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2年前から続く中国の不動産相場急落が信憑性をもたらす「チャイナリスク」。リーマンショックを経験した日本はどう捉えるべきなのか

集英社オンライン / 2023年8月17日 8時1分

グローバル化された世界で基軸通貨ドルを握るアメリカ。そのドル覇権に挑戦するモノの供給超大国・中国。両国の覇権争いを揺るがしかねない「チャイナリスク」を日本はどう捉えるべきなのか…。「『米中通貨戦争――「ドル覇権国」が勝つのか、「モノ供給大国」が勝つのか』(育鵬社)より一部抜粋・再構成してお届けする。

バブル崩壊に揺れる砂上の楼閣

「チャイナリスク」が世界の金融市場でささやかれて久しい。チャイナリスクとは、中国特有の政治・経済・社会的要因によって、中国を対象とした投資や商取引を行う外国企業の経済活動が晒される危険のことだ。その有力な根拠に挙げられたのが、「不動産バブル崩壊説」である。

中国の不動産相場は、2013年から下降しはじめ、2014年初めから翌年末にかけて暴落、その後ふらついたが、2018年から2020年末にかけて上昇しつづけた。そして、2021年初めからは減速し、同年9月には前年比マイナスに落ち込み、2023年2月までマイナスが続いた。下図は、全国平均の住宅相場の前年同期比増減率である。


中国全体の住宅平均相場の前年同期比増減率(%)

2014〜2015年当時の不動産価格の低迷は中国全土に広がっており、地方のいくつかの中小都市では高層マンション群がガラ空きで、ゴーストタウン(鬼城)化した。中国四川省に生まれて2007年末に日本に帰化した石平氏は、鋭い中国分析で知られる評論家である。日中の政治・経済・外交問題に通じ、以前から中国の不動産バブル崩壊説を唱えていた。

氏によれば、2013年12月下旬時点で中国の不動産業界の中心人物が、「不動産バブルが崩壊したスペインは中国の明日だ」などと相次いで警告したという。2012年にユーロ圏第4位の経済規模を持つスペインの不動産バブルが崩壊してヨーロッパのみならず世界を震撼させたが、今度は中国の番、というわけだ。

また、香港財閥の長江実業集団の総帥、李嘉誠は、1990年代に小平との縁で大々的に中国で不動産開発を手がけてきた人物だ。1997年の英国による香港の返還時に日経新聞香港支局長だった筆者は親しくしていたが、彼は常にリスクを考えて3年以内に中国本土での投資を回収するという原則を持っていた。それほど、中国不動産投資のリスクは大きい。

日本のバブル崩壊と慢性デフレ不況の実相

そんな先読みで定評のある長江実業集団が、中国国内の不動産物件を2013年の1年間ですべて売り抜けた。このころ、中国の政府系エコノミストのなかには、「地方の中小都市では不動産バブルの破裂がすでに始まった」との見方が出るほどだった。

ただ、単に不動産や株式などの資産相場が暴落する事態を「バブル崩壊」と判定するのは不正確である。バブル崩壊というのは、厳密に言えば金融の現象であり、最終的には金融市場危機、あるいは金融機関の破綻となって、実体経済に流れるカネが凍りついてしまい大不況を招く。

例えば、こういう流れだ。資産相場が継続的に下落するなかで、不動産関連融資が焦げ付き、金融機関の不良債権が膨らむ。それが対外的に明るみに出たとき恐慌となる。こうして初めてバブル崩壊となり、銀行などには預金が集まらず、金融市場での資金調達もままならなくなる。銀行は新規融資どころではなくなり、貸出金をとにかく回収しようとするのでカネが回らなくなる。そうして国全体の実体景気が急速に落ち込み、長期不況に陥る。企業も経営難で収益率が下がるので株価も急落し、回復が難しくなる……。

これこそ、1990年代初めの日本のバブル崩壊と、その後の慢性デフレ不況の実相である。

2008年9月のリーマンショックもバブル崩壊の典型だ。リーマンショックは、2007年ごろに起きたサブプライムローン問題に端を発している。サブプライムローンと呼ばれる米国の低所得者向けの高金利型住宅ローンが不良債権化し、そのローンに基づく金融商品も立ちいかなくなった。そうして米国の大手ヘッジファンド、リーマンブラザーズの破綻が引き金になって起こったのが、リーマンショックである。

