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【サンカクヘッド×眉月じゅん対談 前編】私たちが今、こんなにも平成を懐かしいと思うワケ

集英社オンライン / 2022年5月19日 18時1分

『平成少年ダン』のサンカクヘッドさんと、『九龍ジェネリックロマンス』の眉月じゅんさん。ともに「週刊ヤングジャンプ」で「懐かしさ」を重要なモチーフとした作品を連載中のおふたりによる初の対談が実現。担当編集者である大熊八甲を交えつつ、前編ではズバリ「平成」をテーマに、影響を受けたアーティストやコンテンツから、平成レトロブームに対する分析まで、さまざまな角度から「懐かしき平成」を振り返ります。

平成のエンタメは、とにかくめちゃくちゃ元気だった

——おふたりにとって、平成はどんな時代でしたか?

眉月 私は昭和生まれなんですけれど、昭和の記憶はほとんどない世代です。だから令和としか比較できないのですが、平成というと「あらゆるエンタメが元気だった時代」だったという印象があります。特に90年代は、漫画もアニメもゲームも音楽も、とにかく勢いがありました。



サンカクヘッド あの頃って、みんなが同じような作品にふれて、同じように夢中になっていましたよね。テレビもまだまだ元気で、学校で「昨日の『ウリナリ』見た!?」と盛り上がったり。あれって、なんだったんでしょう。

眉月 やっぱりインターネットがなかったのが大きいのかな。90年代って、本格的にインターネットが普及する前の、最後の時代だったわけじゃないですか。

サンカクヘッド たしかに。あの頃は、情報収集っていうと雑誌でしたよね。

眉月 だからみんな今よりもずっと本屋に行っていたし。それこそ、出版業界も今よりずっと元気だったんじゃないですか?

大熊 「週刊少年ジャンプ」が最大発行部数を記録したのが、たしか1994年ですね。

左からサンカクヘッドさん、眉月じゅんさん、大熊八甲。おふたりとも顔出しNGのため、仮面をつけての対談に

ガモウひろし先生のサービス精神を、いまもお手本に(サンカクヘッド)

——サンカクヘッド先生は、その頃は小学生くらいですか。

サンカクヘッド 僕は1986年生まれなので、小学校2年生くらいですかね。アニメで『ドラゴンボール』を見たりしていましたが、「(週刊少年)ジャンプ」を読むようになったのは、もう少しあとで、つの丸先生の『(みどりの)マキバオー』とかが大好きでした。それと実はガモウひろし先生の『(とっても!)ラッキーマン』にすごく影響を受けています。

——どんなところに影響を受けたのでしょう?

サンカクヘッド 『ラッキーマン』って、画面の手前にいるキャラクターが会話としているときに、その奥でまた別のキャラクターたちが会話をしていたりするんです。吹き出しじゃなくて、手書きの小さな文字で。一つのコマのなかに、ふたつのストーリーが展開されているというか。それって、つまり読者へのサービス精神だと僕は解釈していて。そういうところにすごく影響を受けました。

眉月 矢沢あい先生とかにも、そういうところがありますよね。ちなみに書き文字は私もよく使います。

サンカクヘッド 僕もよくやるんですが、昔から文字を小さく書いちゃう癖があって。雑誌だとまだいいんですが、単行本だとさすがに小さすぎるかなと最近悩んでます……。

眉月 (『平成少年ダン』の単行本を開いて)ホントだ! これはもう少しQ数(註:文字の大きさ)を上げた方がいいんじゃないですか(笑)。

サンカクヘッド やっぱりそうですかね(笑)。これからはもう少し大きく書こうと思います。

サンカクヘッドさんが小学生の頃に描いていた漫画。対談のために実物を実家から持ってきてくださった

椎名林檎さんがいなかったら、今の私はなかったと思う(眉月じゅん)

——眉月先生は、平成のコンテンツのなかで、特に影響を受けたものはありますか?

