なに相場を守っている。
じつは12年の法改正で、面会交流については進歩があった。協議離婚するときは、子どもの利益を最優先に考えて、面会交流についても協議をすることが定められたのだ(民法第766条)。ただ、前途は険しい。
「法改正を受けて、裁判所が月2回の面会交流を認めるケースも表れ始めました。しかし実際は二極化していて、4カ月に1回、半年に1回という審判も珍しくない。なかには『面会は不可。年2回のビデオレターのみ』という審判のケースもあります」(小嶋弁護士)
こうした現状が放置されているかぎり、DV法や、うつ病診断の悪用はなくならないだろう。早急な改善が望まれる。
(ジャーナリスト 村上 敬 図版作成=ライヴ・アート)
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