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ないものねだりはもうやめた―みんなで繋ぐ名鉄広見線

政治山 / 2016年12月5日 11時50分

右肩さがり利用者数 厳しい地方の鉄道路線

 近年、全国の様々な地域で、鉄道や民間バス路線の廃止・廃線が相次いでおり、特に地方の自治体では、地域の公共交通をどう維持していくか、財政面の逼迫とあわせて大きな課題となっています。住民や事業者、行政などが一体となって、地域の公共交通に何が必要なのかを考え、それぞれが役割を持って行動していくことが求められています。今回の取り組みは、廃線の危機にある地域の鉄道路線「名鉄広見線」をきっかけとして、地域の皆さんが、この地域の魅力とは何か、鉄道のあるこの地域の力を活かして何ができるかを考え、実行に移してきたものです。

 御嵩町の公共交通の背骨として位置づけられている鉄道路線「名鉄広見線」は、利用者数の減少、コストの増大から廃線の危機に立たされています。御嵩町、可児市、八百津町で組織された「名鉄広見線活性化協議会」では、(1)地域住民の日常生活に欠かせない移動手段であること、(2)学生(特に高校生)の移動手段として役割が大きいこと、(3)今後進む高齢化に伴い自家用車を運転できなくなる高齢者が増えていく中で、必要不可欠な移動手段となることから、広見線を社会的インフラと位置づけ、維持存続を基本とした協議・検討がなされてきました。

 年間1億円(御嵩町7,000万円、可児市3,000万円)の運行補助が行われるとともに、活性化協議会が策定した活性化計画のもと、イベントの開催、利用補助など様々な利用促進施策が行われていますが、その利用者数は平成20年度の107万2,000人から平成26年度では87万人となっており、利用者数の減少には歯止めがかかっていません。

 協議会での議論や計画は、もちろん大切なものです。その一方で、行政主導で作られた計画は、実行していく人が不在のままになっていないか、地域の人の思いが置いてきぼりになっていないだろうかと感じたこともありました。この地域に暮らす人々が何を考え、どのような地域を作っていきたいと思っているのか、地域の住民が立ち上げた歴史のあるこの鉄道路線をどうしていきたいのか、そうしたものと向き合い、地域の方々と一緒に取り組んでいくことこそが、大切なことなのではないかと考えたのです。

鉄道を守り、繋いできたこの地域。まずは知ることから

 まず取り組んだことは、名鉄広見線があるこの地域について、地域の方と一緒に調べ、考えることでした。具体的には、週末学校で学んだ吉本哲郎さんの地元学の発想、「あるもの探し」です。地元の若い方や年配の方(土の人)、職員、そして外部の目ということで、名鉄沿線の大学である名古屋芸術大学の学生の皆さん(風の人)に参加いただき、いくつかのチームに分かれて広見線沿線を歩きました。普段住み慣れた地域を、目的を持って「歩く」ことで、見逃していたものや気づかなかったものなど、多くの発見がありました。電車と競争ができるようなまっすぐな一本道や寝転ぶと電車の真下が見える鉄橋の下のスポット、廃線となった八百津線跡・・・当たり前の風景だったものが、視点を変えることでとても魅力あるものとなっていったのです。

 次に、そうして発見した「もともと地元にあったもの」を活かして、地域で何ができるかを考えていきました。手や頭を動かしながら、アイデアを出す。誰かのアイデアを聞き、また新たなアイデアが生まれる。さらに調べたり、いろいろな立場の考えが混ざり合ったり、行動をともにしていくなかで、住民、学生、行政職員など立場を超えた関係性が深まっていきました。そして最終的には「この地域を、鉄道と一緒に楽しめる遊園地と見立ててみよう」という発想が生まれ、各チームが考えたアイデアを遊園地のアトラクションと捉え、まとめていくこととなりました。


地域をあるいて巡る、あるもの探し。発見や気づきの連続でした

アイデア出しから行動へ。手づくりのイベントがはじまった。

 平成27年秋~翌年春までを構想の時期とすれば、平成28年は実行の年です。みんなで考えたアイデアや構想を、「あかでんランド」というイベントとして秋に開催するという目標を定め、活動が始まりました。チームごとに担当のアトラクションを決め、それぞれで企画、製作から当日の運営までを行うことで、まさに地域のみなさん手作りのイベントとなりました。当日は当初の予想を上回る人数のお客さんが訪れ、昔ながらの佇まいの駅舎で駅長さん体験ができるアトラクションや、廃線を地元の元鉄道マンとともに歩くツアー、線路沿いに並んだ地元高校生手作りのかかしたち、など多くのアトラクションを楽しみながら、この地域を巡りました。当日の様子は「あかでんランド」のウェブサイトで観ることができます。また、参加者みんなの想いが詰まったオリジナルソングもできました。