眉月 影響を受けたというか「あの人がいなかったら今の自分はなかった」と言い切れるくらい、どハマリしていたのは椎名林檎さんですね。とにかく彼女は洗練されてたんですよ。サブカルなんだけど、めちゃくちゃ洗練されている。その感じが、当時高校生くらいの私には、すごく新しくて。そこに憧れたというか、ひと目見た瞬間から彼女の創りだす世界に夢中でした。

サンカクヘッド 眉月さんが椎名林檎ファンだというのは、なんとなくわかる気がします。

眉月 けれん味のあるコンテンツが好きなんですよね。椎名林檎さんはMVでもライブでも、その見せ方がすごく上手くて。歌詞や楽曲にも、世界観がしっかりと滲み出ている。アーティストのあり方としては一つの理想型で、今も影響を受けていると思います。

眉月さんが小学生の頃に買ったCDの一部

大熊 眉月さんは、あの時代のアニメもお好きでしたよね。

眉月 好きですね。『ベルセルク』に『(少女革命)ウテナ』に、そしてやっぱり『(新世紀)エヴァ(ンゲリオン)』は衝撃的でしたね。まったく大衆向けじゃないことを、すごく洗練されたセンスと演出でやってしまう。黒バックに白文字のタイトルがバンと出てくる演出とか。市川崑という引用元があるにしても、それを二次元にもってくるんだっていう。

サンカクヘッド あんな画面いっぱいに監督の名前出していいんだ、とか(笑)。

眉月 シンジくんのキャラクターだって、当時は驚きでしたよ。「エヴァなんかもう乗りたくない」って、パイロットがそれ言っちゃっていいの? っていう(笑)。とにかく『エヴァ』以前と以降で、アニメ・漫画の表現は明確に変化したと思います。

『平成少年ダン』は、もともと『団地のダン』だった(サンカクヘッド)

——ここまでコンテンツを軸に平成を振り返ってきましたが、そんな平成という時代を、サンカクヘッド先生はどうして今、漫画で描こうと思ったのでしょうか。

サンカクヘッド 最初は平成というよりも、団地の漫画を描きたくて。タイトルも「団地のダン」にしようと考えていたんです。未だに大熊さんと原稿をやりとりする共有フォルダの名前は「団地のダン」になってるんですけど(笑)。

大熊 「団地のダン」だとストレートすぎるので、もう一つくらい別の要素を掛け算した方がいいんじゃないかとご提案したんですよ。それで話しているうちに、サンカクさんがずっと描きたいと思っていたテーマが「懐かしさ」だとわかって。

サンカクヘッド 「懐かしさ」と「団地」を両方描くにはどうしたらいいかを考えるなかで、『平成少年ダン』のコンセプトが固まっていった感じです。

サンカクヘッドさんの平成コレクション。これでもまだまだほんの一部だという

——つまり、サンカクヘッド先生にとって「平成」はそのまま「懐かしさ」の象徴なんですね。

サンカクヘッド そうですね。僕が30代になったからか、子ども時代を過ごした平成がやっぱり懐かしくて。それに僕だけじゃなくて、最近、平成を懐かしむことが、ちょっとしたブームになっていませんか。

眉月 それもインターネットの存在が大きいのかな。インターネットが普及する前と後で、あまりにも世界が変わってしまったじゃないですか。みんなの想像力だって、良くも悪くも変質したはずです。だからこそ、私たちは、インターネットが普及する以前の平成という時代を振り返りたくなっている。お話しているうちに、そんな風に思えてきました。

鯨井さんたちのファッションは、平成というよりトレンディ(眉月じゅん)

大熊 最近では、「平成レトロ」なんて言葉もよく耳にしますね。

眉月 ファッションの世界でも、もうずっとレトロブームです。私も最近覚えた言葉なんですけど「Y2Kファッション」といって、Z世代の子たちのあいだで、2000年代頃のファッションが流行っているそうです。若い子たちが少し前の世代のファッションを「レトロで可愛いもの」と受け取るのはわかるのですが、不思議なのは、実際に当時を経験している私にも可愛いと思えること。しかも、よく見てみると昔のまんまじゃないんですよ。細部がちょこっと違う。