リーマンショック後の日本

この世界的金融危機の余波が、2009年のギリシャ危機や2012年のスペイン危機にも影響した。リーマンショック直後は多くの専門家の間で「ドル凋落」予想が流れたが、実際に危機に陥ったのはドルに挑戦するはずのユーロだった。また、円は超円高に振れたため輸出は不振で、デフレ圧力に晒された日本の国内経済の落ち込みは米欧よりもひどかった。

そんな欧州や日本の困惑を尻目に、リーマンショック後の米国は、それまでの通貨・金融政策の定石を破って、1990年代のバブル崩壊不況の日本の二の舞になるのを避けるための方策を講じた。

米国の中央銀行であるFRB(Federal Reserve Board)は、まず第1段階として、大々的にドル資金を発行する量的金融緩和政策(QE)をとって、紙クズ同然になりかけた住宅ローン抵当証券を買い上げた。そうして住宅バブルの崩壊によって値下がりした住宅市場を下支えしたのだ。

米国ワシントンDCの連邦準備理事会

第2段階のQE2以降からは国債購入に重点を移して、金利を低めに維持し、QEで流された巨額のドル資金を株式市場に誘導して株価を引き上げてきた。

そればかりではない。ドルはウォール街の手で新興国株式を中心に世界中に配分され、ドルによる世界の金融市場支配は強化された。家計が金融資産の大半を株式で運用し、かつ、企業は株式市場からの資金調達によって設備投資する米国の実体経済は、株高への反応度が日本よりも数倍も高い。米国経済はQEとともにじわじわと回復し、FRBは2014年10月にQEを打ち切った。

下落が続く中国の住宅平均相場

リーマン後、中国の不動産相場が崩落しなかったのは、謂わば米国の量的緩和のおかげである。第2章で詳述したように、米国で増発されたドル資金の相当部分が中国に流入し、それが中国人民銀行による量的緩和を可能にし、人民銀行からの資金供給を受けた商業銀行が前年比で2倍前後の規模で融資を拡大した。

2015年前後の不動産相場の不安定な状況は、巨額の資本流出に伴うもので、米金利引き上げと人民元の切り下げが影響した。このときは前述したように、FRBが追加利上げを見送って中国の金融危機を防いだ。

2021年以降の中国の住宅平均相場

2021年以降の住宅相場下落は2年も続き、2023年3月は底を打ったように見えるが、依然として停滞ムードにある(上図)。米国では住宅相場の下落が始まって1年あまりでリーマンショックが起きている(下図)。それを考えると、中国の不動産相場急落は不気味だ。

米住宅指数

しかも、2022年3月以降、外資などによる資本流出が止まないありさまで、外貨準備も減りつづけている。それは人民銀行の外貨資産を減らす結果を招いているが、習政権は人民銀行に対し、資金増発を命じ、不動産市況の底入れを図っている。

それが効いたのか、2023年6月時点では金融危機は表面化していない。米国や日本と違って、党がカネを支配する中国では、バブル崩壊危機になれば、ただちに強権を行使してカネを商業銀行に供給し、同時に国有企業に命じて不動産を買い支える。しかし、そのやり方でいつまで持つか、不安は消えない。

『米中通貨戦争――「ドル覇権国」が勝つのか、「モノ供給大国」が勝つのか』(育鵬社)

田村秀男

2023年7月30日

1,980円

304ページ

ISBN:

978-4-594-09391-4

ドルを完全否定したくてもできない中国、
勝てるとわかっていても〝返り血〟が怖い米国
ロシアによるウクライナ侵略の本質は、米中の通貨代理戦争である。グローバル化された世界で基軸通貨ドルを握る米国に、ドル覇権に挑戦する、モノの供給超大国中国。その戦場のひとつがウクライナである。覇権争いはウクライナに限らず世界のあらゆる場所や分野で演じられている。

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