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能登半島地震ボランティア不足の背景…被災地入り自粛ムードの一因となったSNSアカウントの怪

集英社オンライン / 2024年2月27日 8時1分

能登半島地震から2か月近くが経過したが、相変わらず岸田政権の対応は順調とは言い難い。地震発災直後に散見した被災地入りを拒む情報。5W1Hによる自粛対象の混同を始めとする奇妙さについてフリー記者・犬飼淳氏が指摘する

被災地でのボランティアの数の少なさ

まず、能登半島地震への岸田政権の拙い対応の1つに、被災地でのボランティアの数の少なさが挙げられる。阪神大震災と比較するとボランティアの人数に圧倒的な大差がついていることを2月18日付の神戸新聞の記事は指摘している。

阪神大震災:発災後1か月で延べ約62万人
能登半島地震:2月16日までの発災後1か月半で延べ2739人
(*災害ボランティアセンターを通じた活動人数)



統計によると、能登半島地震のほうが約1.5倍の期間にもかかわらず、ボランティア従事者の延べ人数は阪神大震災のほうが200倍以上にも及ぶ。この背景として、能登半島地震では被災地入りを自粛するべきという主張を投稿したSNSが散見し、ボランティアさえも自粛するムードが蔓延してしまったことが考えられる。

本記事ではこの奇妙な出来事を時系列に基づいて指摘していく。

「被災地入りを自粛せよ」という主張の最大の特徴は、5W1H(When、Where、Who、What、Why、How)を一部のSNSで自粛対象を誤解して投稿されたことにあると筆者は考えている。行政機関(石川県、国土交通省等)は「『能登半島』に『不要不急の用事』で行くことは控えてほしい」と比較的正確な情報を伝えていたものの、その発信を引用した者たちは自粛対象をすり替えたり、拡大解釈した上で拡散していた。こうした不確かな情報をもっともらしく発信したSNSは非常に誤解を招きやすいと感じた。

特にわかりやすい例として、「Where(どこで)」と「What(何を)」の混同を紹介する。ボランティア不足にとどまらず、周辺地域の経済にも暗い影を落としたのが「Where(被災地入りを自粛すべき場所)」の混同である。行政機関は「能登半島」と明記して情報発信していたが、こうしたSNSの公式アカウントからのポストや文書を引用した者たちは「石川県」や「被災地全体」も含むという誤解を招くようなポストをX(旧Twitter)上で拡散していた。

本来は「必要緊急」なボランティア

こうした対象の混同によるSNSが、交通アクセスの問題は特に抱えていなかった能登半島以外の被災地にもボランティアが行きにくくなり、マンパワー不足に陥った上、被害が比較的軽微で通常営業可能な観光地(金沢市、加賀市等)で客足が落ちてしまうなど、地域経済にも深刻な悪影響を及ぼしたのではないかと筆者は考える。

次に、ボランティア自粛ムードの一因と考えられる「What(被災地入りを自粛すべき用件)」を混同したSNSのポストを紹介する。

行政機関は「不要不急の用事」と明記して情報発信していたが、これを引用した者たちは「必要緊急の用事」であるボランティアも含む、と読み取れるように対象を真逆にすり替えた上で拡散していた。最も象徴的なのが、この投稿だ。

立憲民主党 塩村文夏 参議院議員@shiomura(1月7日18:11)
〈石川県が「絶対に」と言っています。これまでの渋滞に加えて、積雪も加わります。絶対に不要不急の移動(ボランティア等)はやめましょう!〉

石川県は控えるべき対象を「不要不急の移動」と明記したにもかかわらず、塩村文夏議員は、本来は必要緊急な「ボランティア等」をわざわざ不要不急の移動の唯一の例として追記後に拡散。罪深い混同といえる。

残り4点(When、Who、Why、How)についても類似の手法によって、情報の信頼性は担保しつつ対象を混同させ、被災地入り自粛ムードが醸成されていった。(*5W1Hで対象を混同させつつ被災地入り自粛要請に加担した62アカウントの計107ポストを定量的に検証した結果は筆者のtheLetter「能登半島地震 被災地入りを拒む主張の記録」(2024年1月23日)参照)

被災地入りを拒む主張に該当する計107ポストを筆者が分類したところ、実に7割以上は渋滞に関連する内容で、おおむね「渋滞によって緊急車両が通れなくなり、届いたはずの物資が届かなくなったり、助かったはずの命が助からなくなる」という主旨だった。

写真/Shutterstock

この渋滞の原因が「交通量」であれば、確かに車が増えれば渋滞悪化と直結しただろう。しかし、原因が「道路状況の悪さ」であれば必ずしも直結はしない。したがって、渋滞の原因は被災地入り自粛要請の妥当性を判断する上で非常に重要だが、この点についても奇妙なことが起きていた。

慎重に精査したいSNSの情報

まず、渋滞と関連づけた被災地入りの自粛要請を初めて確認できるのは、意外と早く地震翌日にあたる1月2日。発信したのは石川県でも政府でもないアカウントであった。

さらに、翌3日には渋滞の原因は物資を載せた一般車と断定する内容までポストされている。一方、行政機関や政府関係者が渋滞に初めて言及するのは、翌4日の岸田総理が初めてであった。

岸田文雄総理@ kishida230(1月4日12:47)
〈現在、限られた輸送ルートに一般の車両が殺到し深刻な渋滞が発生しています。
被災地へ速やかに必要な物資が届けられるよう、できる限り利用を抑制していただくことについて、国民の皆様のご理解とご協力をお願いします。」〉

地元の行政機関である石川県は、岸田首相がポストした翌5日に初めて渋滞について言及している。「渋滞で大変困っています」とストレートに表現しているものの、原因までは言及していない。

これ以降には行政機関(石川県、国交省等)が渋滞の原因まで断定した投稿は確認できない。強いて言えば、政権 に対し是々非々で 中立 な立場を取る「ゆ党」と揶揄される維新の国会議員が渋滞原因を「個人が支援物資を積んだ車両」とポストしている程度だった。

日本維新の会 音喜多駿 参議院議員@otokit(1月5日 20:51)
〈石川県内のボランティア募集はまだ行われておらず(加賀市の市民のみ募集中)、電話で問い合わせをすることも現地の負担となります。また、個人が支援物資を積んだ車両が激しい渋滞の原因になっています。せっかくの善意がマイナスにならないよう、皆様のご協力をお願い致します。支援は長期戦です。〉

能登半島地震の直後には、身元のわからないSNSによる投稿による不確かな情報に対しては、引用やリプライでも多くの疑問の声が寄せられていた。

最後に付け加えると、渋滞の実態(原因、場所)に疑問を抱いた筆者は、渋滞について情報発信した各行政機関(石川県、国交省、首相官邸等)に対して根拠となる定量データを1月中旬から開示請求していた。しかし、その大半は「不存在」等を理由に不開示決定となった。

つまり、渋滞が発生していると発信した行政機関ですら、その根拠を定量的に示せない有様なのだ。

(*国土交通省のみは60日の延長決定となり正式な開示決定は3月中旬の見込みだが、根拠となる定量データを持ち合わせていないことは担当職員に電話で確認済み)

取材・文/犬飼淳

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