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「古めのファッションでデートするカップル」「トンネルで踊る若者たち」…カラオケ背景映像の“あるある”はどうして生まれるの? JOYSOUNDに理由を聞いてみた

集英社オンライン / 2023年6月23日 16時1分

カラオケに行ったことがある人なら、「水中に沈んだ写真」「トンネルを走る車」「ガーリーな部屋のベッドで飛び跳ねる女性」など、カラオケ映像の独特な「あるある」について、いくつか思い当たるだろう。このような映像はなぜ生まれているのか。通信カラオケ「JOYSOUND」を運営する株式会社エクシングで、カラオケ映像の制作責任者を務める金子暢大さんに伺った。

背景映像の基本は「歌う人の邪魔をしない」

––カラオケの映像には、公園デートをするファッションが少し古めのカップル、フェンスや壁に寄りかかる男性、花や砂時計のモチーフなど、いくつかの「あるある」が存在しますよね。これはなぜなのでしょうか?

おっしゃっているのは、カラオケの「背景映像」と呼ばれる映像のことですね。背景映像には制作上の制約がいくつかあって、それらをクリアしたうえで制作すると、どうしても似た雰囲気のものが生まれやすくなってしまうんです。



少し前のファッションやメイクが登場するのは、カラオケ機器のライフサイクルが理由の一つ。いったんカラオケ機器に搭載された背景映像は、その機器を入れ替えるまでずっと流れます。

現在のカラオケボックスでは数年で最新機種に入れ替えていますが、スナックなどでは昔の機種がそのまま使われていることもよくあります。そうすると、10年くらい前に撮影された映像が流れることもあるんです。

カラオケボックスのディスプレイに表示される背景映像 (写真提供:株式会社エクシング)

株式会社エクシング 制作部 部長・金子暢大さん (写真提供:株式会社エクシング)

––映像を制作するうえでの「制約」とは、具体的にどういうものですか?

基本的に、映像は背景であり、歌っているお客様の邪魔をしてはいけない。そのため、あまり激しく光が明滅するのもダメですし、歌詞以外の文字が入るなど情報量が多すぎるのもNG。映像が切り替わりすぎるのもよくないですし、逆にずっと同じカットが続くのもよくない。過度にダイナミックな映像もダメですね。たとえば、火山が噴火しているとか。

あとは、さきほどお話ししたように10年くらいは使われる映像なので、なるべく時代を特定できるものは映さないようにしています。たとえば最近はスマートフォンが出てくる映像もあるのですが、機種は特定できないようにしています。

こうした制約を守りながら作っていると、どうしても似た映像が多くなってきてしまうんです。

カラオケ機器に一度搭載された背景映像は、機器を入れ替えるまでずっと流れる(写真提供:株式会社エクシング)

背景映像のストーリーが脈絡なく見える理由

––そもそもカラオケの背景映像って、いつ頃から存在しているんですか?

カラオケは1970年頃に伴奏を録音したテープから始まっています。そのときは歌詞が書かれた本を見ながら歌うというスタイルで、背景映像はありませんでした。

その後1980年代はじめに登場した「レーザーディスクカラオケ」で初めて背景画像や歌詞のテロップが流れるようになり、画面を見ながら歌えるようになったんです。

そして1992年には、当社の創業とともに、「通信カラオケ」が登場します。当時はISDNという回線があり、それで楽曲データを送るようになったんです。でも、映像はISDN回線では送れませんでした。

1992年に登場した「通信カラオケ」。当時はISDN回線で楽曲データを送っていた(写真提供:株式会社エクシング)

––動画ファイルは容量が大きいからですか?

そうなんです。そこで、ハードディスクに映像を入れておき、そこから自動的にピックアップした映像を音楽と同時に流すという方法で背景映像をつけていました。

––その頃からすでに、楽曲の雰囲気に合わせた背景映像が流れるようになっていたんですか?

ハードディスクには数十時間分の映像が入っていたので、そのなかで「ポップス」「演歌」など約20ジャンルほどに分けて、楽曲と紐づけていました。ジャンル内でいくつかの映像を用意していましたが、通信カラオケの楽曲数は最初から3000曲ほどあったので、曲数と比較すると映像数は少ない。なので、同じ映像が流れてしまうことがありました。

––最近の背景映像も、ジャンルに分けて楽曲に紐づけされているのでしょうか。

今は曲のジャンルだけでなく、もっと細分化されています。たとえば「J-POPのラブソング」であれば、女性目線、男性目線、年齢層、季節感…といった部分まで分けて紐づけしています。

––それだと、「男性目線の失恋の秋の歌」ばかり歌う人は、同じ背景映像を見る可能性がある……?

