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「鉢形城」(後編) 「鳥も窺い難し」天然の要害 埼玉のお城出陣のススメ 山城ガールむつみ

産経ニュース / 2024年4月19日 16時40分

鉢形城は荒川を望む河岸段丘上に築かれ、その険峻さは室町時代の歌人万里集九が「鳥も窺い難し」と形容したほどです。埼玉県のみならず、関東の歴史を語るに欠かせない鉢形城は、文明8(1476)年に関東管領山内上杉氏の重臣長尾景春に築かれたことによって、歴史に登場します。この頃の関東は、享徳の乱の真っ最中で、古河を本拠とした古河公方と、五十子陣(埼玉県本庄市)を本拠とした関東管領上杉氏が戦いを繰り広げていました。

そのような状況の中、景春は山内上杉氏の家宰職の継承をめぐるトラブルから、主家に対して「長尾景春の乱」と呼ばれる反乱を起こします。景春は在陣していた五十子陣を出て、南方約15キロの鉢形へ移り、鉢形城を築きました。そして、当城を足掛かりに、代々仕えていた山内上杉氏の本拠五十子陣に攻め寄せました。これにより、五十子陣は崩壊。上杉氏らは上野方面に逃げました。享徳の乱の最中、鉢形城を舞台に「長尾景春の乱」という新たな炎が燃え上がったのです。

この炎は関東一円に燃え広がります。景春に味方する勢力も多く、太田道灌を中心とした上杉軍はこの鎮圧に乗り出し、各地を転戦しました。特に武蔵国内では、景春方についた豊島氏と激しい戦いを繰り広げました。江古田・沼袋(東京都中野区)の戦い、豊島氏の石神井城、練馬城(ともに東京都練馬区)の戦いなどに勝利した道灌は、上野国に避難していた上杉軍を再度五十子陣に入れることに成功しました。その後も道灌は、武蔵、相模の景春に味方する勢力を鎮圧し、用土原(寄居町)で行われた景春との直接対決を制し、景春を鉢形城に追い込み、包囲。そしてついに、文明10(1478)年、道灌は鉢形城を攻め、景春は逃亡しました。

これ以降、しばらくの間、鉢形城は関東管領山内顕定の拠点となります。鉢形城が関東管領の本拠に選ばれた理由としては、防御性に優れていることや、武蔵、上野を支配するに都合が良いという理由が挙げられています。道灌が鉢形城に入ることを推薦したといい、各地を転戦した道灌だからこそ、鉢形城の重要性を誰よりも分かっていたのかもしれません。

この後、関東の動乱はさらに混迷を極め、両上杉氏の抗争が展開されると、その隙をぬうように小田原北条氏が台頭してきます。この頃、鉢形城は山内上杉氏の重臣藤田氏が管理していましたが、上杉氏の勢力が弱まると藤田氏は北条氏康の子氏邦を婿養子に迎え、北条氏に従うようになります。これによって鉢形城は氏邦の居城となり、藤田氏の地域における影響力を取り入れながら北条氏の武蔵、上野統治の拠点として整備拡張され、情勢に応じて姿を変えていきました。鉢形城を基点として、周辺には支城がたくさん築かれ、街道も整備されました。近年の研究では、鉢形城から小田原城へ向かう道筋も明らかになってきていて、北条氏の主要城郭として軍事、政治のみならず経済面においても重要な役目を担った鉢形城の姿が浮かび上がります。

武田信玄、上杉謙信といった名だたる武将の攻撃にも耐えた鉢形城ですが、ついに最期のときを迎えます。天正18(1590)年、豊臣秀吉の小田原攻めに際し、氏邦は鉢形城に籠城し戦うも、前田利家、上杉景勝らの攻撃を受け、降伏開城しました。

長尾景春から北条氏邦まで、さまざまな歴史が刻まれた鉢形城は、まさに本県を代表する城であり、調査、整備が進められているため、その歴史をふんだんに現地で体感することができる素晴らしく貴重な城といえます。

城内には鉢形城歴史館があり、鉢形城の歴史を学ぶことができます。また、きれいに整備されているため、復元された堀、土塁などの城の遺構を楽しむことができます。

まさにこれから中世戦国時代の城めぐりを始めようと思っている方にうってつけの城です!

山城ガールむつみ

歴史&山城ナビゲーター。歴史コンサルタント。歴×トキ(レキトキ)代表、三浦一族研究会副会長、一般社団法人城組副理事、千葉城郭保存活用会副代表、千葉県匝瑳市シティ・アンバサダーなど。

歴史やお城をテーマにしたイベントやツアー、講座を全国各地で多数手がける。県内でも歴史と城を使った町おこし、地域活性化の取り組みや、各地の歴史発信のための御城印発行プロデュースなどを行っている。(https://www.rekitoki.com/)

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