時価総額1兆円超え「すき家」「はま寿司」を運営するゼンショーの世界戦略のカラクリ。日本の外食産業が世界の胃袋を掴んだ「仕入れ力」とは
集英社オンライン / 2024年3月28日 11時0分
「すき家」「なか卯」「はま寿司」などを展開するゼンショーホールディングスは、2023年7月、日本の外食産業企業として初の時価総額1兆円超えを果たして話題となった。海外進出も順調で、現在は海外店舗数が1万店規模となるのを達成。今年に入ってからもその勢いはとまらない。いったいなぜ、ゼンショーホールディングスは世界で戦えているのか。フードアナリストの重盛高雄氏に話を聞いた。
【画像】ゼンショーが世界で650店舗以上を展開するチェーンブランド
時価総額1兆円超えを達成できたカラクリ
『すき家』『なか卯』『はま寿司』『ココス』『ロッテリア』――。
これらはすべてゼンショーホールディングス(以下、ゼンショー)のブランドである。
料理ジャンルを問わず事業を展開しているゼンショーの時価総額は1.04兆円(3月20日現在)。2024年3月期上期(第2四半期)決算説明資料によると、当期純利益は前年同期比伸び率2.1倍の157億円となっていた。さらにゼンショーは海外事業を伸ばし、今月には海外に展開する店舗数を1万店規模にまで拡大している。
まずは、ゼンショーがどのように企業成長を遂げたのか、話を聞いた。
「ゼンショーはすき家や、はま寿司を立ち上げて人気チェーンに育てあげていますが、現在はすき家のようにプライベートブランドを一から立ち上げて成長させていくというよりは、M&Aに力を入れて企業成長を遂げています。最近では昨年2月にロッテリアを買収し、洋食、和食などの料理ジャンル問わず、各事業できちんと売り上げを稼げるブランドをチェーン展開しています」(重盛氏、以下同)
たしかにロッテリアやココスは、もともとゼンショー系列だったというイメージはない。
「急成長をみせるゼンショーの一番の強みは、『仕入れ力』にあります。魚類であれば船ごと買い取ったり、肉類や野菜類は農地ごと契約したりと、圧倒的な仕入れ力を誇っています。生産者としては、納品できない食材はいままでお金をかけて廃棄していたわけですが、『この船のどんな漁獲でも、この畑のどんな作物でも引き受ける』というゼンショーの姿勢は、食材のロスをなくせるため、生産者側にも利益があるといえます。
グループが大きくなるほど消費力も上がり、生産者や加工業者にも利益をきちんと分配できるようになるという好循環を生み出せているといえるでしょう。
ちなみに、ゼンショーはさまざまな料理ジャンルのブランドを混成して展開しているので、仕入れた食材のクオリティに合わせて自社内で卸先を選べるという点も強みとなっています。
一例ですが、ステーキ店で卸すにはグラム数が足りない肉でも、挽肉にしてハンバーグ店に卸したり、牛丼店のお肉として提供したりすることが可能なのです。グループ成長のために必要な企業を引き込んでチェーンマネジメントができる、さらに卓越した経営力と仕入れ力、そして多岐にわたる卸先の数により、ゼンショーは目を見張るような成長を遂げたのです」
商品のローカライズと商品自体の訴求力が重要
では、ここからはゼンショーの世界戦略についてうかがう。
「ゼンショーは欧米を中心に、寿司のテイクアウト店を運営する会社を次々と完全子会社化しています。2018年10月には米国、カナダ、オーストラリアで運営するAdvanced Fresh Concepts Corp.、昨年5月にはドイツで運営するSushi Circle Gastronomie GmbH、さらに昨年9月には北米やイギリスを中心に日本食事業を行う運営会社の持株会社SnowFox Topco Limitedと、3企業の子会社化を行いました。
ゼンショーが海外店舗数を1万店規模に拡大できたのは、このような海外の寿司店の買収が大きな要因でしょう。欧米では日本の回転寿司のスタイルを前面的に海外に持ち込むというよりも、海外で受け入れられやすいカリフォルニアロールなどの寿司スタイルの企業を買収し、世界で展開しているのです」
日本食文化を押し付けるのではなく、適切にローカライズしていく前提で世界進出しているということか。では、ゼンショーの稼ぎ頭である、すき家の海外展開はどうだろうか。
「すき家は中国を中心としたアジア圏をメインに、世界で650店舗以上を展開しています。一般的に中国に進出する場合、中国企業との合弁、もしくはフランチャイズという形で、どちらかというと中国企業が実権を握りながら運営していく形が多いもの。しかしゼンショーは、すき家を中国展開する際は、現地に全権をゆだねるようなことはしていないのです」
中国の消費者や市場環境に合わせて現場ベースでは現地主導にはしているものの、ゼンショー側が中国で馴染みのある「ごまペースト」や「上海蟹」などの食材を取り入れたメニューの開発などを行っており、しっかり大枠の舵取りをしているという。
「余談ですが、牛丼は『吉野家』がアメリカで1973年から海外店舗展開をスタートさせ、その後に台湾からアジア、そしてヨーロッパへと進出させていったという歴史があります。そのため海外で牛丼は日本食というイメージがあまりなく、『ビーフボウル』の愛称で現地の食文化に組み込まれ、親しまれているのです。
海外で敷居が高いと感じさせる寿司とは違い、ビーフボウルは中価格帯のカジュアルな商品というイメージが浸透しているからこそ、海外でもチェーン展開しやすくなっているといえます。世界で事業を展開するには、牛丼のようにその料理自体で勝負できる訴求力の高い商品であることも大切な要素になるのです」
ビジネスモデルのコアとなる商品力の高い料理がありつつ、バランスよく現地の方々に好まれるローカライズができるかどうかが、世界で戦ううえで重要になるということなのだろう。
「フード業界世界一」企業を目指すゼンショー
ゼンショーのように日本の飲食企業が世界進出を成功させるためには、他にも重要なポイントがあるという。
「日本国内の水準のクオリティを保ったまま運営しようとしたり、日本のマニュアルをほぼそのまま流用しようとしたりすると、うまくいかずに瓦解するケースが多いようです。ですから臨機応変な経営判断をしつつ、すき家のようにその国の食材に合わせたメニューづくりやアレンジ力、チップ文化といったその国の風習に合わせた方法など、その地域に馴染ませながらも、いかに独自性を持たせていくのかが重要になるでしょう」
最後に、ゼンショーの今後の展望について見解を聞こう。
「ゼンショーの公式サイトに掲載されている企業理念によると、『世界中の人々に安心でおいしい食を手軽な価格で提供する』と記載があります。日本で天下を取ることは単なる通過点に過ぎず、世界の食事情を変えることのできるシステムと資本力を持った『フード業世界一』企業となることを目指している、とのことです。
ゼンショーは現在、世界的に見ると展開地域が限られているので、今後は未展開地域に攻め入り、さらに自らの立ち位置作っていくのだと考えられます。牛丼や持ち帰り寿司、うどんなど、中価格帯の商品で勝負し、ゼンショーにとって必要なグループを吸収していくという現在の経営方針でいけば、食のグローバル企業として世界に名を馳せることは十分可能でしょう」
取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio) 写真/shutterstock
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