芝生に寝転び、鉄橋を渡る電車の真下を眺められるスポット。地元の人には当たり前の風景でも、視点を変えることで、まったく違った風景が広がった。


廃線となった八百津線跡を巡るコース。元鉄道マンだった地域の方の解説に、多くの方が耳を傾けていました。

御嵩あかでんランド -詞:あかでんランド実行委員会-

明日の朝から みんなを迎える
あかでんランドが みんなを迎える

名古屋の街から 電車で一時間
ここは小さな 田舎のまちの遊園地

可児川 芝生の広場に寝転ぶ
流れるメロディ 魔法の切符だ

かつての八百津線 オールドレイルウェイ
トンネル抜けたら 君の手をぎゅっと握ってた

さあ 赤い電車に乗っていこう
僕と一緒に乗っていこう
2日間だけ特別な日を 名鉄広見線

さあ 赤い電車に乗っていこう
僕と一緒に乗っていこう
ああ この時を 笑って 楽しもう

カメラを覗いて 狙っているのは
顔戸発か キミの笑顔か

アテハメステーション 思わずシャッター
駅舎で見かけた スモールコンダクター

まっすぐに伸びた 西田の通り
現れたのは あかでん男

真っ赤な服が ドレスコードさ
ないものねだりは もうやめたんだ

さあ 赤い電車に乗っていこう
僕と一緒に乗っていこう
2日間だけ特別な日を 名鉄広見線

さあ 赤い電車に乗っていこう
僕と一緒に乗っていこう
ああ この時を 笑って 楽しもう

終わりの駅じゃない  はじまりの駅
一人でできること  みんなでできること

見落としがちな自分の暮らす地域と丁寧に向き合う

 とかく計画策定やワークショップなどはアイデア出しだけで終わってしまうことが少なくありません。意見を聞きっ放し、言いっ放しで終わり、結局何も変わっていかない・・・というケースも大いにあるのではないでしょうか。今回の取り組みでは、地域の皆さんの前向きな思いのもと、アイデアを出すだけではなく、一人ひとりが地域を自分ごととして考え、実行に移していきました。また、すべてのアトラクションは、地域にもともとあったものを生かして出来上がったものです。足元にあった地域の魅力に気づき、それを地域の人や外からの人と共有することで、さらに自分たちのまちを好きになっていきました。

 これらの活動は、普段見落としがちな自分の暮らす地域と丁寧に向き合うことにつながっていたのです。地域の人、歴史、先人たちの残した財産、自然などさまざまなものと向き合うことで、今何が必要なのか、自分たちは今何ができるのかを、地域の方と共に考えていくことができました。

住民主体のまちづくりは一人ひとりの思いから

 このイベントの数日後、一本の電話が鳴りました。それは、今回のイベントに参加した町民の方からでした。「今回、地域のみんなでやってすごく楽しかった。これまで地域とかあんまり考えたことなかったけど、僕にも何かできそうな気がする。放っておくと、この想いも冷めてしまいそうで…川上さん、来年に向けて一緒に何かやりませんか。」という内容でした。私はとてもうれしく思うと同時に、ここからが本当の住民主体のまちづくりのスタートだ、このたまごがパカッと割れたような感覚を大切にしたいと感じました。

 週末学校の一貫したテーマ、「住民主体のまちづくり」。地域の課題解決、そしてそこに暮らす人々こそが主役のまちづくりは、役所の中にいるだけでは実践することはできないと改めて感じました。そこに日々暮らしている人々の想いとしっかりと向き合い、対話を重ねていくこと。共に歩き、共に考え、共に地域を見つめていくこと。それが私たち行政職員の一つの姿ではないかと思います。


ないものねだりはもうやめた。地域にまた新たなコミュニティが生まれた。

 来年の今頃、きっと御嵩町では地域と広見線を存分に楽しむ“何か”が行われていることでしょう。それも誰かにやらされている訳でも、誰かにまかせている訳でもない。地域の一人ひとりが主役の何かが。始まりの駅から、出発するのは電車だけではないのかもしれません。

<岐阜県御嵩町 総務部総務防災課財政係 川上敏弘>

        ◇

「住民を主体とする地方自治の実現と、地域の潜在力を活かした多様性あるまちづくりのために、自らの頭で考え、行動を起こすことができる人材を育成すること」を目的とした、地方自治体職員対象の人材育成プログラム「東京財団週末学校」の受講生によるコラムです。

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