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「できるだけ」自転車を利用するだけでも確実なメタボ改善効果が。糖をたくさん消費して血糖値を下げる自転車運動のメカニズム

集英社オンライン / 2023年12月17日 11時1分

通勤・通学・買い物を「自転車」にかえるだけ、ママチャリや電動アシスト付き自転車でも体は変わると、自転車が体へ与える有用性が注目されている。『自転車に乗る前に読む本』から、なぜ短時間の利用でも効果が出るのかを、一部抜粋・再構成して解説する。

自転車運動は、
血糖値が下がりやすい

歩行と自転車の健康づくり効果を比較してみましょう。

まず糖代謝に対する効果です。前節までで見てきたように、血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度、つまり血糖値が高い状態は、糖尿病や動脈硬化を引き起こすリスクとなります。

有酸素性のエネルギー代謝では、糖質や脂質が酸素と反応して二酸化炭素と水ができます。安静時には糖質と脂質は同じくらいの比率で使われていますが、運動を始めてその強度が強くなるにつれて糖質が使われる比率が高くなります。



糖質と脂質がどれくらいの割合でエネルギー源として使われているかは、呼吸で排出された二酸化炭素と吸収された酸素の体積比で知ることができます。その比を「呼吸商」(RQ)と呼びます。

ブドウ糖(グルコース)1分子は、6分子の酸素(6O₂)と反応して、6分子の二酸化炭素(6CO₂)ができます。もし糖だけがエネルギー源ならば、呼吸商は二酸化炭素6分子と酸素6分子の比で1.0となります。

一方、脂質(脂肪酸)1分子は、23分子の酸素と反応して、16分子の二酸化炭素ができます。もし、脂質だけがエネルギー源ならば二酸化炭素16分子と酸素23分子の比で約0.7となります(図3-13)。

図3-13

安静時の呼吸商は0.8程度です。運動を始めて呼吸商が1.0に近づくほど、糖がエネルギー源として使われる割合が高いことがわかります。

さて、同じ強度の運動をした場合に、歩行と自転車運動では、どちらの方が糖を使う割合が高くなるのでしょうか。

私たちは、糖尿病患者9名と健康な成人10名にご協力いただき、実験室で歩行と自転車運動を行ったときの呼吸商を測定しました。すると、糖尿病患者と健康な成人のどちらのグループも、いずれの運動強度でも、歩行より自転車運動の方が呼吸商の数値が高くなりました(図3-14)。

図3-14

この結果は、同じ運動強度では、歩行よりも自転車運動の方が糖をたくさん消費して血糖値を下げる効果があることを示しています。

それを確かめるために、7名の成人男女に同じ心拍数になるように10分間の歩行と自転車運動を行っていただき、運動前後の血糖値を測定しました。すると歩行では、7名平均の血糖値が運動の前後で約12.0(mg/dL)分減少したのに対して、自転車運動では約16.4(mg/dL)分の減少が見られました。同じ強度の運動をしても、自転車運動は歩行よりも血糖値を下げる効果が大きいことが確かめられました(図3-15)。

図3-15

同じ運動強度なのに、なぜ自転車運動は歩行よりも糖の消費が多くなり血糖値が下がったのでしょうか。40%の運動強度で歩行と自転車運動をしたときの糖代謝をPET(陽電子放射断層撮影)で捉えた画像が図3-16です。

図3-16

白っぽいところほど糖代謝が活性化している領域です。歩行はあまり糖代謝が活発なところが見あたらないのに対して、自転車運動では太ももでたくさん糖が使われています。

歩行では使う筋肉が分散することで糖代謝がそれほど活性化しないのに対して、自転車運動では太ももの筋肉が集中的に使われることで糖代謝の活性化が進み、糖をたくさん消費して血糖値が下がるのだと考えられます。

写真はイメージです

余分な糖は脂肪として蓄積されます。運動によって糖をたくさん消費すれば、メタボリック・シンドローム予防で重要な内臓脂肪の蓄積を防ぐことにつながります。

3ヵ月の自転車運動で
メタボが改善した!

冒頭で紹介した自転車通勤を続けている被験者10名の、メタボリック・シンドロームに関わる血糖値やコレステロール値は正常の範囲内でした(図1-3)。しかし、自転車通勤を始める前から、正常値だった人もいたかもしれません。

図1-3

自転車の健康づくり効果を確かめるには、自転車運動をする前後でメタボリック・シンドロームに関わる数値がどう変わるのか比較する必要があるでしょう。

株式会社シマノでは、平均年齢が約44歳の男性6名を被験者に実験を行いました。彼らはふだん自転車に乗る習慣はなく、3名はメタボリック・シンドローム、ほかの3名も腹囲が85センチメートル以上のメタボリック・シンドローム予備軍でした。

彼らに3ヵ月間、できるだけ自転車を利用するように依頼しました。ただし走行時間や頻度、運動強度の指示は行いませんでした。

6名は平均で週3回、1日合計約50分、走行時間のほとんどが50〜85%の運動強度で自転車運動を行いました。米国スポーツ医学会が推奨する基準を達成する運動です。

すると3ヵ月の自転車運動により、6名平均で中性脂肪と悪玉のLDLコレステロールが大幅に減少する効果が見られました。また、体重や体脂肪率も減少傾向を示しました。

とくに運動強度を指示しなくても、自転車運動は健康づくりに必要な強度を達成して、3ヵ月という短期間でもメタボリック・シンドロームの改善効果が見られたのです。


図/書籍より
写真/shutterstock

自転車に乗る前に読む本 生理学データで読み解く「身体と自転車の科学」 (ブルーバックス)

髙石 鉄雄 (著)

2023年10月19日

1100円

192ページ

ISBN:

978-4065337110

キーワードは”疲れない”! 通勤・通学・買い物を「自転車」にかえるだけでいいんです! もちろん軽快車(ママチャリ)や電動アシスト付き自転車でも、体は変わります!

中年期から始まる筋力低下。そしてメタボリックシンドロームに起因する「糖尿病」「肥満」「循環器系のトラブル」……。体質を改善しながら、筋力を鍛えるための最高のアイテム「自転車」。

その乗り方のコツや体への影響を、運動生理学の専門家が、さまざまなデータとともにより運動効果を高めるための自転車の乗り方のコツ、そして体質を改善するための自転車活用の目安をレクチャーします。

ウォーキングやランニング、筋トレなど、さまざまな健康法が提唱されています。そのなかにあって、なぜ「自転車」なのか?

そのヒミツは、自転車の構造と体の使い方、そして道路事情にあります。

★信号待ちでとまる:無意識のうちに運動に緩急をつける「インターバルトレーニング」が行えています。

★交差点でとまる:交差点は中央部が高くなっています。そのためスタートで自然に脚に負荷がかかります。

★ツラくないから続く:被験者のフィードバックでは、ジムなどのエアロバイクよりも、野外を走る自転車は、同じ運動量であっても爽快感を感じており、運動を長く持続できます。

自転車に乗るまえに、必読の書です!

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