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アジアの山岳氷河の氷の内部で活動する微生物の窒素代謝の発見 -氷河内部生命圏がもたらす新しい栄養サイクル-

PR TIMES / 2023年10月6日 18時15分



千葉大学の竹内望教授、南京大学の服部祥平准教授、中国科学院天山氷河観測所の李忠勤教授、東京工業大学の吉田尚弘名誉教授らの研究グループは、中国の天山山脈の山岳氷河の氷の内部で、微生物が活発に代謝活動を行なっていることを、硝酸イオン(注1)(以下、硝酸)の安定同位体(注2)分析という方法を用いて初めて明らかにしました。
 世界各地の氷河では、低温環境に適応した微生物の存在が明らかになっていますが、氷河の氷の内部で実際に微生物が活動している証拠を得たのは初めてのことです。この発見は、氷河を形成する大気からの雪が元々無機的なものであるにも関わらず、数百年を経て微生物の作用により、有機態窒素が氷河内部の氷に蓄積していることを示唆しています。氷河の内部のこのような窒素は、氷河下流部表面の生物活動を促進し、氷河の暗色化による融解促進、氷河の後退に直結していることが考えられます。さらに、近年の地球温暖化や大気汚染物質の増加は、このような微生物活動をさらに広範囲の氷河に広げている可能性があります。本研究成果は、2023年9月25日(現地時間)に、Environmental Science & Technologyよりオンライン公開されました。
本研究のポイント


・氷河の氷の内部(englacial)で、これまでほぼ認識されていなかった微生物の代謝活動(窒素循環)が行われていることを、硝酸の安定同位体分析という方法を用いて初めて確認した。
・数百年にわたる氷河の流動の過程で、元々無機質だった降雪がその微生物活動によって有機態窒素を含む氷に変わり(氷における“風化”現象)、その窒素がさらに氷河下流部の表面に供給されていることがわかった。
・このような氷河内部から下流部表面へ供給される窒素は、氷河表面に生息する微生物の栄養となり、微生物による氷河の暗色化や融解・後退と密接に関連している可能性がある。
・地球温暖化や窒素負荷の増加に伴い、氷河内部の微生物活動が今後拡大する可能性がある。
研究の背景


 近年、極地や高山に分布する氷河には、低温環境に適応した微生物が広く生息していることが明らかになっています。しかし、ほぼ固体の氷で占められて太陽光も届かない氷河の氷の内部には、微生物はほとんど存在しない、または限定的であると考えられてきました。
 本研究では、氷河内部の生物活動の有無を確かめるため、氷河から掘削によって取り出した内部の氷試料(アイスコア)(注3)に含まれる硝酸(NO₃-)の三酸素同位体組成(Δ ¹⁷O)を分析しました。硝酸は、大気や水環境に広く存在する物質で、一般に氷河の雪氷中には大気中で生成し沈着した硝酸が含まれています。一方、硝酸は、微生物の代謝活動によっても生成され(硝化)、さらに利用されること(同化、脱窒)もあります。氷河の氷の中に含まれる硝酸が、大気由来のものか、微生物由来のものかを区別する方法が、三酸素同位体組成(Δ¹⁷O)の分析(注4)です(図1)。硝酸中の3種類の酸素安定同位体の組成比を表したΔ¹⁷O値を分析することで、雪氷中の硝酸の何割が大気由来で、何割が生物活動により生成されたのかを判別できます。
[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/758/resize/d15177-758-41045c73eb09fa378538-0.png ]

研究の成果


 今回の研究では、中国の天山山脈のウルムチNo.1氷河で採取した3種類の試料の三酸素同位体組成を分析しました(図2)。

1.新雪(1年以内に大気沈着したもの)
2.氷河上流部(涵養域)で掘削した深さ8mのフィルンコア(注5)(沈着から11年程度)
3.氷河下流部(消耗域)で掘削した深さ56mのアイスコア(沈着後数百年が経過したもの)

[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/758/resize/d15177-758-5f7beb97ec32fd7e6025-4.png ]

 ウルムチNo.1氷河の新雪および上流部(涵養域)で掘削した深さ8 mの雪氷試料を分析した結果、表面近くでは硝酸のΔ¹⁷O値 (図3: D青)が大きく大気由来の硝酸が多いことが分かりました。
 そして、深度が深くなるにしたがい(氷河の内部ほど)Δ¹⁷O値が顕著に減少し微生物由来の硝酸が増えていくことが明らかになりました(図3: H 緑)。これは、氷河に堆積した雪に含まれる大気中の硝酸が、数十年かけて微生物由来(硝化)の硝酸に置き換えられていることを示しています。硝酸の濃度は深いほど増えるわけではなかったことから、微生物による硝酸生成(硝化)だけでなく、微生物の同化・脱窒による硝酸の消費も同時に起きていることもわかりました。同位体の質量バランスを基に、氷河内部の微生物の代謝速度を推定したところ、従来知られていた寒冷環境の微生物の代謝速度よりも数百倍も速いことが判明しました。
 氷河下流部(消耗域)の深さ56 mの雪氷試料の分析の結果、硝酸のΔ¹⁷O値はどの深さでも極めて低い値であることがわかりました。これは、この氷の中の微生物の硝化活動は限定的ですが、微生物による硝酸の消費は起きていることを示しています (図3: L赤)。
[画像3: https://prtimes.jp/i/15177/758/resize/d15177-758-d3766bb161440ca54271-4.png ]

