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名将グアルディオラの「おとうと弟子」が狙う逆転V…卓越した修正力で、チームを勝利に導く 北川信行の女子サッカー通信

産経ニュース / 2024年5月10日 11時0分

サッカー界きっての名将として知られるジョゼップ・グアルディオラ氏(マンチェスター・シティー)の「おとうと弟子」と言える指導者が、日本のWEリーグで指揮を執っているのをご存じだろうか。今季からINAC神戸レオネッサを率いるジョルディ・フェロン監督(45)である。世界的に有名なスペイン1部リーグの強豪、バルセロナのカンテラ(育成組織)で育ち、2000年シドニー五輪で銀メダルを獲得した選手時代の実績は有名だが、指導者の系譜は明かされていなかった。逆転優勝を目指して采配を振るうWEリーグ初のスペイン人指揮官に話を聞いた。

皇后杯決勝の流れを変えた的確な指示

今季、INAC神戸は何度、フェロン監督の「修正力」に助けられただろう。FW田中美南やGK山下杏也加ら女子日本代表「なでしこジャパン」に名を連ねる実力者がそろい、もともと力のあるチーム。しかし、前半に思うような試合運びができなかったことが幾度かあった。

冷静にピッチ上で起こっていることを分析した指揮官はハーフタイムに的確な指示を与えると、後半の頭から控え選手を投入。すると、前半とは見違えるような動きが生まれ、主導権を握るようになる…。そんな試合が続いた。

実際、今季のINAC神戸は後半に巻き返したり、相手を突き放したりするケースが極めて多い。今季挙げた36得点のうち、23得点が後半。逆に失点は前半が6点なのに対し、後半はわずかに2点。いかに後半に試合を支配しているかが、数字の上からも分かる。

象徴的だったのが、WEリーグの試合ではないが、三菱重工浦和レッズレディースをPK戦の末に下して7大会ぶりに優勝した皇后杯全日本女子選手権の決勝だ。この試合、前半19分にオウンゴールで先制点を奪われたINAC神戸は三菱重工浦和のハイプレスに苦しみ、思うように攻撃の組み立てができなかった。前半に放ったシュートはわずか1本。苦し紛れに出したパスを何度もカットされ、鋭いカウンターを浴びた。

劣勢を打開するため、フェロン監督は後半の頭から競り合いに強いFW高瀬愛実を投入するとともに、3バックの右でプレーしていたDF土光真代を中盤の底のアンカーの位置に上げた。すると中盤でのボール奪取争いで相手を上回れるようになり、攻撃も活性化。後半ロスタイムにPKを奪って同点に追いつき、延長戦を経てタイトルを獲得することができた。

試合後、指揮官は「正直なところ、前半はあまりいいプレーができなかった。相手がフィジカルを前面に出して戦ってきて、自分たちのサッカーができなかった。後半は(流れを)変えていかないといけない、ハートを持って戦っていかないといけないと考え、いくつか選手を交代した。競り合いで勝てるようにというのを目指した」と解説。流れを変えるキーマンとなった土光は「前半、中盤のところで競り負け、球際で勝てていないのがあったので、(監督には)そこで競り勝ってほしいというのと、(ボールを保持したら)シンプルに展開してほしいと言われた」と指揮官の指示内容を明かした。

「パーツ」と「パーツ」を代えるアイデア

こうした采配の妙について尋ねると、フェロン監督は「いろいろなパーツ、パーツを考えながら試合に臨んでいる。相手の直近の試合をビデオで見て勉強し、準備をして試合に入るが、実際始まってみると、考えていたようにいかなかったり、相手が予想通りに動かなかったりする。そうしたら、このパーツとパーツを代えるべきだという感じでアイデアが生まれてくる」と説明。巻き返すケースが多いことについては「特に前半は相手もフレッシュだし、予測しなかったところに守備のサポートが入るようなこともある。しかし、後半は疲れも出てくるだろうということを予測しながら、考えるようにしている。ビデオを見ていろいろ研究はしているが、実際に試合を見て、ここは代えるべきだな、ここはこうすべきだなというのが自分の中に生まれる」と打ち明けた。

さらに「いい選手がいるから、この場合にはこう対策しようというのが最初から準備できている。そこは監督として助かっている」とフェロン監督。INAC神戸の選手のレベルの高さ、多彩さも自身の采配を生かす上で重要な要素になっていると指摘した。

名だたる名指導者たちの薫陶を受け

では、フェロン監督はどのようにして指導のスキルを磨いたのか。「私は幸運だったのかもしれないが、いろいろな監督と出会った。その中で、いいものを取り入れ、よくなかったものはしないようにしてきた」と指導者としての心構えを語ったフェロン監督は「影響を受けた指導者の名前を誰か一人挙げろと言われれば、それはヴィッセル神戸の監督もしたマヌエル・リージョ氏だ。戦術的にも非常に素晴らしかった」と言い切った。

「あとはパコ・フローレス氏。エスパニョールで国王杯を制した。彼はいいモチベーターだった。バルセロナにいたときもいい指導者がたくさんいて、いいところを取り入れた。もちろん悪い指導者もいた。よくないなと思ったことは、極力しないようにした」とフェロン監督。現在はマンチェスター・シティーのアシスタントコーチを務めているリージョ氏はグアルディオラ監督が「最も影響を受けた指導者の一人」と尊敬する人物で、グアルディオラ監督の「師匠」「盟友」と形容されることもある。そういった観点でみると、フェロン監督はグアルディオラ監督とは同じ師匠を持つ「兄弟弟子」の関係にあると言える。

フェロン監督がリージョ氏の指導を受けたのはサラゴサでプレーしていた時代。監督と選手の関係だった。フローレス氏ともサラゴサ時代に関係を築いた。オランダ代表やマンチェスター・ユナイテッドを指揮したルイス・ファンハール氏や「心理学者」の異名を持つグレゴリオ・マンサーノ氏、スペイン代表を率いた経験もあるハビエル・クレメンテ氏ら名だたる指導者たちからも薫陶を受けたという。

「選手時代はサラゴサに4年いて国王杯のタイトルも取った。リーグ戦でも上位で勝負できるいいチームだった」と振り返ったフェロン監督は「リージョ氏から一番学んだこと、いいなと思ったのはゾーンでプレーすること。特にディフェンス面。彼もかなり執着して選手に教えようとしていた。そういうことを私もこのチームでやりたいと思っている」と強調。また、男子と女子のサッカーの指導方法の違いについては「(布陣の)人の並びも一緒だし、動きの速さは違うが、やらなければならないことは変わらない。たとえば壁パスで突破する、オーバーラップする。そういった一つ一つの技術的なことは男子も女子も変わらない」と言葉に力を込めた。

今季のリーグ戦は残り3試合で、優勝争いは既に首位の三菱重工浦和とINAC神戸の2チームに絞られている。18日にはホームのノエビアスタジアム神戸でリーグ戦12連勝中の三菱重工浦和との直接対決がある。休みの日も家でビデオを見返したりしているというWEリーグ屈指の戦術家監督は逆転優勝を成し遂げるため、自らの手で「ストップ三菱重工浦和」を実現するつもりだ。

(サンケイスポーツ編集委員)

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