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「完全に魂を持っていかれた」…劇場版『名探偵コナン』最新作メインテーマのアレンジに悶絶! 『戦慄の楽譜』『ハロウィンの花嫁』での革新的変化とは?

集英社オンライン / 2024年4月17日 19時0分

新作のたびに新アレンジを加える魔曲、劇場版『名探偵コナン』メインテーマ27年の歩み「いわば『太陽にほえろ!』の弟分」「サックスのイメージが定着したのは『世紀末の魔術師』で」〉から続く

〝コナン音楽〟に魅せられたノンフィクション作家の前川仁之氏が、劇場版アニメ『名探偵コナン』メインテーマのアレンジ変遷史を解説。前編に引き続き、後編では第12作『戦慄の楽譜』から最新作『100万ドルの五稜星(みちしるべ)』までをひもといてゆく。(前後編の後編)

第12作『戦慄の楽譜(フルスコア)』は〝調性感〟を揺るがす革命的アレンジ

前編では第1作から第11作まで取り上げたが、後編では第12作以降のメインテーマのアレンジ変遷を見てゆこう。



まず最初に取り上げる第12作『戦慄の楽譜(フルスコア)』はかなりの〝問題作〟だ。音楽をテーマにした作品ゆえに、メインテーマのアレンジにも期待が高まるが、ふたを開けてみるとやっぱりすごかった。破っちゃったんですよ、前例を!

 


久々にプレ・イントロなしで始まる本作。イントロは定番の下降パターンと思いきや、聴いていてかすかな違和感を抱くだろう。下がってゆくベースラインのなかに、このキーのこのコード進行においてはふつう使われない音(レ♮)が入っているのだ。これを伏線として、中盤でとんでもない事態が生じる。

1コーラス目が終わったあとのこれまでとまったく異なる間奏、それに続く手数の多いアドリブも素晴らしいが、決定的なポイントはその先。ふたたびBメロにつながる直前で、心地よいアドリブラインに任せていた身が、不意に引き締まるような感じがしないだろうか?

これは、いつもどおりのコード(ここではC)に戻る直前に、G7という、本来このキーにおいてはよそ者となるコード(借用和音)を使っていることから得られる効果。要するに、一瞬だけ転調しているようなもの。こんなこと、今までにはなかった!

前編で触れた〝調性感〟が初めて大きく揺るがされたのはこの瞬間だ。「これ、やっちゃってもいいの? だったら、いろいろできるじゃん!」という感じ。さあ、というわけでここからが傑作の森!

第14作『天空の難破船(ロストシップ)』、第15作『沈黙の15分(クォーター)』は
まったく別の曲を経由する「入れ子方式」

第13作『漆黒の追跡者(チェイサー)』では、ジャジーな間奏から、なんとシリーズ初の転調でFマイナーからEマイナーへ!

続く第14作『天空の難破船(ロストシップ)』では、イントロが不思議な高揚感を出している。コード進行自体はいつもと同じだが、切り換えを2小節に1回にすることで、かつて西城秀樹がカバーした、ヴィレッジ・ピープルの『ヤングマン』っぽくなっているのだ。

このバージョンはすみずみまでおもしろく、間奏ではA♭メジャー(元のFマイナーに対して平行調。つまり、#や♭の数が変わらない調)に転調し、まったく異なるメロディーが奏でられる。ジョン・ウィリアムズ作曲の『E.T』のテーマを思わせる、飛翔感あふれるメロディーだ。

そこから『銀河鉄道999』のイントロ風ラインを経てAメロに戻ってくるのだが、今度は空から一気に地底に降りたかのように、ピアノの低音が担当する。このパート、Aメロとしては『コナン』史上最低音域。おすすめアレンジのひとつだ。

 

 

いい感じにバーリトゥード(なんでもあり)になってきたのがおわかりいただけるだろうか。これは音楽担当者側の都合だけではなく、物語のキーパーソンが増えるにつれ、間奏以降にかかるナレーションが多様化していったためでもあるだろう。

途中でまったく別の曲を経由する「入れ子方式」は、次の第15作『沈黙の15分(クォーター)』でさらに大胆になる。

雪山を舞台にした本作は、2コーラス目のあとに突如としてCメジャーという離れたキーへと移り、のどかなメロディーが始まるのだ。シリーズ初の3拍子で、これを聴くと私はどうしてもサザンオールスターズの『山はありし日のまま』を連想してしまう。3拍子で似ているのと、山岳遭難というテーマが一致するからだと思われる。公開は2011年4月、多くの被災者を出した東日本大震災の直後だった。

イントロの〝聖域〟が解放された第22作『ゼロの執行人』

それから先の作品も個性的なアレンジが続く。ポイントをひろっておこう。

実在のサッカー選手とコラボした第16作『11人目のストライカー』では、定番の下降パターンのイントロを4小節目だけ「ファ・ソ・ラ♭・ド」と等分の音価(音の長さ)に変えてスタジアムのチャント感を作っている。スケール(音階)を多用した間奏もグッド。

第17作『絶海の探偵(プライベート・アイ)』では、アウトロに行くと見せかけてフェイントが入るのがおもしろい。ちなみに、このアレンジから登場するサイレンのような不安をあおる音使いには、映画『地獄の黙示録』(ワーグナー作曲『ワルキューレの騎行』)という大いなる先達がいる。イージス艦が登場する本作はミリタリー色強めなので、寄せてきたか。