 このことは、数百年かかるゆっくりとした氷河の流動の過程の中で、氷河内での微生物活動が有機態窒素を氷の中に蓄積していくこと、その窒素は最終的に氷河の表面に現れることを示しています(図4)。
[画像4: https://prtimes.jp/i/15177/758/resize/d15177-758-f4b0f7f32ae20b12327f-3.png ]

 この氷河の内部から表面への有機物を含む窒素の供給は、氷河表面に生息する微生物の栄養となり、氷河表面でさらに微生物活動が促進され有機物が堆積することで、氷河が暗色化し、太陽光の吸収を促して氷河の融解が促進される要因となる可能性があります。
今後の展望


 本研究では、氷河の内部での窒素に関わる微生物代謝の存在を初めて明らかにしました。氷河内部の微生物は、おそらく氷の結晶の間にできた微小な空間で活動しているものと考えられます。このような微生物活動は、氷河の氷の温度が低い極域の氷河では限定的かもしれませんが、近年の地球温暖化に起因する氷河の氷の温度の上昇によって、さらに広範囲の氷河に拡大している可能性があります。同様に、大気から氷河へのアンモニアの沈着量が亜高山および高山域で近年増加していることが報告されているように、全球スケールの窒素循環が氷河の微生物生態系に大きな影響を与える可能性があります。最後に、氷河内に潜む生物活動の存在は、太古の地球で起きたスノーボールアースのような寒冷化現象や火星のような地球外天体の雪氷中での微生物の存在の可能性を考える上でも重要な知見です。本研究はその一歩として、様々な研究への展開が期待されます。
用語解説


注1)硝酸イオン(硝酸、NO₃-): 自然界の大気、水、土壌など広く存在する無機窒素化合物。大気では光化学化学反応で生成され、大気汚染物質として知られる。水や土壌環境では、微生物活動によって生成され(硝化)、また微生物が栄養として利用することもある(同化、脱窒)。
注2)安定同位体(比,組成)(Δ¹⁷O): 自然界に存在する元素で、自然に崩壊する放射性同位体に対して、永久に崩壊しない同位体を安定同位体と呼ぶ。多くの元素では、安定同位体は複数存在し、その存在比を表したのが安定同位体比(組成)である。酸素には、質量数16、17、18の3つの安定同位体が存在する。Δ¹⁷O値は、その3つの同位体の存在量を用いて、以下の式で求めた値である。
Δ¹⁷O = δ¹⁷O - 0.52 × δ¹⁸O
(ただし、δ¹⁷Oは標準試料に対する¹⁷O/¹⁶Oの比、δ¹⁸Oは標準試料に対する¹⁸O/¹⁶Oの比を示す)
注3)アイスコア: 氷河から特殊なドリルを用いて掘削した円柱状の氷試料。氷河内部の古い氷を分析することで、過去環境を復元する研究などが行われる。今回は、氷河内部の微生物活動を確かめるために用いた。
注4)三酸素同位体組成(Δ¹⁷O)の分析: 硝酸を構成する酸素原子には、質量数が異なる3種類の同位体が存在する(図1: 質量数16、17、18)。ほとんどの酸素は質量数16だが、自然界にはわずかに質量数17、18の酸素を含む硝酸が存在し、その割合は硝酸の生成過程によって変化する。大気中で生成される硝酸は大気中のO₃の酸素に由来するため、そのΔ¹⁷O値は高く(約25‰以上)なる。一方、微生物の活動による硝酸生成、すなわち硝化では、そのΔ¹⁷O値は0‰となる。
注5)フィルンコア: アイスコア同様に、氷河から掘削した円柱上の雪氷試料。氷河上流部の表層付近では、氷ではなく積雪のままの試料であることが多く、積雪のコア試料のことを特にフィルンコアと呼ぶ。
研究プロジェクトについて


本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(18K19850,19H01143,17H06105)の助成を受けて行いました。
論文情報


論文タイトル:Isotopic evidence for microbial nitrogen cycling in a glacier interior of high-mountain Asia
著者:Shohei Hattori, Zhongqin Li, Naohiro Yoshida, and Nozomu Takeuchi
雑誌名:Environmental Science & Technology
DOI:https://doi.org/10.1021/acs.est.3c04757

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