「男性目線の失恋の秋の歌」がどれだけあるかはわかりませんが(笑)、今は同じ映像は流れづらくなっています。通信技術が進化して、映像データも配信できるようになったんです。それにより、映像をハイペースで増やしていけるようになりました。

今はカラオケボックスで同じ曲を12〜14回くらい歌い続けても、原則として同じ映像が出てこない仕組みになっています。

––そもそもカラオケ映像というのは、どのように作られているのでしょうか。

まず楽曲のジャンルに合った映像はどういうものか企画会議をして、脚本を書き、ロケハンをして、撮影をするという流れです。

––脚本がしっかり用意されているんですね。シーンごとに映像を撮って、脈絡なく繋いでいるのかと思っていました。

実は、カラオケ映像にはかなり明確な“流れ”があるんです。一応、4〜5分の1本でストーリーになるように撮影・編集しています。ただ、曲の長さによって全編流れるわけではないですし、サビに合わせて映像が飛んだりするので、脈絡なく見えることがあるかもしれません。

背景映像は脚本を用意したうえで撮影される。“鉄板”の撮影場所もいくつかあるそうだ(写真提供:株式会社エクシング)

EDM、ボカロ、抽象的な歌詞……映像制作の難易度は上がっている

––ラブソングなら「男女が出てきて、ケンカして、和解」など、比較的脚本が考えやすそうですが、その他のジャンルはどうなのでしょう?

それが目下、最大の悩みですね。今、カラオケ機器に入る「楽曲のジャンル」が増えているんですよ。新ジャンルが出てくるたびに、「これに合う映像って何だろう……?」と頭を悩ませています。

たとえば、EDMの背景で「歩道橋で男女が言い合いをしている」みたいなよくあるカラオケの映像が流れたら、ちょっと違和感ありますよね。

––たしかに。EDMはどういった背景映像が合うんでしょうか……?

今のところは、クラブの映像を撮影して流しています。新しい音楽ジャンルの映像は正解がないので、難しいですね。

––以前は存在しなかったり、メジャーでなかったりしたボーカロイドやK-POPなどのジャンルが、今は人気ありますもんね。

ひと口にボーカロイドといっても、音楽ジャンルでいえばポップスやロック、バラード……歌詞の内容もそれぞれ違います。それに合った映像はどういうものなのか、一から企画会議をして考えています。

歌詞も、ひと昔前の曲はもっとわかりやすかったんですよ。「失恋ソング」だったり、「応援ソング」だったり。でも最近の曲は抽象的で掴みどころがない曲も多いですよね。これは単に私が歳を取ってついていけていないだけかもしれないのですが(笑)。ただ、歌詞のワードや曲のタイトルは楽曲の大きな要素ですので、そこからなんとか絞り込んで映像を作っています。

シュールな歌詞の水曜日のカンパネラ「エジソン」をカラオケで歌ったところ、噴水の映像が流れた。なんとも言えない映像に制作部の苦労が忍ばれる

––最近では、「本人映像」として、ミュージックビデオやライブ映像が流れる楽曲も増えましたよね。それによって、制作する背景映像の本数は少なくなっているのでしょうか。

それが、逆なんです。たしかに、本人映像に歌詞テロップをつけるものも増えています。でも、それ以上にジャンルの細分化が進んでいるため、背景映像も増えているんです。

1990年代くらいまでは、国民的な大ヒット曲があって、それをみんなが歌うのがカラオケの定番でした。それ以前なんて、カラオケで歌われる曲はもっと少なかったんです。

今は、各々に好きなジャンル、好きな曲があって、歌われる曲が非常に多様化していますよね。それによって、我々の映像の供給も増えているんです。

––今後はどんな背景映像が増えていくのでしょうか。

挑戦していきたいのはCGですね。これまでCG制作はすごく大変で、あまり作れなかったんです。だんだんと技術が発展し、手軽に作れるようになってきたので、アニソンなどに合わせてもっと作っていけたらいいなと思っています。

取材・文/崎谷実穂

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