サンカクヘッド 僕もダンやヒバリたちの服装を描くときは、当時のファッションを参考にしているのですが、そのまま再現することはなくて。「平成感」はあくまでワンポイントに留めています。その方がオシャレというか、可愛くなるんですよね。

『平成少年ダン』第3話より ©サンカクヘッド/集英社

眉月 いや、ホントにそうなんですよね。きっとあまりにも忠実に再現されてしまうと、私たちも「懐かしい」というより「恥ずかしい」と感じでしまうんじゃないかな。

——眉月先生は作中のファッションで、イメージしている時代はあったりしますか?

眉月 時代で考えたことはなかったですが、「トレンディさ」みたいなものは意識していますね。だから平成でも昭和でもなく、バブル期になるのかな。あの頃って、百貨店の包装紙とかも妙にギラギラしていて。そういうイメージで、やたら派手な柄のトーンを貼ったりすることはありますね。

『九龍ジェネリックロマンス』第31話より ©眉月じゅん/集英社

サンカクヘッド 平成のファッションって、ホントに独特ですよね。やたらビカビカしていたり、モコモコしていたり。なんていうか、今より一段階くらいテンションが高い気がします。

眉月 コンテンツだけじゃなくて、世の中全体がまだまだ元気だったっていう証拠なのかな。

それでも平成は「世界がうらやむ」ような明るい時代だった(サンカクヘッド)

——一方で、長引く不況や、二つの震災に見舞われた暗い時代として平成を記憶している人も多いと思います。

大熊
阪神大震災と地下鉄サリン事件があった1995年がターニングポイントとして論じられることも多いですよね。

サンカクヘッド それでも、やっぱり僕にとっての「懐かしい平成」は、明るい楽しい時代なんですよね。

眉月 私もそうですね。もちろん暗い平成も憶えているけれど、それはまだまだ生々しくて、懐かしがるような対象じゃない。

サンカクヘッド 僕はモーニング娘。の「LOVEマシーン」が大好きで、今もよく聴くんですが、あの曲が出たのは1999年で、平成不況の真っ只中なわけです。けれど彼女たちは「日本の未来は、世界がうらやむ」と歌うんですよ。それがすごく平成っぽいなって。あの頃は今みたいな悲壮感はなかった。景気が悪くても、まだまだ日本は元気があった。僕にとっての平成は、そんな時代です。

<サンカクヘッド先生と眉月じゅん先生の週刊ヤングジャンプ連載中の漫画はこちら!>

平成少年ダン 1

サンカクヘッド

2022年3月18日発売

693円(税込)

B6判/196ページ

ISBN:

978-4-08-892251-5

オモチャ箱のような時代「平成」でもう一回、遊び尽くせ♪♪
「令和」を生きる青年が「平成」の少年時代に「転生」!? 玩具、漫画、お菓子、懐メロ、初恋 懐かしい!って楽しいな♪ 平成転生×少年少女 新しレトロな日常コメディ♪♪

九龍ジェネリックロマンス 7

2022年5月18日発売

660円(税込)

B6判/186ページ

ISBN:

978-4-08-892271-3

私だけが嘘。確かなことは分からない、この九龍でしかし、それだけは、工藤さんにとって確かな事実? 違うけれど同じ。鯨井Bの顔をした私と日常を過ごしている工藤さんは…もしかしたら? 悲観的になってしまい身を引こうとする鯨井に強く「どこへも行くな。ずっと傍にいろ。」という工藤。明らかになるほどに分からなくなる、その想い。理想的なラヴロマンスを貴方に──。

後編に続く

©サンカクヘッド/集英社
©眉月じゅん/集英社

取材・文・撮影 福地敦

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