キリがなくなるのでここまで触れないようにしてきたが、『コナン』メインテーマのメロディーは、アレンジや奏者によって節まわしが微妙に違っていることも少なくない。それが顕著なのが第18作『異次元の狙撃手』だ。ほかの作品と聴き比べ、自分なりの節まわしを追求してみよう。

次の第19作『業火の向日葵』では、久々のラテン風パーカッションが聴きどころだ。

第20作『純黒の悪夢(ナイトメア)』では、主題歌で何度も参加していたB’Zの松本孝弘氏が存在感抜群のギターを聴かせてくれる。

 


百人一首が小道具となる第21作『から紅の恋歌(ラブレター)』では、間奏部に4・7抜き短音階のフィルインからのバイオリンソロで「和」テイストを強め、雰囲気満点。さらに本作では、前半4小節と後半4小節で異なるパターンを合わせた、2段構えのイントロが試みられている。

そして、続く第22作『ゼロの執行人』では、イントロに決定的な変化が生じる。演奏難易度が高い鋭利な感じのプレ・イントロから、いつもの下降パターンのイントロにつなぐ……と思いきや、このイントロ、4小節目でふたつのコード(借用和音)に基づくパッセージに切り替わり、身をひるがえすようにして切り上げてしまうのだ(Dセブンス→Gセブンス→いつものC)。

これほどまでにイントロのコード進行を崩したのは初めて。新たにイントロパターンを作っても〝調性感〟に関しては墨守されてきたが、ついにその〝聖域〟が解放されたのだ!

第23作『紺青の拳(フィスト)』では、また二段構えのイントロとなり、これはその次の第24作『緋色の弾丸』にも引き継がれている。Aメロ後半からBメロにわたって、流れるような楽器のリレーが美しくておすすめだ。物語のキーパーソン、赤井秀一とその一家のさまざまなキャラクターを表現していると思われる。

ここまでの流れを見る限り、さすがに20作の大台を超えると、イントロにも大いに手を入れる自由と必要が生じてきたと考えられないだろうか。そして――。

長年のリスナーが報われる? 最新作『100万ドルの五稜星』のアレンジ

ざっくりわけると、第11作まではロックやポップス好きに受けがよさそうな直線的なアレンジが多く、第12作からはクラシックやプログレ好きの耳を楽しませてくれる傾向が強いと思う。そして、第22作でイントロの定型を打ち破る方向に進み始めるのだ。

人気作曲家の菅野祐悟氏が音楽を担当するようになったのは、まさにこのタイミングだった。東京音楽大学でクラシック音楽を専門的に学んだ菅野氏がバトンを受けるのに、アレンジの自由度が拡大していったこのタイミングは理想的だったと思う。音による描写力、叙述力を十全に発揮してくれるだろうと期待が高まる。

極言すれば、今やいじりすぎてはいけないのは1コーラス目だけになっている。ここは「俺は高校生探偵、工藤新一」から始まるナレーションのための指定席なので、おそらく今後も大きく崩れることはないだろう。

はたして、菅野体制になって第1弾、通算第25作『ハロウィンの花嫁』のメインテーマは、これまで培われてきたプレ・イントロ、イントロのパターンをきれいさっぱり捨てて、ハープでメルヘン風味のスモークを焚いたあとに、管楽器の合奏が仮装パレードを先導して踏み出してゆくかのような、まったく新しいイントロになった。間奏からの展開も、かつての「入れ子式」最盛期に迫る物語性を帯び、実にいい。

続く第26作『漆黒の魚影(サブマリン)』は、潜水艦の潜航から浮上をイメージさせる中間部の展開と音作りがカッコいい。

 


ところで、いろいろ語ってきた私だが、白状すると劇場版『コナン』を一作品としてちゃんと視聴したことはなかった。サブスクで何本か観かけたことはあるが、メインテーマが終わると、つい満足してしまうのだ。

メインテーマを語る分にはそれでもいいと思っていたが、この原稿を書いているうちに『コナン』愛が昂まり、いてもたってもいられなくなって、最新作『100万ドルの五稜星(みちしるべ)』を封切り当日の午前中に鑑賞してきた。祝、初コナンである。

映画館の音響で初めて聴いた最新アレンジは、すごかった!

今回、和楽器が来るだろうと予想はしていたし、イントロで琴を使うのは想定内だったが、Aメロ後半からの三味線の入りには、完全に魂を持っていかれた。その後の笛とのかけ合いもアツい(ネタバレはしないが、劇中での使い方も実にいい)。ここまで来たら、私の長年の夢である「フラメンコギターを大々的に使ったメインテーマ」までもう一歩だ。

そして、忘れちゃいけないもうふたつの新機軸! 前作で胎動を始めていたパーカッションメインの間奏が今回、太鼓を起用した堂々たる響きで実現したのだ。あと、いささかマニアックな話だが、菅野体制初となる下降パターン(ド・シ♭・ラ♭・ソ)が聴けるなど、長年のリスナーはきっと報われた感じがしたことだろう。

唯一の難点は、短すぎること。もう50秒は尺をとってほしかった。というわけで、次回作のメインテーマ・アレンジも楽しみにしております。映画自体もとてもおもしろかった。

取材・文/前川仁之

 

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